なげ‐だし【投(げ)出し】例文一覧 30件

  1. ・・・ちょうど十日ばかり以前のある午後、僕等は海から上った体を熱い砂の上へ投げ出していた。そこへ彼も潮に濡れたなり、すたすた板子を引きずって来た。が、ふと彼の足もとに僕等の転がっているのを見ると、鮮かに歯を見せて一笑した。Mは彼の通り過ぎた後、ち・・・<芥川竜之介「海のほとり」青空文庫>
  2. ・・・ たね子はがっかりして本を投げ出し、大きい樅の鏡台の前へ髪を結いに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。…… その次の午後、夫はたね子の心配を見かね、わざわざ彼女を銀座の裏のあるレストオランへつれ・・・<芥川竜之介「たね子の憂鬱」青空文庫>
  3. ・・・椅子からすべり下りると敷石の上に身を投げ出して、思い存分泣いた。その小さい心臓は無上の歓喜のために破れようとした。思わず身をすり寄せて、素足のままのフランシスの爪先きに手を触れると、フランシスは静かに足を引きすざらせながら、いたわるように祝・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・八っちゃんは泣かないで僕にかかって来た。投げ出していた足を折りまげて尻を浮かして、両手をひっかく形にして、黙ったままでかかって来たから、僕はすきをねらってもう一度八っちゃんの団子鼻の所をひっかいてやった。そうしたら八っちゃんは暫く顔中を変ち・・・<有島武郎「碁石を呑んだ八っちゃん」青空文庫>
  5. ・・・ 瓜畑を見透しの縁――そこが座敷――に足を投出して、腹這いになった男が一人、黄色な団扇で、耳も頭もかくしながら、土地の赤新聞というのを、鼻の下に敷いていたのが、と見る間に、二ツ三ツ団扇ばかり動いたと思えば、くるりと仰向けになった胸が、臍・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  6. ・・・ 少くとも、あの、絵看板を畳込んで持っていて、汽車が隧道へ入った、真暗な煙の裡で、颯と化猫が女を噛む血だらけな緋の袴の、真赤な色を投出しそうに考えられた。 で、どこまで一所になるか、……稀有な、妙な事がはじまりそうで、危っかしい中に・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  7. ・・・自分はしようことなしに、よろしく頼むといってはいるものの、ただ見る眠ってるように、花のごとく美しく寝ているこの子の前で、葬式の話をするのは情けなくてたまらなかった。投げ出してるわが子の足に自分の手を添えその足をわが顔へひしと押し当てて横顔に・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  8. ・・・それをうッちゃるように投げ出して、床を出た。 楊枝をくわえて、下に行くと、家のおかみさんが流しもとで何か洗っていた手をやすめて、「先生、お早うござります」と、笑った。「つい寝坊をして」と、僕は平気で井戸へ行ったが、その朝に限って・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  9. ・・・、先生の序文で光彩を添えようというのじゃない、我輩の作は面白いから先生も小説が好きなら読んで見て、面白いと思ったら序文をお書きなさい、ツマラナイと思ったら竈の下へ燻べて下さいと、言終ると共に原稿一綴を投出してサッサと帰ってしまった。 学・・・<内田魯庵「露伴の出世咄」青空文庫>
  10. ・・・たとえその人があなたでなくても、だれであっても、弱いものを、ああして乱暴者がいじめていましたら、私は、良心から、命を投げ出して戦ったでしょう。」と、昔の若者はいいました。「みんなが、そのような、正しい考えを持っていましたら、どんなにこの・・・<小川未明「あほう鳥の鳴く日」青空文庫>
  11. ・・・といいながら、かばんの中の鉛筆を出して、ちょっと見せて、銭をそこへ投げ出しました。「自分のことは、自分でなさい。」と、お母さんが、おっしゃったけれど、次郎さんは、ききませんでした。「きよ、買っておくんだよ。」と、次郎さんは、念を押し・・・<小川未明「気にいらない鉛筆」青空文庫>
  12. ・・・ どうしても会わねばならないと思いつめた女の一途さに、情痴のにおいを嗅ぐのは、昨日の感覚であり、今日の世相の前にサジを投げ出してしまった新吉にその感覚がふと甦ったのは当然とはいうものの、しかし女の一途さにかぶさっている世相の暗い影から眼・・・<織田作之助「郷愁」青空文庫>
  13. ・・・そしてそれがだんだんはっきりして来るんですが、思いがけなくその男がそこに見出したものはベッドの上にほしいままな裸体を投げ出している男女だったのです。白いシーツのように見えていたのがそれで、静かに立ち騰っている煙は男がベッドで燻らしている葉巻・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  14. ・・・ 会堂に着くと、入口の所へ毛布を丸めて投げ出して、木村の後ろについて内に入ると、まず花やかな煌々としたランプの光が堂にみなぎっているのに気を取られました。これは一里の間、暗い山の手の道をたどって来たからでしょう。次にふわりとした暖かい空・・・<国木田独歩「あの時分」青空文庫>
  15. ・・・ある者は、銃口から煙が出ている銃を投げ出して、雪を掴んで食った。のどが乾いているのだ。「いつまでやったって切りがない。」「腹がへった。」「いいかげんで引き上げないかな。」「俺等がやめなきゃ、いつまでたったってやまるもんか。奴・・・<黒島伝治「橇」青空文庫>
  16. ・・・ 蒲団をかづいできた雑役が、それをのしんと入口に投げ出した。汗をふきながら、「こんな厚い、重たい蒲団って始めてだ。親ッてこんな不孝ものにも、矢張りこんなに厚い蒲団を送って寄こすものかなア。」 俺はだまっていた。 独りになって・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  17. ・・・ 私は二人の子供の前へ自分の足を投げ出して見せた。病気以来肉も落ち痩せ、ずっと以前には信州の山の上から上州下仁田まで日に二十里の道を歩いたこともある脛とは自分ながら思われなかった。「脛かじりと来たよ。」 次郎は弟のほうを見て笑っ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  18. ・・・足を洗おうとしていると、誰かしら障子の内でしくしくと啜り泣きをしている。障子を開けてみると章坊である。足を投げ出してしょんぼりしている。「どうしたんだ」と問えど、返事もしないでただ涙を払う。「お母さんはいないの?」と言えば顔を横に振・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  19. ・・・いいとしをして思慮分別も在りげな男が、内実は、中学生みたいな甘い咏歎にひたっていることもあるのだし、たかが女学生の生意気なのに惹かれて、家も地位も投げ出し、狂乱の姿態を示すことだってあるのです。それは、日本でも、西欧でも同じことであるのです・・・<太宰治「女の決闘」青空文庫>
  20. ・・・もしその困る人が一晩の間に急に可哀くなった別人なら、その別人にでも平気で投げ出してくれる。 ポルジイとドリスとはその頃無類の、好く似合った一対だと称せられていた。これは誰でもそう思う。どこへでも二人が並んで顔を出すと、人が皆囁き合う。男・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  21. ・・・ 楽々園で車を降りて入場しようとすると、向うから来る酔っぱらいの二人連れが何かしら不機嫌でいきなり出入口のターンパイクを引っこ抜いて投げ出して行った。園内の芝生は割合に気持のいいところである。芝生の真中で三、四人弁当をひろげて罎詰めの酒・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  22. ・・・あたかも明治の初年日本の人々が皆感激の高調に上って、解脱又解脱、狂気のごとく自己を擲ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、青天白日の下に抱擁握手抃舞する刹那は・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  23. ・・・公衆のために設けられたる料理屋の座敷に上っては、掛物と称する絵画と置物と称する彫刻品を置いた床の間に、泥だらけの外套を投げ出し、掃き清めたる小庭に巻煙草の吸殻を捨て、畳の上に焼け焦しをなし、火鉢の灰に啖を吐くなぞ、一挙一動いささかも居室、家・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  24. ・・・赤も屹度番小屋の蔭に脚を投げ出して居た。 或日太十は赤がけたたましく吠えたのを聞いて午睡から醒めた。犬は其あとは吠えなかった。太十はいつでも犬に就いて注意を懈らない。彼はすぐに番小屋を出た。蜀黍の垣根の側に手拭を頬かぶりにした容子の悪い・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  25. ・・・碧り積む水が肌に沁む寒き色の中に、この女の影を倒しまにひたす。投げ出したる足の、長き裳に隠くるる末まで明かに写る。水は元より動かぬ、女も動かねば影も動かぬ。只弓を擦る右の手が糸に沿うてゆるく揺く。頭を纏う、糸に貫いた真珠の飾りが、湛然たる水・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  26. ・・・ 私は足を出したまま、上体を仰向けに投げ出した。右の足は覗き窓のところに宛てて。 涙は一度堰を切ると、とても止るものじゃない。私はみっともないほど顔中が涙で濡れてしまった。 私が仰向けになるとすぐ、四五人の看守が来た。今度の看守・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  27. ・・・お日さまの黄金色の光は、うしろの桃の木の影法師を三千寸も遠くまで投げ出し、空はまっ青にひかりましたが、誰もカイロ団に仕事を頼みに来ませんでした。そこでとのさまがえるはみんなを集めて云いました。「さっぱり誰も仕事を頼みに来んな。どうもこう・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  28. ・・・あらゆるものを投げ出したものに貞操なんか何だ? そして石川という共働者との場合には逃げ出した彼女は、「もっともっと自由な女性を自分の中に自覚していた、たとえ肉体は腐ってもよかった。革命を裏切らず、卑怯者にならずに自分を押しすすめてゆく途中で・・・<宮本百合子「新しい一夫一婦」青空文庫>
  29. ・・・ここではガラスの中で人魚が湯だりながら新鮮な裸体を板の上へ投げ出していた。その横は果物屋だ。息子はペタルを踏み馴らした逞しい片足で果物を蹴っていた。果物屋の横には外科医があった。そこの白い窓では腫れ上った首が気惰るそうに成熟しているのが常だ・・・<横光利一「街の底」青空文庫>
  30. ・・・であって、その点、伝統的な思想と少しも変わらないのであるが、しかしその正直を説く態度のなかに、前代に見られないような率直さ、おのれを赤裸々に投げ出し得る強さが見られると思う。「上たるをば敬ひ、下たるをばあはれみ、あるをばあるとし、なきをばな・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>