なっ‐とく【納得】例文一覧 30件

  1. ・・・喜三郎はとうとう堪え兼ねて、一応医者の診脈を請うべく、ようやく病人を納得させた。そこで取りあえず旅籠の主人に、かかりつけの医者を迎えて貰った。主人はすぐに人を走らせて、近くに技を売っている、松木蘭袋と云う医者を呼びにやった。 蘭袋は向井・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・ ともっともな事を親切に言ってくれたので、燕もとうとう納得して残りおしさはやまやまですけれども見かえり見かえり南を向いて心細いひとり旅をする事になりました。 秋の空は高く晴れて西からふく風がひやひやと膚身にこたえます。今日はある百姓・・・<有島武郎「燕と王子」青空文庫>
  3. ・・・た生活をしていることを発見した者は、たといどれほど自分が拠ってもって生活した生活の利点に沐浴しているとしても、新しい文化の建立に対する指導者、教育者をもってみずから任ずべきではなく、自分の思想的立場を納得して、謹んでその立場にあることをもっ・・・<有島武郎「広津氏に答う」青空文庫>
  4. ・・・ 勿論、別人とは納得しながら、うっかり口に出そうな挨拶を、唇で噛留めて、心着くと、いつの間にか、足もやや近づいて、帽子に手を掛けていた極の悪さに、背を向けて立直ると、雲低く、下谷、神田の屋根一面、雨も霞も漲って濁った裡に、神田明神の森が・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  5. ・・・ 紫玉は、はじめて納得したらしく、瞳をそらす時、髷に手を遣って、釵に指を触れた。――指を触れた釵は鸚鵡である。「これが呼んだのかしら。」 と微酔の目元を花やかに莞爾すると、「あら、お嬢様。」「可厭ですよ。」 と仰山に・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  6. ・・・「それはね、ですが、納得ずくです。すっかり身支度をして、客は二階から下りて来て――長火鉢の前へ起きて出た、うちの母の前へ、きちんと膝に手をついて、―― 分外なお金子に添えて、立派な名刺を――これは極秘に、と云ってお出しなすったそ・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  7. ・・・喜兵衛は納得して幸手へ行き、若後家の入夫となって先夫の子を守育て、傾き掛った身代を首尾よく盛返した。その家は今でも連綿として栄え、初期の議会に埼玉から多額納税者として貴族院議員に撰出された野口氏で、喜兵衛の位牌は今でもこの野口家に祀られてい・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  8. ・・・     *    *    * 飛び出して、その足ですぐ霊岸島の下田屋へ駈けつけたお光は、その晩否応なしに金之助を納得させて、お仙と仮盃だけでも急に揚げさせることにした。・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  9. ・・・旧紙幣の通用するうちに、式をあげた方がいいだろうと説き伏せると、彼も漸く納得して、二月の末日、やっと式ということになった。 仲人の私は花嫁側と一緒に式場で待っていたが、約束の時間が二時間たっても、彼は顔を見せない。 私はしびれを切ら・・・<織田作之助「鬼」青空文庫>
  10. ・・・もみんな虚構だと、くどくど説明したが、その大学教授は納得しないのである。私は業を煮やして、あの小説は嘘を書いただけでなく、どこまで小説の中で嘘がつけるかという、嘘の可能性を試してみた小説だ、嘘は小説の本能なのだ、人間には性慾食慾その他の本能・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  11. ・・・ 斯う云うと、長女は初めて納得したようにうなずいた。 で三人はまた、彼等の住んでいた街の方へと引返すべく、十一時近くなって、電車に乗ったのであった。その辺の附近の安宿に行くほか、何処と云って指して行く知合の家もないのであった。子供等・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  12. ・・・私が二人ともそれぞれ忙がしい体だからと言いますと、彼も納得して、それでは弟達を呼んで呉れと言います。其処で私が、何故そんな事を言うのか、斯うしてお母さんと二人で居ればよいではないか、と言っても彼は「いいえ、僕は淋しいのです。それでは氷山さん・・・<梶井久「臨終まで」青空文庫>
  13. ・・・何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。 馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の根は貪婪な蛸のよう・・・<梶井基次郎「桜の樹の下には」青空文庫>
  14. ・・・彼は納得がいったような気がした。と同時に切り通しの上は××の屋敷だったと思った。 小時歩いていると今度は田舎道だった。邸宅などの気配はなかった。やはり切り崩された赤土のなかからにょきにょき女の腿が生えていた。「○○の木などあるはずが・・・<梶井基次郎「雪後」青空文庫>
  15. ・・・ そこで独楽の方は古いので納得した。しかし、母と二人で緒を買いに行くと、藤二は、店頭の木箱の中に入っている赤や青で彩った新しい独楽を欲しそうにいじくった。 雑貨店の内儀に緒を見せて貰いながら、母は、「藤よ、そんなに店の物をいらい・・・<黒島伝治「二銭銅貨」青空文庫>
  16.  誰よりも一番親孝行で、一番おとなしくて、何時でも学校のよく出来た健吉がこの世の中で一番恐ろしいことをやったという――だが、どうしても母親には納得がいかなかった。見廻りの途中、時々寄っては話し込んで行く赫ら顔の人の好い駐在所・・・<小林多喜二「争われない事実」青空文庫>
  17. ・・・ことに困るのは、知識で納得の行く自己道徳というものが、実はどうしてもまだ崇高荘厳というような仰ぎ見られる感情を私の心に催起しない。陳い習慣の抜殻かも知れないが、普通道徳を盲目的に追うている間は、時としてこれに似たような感じの伴うこともあった・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  18. ・・・結果は同じ様なことになるのだが、フランス式のほうは、すべての人に納得の行くように、いかにも合理的な立場である。けれども、いまの解析の本すべてが、不思議に、言い合せたように、平気でドイツ式一方である。伝統というものは、何か宗教心をさえ起させる・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  19. ・・・私も、既に四十ちかくに成りますが、未だ一つも自身に納得の行くような、安心の作品を書いて居りませんし、また私には学問もないし、それに、謂わば口重く舌重い、無器用な田舎者でありますから、濶達な表現の才能に恵まれている筈もございません。それに加え・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  20. ・・・がおそらく毎日ここで行なわれてそして見物人の幾割かはそれで納得するものだとすると、そういう事自身がかなり興味のある事だと思われた。 知識の案内者と呼ばれ、権威と呼ばれる人にはさすがにこんな人は無いはずである。それでは被案内者が承知しない・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  21. ・・・人間はそれぞれの明白な心の目標があって、それに向かわんために充分納得して寒苦と戦っているが、犬はなんのためだか、ちっともわからないで、ただたよる主人の向かう所なら、さもうれしげに死の雪原に突進するのである、犬でもやはり苦しくなくはないであろ・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  22. ・・・当初の計画通りを実行してそうして旨く見込に違わない成績をふり返って見て、なるほどと始めて合点して納得の行ったような顔をするのは、いくら綺麗に形だけが纏っていても実際の経験がそれを証拠立ててくれない以上は大いに心細いのであります。つまり外形と・・・<夏目漱石「中味と形式」青空文庫>
  23. ・・・それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やはり上代から漕ぎ出して、順次に根気よく人文発展の流を下って来ないと、この突如たる勃興の真髄が納得出来ないという意味から、次に上代以後足利氏に至るまでを第一巻として発表されたものと思われる。そうは・・・<夏目漱石「マードック先生の『日本歴史』」青空文庫>
  24. ・・・―― こう思って彼は自分自身を納得させて、再び眠りに入ろうと努めた。 深谷はすぐに帰ってきて、電燈を消した。そしてベッドに入ると、間もなくかすかな鼾さえ立て始めた。 安岡は自分の頭が変になっていることを感じて、眼をつむって、息を・・・<葉山嘉樹「死屍を食う男」青空文庫>
  25. ・・・剰え、最初は自分の名では出版さえ出来ずに、坪内さんの名を借りて、漸と本屋を納得させるような有様であったから、是れ取りも直さず、利のために坪内さんをして心にもない不正な事を為せるんだ。即ち私が利用するも同然である。のみならず、読者に対してはど・・・<二葉亭四迷「予が半生の懺悔」青空文庫>
  26. ・・・そして冬撰鉱へ来ていたこの村の娘のおみちと出来てからとうとうその一本調子で親たちを納得させておみちを貰ってしまった。親たちは鉱山から少し離れてはいたけれどもじぶんの栗の畑もわずかの山林もくっついているいまのところに小屋をたててやった。そして・・・<宮沢賢治「十六日」青空文庫>
  27. ・・・そして、自分たちのただ一度しかない人生を、自分として納得出来るしかたで充実させて行かなければならないと思います。 智慧のよろこびも、肉体の歓喜も奪われた日々の裡で、若さゆえに、一筋の情熱を守って自身の成長を念願してきた女性の心情こそ、明・・・<宮本百合子「明日を創る」青空文庫>
  28. ・・・政治一般の方針を示さず、検討せず、どうして公務員法案だけは通してよい法案であることが納得されるだろう。政策のはっきりしない政党を支持しようがない、という現実がアメリカの大統領選挙においても示された。いま政権をもっているということが将来を決定・・・<宮本百合子「新しい潮」青空文庫>
  29. ・・・「ふん、どうしてお父うさんを納得させようと云うのだ。」「僕の思想が危険思想でもなんでもないと云うことを言って聞せさえすれば好いのだが。」「どう言って聞せるね。僕がお父うさんだと思って、そこで一つ言って見給え。」「困るなあ」と・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  30. ・・・佐野さんは親が坊さんにすると云って、例の殺生石の伝説で名高い、源翁禅師を開基としている安穏寺に預けて置くと、お蝶が見初めて、いろいろにして近附いて、最初は容易に聴かなかったのを納得させた。婿を嫌ったのは、佐野さんがあるからの事であった。安穏・・・<森鴎外「心中」青空文庫>