なく‐な・る【無くなる/亡くなる】例文一覧 30件

  1. ・・・お前たちの母上は亡くなるまで、金銭の累いからは自由だった。飲みたい薬は何んでも飲む事が出来た。食いたい食物は何んでも食う事が出来た。私たちは偶然な社会組織の結果からこんな特権ならざる特権を享楽した。お前たちの或るものはかすかながらU氏一家の・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  2. ・・・ 今更じゃないけれど、こんな気立の可い、優しい、うつくしい方がもう亡くなるのかと思ったら、ねえ、新さん、いつもより百倍も千倍も、優しい、美しい、立派な方に見えたろうじゃありませんか。誂えて拵えたような、こういう方がまたあろうか、と可惜も・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  3. ・・・初めは何か子供の悪戯だろうくらいにして、別に気にもかけなかったが、段々と悪戯が嵩じて、来客の下駄や傘がなくなる、主人が役所へ出懸けに机の上へ紙入を置いて、後向に洋服を着ている間に、それが無くなる、或時は机の上に置いた英和辞典を縦横に絶切って・・・<泉鏡花「一寸怪」青空文庫>
  4. ・・・出る尻から本が無くなるので、出版屋は首をひねりながら、ともかく増刷していたのだ。増刷の本が出ると、またお前が買い占める。出版屋はまた増刷する。……この売りと買いの勝負は、むろんお前の負けで、買い占めた本をはがして、包紙にする訳にも思えば参ら・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  5. ・・・併しこの一円金あった処で、明日一日凌げば無くなる。……後をどうするかね? 僕だって金持という訳ではないんだからね、そうは続かないしね。一体君はどうご自分の生活というものを考えて居るのか、僕にはさっぱり見当が附かない」「僕にも解らない……・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  6. ・・・若し幸にして悟れたら其の苦痛は無くなるだろう」と言いますと、病人は「フーン」と言って暫し瞑目していましたが、やがて「解りました。悟りました。私も男です。死ぬなら立派に死にます」と仰臥した胸の上で合掌しました。其儘暫く瞑目していましたが、さす・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  7. ・・・「そうら解った、私は去日からどうも炭の無くなりかたが変だ、如何炭屋が巧計をして底ばかし厚くするからってこうも急に無くなる筈がないと思っていたので御座いますよ。それで私は想当ってる事があるから昨日お源さんの留守に障子の破目から内をちょいと・・・<国木田独歩「竹の木戸」青空文庫>
  8. ・・・包んで呉れたのが無くなると、再び父親にせびった。しかし、母親は、子供に堪能するだけ甘いものを与えなかった。彼女は、脇から来て、さっと夫から砂糖の包を引ったくった。「もうこれでえいぞ。」彼女は、子供が拡げて持っている新聞紙へほんの一寸ずつ・・・<黒島伝治「砂糖泥棒」青空文庫>
  9. ・・・その母さんが亡くなる時には、人のからだに差したり引いたりする潮が三枚も四枚もの母さんの単衣を雫のようにした。それほど恐ろしい勢いで母さんから引いて行った潮が――十五年の後になって――あの母さんと生命の取りかえっこをしたような人形娘に差して来・・・<島崎藤村「伸び支度」青空文庫>
  10. ・・・いわんや私たち小才は、ぶん殴られて喜んでいたのじゃ、制作も何も消えて無くなる。 不平は大いに言うがいい。敵には容赦をしてはならぬ。ジイドもちゃんと言っている。「闘争に生き、」と抜からず、ちゃんと言っている。敵は? ああ、それはラジオじゃ・・・<太宰治「鬱屈禍」青空文庫>
  11. ・・・何も、言葉が無くなるのだ。私は、ただしゃがんで指でもって砂の上に文字を書いては消し、書いては消し、しているばかりなのだ。何も言えない。何も書けない。けれども、芸術に於いては、ちがうのだ。歯が、ぼろぼろに欠け、背中は曲り、ぜんそくに苦しみなが・・・<太宰治「鴎」青空文庫>
  12. ・・・そうすると、こんな卑屈さも、また自分のためでなく、人の思惑のために毎日をポタポタ生活することも無くなるだろう。 おや、あそこ、席が空いた。いそいで網棚から、お道具と傘をおろし、すばやく割りこむ。右隣は中学生、左隣は、子供背負ってねんねこ・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  13. ・・・甚だ妙な言い方でございますが、つまりその頃の私の存在価値は、そのダメなところにだけ在ったのでして、もし私がダメでなかったら、私の存在価値が何も、全然、無くなるという、まことに我ながら奇怪閉口の位置に立たされていたのでございます。しかし、私も・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  14. ・・・それはとにかく、この男の子が鳥目で夜になると視力が無くなるというので、「黒チヌ」という魚の生き胆を主婦が方々から貰って来ては飲ませていた。一種のビタミン療法であろうと思われる。見たところ元気のいい子で、顔も背中も渋紙のような色をして、そして・・・<寺田寅彦「海水浴」青空文庫>
  15. ・・・それから一年くらいはその寒暖計が風呂場のどこかの隅に所在なさそうにころがっていたようであったが、いつ無くなるともなく見えなくなってしまってそれっきり永久に消えてなくなってしまったのである。これは適者生存自然淘汰の原理によって、元来寒暖計など・・・<寺田寅彦「家庭の人へ」青空文庫>
  16. ・・・五官を杜絶すると同時に人間は無くなり、従って世界は無くなるであろう。しかし、この、近代科学から見放された人間の感覚器を子細に研究しているものの目から見ると、これらの器官の機構は、あらゆる科学の粋を集めたいかなる器械と比べても到底比較にならな・・・<寺田寅彦「感覚と科学」青空文庫>
  17. ・・・飛びおりてしまえば自分にはその建物もその所有者も、国土も宇宙も何もかも一ぺんに永久に無くなるのだから、飛ぶ場所の適否の問題も何もないであろうが、他の人にはやっぱり世界は残存しその建物と事件の記憶は残るであろう。 また数日たって後の雪のふ・・・<寺田寅彦「LIBER STUDIORUM」青空文庫>
  18. ・・・第二義から第一義に行って霊も肉も無い……文学が高尚でも何でも無くなる境涯に入れば偖てどうなるかと云うに、それは私だけにゃ大概の見当は付いているようにも思われるが、ま、ま、殆ど想像が出来んと云って可いな。――ただ何だか遠方の地平線に薄ぼんやり・・・<二葉亭四迷「私は懐疑派だ」青空文庫>
  19. ・・・土葬は窮屈であるけれど自分の死骸は土の下にチャーンと完全に残って居る、火葬の様に白骨になってしまっては自分が無くなる様な感じがして甚だ面白くない。何も身体髪膚之を父母に受くなどと堅くるしい理窟をいうのではないが、死で後も体は完全にして置きた・・・<正岡子規「死後」青空文庫>
  20. ・・・「私は饑饉でみんなが死ぬとき若し私の足が無くなることで饑饉がやむなら足を切っても口惜しくありません。」 アラムハラドはあぶなく泪をながしそうになりました。「そうだ。おまえには歩くことよりも物を言うことよりももっとしないでいられな・・・<宮沢賢治「学者アラムハラドの見た着物」青空文庫>
  21. ・・・ それは昔の川の流れたあとで、洪水のたびにいくらか形も変るのでしたが、すっかり無くなるということもありませんでした。その中には魚がたくさんおりました。殊にどじょうとなまずがたくさんおりました。けれどもプハラのひとたちは、どじょうやなまず・・・<宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」青空文庫>
  22. ・・・             ○ 金は、無くなると其量だけ結果に於て Less になる。然し、愛だけはそうでなく、不死で、不滅で、同時に、或人の持つ総量に変ることないのを知った。             ○ 人間が、血縁の深さに・・・<宮本百合子「傾く日」青空文庫>
  23. ・・・ 私の膝に抱かれたまま、私の髪の毛をいじる事が大変すきで胸の中に両手を突き入れる事などは亡くなる少し前からちょくちょくして居た。 小さい丸い手で髪をさすったり顔をいじったりした揚句首にその手をからめて、自分の小さい躰に抱きしめて呉れ・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  24. ・・・ スローガンだけあるが、生産を国家管理にするといっても、それはどういう国家がどう生産を管理するのであるのか、階級なき新日本と云っても、犬養を殺し、軍部が暴威を振って階級が無くなるものでもなし、ファシズムの信じ難いほどの非科学性を暴露した・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  25. ・・・それで晩年は見物だけでした。亡くなる前の年の秋ごろでしたか壁懸の展覧即売会がありました。その中で、優れたものを当時建築が完成しかけていた某邸の広間用として是非おとりになるようにするのだといって、自分の手で建てられた家のそれぞれの場所に、自分・・・<宮本百合子「写真に添えて」青空文庫>
  26. ・・・ とにかく弥一右衛門は何度願っても殉死の許しを得ないでいるうちに、忠利は亡くなった。亡くなる少し前に、「弥一右衛門奴はお願いと申すことを申したことはござりません、これが生涯唯一のお願いでござります」と言って、じっと忠利の顔を見ていたが、・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  27. ・・・れ、某に仰せられ候はその方が申条一々もっとも至極せり、たとい香木は貴からずとも、この方が求め参れと申しつけたる珍品に相違なければ大切と心得候事当然なり、総て功利の念を以て物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持ち帰り候・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書」青空文庫>
  28. ・・・、某に仰せられ候は、その方が申条一々もっとも至極なり、たとい香木は貴からずとも、この方が求め参れと申つけたる珍品に相違なければ、大切と心得候事当然なり、総て功利の念をもて物を視候わば、世の中に尊き物は無くなるべし、ましてやその方が持帰り候伽・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」青空文庫>
  29. ・・・カウィアは片側で済むが、切り抜かれちゃ両面無くなる。没収せられればまるで無くなる。」 山田は無邪気に笑った。 暫く一同黙って弁当を食っていたが、山田は何か気に掛かるという様子で、また言い出した。「あんな連中がこれから殖えるだろう・・・<森鴎外「食堂」青空文庫>
  30. ・・・一面に詰った黒い活字の中から、青い焔の光線が一条ぶつと噴きあがり、ばらばらッと砕け散って無くなるのを見るような迅さで、梶の感情も華ひらいたかと思うと間もなく静かになっていった。みな零になったと梶は思った。「あら、これは栖方さんだわ。とう・・・<横光利一「微笑」青空文庫>