なが・す【流す】例文一覧 30件

  1. ・・・ほんとうに冥護を信ずるならば、たった一本流すが好い。その上康頼は難有そうに、千本の卒塔婆を流す時でも、始終風向きを考えていたぞ。いつかおれはあの男が、海へ卒塔婆を流す時に、帰命頂礼熊野三所の権現、分けては日吉山王、王子の眷属、総じては上は梵・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  2. ・・・寮雨とは夜間寄宿舎の窓より、勝手に小便を垂れ流す事なり。僕は時と場合とに応じ、寮雨位辞するものに非ず。僕問う。「君はなぜ寮雨をしない?」恒藤答う。「人にされたら僕が迷惑する。だからしない。君はなぜ寮雨をする?」僕答う。「人にされても僕は迷惑・・・<芥川竜之介「恒藤恭氏」青空文庫>
  3. ・・・』と、とぼんと法師の顔を見上げますと、法師は反って落ち着き払って、『昔、唐のある学者が眉の上に瘤が出来て、痒うてたまらなんだ事があるが、ある日一天俄に掻き曇って、雷雨車軸を流すがごとく降り注いだと見てあれば、たちまちその瘤がふっつと裂けて、・・・<芥川竜之介「竜」青空文庫>
  4. ・・・の神田川――今にもその頃にも、まるで知己はありませんが、あすこの前を向うへ抜けて、大通りを突切ろうとすると、あの黒い雲が、聖堂の森の方へと馳ると思うと、頭の上にかぶさって、上野へ旋風を捲きながら、灰を流すように降って来ました。ひょろひょろの・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  5. ・・・解きます処、棄てます処、流す処がなかったのです。女の肌につけたものが一度は人目に触れるんですもの。抽斗にしまって封をすれば、仏様の情を仇の女の邪念で、蛇、蛭に、のびちぢみ、ちぎれて、蜘蛛になるかも知れない。やり場がなかったんですのに、導びき・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  6. ・・・たとえば貴重なる香水の薫の一滴の散るように、洗えば洗うほど流せば流すほど香が広がる。……二三度、四五度、繰返すうちに、指にも、手にも、果は指環の緑碧紅黄の珠玉の数にも、言いようのない悪臭が蒸れ掛るように思われたので。……「ええ。」 ・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  7. ・・・その後、二人とも行く方が知れなくなり、流すのは惜しいと言うので、僕が妻のためにこれを出してやった。少し派手だが、妻はそれを着て不断の沈みがちが直ったように見えたこともある。 それに、まだ一つ、ずッと派手な襦袢がある。これは、僕らの一緒に・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  8. ・・・ 勿論、演壇または青天井の下で山犬のように吠立って憲政擁護を叫ぶ熱弁、若くは建板に水を流すようにあるいは油紙に火を点けたようにペラペラ喋べり立てる達弁ではなかったが、丁度甲州流の戦法のように隙間なく槍の穂尖を揃えてジリジリと平押しに押寄・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  9. ・・・が、糞泥汚物を押流す大汎濫は減水する時に必ず他日の養分になる泥沙を残留するようにこの馬鹿々々しい滑稽欧化の大洪水もまた新らしい文化を萌芽するの養分を残した。少なくも今日の文芸美術の勃興は欧洲文化を尊重する当時の気分に発途した。 井侯が陛・・・<内田魯庵「四十年前」青空文庫>
  10. ・・・漆喰へ水を流す音もする。そのたびに湿気が部屋へ浸潤して来るように思われたと言う。それがなくても、いったいが湿気の多いじめじめした部屋であった。日の射さないせいもあろう。年中敷きっぱなした蒲団をめくると、青い黴がべったりと畳にへばりついていた・・・<織田作之助「道」青空文庫>
  11. ・・・年を聞いて丙午だと知ると、八卦見はもう立板に水を流すお喋りで、何もかも悪い運勢だった。「男はんの心は北に傾いている」と聴いて、ぞっとした。北とは梅田新道だ。金を払って外へ出ると、どこへ行くという当てもなく、真夏の日がカンカン当っている盛り場・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  12. ・・・ 糸につれて唄い出す声は、岩間に咽ぶ水を抑えて、巧みに流す生田の一節、客はまたさらに心を動かしてか、煙草をよそに思わずそなたを見上げぬ。障子は隔ての関を据えて、松は心なく光琳風の影を宿せり。客はそのまま目を転じて、下の谷間を打ち見やりし・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  13. ・・・紀州とても人の子なり、源叔父の帰り遅しと門に待つようなりなば涙流すものは源叔父のみかは」夫なる老人の取繕いげにいうも真意なきにあらず。「さなり、げにその時はうれしかるべし」と答えし源叔父が言葉には喜び充ちたり。「紀州連れてこのたびの・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  14. ・・・櫓の音をゆるやかにきしらせながら大船の伝馬をこいで行く男は、澄んだ声で船歌を流す。僕はこの時、少年ごころにも言い知られぬ悲哀を感じた。 たちまち小舟を飛ばして近づいて来た者がある、徳二郎であった。「酒を持って来た!」と徳は大声で二三・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  15. ・・・と言い放って口惜し涙を流すところだが、お政にはそれが出来ない。母から厭味や皮肉を言われて泣いたのは唯だ悲くって泣いたので、自分が優しく慰さむれば心も次第に静まり、別に文句は無いのである。 ところで母は百円盗んで帰った。自分は今これを冷や・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  16. ・・・といまだに涙を流す。……<黒島伝治「二銭銅貨」青空文庫>
  17. ・・・それですから善女が功徳のために地蔵尊の御影を刷った小紙片を両国橋の上からハラハラと流す、それがケイズの眼球へかぶさるなどという今からは想像も出来ないような穿ちさえありました位です。 で、川のケイズ釣は川の深い処で釣る場合は手釣を引いたも・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  18. ・・・筏などは昼に比較して却って夜の方が流すに便りが可いから、これも随分下りて来る。往復の船は舷灯の青色と赤色との位置で、往来が互に判るようにして漕いで居る。あかりをつけずに無法にやって来るものもないではない。俗にそれを「シンネコ」というが、実に・・・<幸田露伴「夜の隅田川」青空文庫>
  19. ・・・ると三晩も四晩も、いいえ、ひとつきも帰らぬ事もございまして、どこで何をしている事やら、帰る時は、いつも泥酔していて、真蒼な顔で、はあっはあっと、くるしそうな呼吸をして、私の顔を黙って見て、ぽろぽろ涙を流す事もあり、またいきなり、私の寝ている・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  20. ・・・と私は、心からの大歓喜で、お詫びを言って、神へ感謝の涙を流すかも知れぬ。チュウリップも、ダリヤも要らない。そんなもの欲しくない。ただ、ひょっと、畑で立ち働いている姿を見せてくれさえすれば、いいのだ。私は、それで助かるのだ。出て来い、出て来い・・・<太宰治「善蔵を思う」青空文庫>
  21. ・・・用を勤めるようになったのですが、あの時の火事で入道さまが将軍家よりおあずかりの貴い御文籍も何もかもすっかり灰にしてしまったとかで、御所へ参りましても、まるでもう呆けたようになって、ただ、だらだらと涙を流すばかりで、私はその様を見て、笑いを制・・・<太宰治「鉄面皮」青空文庫>
  22. ・・・な研究になったり、ラジオでまで放送されて、当の学者は陰で冷や汗を流すのである。この新聞記事を読んだ人は相当な人でも、あたかも「椿の花の落ち方を見て地震の予知ができる」と書いてあるかのような錯覚を起こす。そうして学者側の読者は「とんでもなく吹・・・<寺田寅彦「錯覚数題」青空文庫>
  23. ・・・でも淪落の女が親切な男に救われて一│皿の粥をすすって眠った後にはじめて長い間かれていた涙を流す場面がある。「勧進帳」で弁慶が泣くのでも絶体絶命の危機を脱したあとである。 こんな実例から見ると、こうした種類の涙は異常な不快な緊張が持続した・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  24. ・・・僕は臆病で、血を流すのが嫌いである。幸徳君らに尽く真剣に大逆を行る意志があったか、なかったか、僕は知らぬ。彼らの一人大石誠之助君がいったというごとく、今度のことは嘘から出た真で、はずみにのせられ、足もとを見る暇もなく陥穽に落ちたのか、どうか・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  25. ・・・「僕のも流すのかい」「流してもいいさ。隣りの部屋の男も流しくらをやってたぜ、君」「隣りの男の背中は似たり寄ったりだから公平だが、君の背中と、僕の背中とはだいぶ面積が違うから損だ」「そんな面倒な事を云うなら一人で洗うばかりだ」・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  26. ・・・彼は立板に水を流すがごとくびび十五分間ばかりノベツに何か云っているが毫もわからない。能弁なる彼は我輩に一言の質問をも挟さましめざるほどの速度をもって弁じかけつつある。我輩は仕方がないから話しは分らぬものと諦めてペンの顔の造作の吟味にとりかか・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  27. ・・・それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜を取りに行く相談らしかったのです。 けれどもジョバンニは手を大きく振ってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝にあ・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  28. ・・・「なんだってそんならおれのほうへ流すんだ。」「なんだってそんならおまえのほうへ流すったって、水は流れるから油もついて流れるのだ。」「そんならなんだっておれのほうへ水こないように水口とめないんだ。」「なんだっておまえのほうへ水・・・<宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」青空文庫>
  29. ・・・急に金は持ったが、これまでの文化はそういう若者の日常生活にとざされていたので、所謂気の利いたつかい道が見当つかず、女遊びをすると云ってもやはりこれまでの工場の若者が通った私娼窟へ金を流すという風であるそうだ。 カメラが、こういう青年層へ・・・<宮本百合子「カメラの焦点」青空文庫>
  30. ・・・ そしてまるで自分をその物語りの中に投げ込んで思うままに涙を流す事を楽しむんです。 けれ共そう云う事を私はいけないと思います。 若い娘の心に同情を呼び起させるためにはいい結果があるかもしれません。 けれ共同情を起させると云う・・・<宮本百合子「現今の少女小説について」青空文庫>