なつ‐ふく【夏服】例文一覧 16件

  1. ・・・車の上には慎太郎が、高等学校の夏服に白い筋の制帽をかぶったまま、膝に挟んだトランクを骨太な両手に抑えていた。「やあ。」 兄は眉一つ動かさずに、洋一の顔を見下した。「お母さんはどうした?」 洋一は兄を見上ながら、体中の血が生き・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・藍色の夏服を着た、敏捷そうな奴である、ボイは、黙って、脇にかかえていた新聞の一束を、テーブルの上へのせる。そうして、直また、扉の向うへ消えてしまう。 その後で角顋は、朝日の灰を落しながら、新聞の一枚をとりあげた。楔形文字のような、妙な字・・・<芥川竜之介「MENSURA ZOILI」青空文庫>
  3. ・・・上を見るとうす暗い中に夏服の後ろ姿がよろけるように右左へゆれながら上って行く。自分もつえを持ってあとについて上りはじめた。上りはじめて少し驚いた。路といってはもとよりなんにもない。魚河岸へ鮪がついたように雑然ところがった石の上を、ひょいひょ・・・<芥川竜之介「槍が岳に登った記」青空文庫>
  4. ・・・ いやが上の恐怖と驚駭は、わずかに四五間離れた処に、鳥の旦那が真白なヘルメット帽、警官の白い夏服で、腹這になっている。「お助けだ――旦那、薬はねえか。」と自分が救われたそうに手を合せた。が、鳥旦那は――鷺が若い女になる――そんな魔法は、・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  5. ・・・師走だというのに夏服で、ズボンの股が大きく破れて猿股が見え、首に汚れたタオルを巻いているのは、寒さをしのぐためであろう。「はいれ。寒いだろう」「へえ。おおけに、済んまへん。おおけに」 ペコペコ頭を下げながら、飛び込むようにはいり・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  6. ・・・、江見水蔭の「夏服士官」「雪戦」「病死兵」、村井弦斎の「旭日桜」等を取って見るのに、恐ろしくそらぞらしい空想によってこしらえあげられて、読むに堪えない。従軍紀行文的なもの及び、戦地から帰った者の話を聞いて書いたものは、まだやゝましだとしなけ・・・<黒島伝治「明治の戦争文学」青空文庫>
  7. ・・・ 旅に反対する理由もありませんでしたので、私は夫のよそゆきの麻の夏服を押入から取り出そうとして、あちこち捜しましたが、見当りませんでした。 私は青白くなった気持で、「無いわ。どうしたのでしょう。空巣にはいられたのかしら。」「・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  8. ・・・ 鶴は洗面所で嗽いして、顔も洗わず部屋へ帰って押入れをあけ、自分の行李の中から、夏服、シャツ、銘仙の袷、兵古帯、毛布、運動靴、スルメ三把、銀笛、アルバム、売却できそうな品物を片端から取り出して、リュックにつめ、机上の目覚時計までジャンパ・・・<太宰治「犯人」青空文庫>
  9. ・・・藁帽に麻の夏服を着ているのはいいが、鼻根から黒い布切れをだらりとたらして鼻から口のまわりをすっかり隠している。近づくと帽子を脱いで、その黒い鼻のヴェールを取りはずしはしたが、いっこう見覚えのない顔である。「私はNの兄ですが、いつかお尋ねした・・・<寺田寅彦「三斜晶系」青空文庫>
  10. ・・・あまり感心したために機械油でぬらぬらする階段ですべってころんで白い夏服を台無しにしたことであった。 現代のジャーナリズムは結局やはり近代における印刷術ならびに交通機関の異常な発達の結果として生まれた特異な現象である。同時に反応的にまたこ・・・<寺田寅彦「ジャーナリズム雑感」青空文庫>
  11. ・・・を動かすのではないかと思う。そしてそれは死生の境に出入する大患と、なんらかの点において非凡な人間との偶然な結合によってのみ始めて生じうる文辞の宝玉であるからであろう。 岩波文庫の「仰臥漫録」を夏服のかくしに入れてある。電車の中でも時々読・・・<寺田寅彦「備忘録」青空文庫>
  12. ・・・大内は夏服の上に黄色な実習服を着て結びを腰にさげてずんずん藪をこいで行く。よくこいで行く。急にけわしい段がある。木につかまれ木は光る。雑木は二本雑木が光る。「じゃ木さば保ご附くこなしだじゃぃ。」誰かがうしろで叫んでいる。どういう意味・・・<宮沢賢治「台川」青空文庫>
  13. ・・・ 格子の内に、白い夏服を着、丸顔で髪の黒い一人の外国人が入って来る。 そして、貸家が欲しいと云う。そこに居合わせた、自分等を入れて四五人の人間は、一時に好意ある好奇心を感じた。 指ケ谷辺で、二階のある家、なおよろしい。あまり高い・・・<宮本百合子「思い出すこと」青空文庫>
  14. ・・・私達の通知状を世話やいてくれたし、そんなこんなでまわしたのですが、黙ってそんなことをしていけなかったかしら。夏服も同じ人に使せました。冬服は私のいない時にだまされて誰かにとられてしまいました。四谷に国男さん達が住んでいた頃。こういう風に書い・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  15. ・・・その一人一人の後から、「ありがとうございます」と云うのである。その夏服の肩や襟のあたりはいい加減やけている。きょう一日のスキャッブ代金四円をこの男は夜になってどんな感情で数えるであろうかと思った。 昭和七年の争議では強制調停によ・・・<宮本百合子「電車の見えない電車通り」青空文庫>
  16. ・・・爽やかな白いテーブルクロスの間を白い夏服の将官たちが入口から流れ込んで来た。梶は、敗戦の将たちの灯火を受けた胸の流れが、漣のような忙しい白さで着席していく姿と、自分の横の芝生にいま寝そべって、半身を捻じ曲げたまま灯の中をさし覗いている栖方を・・・<横光利一「微笑」青空文庫>