なかせ【泣かせ】例文一覧 28件

  1. ・・・したがって僕も三度に一度は徳ちゃんを泣かせた記憶を持っている。徳ちゃんは確か総武鉄道の社長か何かの次男に生まれた、負けぬ気の強い餓鬼大将だった。 しかし小学校へはいるが早いか僕はたちまち世間に多い「いじめっ子」というものにめぐり合った。・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  2. ・・・そうしたら部屋のむこうに日なたぼっこしながら衣物を縫っていた婆やが、眼鏡をかけた顔をこちらに向けて、上眼で睨みつけながら、「また泣かせて、兄さん悪いじゃありませんか年かさのくせに」 といったが、八っちゃんが足をばたばたやって死にそう・・・<有島武郎「碁石を呑んだ八っちゃん」青空文庫>
  3. ・・・ 私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々泣かせたり淋しがらせたりした。またお前たちを没義道に取りあつかった。お前達が少し執念く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何か残虐な事をしないではいられなかった。原稿紙にでも向っていた時に、・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  4. ・・・ 二人が、この妾宅の貸ぬしのお妾――が、もういい加減な中婆さん――と兼帯に使う、次の室へ立った間に、宗吉が、ひょろひょろして、時々浅ましく下腹をぐっと泣かせながら、とにかく、きれいに掃出すと、「御苦労々々。」 と、調子づいて、・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  5. ・・・待つ人があるだっぺとか逢いたい人が待ちどおかっぺとか、当こすりを云ってお民さんを泣かせたりしてネ、お母さんにも何でもいろいろなこと言ったらしい、とうとう一昨日お昼前に帰してしまったのでさ。政夫さんが一昨日きたら逢われたんですよ。政夫さん、私・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・国木田独歩を恋に泣かせ、有島武郎の小説に描かれた佐々木のぶ子の母の豊寿夫人はその頃のチャキチャキであった。沼南夫人はまた実にその頃の若い新らしい側を代表する花形であった。 今日の女の運動は社交の一つであって、貴婦人階級は勿論だが、中産以・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  7. ・・・ 光治の級にも、やはり木島とか梅沢とか小山とかいう乱暴のいじ悪者がいて、いつも彼らはいっしょになって、自分らのいうことに従わないものをいじめたり、泣かせたりするのでありました。光治は日ごろから、遊びの時間にも、なるたけこれらの三人と顔を・・・<小川未明「どこで笛吹く」青空文庫>
  8. ・・・ 折井は荒木と違って、吉原の女を泣かせたこともあるくらいの凄い男で、耳に口を寄せて囁く時の言葉すら馴れたものだったから、安子ははじめて女になったと思った。 翌日から安子は折井と一緒に浅草を歩き廻り、黒姫団の団員にも紹介されて、悪の世・・・<織田作之助「妖婦」青空文庫>
  9. ・・・暑いのに泣かせたりなんぞして」 そんなことまで思っている。 彼女がこと切れた時よりも、火葬場での時よりも、変わった土地へ来てするこんな経験の方に「失った」という思いは強く刻まれた。「たくさんの虫が、一匹の死にかけている虫の周囲に・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  10. ・・・「私もそう思うんですけれど、泣かせられるくせに遊びたがる」「今度誘いに来たら、断っちまえ。――吾家へ入れないようにしろ――真実に、串談じゃ無いぜ」 夫婦は互に子供のことを心配して話した。 血気壮んなものには静止していられない・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  11. ・・・「井伏の小説は、井伏の将棋と同じだ。槍を歩のように一つずつ進める。」「井伏の小説は、決して攻めない。巻き込む。吸い込む。遠心力よりも求心力が強い。」「井伏の小説は、泣かせない。読者が泣こうとすると、ふっと切る。」「井伏の小説・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  12. ・・・ところが、こっちはもう、仕事のために、ずっと前から妻子を泣かせどおしなんだ。好きで泣かせているんじゃない。仕事のために、どうしても、そこまで手がまわらないのだ。それを、まあ、何だい。ニヤニヤしながら、そこを何とか御都合していただくんですなあ・・・<太宰治「家庭の幸福」青空文庫>
  13. ・・・けれども、その夜あんなに私をくやしがらせて、ついに声たてて泣かせてしまったものは、これら乱雑安易の文字ではなかった。私はこの落書めいた一ひらの文反故により、かれの、死ぬるきわまで一定職に就こう、就こうと五体に汗してあせっていたという動かせぬ・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  14. ・・・『新聞』と云う題で夕刊売の話を書き級中を泣かせました。俳句を地方新聞にも出されました。ぼくは幼ないジレッタント同志で廻覧雑誌を作りました。当時、歌人を志していた高校生の兄が大学に入る為帰省し、ぼくの美文的フォルマリズムの非を説いて、子規の『・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  15. ・・・考えてみると、あの頃は無論お前も東京にいて、芸者を泣かせたりなんかして遊んでいた筈だが、いちども俺と逢わなかったのは不思議だな。お前は、いったいあの頃は、おもにどの方面で遊んでいたのだ」 あの頃とは、私には、どの頃かわからない。それに私・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  16. ・・・弱い、踏みにじられたる、いまさら恨み言えた義理じゃない人の忍びに忍んで、こらえにこらえて、足げにされたる塵芥、腐った女の、いまわのきわの一すじの、神への抗議、おもんの憤怒が、私を泣かせた、ここを忘れてはならない、人の子、その生涯に、三たび、・・・<太宰治「二十世紀旗手」青空文庫>
  17. ・・・チャップリンのごとき天才は大衆を引きつけ教育し訓練しながら、笑わせたり泣かせたりしてそうして莫大な金をもうけているのである。 和歌俳諧浮世絵を生んだ日本に「日本的なる世界的映画」を創造するという大きな仕事が次の時代の日本人に残されている・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  18. ・・・笑わせ怒らせ泣かせうるのはただ実験が自然の方則を啓示する場合にのみ起こりうる現象である。もう少し複雑な方則が啓示されるときにわれわれはチェホフやチャプリンの「泣き笑い」を刺激され、もう一歩進むと芭蕉の「さびしおり」を感得するであろう。 ・・・<寺田寅彦「科学と文学」青空文庫>
  19. ・・・迷信でたちの悪いのは国を亡し民族を危うくするのもあり、あるいは親子兄弟を泣かせ終には我身を滅ぼすのがいくらでもある。しかし千人針にはそんな害毒を流す恐れは毛頭なさそうである。戦地の寒空の塹壕の中で生きる死ぬるの瀬戸際に立つ人にとっては、たっ・・・<寺田寅彦「千人針」青空文庫>
  20. ・・・私が今晩こうやって演説をするにしても、私の一字一句に私と云うものがつきまつわっておってどうかして笑わせてやろう、どうかして泣かせてやろうと擽ったり辛子を甞めさせるような故意の痕跡が見え透いたら定めし御聴き辛いことで、ために芸術品として見たる・・・<夏目漱石「文芸と道徳」青空文庫>
  21. ・・・とまるで怒ったような声で云ってわざと頭に実を投げつけるようにして泣かせて帰しました。 ところがポーセは、十一月ころ、俄かに病気になったのです。おっかさんもひどく心配そうでした。チュンセが行って見ますと、ポーセの小さな唇はなんだか青くなっ・・・<宮沢賢治「手紙 四」青空文庫>
  22. ・・・ お君からの手紙は、事々に親を泣かせた。 辛い事を堪え堪えして居る様子が、たどたどしい筆行きにあらわれて、親の有難味が始めて分ったなどと書いてあった。 お君の手紙のつくたびに栄蔵は山岸の方の話をあせった。 けれ共、小意志(の・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  23. ・・・迫り、泣かせ、圧倒するリズムがあれから浸透して来ますか?ああ、私の望むもの、私の愛すもの其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。静に燃え、忽ちぱっとをあげ、やがて ほのかに 四辺を照す。     *新・・・<宮本百合子「五月の空」青空文庫>
  24. ・・・しかしロマノフは、題材を、ごく現象の局限されたあれこれの上において、通俗小説としてのヤマや泣かせや好奇心やで引っぱって行く。文章は卑俗で平板である。 プロレタリア文学は、本質において、ブルジョア文学におけるように、芸術的小説と通俗小説と・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  25. ・・・これの映画は多くの女を泣かせた。そして検閲料免除になった。だが、あの小説を読んだ真面目な読者は、作者が告げようとしている「真実」の内容が具体的にはっきりしていないことに、苦痛を感じたのであった。青野氏が抒情的な筆致で「民衆の真実」をとりあげ・・・<宮本百合子「全体主義への吟味」青空文庫>
  26. ・・・女の児をそれでおどかしては泣かせて面白がってた。すると思いがけず白い上被の小母さんが「赤い毛のワロージャ」に、 ――ワロージャ、お前ポケットに何いれてるの?ときいた。ワロージャのやつ! 目玉キョロキョロさせてミーチャや女の児の方を見・・・<宮本百合子「楽しいソヴェトの子供」青空文庫>
  27. ・・・ 祖母は、「私はもうこの年になって、小作男を泣かせても気持の悪いばかりだから、盆、暮に金をやるのを一度にやったと思って居るのさ」と云って居るから両方で荒い声なんか出す事は決してなかった。けれ共、どうしても願い通りにしてやればつけ上る気味・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  28. ・・・幾千人もの鼓動とともにはき出される、そのわっしょ、わっしょという力のこもった声と、ザッザッ、ザッザッという地ひびきとは、ひろ子を泣かせて、涙を抑えかねた。まわりでもこのとき泣いている人がどっさりあった。涙で頬をぬらしながら、なお、その身内を・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>