なげ‐だ・す【投(げ)出す】例文一覧 25件

  1. ・・・僕はもう一度人目に見えない苦しみの中に落ちこむのを恐れ、銀貨を一枚投げ出すが早いか、そうそうこのカッフェを出ようとした。「もし、もし、二十銭頂きますが、……」 僕の投げ出したのは銅貨だった。 僕は屈辱を感じながら、ひとり往来を歩・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  2. ・・・ とぶるぶると胴震いをすると、翼を開いたように肩で掻縮めた腕組を衝と解いて、一度投出すごとくばたりと落した。その手で、挫ぐばかり確と膝頭を掴んで、呼吸が切れそうな咳を続けざまにしたが、決然としてすっくと立った。「ちょっと御挨拶を申上・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  3. ・・・――投出す生命に女の連を拵えようとするしみったれさはどうだ。出した祝儀に、利息を取るよりけちな男だ。君、可愛い女と一所に居る時は、蚤が一つ余計に女にたかっても、ああ、おれの身をかわりに吸え、可哀想だと思うが情だ。涼しい時に虫が鳴いても、かぜ・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  4. ・・・ 砂山が急に崩げて草の根で僅にそれを支え、其下が崕のようになって居る、其根方に座って両足を投げ出すと、背は後の砂山に靠れ、右の臂は傍らの小高いところに懸り、恰度ソハに倚ったようで、真に心持の佳い場処である。 自分は持て来た小説を懐か・・・<国木田独歩「運命論者」青空文庫>
  5. ・・・成寺ではないが、かねに恨が数ござる、思えばこのかね恨めしやの税で、こっちの高慢税の如きは、金と花火は飛出す時光る、花火のように美しい勢の好い税で、出す方も、ソレ五万両、やすいものだ、と欣にこにことして投出す、受取る方も、ハッ五万円、先ずこれ・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  6. ・・・読みさしの新聞を妹やお徳の前に投げ出すようにして言った。「こんな、罪もない子供までも殺す必要がどこにあるだろう――」 その時の三郎の調子には、子供とも思えないような力があった。 しかし、これほどの熱狂もいつのまにか三郎の内を通り・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  7. ・・・それを聞くと、末子はからだもろとも投げ出すような娘らしい声を出して、そこへ笑いころげた。 どうしてその婦人のことが、こんなに私たちの間にうわさに上ったかというに、十八年も前に亡くなった私の甥の一人の配偶で、私の子供たちから言えば母さんの・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  8. ・・・勘当と言って投げ出す銀煙管。「は、は。この子は、なかなか、おしゃまだね。」 知識人のプライドをいたわれ! 生き、死に、すべて、プライドの故、と断じ去りて、よし。職工を見よ、農家の夕食の様を覗け! 着々、陽気を取り戻した。ひとり、くら・・・<太宰治「HUMAN LOST」青空文庫>
  9. ・・・眠りのまださめぬ裏町へだれか一人自転車を乗り込んで来て、舗道の上になんだか棒のようなものを投げ出す。その音で長い一夜の沈黙が破られる。この音からつるはしのようなもので薪を割る男が呼び出される。軒下に眠るルンペンのいびきの音が伴奏を始める。家・・・<寺田寅彦「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」青空文庫>
  10. ・・・爆竹に火をつけて群集の中へ投げ出す。赤や青の火の玉を投げ上げる。遅れて来る人々もあちこちの横町からプロージット・ノイヤールと口々に叫ぶ。町の雪は半分泥のようになった上を爪立って走る女もあれば、五六人隊を組んで歌って通る若者もある。巡査もにこ・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  11. ・・・それで、志のある人はなんの遠慮もなく、ありとあらゆる新型式をくふうして淘汰のアレナに投げ出すほうがいいわけであろうと思われる。 こういうふうに考えて来ると、ある一人が創成した新型式をその創成者自身が唯一絶対のものであるかのごとく固執して・・・<寺田寅彦「俳句の型式とその進化」青空文庫>
  12. ・・・修学証書や辞令書のようなものの束ねたのを投げ出すと黴臭い塵が小さな渦を巻いて立ち昇った。 定規のようなものが一把ほどあるがそれがみんな曲りくねっている。升や秤の種類もあるが使えそうなものは一つもない。鏡が幾枚かあるがそれらに映る万象はみ・・・<寺田寅彦「厄年と etc.」青空文庫>
  13. ・・・「弟と通りを散歩しながら、いつになく、自分の感情の美しからざる事などを投げ出すように話した。おれは自分をあわれむというほかに何も考えない。こんな事を言った。そして弟の前に自分を踏みつけた時に少し心の安まるような心持ちがした。しかしこの絶・・・<寺田寅彦「亮の追憶」青空文庫>
  14. ・・・明治初年の日本は実にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民にな・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  15. ・・・にこの初々しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚剥ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄まじいもので、五ヶ条の誓文が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えたが平民になる、自由平等革新の・・・<徳冨蘆花「謀叛論(草稿)」青空文庫>
  16. ・・・すでに空間のできた今日であるから、嘘にもせよせっかく出来上ったものを使わないのも宝の持腐れであるから、都合により、ぴしゃぴしゃ投出すと約百余人ちゃんと、そこに行儀よく並んでおられて至極便利であります。投げると申すと失敬に当りますが、粟餅とは・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  17. ・・・そして悲しく、投げ出すように呟いた。「そんな昔のことなんか、どうだって好いや!」 それからまた眠りに落ち、公園のベンチの上でそのまま永久に死んでしまった。丁度昔、彼が玄武門で戦争したり、夢の中で賭博をしたりした、憐れな、見すぼらしい・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  18. ・・・朝は、黄金色のお日さまの光が、とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。殊にあらし・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  19. ・・・ そしてたちまち一本の灌木に足をつかまれて投げ出すように倒れました。 諒安はにが笑いをしながら起きあがりました。 いきなり険しい灌木の崖が目の前に出ました。 諒安はそのくろもじの枝にとりついてのぼりました。くろもじはかすかな・・・<宮沢賢治「マグノリアの木」青空文庫>
  20. ・・・○彼は運命の情熱的賭博においては賭物として遺憾なきまでに自らを投げ出すのである、なぜなら彼は赤と黒、死と生との流転の中にのみ酩酊の快さで自らの生存の全願望を感じるからである、○彼等には真直な方向や明確な目的が全然なく、すべての価値の・・・<宮本百合子「ツワイク「三人の巨匠」」青空文庫>
  21. ・・・ 彼はもう何だか、わざわざ切角こうやって生きている蚯蚓の命まで奪って僅かばかりの小魚を釣るにも及ばないような心持になって、草の上に針を投げ出すと、そのまま煙草をふかし始めた。 さっきまでは居る影さえしなかった鳶が、いつの間にかすぐ目・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  22. ・・・「それでも私は自分を投げ出すことができない! して見ると生は一つの力でなければならない。何物かでなければならぬ。私たちには永久というものがないから、人生は何物でもないという人がある。ああ! 愚かなることだ! 人生は私たち自らである。それは私・・・<宮本百合子「マリア・バシュキルツェフの日記」青空文庫>
  23. ・・・とか云いながら、左の手で右の袂を撮んで前に投げ出す。その手を吭の下に持って行って襟を直す。直すかと思うと、その手を下へ引くのだが、その引きようが面白い。手が下まで下りて来る途中で、左の乳房を押えるような運動をする。さて下りたかと思うと、その・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  24. ・・・三七日の夜半に観音は、子種のないことを宣したが、長者は観音に強請して、一切の財産を投げ出す代わりに子種を得るということになった。やがて北の方は美しい玉王を生んだが、その代わり長者の富はすべて消えて行った。長者は北の方とただ二人で赤貧の暮らし・・・<和辻哲郎「埋もれた日本」青空文庫>
  25. ・・・ありのままのおのれを卒直に投げ出すような気持ちになれるために、作者も主人公もあのような苦労を積み重ねなくてはならなかったのである。 しかし『新生』を書いたことによって藤村があの習癖を完全に脱却したというのではない。『新生』は藤村があ・・・<和辻哲郎「藤村の個性」青空文庫>