なさけ【情け】例文一覧 21件

  1. ・・・また間違いの起こらぬうちに早くというような事をちらと聞きました、なんという情けない事でしょう。省さんが一人の時分にはわたしに相手があり、わたしが一人になれば省さんに相手がある、今度ようやく二人がこうと思えば、すぐにわたしの縁談、わたしは身も・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  2. ・・・吉弥こそそんな――馬鹿馬鹿しい手段だが――熱のある情けにも感じ得ない無神経者――不実者――。 こういうことを考えながら、僕もまたその無神経者――不実者――を追って、里見亭の前へ来た。いつも不景気な家だが、相変らずひッそりしている。いそう・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  3. ・・・ せめて、自分の子供だけは、にぎやかな、明るい、美しい町で育てて大きくしたいという情けから、女の人魚は、子供を陸の上に産み落とそうとしたのであります。そうすれば、自分は、ふたたび我が子の顔を見ることはできぬかもしれないが、子供は人間の仲・・・<小川未明「赤いろうそくと人魚」青空文庫>
  4. ・・・少女は、どうかして、やさしい人の情けによって救われたいと思いました。 空は、時雨のきそうな模様でした。今朝がたから、街の中をさまよっていたのです。たまたまこの家の前にきて、思わず足を止めてしばらく聞きとれたのでした。 そのうちに、街・・・<小川未明「海からきた使い」青空文庫>
  5. ・・・そして戸ごとの軒下にたたずんで、哀れな声で情けを乞いました。けれど、この二人のものをあわれんで、ものを与えるものもなければ、また優しい言葉をかけてくれるものもありませんでした。「やかましい、あっちへゆけ。」と、どなるものもあれば、ま・・・<小川未明「黒い旗物語」青空文庫>
  6. ・・・その娘は、いたって性質の善良な、情けの深い子でありました。彼女は、死んだ姉さんのことを思わない日とてなかったのであります。なんでも希望を書けば、それを神さまが聞きとどけてくださるというものですから、娘は、その赤い紙に、「どうか姉さんにあ・・・<小川未明「夕焼け物語」青空文庫>
  7. ・・・好いて、ひょんなまちがいからお前に惚れたとか言うのなら、まだしも、れいの美人投票で、あんたを一等にしてやるからというお前の甘言に、うかうか乗ってしまったのだ……と、判った時は、おれは随分口惜しかった。情けなかった。 あとからは知らず、最・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  8. ・・・ 彼女は「妻を娶らば才たけて、みめ美わしく情けあり、友を選ばば書を読みて、六分の侠気、四分の熱……」という歌を歌い終った時、いきなり、「今の歌もう一度歌って下さい」 と叫んだ兵隊が、この人だと思いだしたのである。 そのことを・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  9. ・・・されど母上はなお貴嬢が情けの変わりゆきし順序をわれに問いたまいたれど、われいかでこの深き秘密を語りつくし得ん、ただ浅き知恵、弱き意志、順なるようにてかえって主我の念強きは女の性なるがごとしとのみ答えぬ。げにわれは思う、女もし恋の光をその顔に・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  10. ・・・その時、また一人の旅人来たりあわし、このさまを見て驚き、たすけ起こして薬などあたえしかば、先の旅客、この恩いずれの時かむくゆべき、身を終わるまで忘れじといいて情け深き人の手を執りぬ。後の旅人は微笑みて何事もいわざりき。家に帰らば世の人々にも・・・<国木田独歩「詩想」青空文庫>
  11. ・・・あらず、君を思うわが深き深き情けこそわが将来の真の力なれ。あらず。われを思う君が深き高き清き情けこそわが将来の血なれ。この血は地の底を流るる春の泉なり。草も木も命をここに養い、花もこれより開き、実を結ぶもその甘き汁はすなわちこの泉なり。こは・・・<国木田独歩「わかれ」青空文庫>
  12. ・・・ああ、いつか次郎坊が毀れた時もしやと取越苦労をしたっけが、その通りになったのは情け無いと、太郎坊を見るにつけては幾度となく人には見せぬ涙をこぼした。が、おれは男だ、おれは男だ、一婦人のために心を労していつまで泣こうかと思い返して、女々しい心・・・<幸田露伴「太郎坊」青空文庫>
  13. ・・・弁慶、情けの折檻である。私は意を決して、友人の頬をなるべく痛くないように、そうしてなるべく大きい音がするように、ぴしゃん、ぴしゃんと二つ殴って、「君、しっかりし給え。いつもの君は、こんな工合いでないじゃないか。今夜に限って、どうしたのだ・・・<太宰治「服装に就いて」青空文庫>
  14. ・・・そうして、その時の自分にはそれがひどく腹立たしくも情け無くも思われまたはなはだしく憂鬱に感ぜられた。 ことによると、実は自分自身の中にも、そういうふうに外国人に追従を売るようなさもしい情け無い弱点があるのを、平素は自分で無理にごまかし押・・・<寺田寅彦「試験管」青空文庫>
  15. ・・・昨日の雨を蓑着て剪りし人の情けを床に眺むる莟は一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から白金の糸を長く引いて一匹の蜘蛛が――すこぶる雅だ。「蓮の葉に蜘蛛下りけり香を焚く」と吟じながら女一度に数弁を攫んで香炉の裏になげ込む。・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  16. ・・・ すべてこんなふうにでき上がっている先生にいちばん大事なものは、人と人を結びつける愛と情けだけである。ことに先生は自分の教えてきた日本の学生がいちばん好きらしくみえる。私が十五日の晩に、先生の家を辞して帰ろうとした時、自分は今日本を去る・・・<夏目漱石「ケーベル先生の告別」青空文庫>
  17. ・・・思う人の唇に燃ゆる情けの息を吹く為には、吾肱をも折らねばならぬ、吾頚をも挫かねばならぬ、時としては吾血潮さえ容赦もなく流さねばならなかった。懸想されたるブレトンの女は懸想せるブレトンの男に向って云う、君が恋、叶えんとならば、残りなく円卓の勇・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  18. ・・・昔の馬鹿侍が酔狂に路傍の小民を手打にすると同様、情け知らずの人非人として世に擯斥せらる可きが故に、斯る極端の場合は之を除き、全体を概して言えば婚姻法の実際に就き女子に大なる不平はなかる可し。一 父母が女子の為めに配偶者を求むるは至極の便・・・<福沢諭吉「新女大学」青空文庫>
  19. ・・・万一形が崩れぬとした所で、浅草へ見世物に出されてお賽銭を貪る資本とせられては誠に情け無い次第である。 死後の自己に於ける客観的の観察はそれからそれといろいろ考えて見ても、どうもこれなら具合のいいという死にようもないので、なろう事なら星に・・・<正岡子規「死後」青空文庫>
  20. ・・・御沙汰には火の用心をせい、手出しをするなと言ってあるが、武士たるものがこの場合に懐手をして見ていられたものではない。情け情け、義は義である。おれにはせんようがあると考えた。そこで更闌けて抜き足をして、後ろ口から薄暗い庭へ出て、阿部家との境・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  21. ・・・われ老いたれど、人の情け忘れたりなど、ゆめな思いそ。向いの壁にかけたるわが母君の像を見よ。心もあの貌のように厳しく、われにあだし心おこさせたまわず、世のたのしみをば失いぬれど、幾百年の間いやしき血一滴まぜしことなき家の誉はすくいぬ』といつも・・・<森鴎外「文づかい」青空文庫>