なげ‐いれ【投(げ)入れ/×抛げ入れ】例文一覧 25件

  1. ・・・うす暗い床の間には、寒梅と水仙とが古銅の瓶にしおらしく投げ入れてあった。軸は太祇の筆であろう。黄色い芭蕉布で煤けた紙の上下をたち切った中に、細い字で「赤き実とみてよる鳥や冬椿」とかいてある。小さな青磁の香炉が煙も立てずにひっそりと、紫檀の台・・・<芥川竜之介「老年」青空文庫>
  2. ・・・金の投げ入れようがありません。しかたなしに風見の烏に相談しますと、画家は燕が大すきで燕の顔さえ見ると何もかもわすれてしまって、そればかり見ているからおまえも目につくように窓の回りを飛び回ったらよかろうと教えてくれました。そこで燕は得たりとで・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  3. ・・・円髷、前垂がけ、床の間の花籠に、黄の小菊と白菊の大輪なるを莟まじり投入れにしたるを視め、手に三本ばかり常夏の花を持つ。傍におりく。車屋の娘。撫子 今日は――お客様がいらっしゃるッて事だから、籠も貸して頂けば、お庭の花まで御無心し・・・<泉鏡花「錦染滝白糸」青空文庫>
  4. ・・・また、あるものは、ストーブの火の中に投げ入れられました。またあるものは、泥濘の道の上に捨てられました。なんといっても子供らは、箱の中に入っている、飴チョコさえ食べればいいのです。そして、もう、空き箱などに用事がなかったからであります。こうし・・・<小川未明「飴チョコの天使」青空文庫>
  5. ・・・城山の麓にて撞く鐘雲に響きて、屋根瓦の苔白きこの町の終より終へともの哀しげなる音の漂う様は魚住まぬ湖水の真中に石一個投げ入れたるごとし。 祭の日などには舞台据えらるべき広辻あり、貧しき家の児ら血色なき顔を曝して戯れす、懐手して立てるもあ・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  6. ・・・彼は思いきって、手紙を投げ入れた。そしてハンドルを二、三回廻すと、箱の底へ手紙が落ちる音がした。恵子からの手紙の返事はすぐ来た。冒頭に「あなたは遅かった!」そうあった。それによると最近彼女はある男と結婚することに決まっていた。――「犬だ・・・<小林多喜二「雪の夜」青空文庫>
  7. ・・・きょうありて明日、炉に投げ入れらるる野の草をも、神はかく装い給えば、まして汝らをや。汝ら、之よりも遥かに優るる者ならずや。というキリストの慰めが、私に、「ポオズでなく」生きる力を与えてくれたことが、あったのだ。けれども、いまは、どうにも、て・・・<太宰治「鴎」青空文庫>
  8. ・・・机上のコップに投入れて置いた薔薇の大輪が、深夜、くだけるように、ばらりと落ち散る事がある。風のせいではない。おのずから散るのである。天地の溜息と共に散るのである。空を飛ぶ神の白絹の御衣のお裾に触れて散るのである。私は三井君を、神のよほどの寵・・・<太宰治「散華」青空文庫>
  9. ・・・けさは水仙を床の間の壺に投げ入れた。ああ、日本は、佳い国だ。パンが無くなっても、酒が足りなくなっても、花だけは、花だけは、どこの花屋さんの店頭を見ても、いっぱい、いっぱい、紅、黄、白、紫の色を競い咲き驕っているではないか。この美事さを、日本・・・<太宰治「新郎」青空文庫>
  10. ・・・バケツに投げ入れられた二十本程の水仙の絵である。手にとってちらと見てビリビリと引き裂いた。「なにをなさる!」老画伯は驚愕した。「つまらない絵じゃありませんか。あなた達は、お金持の奥さんに、おべっかを言っていただけなんだ。そうして奥さ・・・<太宰治「水仙」青空文庫>
  11. ・・・ポストにマッチの火を投げ入れて、ポストの中の郵便物を燃やして喜んでいた男があった。狂人ではない。目的の無い遊戯なんだ。毎日、毎日、あちこちのポストの中の郵便物を焼いて歩いた。」「それあ、ひどい。」そいつは、悪魔だ。みじんも同情の余地が無・・・<太宰治「誰」青空文庫>
  12.  月 日。 郵便受箱に、生きている蛇を投げ入れていった人がある。憤怒。日に二十度、わが家の郵便受箱を覗き込む売れない作家を、嘲っている人の為せる仕業にちがいない。気色あしくなり、終日、臥床。 月 日。 苦悩を・・・<太宰治「悶悶日記」青空文庫>
  13. ・・・西川一草亭の花道に関する講話の中に、投げ入れの生花がやはり元禄に始まったという事を発見しておもしろいと思った。生花はもちろん茶道、造園、能楽、画道、書道等に関する雑書も俳諧の研究には必要であると思う。たとえば世阿弥の「花伝書」や「申楽談義」・・・<寺田寅彦「俳諧の本質的概論」青空文庫>
  14. ・・・昔北欧を旅行したとき、たしかヘルシングフォルスの電車の運転手が背広で、しかも切符切りの車掌などは一人もいず、乗客は勝手に上がり口の箱の中へかねて買い置きの白銅製の切符を投げ入れていたように記憶している。こんなのんびりした国もあるのかと思った・・・<寺田寅彦「破片」青空文庫>
  15. ・・・いろいろの人が来ていろいろの光や影を自分の心の奥に投げ入れた。しかしそれについては別に何事も書き残しておくまいと思う。今こうしてただ病室をにぎわしてくれた花の事だけを書いてみると入院中の自分の生活のあらゆるものがこれで尽くされたような気がす・・・<寺田寅彦「病室の花」青空文庫>
  16. ・・・山に野に白き薔薇、白き百合を採り尽して舟に投げ入れ給え。――舟は流し給え」 かくしてエレーンは眼を眠る。眠りたる眼は開く期なし。父と兄とは唯々として遺言の如く、憐れなる少女の亡骸を舟に運ぶ。 古き江に漣さえ死して、風吹く事を知らぬ顔・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  17. ・・・ 傍机の壺に投げ入れた喇叭水仙の工合を指先でなおし乍ら、愛は、奇妙なこの感情を静に辿って行った。拘泥して居た胸の奥が、次第に解れて来る。終には、照子に対するどこやら錯覚的な愉快ささえ、ほのぼのと湧き出して来た。愛は、自分だけにしか判らな・・・<宮本百合子「斯ういう気持」青空文庫>
  18. ・・・お花でも投げ入れとか、お茶でも野立てとか、その場その時の条件を溌溂とした心に映して、工夫を働かせて人の心も自分の心も慰めるというものもある。仕舞はそういうものではない。その場の思いつきで舞われた仕舞というような例は天下にない。ふさわしい場面・・・<宮本百合子「今日の生活と文化の問題」青空文庫>
  19. ・・・ 能動精神の提唱に続いてヒューマニズムの問題をとりあげた当時の日本の作家たちは、この一つの声の中に数年来の社会的・文学的諸課題を投げ入れて社会感情の統一体として提出したのであった。 今日実に意味深く顧られることは、このヒューマニズム・・・<宮本百合子「昭和の十四年間」青空文庫>
  20. ・・・ 本当に、諸神が昔パンドーラに種々の贈物をされた時、私が何心なく希望を匣の下積みに投げ入れたのはよいことであった。  行って東風に頼んで来よう。少しはっきり下界の音を運びすぎる。――おやすみなさい、神々。今貴方がたの睡って被・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  21. ・・・淑貞の窈窕たる体には活溌な霊魂が投げ入れられて、豊満になった肉体とともに、冗談を云う娘となって来た。 二十八年間を中国に暮したC女史にとって、故郷の天気は却って体に合わなくなっている。C女史はものうくベッドにもたれていた。軽快な足どりで・・・<宮本百合子「春桃」青空文庫>
  22. ・・・ 若い女が素朴に恋に身を投げ入れず、そういう点を観察することが小市民の世わたりの上で賢いとされた時代もあった。いわゆる人物本位ということと将来の立身出世が同じ内容で、選択の標準となり得た時代も遠い過去にはあった。けれども今日の大多数の青・・・<宮本百合子「若き世代への恋愛論」青空文庫>
  23. ・・・すぐに跡から小形の手桶に柄杓を投げ入れたのを持って出た。手桶からは湯気が立っている。先っきの若い男が「や、閼伽桶」と叫んだ。所謂閼伽桶の中には、番茶が麻の嚢に入れて漬けてあったのである。 この時玄関で見掛けた、世話人らしい男の一人が、座・・・<森鴎外「百物語」青空文庫>
  24. ・・・ お豊さんは台所の棚から手桶をおろして、それを持ってそばの井戸端に出て、水を一釣瓶汲み込んで、それに桃の枝を投げ入れた。すべての動作がいかにもかいがいしい。使命を含んで来たご新造は、これならば弟のよめにしても早速役に立つだろうと思って、・・・<森鴎外「安井夫人」青空文庫>
  25. ・・・十八の正月に『倫敦塔』を読んで以来書きたかった手紙を、私は二十五の秋にやっと先生にあてて書いて、それを郵便箱に投げ入れてから芝居に行った。私の胸にはまだその手紙を書いた時の興奮が残っていた。その時に廊下で先生に紹介された。それまでかつて芝居・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>