なえ【萎え】例文一覧 25件

  1. ・・・それに萎えた揉烏帽子をかけたのが、この頃評判の高い鳥羽僧正の絵巻の中の人物を見るようである。「私も一つ、日参でもして見ようか。こう、うだつが上らなくちゃ、やりきれない。」「御冗談で。」「なに、これで善い運が授かるとなれば、私だっ・・・<芥川竜之介「運」青空文庫>
  2. ・・・ 真中に際立って、袖も襟も萎えたように懸っているのは、斧、琴、菊を中形に染めた、朝顔の秋のあわれ花も白地の浴衣である。 昨夜船で助けた際、菊枝は袷の上へこの浴衣を着て、その上に、菊五郎格子の件の帯上を結んでいたので。 謂は何かこ・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  3. ・・・ たちまち、口紅のこぼれたように、小さな紅茸を、私が見つけて、それさえ嬉しくって取ろうとするのを、遮って留めながら、浪路が松の根に気も萎えた、袖褄をついて坐った時、あせった頬は汗ばんで、その頸脚のみ、たださしのべて、討たるるように白かっ・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  4. ・・・       二 そう云って、綻びて、袂の尖でやっと繋がる、ぐたりと下へ襲ねた、どくどく重そうな白絣の浴衣の溢出す、汚れて萎えた綿入のだらけた袖口へ、右の手を、手首を曲げて、肩を落して突込んだのは、賽銭を探ったらしい。 ・・・<泉鏡花「菎蒻本」青空文庫>
  5. ・・・ ……そのお千には、もう疾に、羽織もなく、下着もなく、膚ただ白く縞の小袖の萎えたるのみ。 宗吉は、跣足で、めそめそ泣きながら後を追った。 目も心も真暗で、町も処も覚えない。颯と一条の冷い風が、電燈の細い光に桜を誘った時である。・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  6. ・・・お蔦 (取ると斉手切れかい、失礼な、(と擲たんとして、腕の萎えたる状あの、先生が下すったんですか。早瀬 まだ借金も残っていよう、当座の小使いにもするように、とお心づけ下すったんだ。お蔦 こうした時の気が乱れて、勿体ない事をしよう・・・<泉鏡花「湯島の境内」青空文庫>
  7. ・・・子障子越しにながめられたり、ほんとうに許嫁どうしが会うているというほのぼのした気持を味わうのにそう苦心は要らなかったほど、思いがけなく心愉しかったが、いざお勘定という時になって、そんな気持はいっぺんに萎えてしまった。仲居さんが差し出したお勘・・・<織田作之助「天衣無縫」青空文庫>
  8. ・・・ 過度の書物依頼主義にむしばまれる時は創造的本能をにぶくし、判断力や批判力がラディカルでなくなり、すべての事態にイニシアチブをとって反応する主我的指導性が萎えて行く傾向がある。 知識の真の源泉は生そのものの直接の体験と観察から生まれ・・・<倉田百三「学生と読書」青空文庫>
  9. ・・・けれどもそこは小児の思慮も足らなければ意地も弱いので、食物を用意しなかったため絶頂までの半分も行かぬ中に腹は減って来る気は萎えて来る、路はもとより人跡絶えているところを大概の「勘」で歩くのであるから、忍耐に忍耐しきれなくなって怖くもなって来・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  10. ・・・ 四肢萎えて、起きあがることさえ容易でなかった。渾身のちからで、起き直り、木の幹に結びつけた兵古帯をほどいて首からはずし、水たまりの中にあぐらをかいて、あたりをそっと見廻した。かず枝の姿は、無かった。 這いまわって、かず枝を捜した。・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  11. ・・・長い道中のために両脚が萎えてかたわになっていたのである。歩卒ふたり左右からさしはさみ助けて、榻につかせた。 シロオテのさかやきは伸びていた。薩州の国守からもらった茶色の綿入れ着物を着ていたけれど、寒そうであった。座につくと、静かに右手で・・・<太宰治「地球図」青空文庫>
  12. ・・・おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐・・・<太宰治「走れメロス」青空文庫>
  13. ・・・他の生産部門にたいして、とくに社会を皮相からみたときには、いつもそれだけが支配力をもつような政治・経済の力に抗して、文学の独特な価値を肯かせようとして、ほかの仕事とは違う、違うと、ますます手足の萎えた状態に自身を追いこんだ。勤労階級と、文学・・・<宮本百合子「ある回想から」青空文庫>
  14. ・・・にひきずられて、天性の重厚のままにとりかえしのつかないほど歪み萎えさせられたところにある。 森鴎外にしろ、夏目漱石にしろ、荷風にしろ、当時の社会環境との対決において自分のうちにある日本的なものとヨーロッパ的なものとの対立にくるしんだ例は・・・<宮本百合子「偽りのない文化を」青空文庫>
  15. ・・・ 日本の文学が、今日そういう足の萎えた状態にあることは、まったく日本の明治文化の本質の照りかえしである。明治維新は、日本において人権を確立するだけの力がなかった。ヨーロッパの近代文化が確立した個人、個性の発展性の可能は、明治を経て今日ま・・・<宮本百合子「歌声よ、おこれ」青空文庫>
  16. ・・・空想は重く、思惟は萎えてただ 只管のアンティシペーションが内へ 内へ肉芽を養う胚乳の溶解のように融け入るのだ。  L、F、H子供らしい真剣で白紙の上に私は貴方の名と自分の名とを書きました。・・・<宮本百合子「海辺小曲(一九二三年二月――)」青空文庫>
  17. ・・・ それが歪んだ人間の使いかたであるからと云って、その歪みを生き身にうけて、云って見れば自分たちの肉体で歴史の歪みをためてゆかなければならない私たち現代の女が、歪みのままに自分の気持を萎えさせて、どうせ、と云ってしまったら、どこから自分た・・・<宮本百合子「女の歴史」青空文庫>
  18. ・・・塵埃をかぶって白けた街路樹が萎え凋んで、烈しく夕涼を待つ刻限だ。ここも暑い。日中の熱度は頂上に昇る。けれども、この爽かさ、清澄さ! 空は荘厳な幅広い焔のようだ。重々しい、秒のすぐるのさえ感じられるような日盛りの熱と光との横溢の下で、樹々の緑・・・<宮本百合子「この夏」青空文庫>
  19. ・・・自然主義以来発達して来た個人主義的なリアリズムがその十年の間にようよう社会的なリアリズムにまで成長しかけたその萌芽が、この新リアリズムの便宜的な解釈と共に萎え凋んだ。そればかりでなく、時代の複雑な相貌の必然から、リアリズムは再びもとの自然主・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  20. ・・・そこに作家が生きている社会は、過去のどんな社会の模倣でもないとき、作家がどうして、旧いもの、おくれたもの、足の萎えたる文化の模倣をしなければならないのだろう。そこの社会こそ人間らしい立体的人間性の発展のためにつくしているのに、なぜ作家は、陳・・・<宮本百合子「政治と作家の現実」青空文庫>
  21. ・・・日本文学の精神には、なんと、自分から自分をぬけ出てゆく能動力が萎えているのでしょう。文学にたずさわる人々をこめた人民感情そのものの中に、自主たろうとするやみがたい熱望が覚醒していないために、これらの人々にとっては自主でなければならない、とい・・・<宮本百合子「一九四六年の文壇」青空文庫>
  22. ・・・ 何の音もしない、何の色もない、すべての刺戟から庇護された隠遁所を求めて、悲しく四方を見まわし、萎え麻痺れるようになった頭が、今にも恐ろしい断念をもって垂れそうになって来ることもある。 けれども、そういうもう一歩という際で、彼女にま・・・<宮本百合子「地は饒なり」青空文庫>
  23. ・・・日光まで、際限なく単調なミシシッピイの秋には飽き果てたように、萎え疲れて澱んでいる。とある、壊れた木柵の陰から男が一人出て来た。 彼の皮膚は濃い茶色だ。鍔広のメキシコ帽をかぶり…… 空は水蒸気の多い水浅黄だ。植物は互に縺れこんぐらか・・・<宮本百合子「翔び去る印象」青空文庫>
  24. ・・・母の属した社会の羈絆がそれを圧しつけて萎えさせたり、歪めたりさえしなかったら、鍛錬を経て花咲くべき才能をも持っていたと思う。 母は、今の世の中のしきたりにおとなしく屈従して暮すには強く、しかし強く社会的に何事かを貫徹して生きるためにはま・・・<宮本百合子「母」青空文庫>
  25. ・・・大抵の才能ならば、その白熱と混沌との中で萎えてしまいそうなところを、踏みこたえ、掌握し、ときほぐし、描写しとおしたところに、この巨大で強壮な精神の価値がある。文学史上の一つの定説となっているバルザックの情熱の追求、――悪徳も亦情熱の権化とし・・・<宮本百合子「バルザックについてのノート」青空文庫>