なき‐ごえ〔‐ごゑ〕【泣(き)声/鳴(き)声】例文一覧 30件

  1. ・・・すると突然聞えて来たのは、婆さんの罵る声に交った、支那人の女の子の泣き声です。日本人はその声を聞くが早いか、一股に二三段ずつ、薄暗い梯子を駈け上りました。そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。 戸は直ぐに開きました。が、日本・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・そうして、半分泣き声で、早口に何かしゃべり立てます。切れ切れに、語が耳へはいる所では、万一娘に逃げられたら、自分がどんなひどい目に遇うかも知れないと、こう云っているらしいのでございますな。が、こっちもここにいては命にかかわると云う時でござい・・・<芥川竜之介「運」青空文庫>
  3. ・・・ほっと安心したと思うと、もう夢中で私は泣声を立てながら、「助けてくれえ」 といって砂浜を気狂いのように駈けずり廻りました。見るとMは遥かむこうの方で私と同じようなことをしています。私は駈けずりまわりながらも妹の方を見ることを忘れはし・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  4. ・・・縊り殺されそうな泣き声が反響もなく風に吹きちぎられて遠く流れて行った。 やがて畦道が二つになる所で笠井は立停った。「この道をな、こう行くと左手にさえて小屋が見えようがの。な」 仁右衛門は黒い地平線をすかして見ながら、耳に手を置き・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・……(寒い風だよ、ちょぼ一風と田越村一番の若衆が、泣声を立てる、大根の煮える、富士おろし、西北風の烈しい夕暮に、いそがしいのと、寒いのに、向うみずに、がたりと、門の戸をしめた勢で、軒に釣った鳥籠をぐゎたり、バタンと撥返した。アッと思うと、中・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  6. ・・・民子、秋子、雪子らの泣き声は耳にはいった。妻は自分を見るや泣き声を絞って、何だってもう浮いていたんですものどうしてえいやらわからないけれど、隣の人が藁火であたためなければっていうもんですから、これで生き返るでしょうか……。自分はすぐに奈々子・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  7. ・・・下の座敷から年上の子の泣き声が聞えた。つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。「あれやさかい厭になってしまう。親子四人の為めに僅かの給料で毎日々々こき使われ、帰って晩酌でも一杯思う時は、半分小児の守りや。養子の身はつらい・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  8. ・・・ また、泣き声をたてるものもありませんでした。 笛の中は、ただ一本の空洞の竹にしかすぎませんでした。 それでも二郎は、なお思いあきらめることができなかったのです。 やはり、一つ一つ無理に、穴をつついているうちに、その笛は、ひ・・・<小川未明「赤い船のお客」青空文庫>
  9. ・・・と女房はついに泣声を立てて詰寄せた。「慰物にしたんかしねえんか、そんなことあ考えてもみねえから自分でも分らねえ、どうともお前の方で好なように取りねえ、昨日は昨日、今日は今日よ。お前が何と言ったところで、俺てえものがここに根を据えていられ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  10. ・・・暫らくすると、女の泣き声がきこえた。男はぶつぶつした声でなだめていた。しまいには男も半泣きの声になった。女はヒステリックになにごとか叫んでいた。 夕闇が私の部屋に流れ込んで来た。いきなり男の歌声がした。他愛もない流行歌だった。下手糞なの・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  11. ・・・うんうんという唸声、それが頓て泣声になるけれど、それにも屈ずに這って行く。やッと這付く。そら吸筒――果して水が有る――而も沢山! 吸筒半分も有ったろうよ。やれ嬉しや、是でまず当分は水に困らぬ――死ぬ迄は困らぬのだ。やれやれ! 兎も角も、・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  12. ・・・と、私は半分泣声で繰返した。「とにかくあいつらを呼んでこなくては……」 私は突嗟に起ちあがって、電報を握ったまま暗い石段を駈け下り、石段の下で娘に会ったが同じことを言って、夢中で境内を抜けて一気にこぶくろ坂の上まで走った。そして坂の・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  13. ・・・ ぼんやりしていて、それが他所の子の泣声だと気がつくまで、死んだ妹の声の気持がしていた。「誰だ。暑いのに泣かせたりなんぞして」 そんなことまで思っている。 彼女がこと切れた時よりも、火葬場での時よりも、変わった土地へ来てする・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  14. ・・・』と泣声を振わして言いますから、『そういうことなら投擲って置く訳に行かない。』と僕はいきなり母の居間に突入しました。里子は止める間もなかったので僕に続いて部屋に入ったのです。僕は母の前に座るや、『貴女は私を離婚すると里子に言ったそうです・・・<国木田独歩「運命論者」青空文庫>
  15. ・・・ ジャケツに抱き上げられた子供は泣声を発しなかった。死んでいたのだ。「おい撃方やめろ!――俺等は誰のためにこんなことをしてるんだい!」 栗本が腹立たしげに云った。その声があまりに大きかったので機関銃を持っている兵士までが彼の方へ・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  16. ・・・町の空で、子供の泣き声やけんかする声でも聞きつけると、私はすぐに座をたった。離れ座敷の廊下に出てみた。それが自分の子供の声でないことを知るまでは安心しなかった。 私のところへは来客も多かった。ある酒好きな友だちが、この私を見に来たあとで・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  17. ・・・その鳴き声に応ずる声がまた森の四方にひびきわたって、大地はゆるぎ、枝はふるい、石は飛びました。しかして途方にくれた母子二人は二十匹にも余る野馬の群れに囲まれてしまいました。 子どもは顔をおかあさんの胸にうずめて、心配で胸の動悸は小時計の・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  18. ・・・こんどは、ほとんど泣き声である。「伝統、ということになりますると、よほどのあやまちも、気がつかずに見逃してしまうが、問題は、微細なところに沢山あるのです。もっと自由な立場で、極く初等的な万人むきの解析概論の出ることを、切に、希望している次第・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  19. ・・・三 この男はどこから来るかと言うと、千駄谷の田畝を越して、櫟の並木の向こうを通って、新建ちのりっぱな邸宅の門をつらねている間を抜けて、牛の鳴き声の聞こえる牧場、樫の大樹に連なっている小径――その向こうをだらだらと下った丘陵の・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  20. ・・・そのたびに今もいる鴨羽の雌は人間で言わば仲を取りなし顔とでもいったような様子でそば近く寄って行って、いつもとは少しちがった特殊な低い鳴き声を発していたそうであったが、そのうちにある日突然その暴君の雄鳥の姿が池では見られなくなったそうである。・・・<寺田寅彦「あひると猿」青空文庫>
  21. ・・・私が半分泣声になって叫ぶと、とたんに犬は肝をつぶすような吠え声をあげて、猛然と跳びかかってきた。私は着物に咬みつかれたまま、うしろの菜園のなかに、こんにゃく桶ごとひっくりかえった。「あら奥様、奥様、大変ですよう――」 そのときになっ・・・<徳永直「こんにゃく売り」青空文庫>
  22. ・・・「婆さんが云うには、あの鳴き声はただの鳴き声ではない、何でもこの辺に変があるに相違ないから用心しなくてはいかんと云うのさ。しかし用心をしろと云ったって別段用心の仕様もないから打ち遣って置くから構わないが、うるさいには閉口だ」「そんな・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  23. ・・・ 泣き声と一緒に、訴えるような声で叫んで、その小さな手は、吉田の頸に喰い込むように力強くからまった。 人生の、あらゆる不幸、あらゆる悲惨に対して殆んど免疫になってはいた吉田であった。不幸や悲惨の前に無力に首をうなだれる吉田ではなかっ・・・<葉山嘉樹「生爪を剥ぐ」青空文庫>
  24. ・・・と、また泣き声になッて、「え、よござんすか」 西宮は閉目てうつむいている。「よござんすね、よござんすね。本統、本統」と、吉里は幾たびとなく念を押して西宮をうなずかせ、はアッと深く息を吐いて涙を拭きながら、「兄さんでも来て下さらなきゃ・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  25. ・・・また第二の方は、さまで面倒もなく損害もなき故、何となく子供の痛みを憐れみ、かつは泣声の喧しきを厭い、これを避けんがために過ちを柱に帰して暫くこれを慰むることならんといえども、父母のすることなすことは、善きも悪しきも皆一々子供の手本となり教え・・・<福沢諭吉「家庭習慣の教えを論ず」青空文庫>
  26. ・・・始めは客のある時は客の前を憚かって僅に顔をしかめたり、僅に泣声を出す位な事であったが、後にはそれも我慢が出来なくなって来た。友達の前であろうが、知らぬ人の前であろうが、痛い時には、泣く、喚く、怒る、譫言をいう、人を怒りつける、大声あげてあん・・・<正岡子規「病牀苦語」青空文庫>
  27. ・・・と泣きながら叫んで追いかけましたが、男はもう森の横を通ってずうっと向こうの草原を走っていて、そこからネリの泣き声が、かすかにふるえて聞こえるだけでした。 ブドリは、泣いてどなって森のはずれまで追いかけて行きましたが、とうとう疲れてばった・・・<宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」青空文庫>
  28. ・・・ 半分眼が醒めかかっても、私は夢に覚えた悲しさを忘れ切れず、うっかりすると、憐れな泣声を立てそうな程、心を圧せられて居た。時間にすれば、五時頃ででもあったろうか。 眠りなおして八時過に起ても、私は何となく頭が重苦しいのを感じた。・・・<宮本百合子「或日」青空文庫>
  29. ・・・新たに響く厨子王の泣き声が、ややかすかになった姉の声に交じる。三郎は火を棄てて、初め二人をこの広間へ連れて来たときのように、また二人の手をつかまえる。そして一座を見渡したのち、広い母屋を廻って、二人を三段の階の所まで引き出し、凍った土の上に・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>
  30. ・・・ 農婦は性急な泣き声でそういう中に、早や泣き出した。が、涙も拭かず、往還の中央に突き立っていてから、街の方へすたすたと歩き始めた。「二番が出るぞ。」 猫背の馭者は将棋盤を見詰めたまま農婦にいった。農婦は歩みを停めると、くるりと向・・・<横光利一「蠅」青空文庫>