なげ【投げ】例文一覧 36件

  1. ・・・ 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。「差当りこれだけ取って置くさ。もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから、――」 婆さんは三百弗の小切手を見ると、急に愛想がよくなりまし・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・見ると帽子は投げられた円盤のように二、三間先きをくるくるとまわって行きます。風も吹いていないのに不思議なことでした。僕は何しろ一生懸命に駈け出して帽子に追いつきました。まあよかったと安心しながら、それを拾おうとすると、帽子は上手に僕の手から・・・<有島武郎「僕の帽子のお話」青空文庫>
  3. ・・・そして魚を鉤から脱して、地に投げる。 魚は死ぬる。 湖水は日の光を浴びて、きらきらと輝いて、横わっている。柳の、日に蒸されて腐る水草のがする。ホテルからは、ナイフやフォオクや皿の音が聞える。投げられた魚は、地の上で短い、特色のある踊・・・<著:アルテンベルクペーター 訳:森鴎外「釣」青空文庫>
  4. ・・・これはまた、纔かに板を持って来て、投げたにすぎぬ。池のつづまる、この板を置いた切れ口は、ものの五歩はない。水は川から灌いで、橋を抜ける、と土手形の畦に沿って、蘆の根へ染み込むように、何処となく隠れて、田の畦へと落ちて行く。 今、汐時で、・・・<泉鏡花「海の使者」青空文庫>
  5. ・・・追いつ追われつ、草花を採ったり小石を拾って投げたり、蛇がいたと言っては三人がしがみ合ったりして、池の岸を廻ってゆく。「省さん、蛇王様はなで皹の神様でしょうか」「なでだか神様のこたあ私にゃわかんねい」「それじゃ蛇王様は皹の事ばかり・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・前年など、かかえられていた芸者が、この娘の皮肉の折檻に堪えきれないで、海へ身を投げて死んだ。それから、急に不評判になって、あの婆さんと娘とがいる間は、井筒屋へは行ってやらないと言う人々が多くなったのだそうだ。道理であまり景気のいい料理店では・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・と細い眼をして叱りつけ、庭先きへ追出しては麺麭を投げてやった。これが一日の中の何よりの楽みであった。『平凡』に「……ポチが私に対うと……犬でなくなる。それとも私が人間でなくなるのか?……どっちだかそれは解らんが、とにかく相互の熱情熱愛に人畜・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  8. ・・・ 女房は夢の醒めたように、堅い拳銃を地に投げて、着物の裾をまくって、その場を逃げ出した。 女房は人けのない草原を、夢中になって駈けている。ただ自分の殺した女学生のいる場所からなるたけ遠く逃げようとしているのである。跡には草原の中に赤・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  9. ・・・ いつも快活で、そして、また独りぼっちに自分を感じた年子は、しばらく、柔らかな腰掛けにからだを投げて、うっとりと、波立ちかがやきつつある光景に見とれて、夢心地でいました。「このはなやかさが、いつまでつづくであろう。もう、あと二時間、・・・<小川未明「青い星の国へ」青空文庫>
  10. ・・・それから、その玉をほどくと、綱の一つの端を持って、それを勢よく空へ投げ上げました。 すると、投げ上げた網の上の方で鉤か何かに引っかかりでもしたように、もう下へ降りて来ないのです。それどころではありません。爺さんが綱の玉を段々にほごすと、・・・<小山内薫「梨の実」青空文庫>
  11. ・・・ 第九の四歳馬特別競走では、1のホワイトステーツ号が大きく出遅れて勝負を投げてしまったが、次の新抽優勝競走では寺田の買ったラッキーカップ号が二着馬を三馬身引離して、五番人気で百六十円の大穴だった。寺田はむしろ悲痛な顔をしながら、配当を受・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  12. ・・・街道へその家の燈が光を投げている。そのなかへ突然姿をあらわした人影があった。おそらくそれは私と同じように提灯を持たないで歩いていた村人だったのであろう。私は別にその人影を怪しいと思ったのではなかった。しかし私はなんということなく凝っと、その・・・<梶井基次郎「蒼穹」青空文庫>
  13. ・・・ この階下の大時計六時を湿やかに打ち、泥を噛む轍の音重々しく聞こえつ、車来たりぬ、起つともなく起ち、外套を肩に掛けて階下に下り、物をも言わで車上に身を投げたり。運び行かるる先は五番町なる青年倶楽部なり。 倶楽部の人々は二郎が南洋航行・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  14. ・・・ さきから、雪を投げていた男が、うしろの白樺のかげから靴をならしてとび出て来た。武石だった。 松木は、ぎょっとした。そして、新聞紙に包んだものを雪の上へ落しそうだった。 彼は、若し将校か、或は知らない者であった場合には、何もかも・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  15. ・・・と断崖から取って投げたように言って、中村は豪然として威張った。 若崎は勃然として、「知れたことサ。」と見かえした。身体中に神経がピンと緊しく張ったでもあるように思われて、円味のあるキンキン声はその音ででも有るかと聞えた。しか・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  16. ・・・読みさしの新聞を妹やお徳の前に投げ出すようにして言った。「こんな、罪もない子供までも殺す必要がどこにあるだろう――」 その時の三郎の調子には、子供とも思えないような力があった。 しかし、これほどの熱狂もいつのまにか三郎の内を通り・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  17. ・・・ウイリイはすぐに樽をあけて、うじ虫をすっかり海へ投げこみました。犬は、その空樽を鯨におやりなさいと言いました。ウイリイはそれも片はしからなげてやりました。 魚たちは、思わぬ御馳走をもらったので、大よろこびで、みんなで寄って来て、おいしい・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  18. ・・・長い睫毛がかげを投げた黒い眼のあの物語は、とりもなおさず、彼女を囲む世界の言葉なのでした。蝉の鳴いている樹から、静かな星に至る迄、其処には、言葉に表わさない合図や、身振り、啜泣、吐息などほか、何もありません。 深い真昼時、船頭や漁夫は食・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  19. ・・・ただ少し、構成の投げやりな点が、かれを第二のシェクスピアにさせなかった。とにかく、これから、諸君と一緒に読んでみましょう。  女の決闘 古来例の無い、非常な、この出来事には、左の通りの短い行掛りがある。 ロシヤの医科大学・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  20. ・・・窓を開けて、襟を外へ投げた。それから着物を脱いで横になった。しかし今一つ例の七ルウブルの一ダズンの中の古襟のあったことを思い出したから、すぐに起きて、それを捜し出して、これも窓から外へ投げた。大きな帽子を被った両棲動物奴がうるさく附き纏って・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  21. ・・・自分が近寄ったのも気が付かぬか、一心に拾っては砂浜の高みへ投げ上げている。脚元近く迫る潮先も知らぬ顔で、時々頭からかぶる波のしぶきを拭おうともせぬ。 何処の浦辺からともなく波に漂うて打上がった木片板片の過去の歴史は波の彼方に葬られて、こ・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  22. ・・・ 善ニョムさんは、片手を伸すと、一握りの肥料を掴みあげて片ッ方の団扇のような掌へ乗せて、指先で掻き廻しながら、鼻のところへ持っていってから、ポンともとのところへ投げた。「いい出来だ、これでお天気さえよきゃあ豊年だぞい」 善ニョム・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  23. ・・・その中の一ツは出入りの安吉という植木屋が毎年々々手入の松の枯葉、杉の折枝、桜の落葉、あらゆる庭の塵埃を投げ込み、私が生れぬ前から五六年もかかって漸くに埋め得たと云う事で。丁度四歳の初冬の或る夕方、私は松や蘇鉄や芭蕉なぞに其の年の霜よけを為し・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  24. ・・・蝮蛇は之を路傍に見出した時土塊でも木片でも人が之を投げつければ即時にくるくると捲いて決して其所を動かない。そうして扁平な頭をぶるぶると擡げるのみで追うて人を噛むことはない。太十も甞て人を打擲したことがなかった。彼はすぐ怒るだけに又すぐに解け・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  25. ・・・ 薄紅の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、裳のみは軽く捌く珠の履をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。登り詰めたる階の正面には大いなる花を鈍色の奥に織り込める戸帳が、人なきをかこち・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  26. 上 日清戦争が始まった。「支那も昔は聖賢の教ありつる国」で、孔孟の生れた中華であったが、今は暴逆無道の野蛮国であるから、よろしく膺懲すべしという歌が流行った。月琴の師匠の家へ石が投げられた、明笛を吹く青年等は非国民として擲られた・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  27. ・・・ 私の胸の中では、毒蛇が鎌首を投げた。一歩一歩の足の痛みと、「今日からの生活の悩み」が、毒蛇をつッついたのだ。「おい、今んになって、口先で胡魔化そう、ったって駄目だよ。剥製の獣じゃあるめえし、傷口に、ただの綿だけ押し込んどいて、それ・・・<葉山嘉樹「浚渫船」青空文庫>
  28. ・・・と、裲襠を引き摺ッたまま走り寄り、身を投げかけて男の肩を抱いた。「ははははは。門迷いをしちゃア困るぜ。何だ、さッきから二階の櫺子から覗いたり、店の格子に蟋蟀をきめたりしていたくせに」と、西宮は吉里の顔を見て笑ッている。 吉里はわざと・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  29. ・・・譬えば母とか恋人とかいうようないなくなってから年を経たものがまた帰って来たように、己の心の中に暖いような敬虔なような考が浮んで、己を少年の海に投げ入れる。子供の時、春の日和に立っていて体が浮いて空中を飛ぶようで、際限しも無いあくがれが胸に充・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  30. ・・・○ベースボールに要するもの はおよそ千坪ばかりの平坦なる地面(芝生ならばなお善皮にて包みたる小球(直径二寸ばかりにして中は護謨、糸の類にて充実投者が投げたる球を打つべき木の棒(長さ四尺ばかりにして先の方やや太く手にて持つ処一尺四方ば・・・<正岡子規「ベースボール」青空文庫>