な‐で例文一覧 30件

  1. ・・・久米は、曲禄の足をなでながら、うんとかなんとかいいかげんな返事をしていた。 斎場を出て、入口の休所へかえって来ると、もう森田さん、鈴木さん、安倍さん、などが、かんかん火を起した炉のまわりに集って、新聞を読んだり、駄弁をふるったりしていた・・・<芥川竜之介「葬儀記」青空文庫>
  2. ・・・ それは油気のない髪をひっつめの銀杏返しに結って、横なでの痕のある皸だらけの両頬を気持の悪い程赤く火照らせた、如何にも田舎者らしい娘だった。しかも垢じみた萌黄色の毛糸の襟巻がだらりと垂れ下った膝の上には、大きな風呂敷包みがあった。その又・・・<芥川竜之介「蜜柑」青空文庫>
  3. ・・・ 甲板士官はこう答えたなり、今度は顋をなでて歩いていた。海戦の前夜にK中尉に「昔、木村重成は……」などと言い、特に叮嚀に剃っていた顋を。…… この下士は罰をすました後、いつか行方不明になってしまった。が、投身することは勿論当直のある・・・<芥川竜之介「三つの窓」青空文庫>
  4. ・・・けれどもあんまりかわいそうなので、こわごわ遠くから頭をなでてやったら、鼻の先をふるわしながら、目をつぶって頭をもち上げた。それを見たらぼくはきたないのも気味の悪いのもわすれてしまって、いきなりそのそばに行って頭をかかえるようにしてかわいがっ・・・<有島武郎「火事とポチ」青空文庫>
  5. ・・・(翼ッて聞いた時、莞爾笑って両方から左右の手でおうように私の天窓を撫でて行った、それは一様に緋羅紗のずぼんを穿いた二人の騎兵で――聞いた時――莞爾笑って、両方から左右の手で、おうように私の天窓をなでて、そして手を引あって黙って坂をのぼっ・・・<泉鏡花「化鳥」青空文庫>
  6. ・・・果は怨めしくもなるに、心激して、「どうするんです、ミリヤアド、もうそんなでいてどうするの。」 声高にいいしを傍より目もて叱られて、急に、「何ともありませんよ、何、もう、いまによくなります。」 いいなおしたる接穂なさ。面を背け・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  7. ・・・ 横なでをしたように、妹の子は口も頬も――熟柿と見えて、だらりと赤い。姉は大きなのを握っていた。 涎も、洟も見える処で、「その柿、おくれな、小母さんに。」 と唐突にいった。 昔は、川柳に、熊坂の脛のあたりで、みいん、みい・・・<泉鏡花「若菜のうち」青空文庫>
  8. ・・・おとよさアなで今日はうたわねいか」 だれもうたわない。サッサッと鎌の切れる音ばかり耳に立ってあまり話するものもない。清さんはお袋と小声でぺちゃくちゃ話している。満蔵はあくびをしながら、「みんな色気があるからだめだ。省作さんがいれば、・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  9. ・・・ くりくりと毛を刈ったつむり、つやつやと肥ったその手や足や、なでてさすって、はてはねぶりまわしても飽きたらぬ悲しい奈々子の姿は、それきり父の目を離れてしまった。おんもといい、あっこといい、おっちゃんといったその悲しい声は永遠に父の耳を離・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  10. ・・・「そんなら省さん、なで深田へ養子にいった」 お千代はこう言ってハヽヽヽヽと笑う。「それもおとよさんが行けって言ったからさ」「もうやめだやめだ、こんなこといってると、鴨に笑われる。おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へ詣ってきまし・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  11. ・・・ 二郎は、そのおじいさんを見ていますと、おじいさんは、二郎のわきへ近づいて、ゆき過ぎようとして二郎の頭をなでてくれました。「いい子だな、独りでさびしいだろう。」と、おじいさんはいいました。 二郎は黙って、おじいさんの顔を見ていま・・・<小川未明「赤い船のお客」青空文庫>
  12. ・・・といって、おじいさんは、松蔵の頭をなでてくれることもありました。 夏も、もはや逝くころでありました。おじいさんは、ある日のこと、松蔵に向かって、「坊や、おじいさんは、もう帰らなければならない。こんど、いつまた坊にあわれるかわからない・・・<小川未明「海のかなた」青空文庫>
  13. ・・・ ごもんの まえに くると、ぞうは こちらを むいて、ながい はなで たらいの 水を すうと のみほしました。「あら、お月さまを のんで しまったわ。」と、よし子さんが いいました。「おいたを しては いけません。」と、・・・<小川未明「お月さまと ぞう」青空文庫>
  14. ・・・ときどきそれでも私の頬を軽くなでてゆく空気が感じられた。はじめ私はそれを発熱のためか、それとも極端な寒さのなかで起る身体の変調かと思っていた。しかし歩いてゆくうちに、それは昼間の日のほとぼりがまだ斑らに道に残っているためであるらしいことがわ・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  15. ・・・』『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父さん歳よりも早く禿げし頭をなでながら内に入りぬ。『わたしも帰って戦争の夢でも見るかな』と、罪のない若旦那の起ちかかるを止めるように『戦争はまだ永・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  16. ・・・親分は犬の背をなでながら、何か大声で話していた。「集まったか?」大将がきいた。「全部だなあ?」そう棒頭が皆に言うと、「全部です」と、大将に答えた。「よオし、初めるぞ。さあ皆んな見てろ、どんなことになるか!」 親分は浴衣の・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  17. ・・・ 魚たちは、思わぬ御馳走をもらったので、大よろこびで、みんなで寄って来て、おいしい/\と言って食べました。鯨もすっかり出て来て、樽を一つずつひろって、それをまりにして、大よろこびで遊びました。 船は、それから、どん/\どん/\どこま・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  18. ・・・肉屋は夕方になると頭をなでて、きのうのとおりに、大きな肉のきれをやりました。ところが犬は、やはりそれを食べないで、口にくわえたまま、またどこかへいってしまいました。そしてあくる朝はまたちゃんと出て来て、店の番をしました。 とうとう一週間・・・<鈴木三重吉「やどなし犬」青空文庫>
  19. ・・・むすめはその小鳥らをなでてやりたがりました。「いえ、鳥の巣にはふれるものではありません」 とおかあさんは言いました。 こうして二人が海岸の石原の上に立っていると、一艘の舟がすぐ足もとに来て着きましたが、中には一人も乗り手がありま・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  20. ・・・けれども、兄妹みんなで、即興の詩など競作する場合には、いつでも一ばんである。出来ている。俗物だけに、謂わば情熱の客観的把握が、はっきりしている。自身その気で精進すれば、あるいは二流の作家くらいには、なれるかも知れない。この家の、足のわるい十・・・<太宰治「ろまん燈籠」青空文庫>
  21. ・・・また女の捨てばちな気分を表象するようにピアノの鍵盤をひとなでにかき鳴らしたあとでポツンと一つ中央のCを押すのや、兵士が自分で投げた団扇を拾い上げようとしてそのブルータルな片手で鍵盤をガチャンと鳴らすのや、そういう音的効果もあまりわざとらしく・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  22. ・・・それが陽気で眩目的であるだけに効果は大概皮相的で、人の心のほんの上面をなでるだけである。そしてなでられたくない人は、自由にそれを避ける事ができる。人の門内や玄関まで押しかけて来ない。その点でも市会議員の選挙運動などよりはよほど穏やかでいいも・・・<寺田寅彦「神田を散歩して」青空文庫>
  23. ・・・ 頭をなでてくれたり、私が計算してわたす売上金のうちから、大きな五厘銅貨を一枚にぎらしてくれることもあった。 五厘銅貨など諸君は知らないかも知れぬが、いまの一銭銅貨よりよっぽど大きかったし、五厘あると学校で書き方につかう半紙が十枚も・・・<徳永直「こんにゃく売り」青空文庫>
  24. ・・・ みんなは器械を草の上に置いて、ベゴ石をまわってさすったりなでたりしました。「どこの標本でも、この帯の完全なのはないよ。どうだい。空でぐるぐるやった時の工合が、実によくわかるじゃないか。すてき、すてき。今日すぐ持って行こう。」 ・・・<宮沢賢治「気のいい火山弾」青空文庫>
  25. ・・・今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ。」「そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」「ああ行っておいで。川へははいらないでね。」「ああぼく岸から見るだ・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  26. ・・・彼は、ハンケチを出して額をなでまわした。ハンケチには香水がついている。グラフィーラは後毛をたらしたまま、歪んだ笑顔で、「香水をつけ出したんだね。」と云った。「とてもいい香水だ……何を拭いてるのさ?」 食いつくようにドミトリー・・・<宮本百合子「「インガ」」青空文庫>
  27. ・・・ まぶたは優しい母親の指で静かになで下げられ口は長年仕えた女の手で差えられて居る。多くの女達は冷たい幼児の手を取って自分の頬にすりつけながら声をあげて泣いて居る。啜り泣きの声と吐息の満ちた中に私は只化石した様に立って居る。「何か・・・<宮本百合子「悲しめる心」青空文庫>
  28. ・・・今はかれも胸をなでた。しかるにまだ何ゆえともわかりかねながらどこかにかれを安からず思わしむるものがある。人々はかれの語るを聴いていてもすこぶるまじめでない。彼らはかれを信じたらしく見えない。かれはその背後で彼らがこそこそ話をしているらしく感・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  29. ・・・ 佐渡の二郎は牽つなでを引き出して、母親をくるくる巻きにして転がした。そして北へ北へと漕いで行った。     ――――――――――――「お母あさまお母あさま」と呼び続けている姉と弟とを載せて、宮崎の三郎が舟は岸に沿うて南・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>
  30. ・・・この二階に集まった大勢の人は、一体に詞少なで、それがたまたま何か言うと、皆しらじらしい。同一の人が同一の場所へ請待した客でありながら、乗合馬車や渡船の中で落ち合った人と同じで、一人一人の間になんの共通点もない。ここかしこで互に何か言うのは、・・・<森鴎外「百物語」青空文庫>