な‐じみ【×馴染み】例文一覧 16件

  1. ・・・と云って何か男の方に、やむを得ない事情が起ったとしても、それも知らさずに別れるには、彼等二人の間柄は、余りに深い馴染みだった。では男の身の上に、不慮の大変でも襲って来たのか、――お蓮はこう想像するのが、恐しくもあれば望ましくもあった。………・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  2. ・・・武官に馴染みの薄い彼はこの人の名前を知らなかった。いや、名前ばかりではない。少尉級か中尉級かも知らなかった。ただ彼の知っているのは月々の給金を貰う時に、この人の手を経ると云うことだけだった。もう一人は全然知らなかった。二人は麦酒の代りをする・・・<芥川竜之介「保吉の手帳から」青空文庫>
  3. ・・・「ええ、お上さんのことはそんなによく知りませんが、でも寄席へなぞ金さんと一緒に来てなすって、あれがお光さんという清元の上手な娘だって、友達から聞いたことはありますんで……金さんも何でしょう、昔馴染みてえので、今でもお上さんが他人のように・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  4. ・・・文子はそのころもう宗右衛門町の芸者で、そんな稼業とそして踊りに浮かれた気分が、幼な馴染みの私に声を掛けさせたといえましょうが、しかし、私は嬉しかった。と同時に、十年前会った丁稚姿、そして今夜は夜店出し、あたりの賑いにくらべていかにもしょんぼ・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  5. ・・・ 戎橋の停留所から難波までの通りは、両側に闇商人が並び、屋号に馴染みのないバラックの飲食店が建ち、いつの間にか闇市場になっていた。雑閙に押されて標札屋の前まで来た時、私はあっと思った。標札屋の片店を借りていた筈の「波屋」はもうなくなって・・・<織田作之助「神経」青空文庫>
  6. ・・・二 早くから両親を失い家をなくしてしまった私は、親戚の家を居候して歩いたり下宿やアパートを転々と変えたりして来たためか、天涯孤独の身が放浪に馴染み易く、毎夜の大阪の盛り場歩きもふと放浪者じみていたので、自然心斎橋筋や道頓堀界・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  7. ・・・――それでも、たった一人、馴染みの安化粧品問屋の息子には何もかも本当のことを言った。 維康柳吉といい、女房もあり、ことし四つの子供もある三十一歳の男だったが、逢い初めて三月でもうそんな仲になり、評判立って、一本になった時の旦那をしくじっ・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  8. ・・・総領の新太郎は放蕩者で、家の職は手伝わず、十五の歳から遊び廻ったが、二十一の時兵隊にとられて二年後に帰って来ると、すぐ家の金を持ち出して、浅草の十二階下の矢場の女で古い馴染みだったのと横浜へ逃げ、世帯を持った翌月にはもう実家へ無心に来た。父・・・<織田作之助「妖婦」青空文庫>
  9. ・・・五十円を故郷の姉から、これが最後だと言って、やっと送って戴き、私は学生鞄に着更の浴衣やらシャツやらを詰め込み、それを持ってふらと、下宿を立ち出で、そのまま汽車に乗りこめばよかったものを、方角を間違え、馴染みのおでんやにとびこみました。其処に・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  10. ・・・「お馴染みですから」「誰だ。誰が来たんだ」と、西宮は小万の顔を真面目に見つめた。「おほほ――、妬けるんだよ」と、吉里は笑い出した。「ははははは。どうだい、僕の薬鑵から蒸気が発ッてやアしないか」「ああ、発ッてますよ。口惜し・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  11. ・・・ Aは、私一人に深く結びついては居ても他には父を除いて余り馴染みない周囲に対して、そう自由には振舞えない。彼の性格が、そんな呑気さを許さない。従って、どうしても、自分等の場所と定った部屋に籠って、私を傍に持ちたいのである。 然し、長・・・<宮本百合子「小さき家の生活」青空文庫>
  12. ・・・そう思い、そしてゴーリキイの馴染み深い、重い髭のある顔と、広い肩つきとを思い浮べるのであった。 一九三二年以後のゴーリキイ、芸術に於ける社会主義リアリズムの問題がとり上げられるようになって後のゴーリキイは、世界の文化にとって独特の影響を・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  13. ・・・ たとえ娘の室は立派に独立していたとして、余程鈍感な娘さんならともかく、さもなければ、やはり、友達のものではない周囲の支配的な雰囲気に対して、居馴染みかねるものがある。お嬢さんをきらい娘という呼びかたをこのむ心理はここにもお互に作用して・・・<宮本百合子「若い娘の倫理」青空文庫>
  14. ・・・五年の間に非常なテムポですすめられたソヴェト同盟の社会的建設の成果を、文学的・文化的前進の姿をこの馴染みふかい大衆からの作家であるゴーリキイは何とみるであろうか。 ゴーリキイが帰ってくるということがきまった春、モスクワ、レーニングラード・・・<宮本百合子「私の会ったゴーリキイ」青空文庫>
  15. ・・・ 目の前にあるあらゆる顔、あらゆる家具は、彼女にとって皆馴染み深い、懐しいものばかりである。 丁度今頃、矢張り斯うやって同じディブァンの上に坐り乍ら、何度、斯様な賑やかな睦しい同胞共の様子を眺めて来ただろう。 けれども、今自分の・・・<宮本百合子「われらの家」青空文庫>
  16. ・・・光尚も思慮ある大名ではあったが、まだ物馴れぬときのことで、弥一右衛門や嫡子権兵衛と懇意でないために、思いやりがなく、自分の手元に使って馴染みのある市太夫がために加増になるというところに目をつけて、外記の言を用いたのである。 十八人の侍が・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>