なに‐しろ【何しろ】例文一覧 30件

  1. ・・・「私の占いは五十年来、一度も外れたことはないのですよ。何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間の戸口へ行って、「恵蓮。恵蓮」と呼び立てました。 その声に応じて出・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・「引き上げの朝、彼奴に遇った時には、唾を吐きかけても飽き足らぬと思いました。何しろのめのめと我々の前へ面をさらした上に、御本望を遂げられ、大慶の至りなどと云うのですからな。」「高田も高田じゃが、小山田庄左衛門などもしようのないたわけ・・・<芥川竜之介「或日の大石内蔵助」青空文庫>
  3. ・・・腰から上をのめるように前に出して、両手をまたその前に突出して泳ぐような恰好をしながら歩こうとしたのですが、何しろひきがひどいので、足を上げることも前にやることも思うようには出来ません。私たちはまるで夢の中で怖い奴に追いかけられている時のよう・・・<有島武郎「溺れかけた兄妹」青空文庫>
  4. ・・・そして事務所では金の借貸は一切しないから縁者になる川森からでも借りるがいいし、今夜は何しろ其所に行って泊めてもらえと注意した。仁右衛門はもう向腹を立ててしまっていた。黙りこくって出て行こうとすると、そこに居合わせた男が一緒に行ってやるから待・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・ 何しろ、家の焼けた年でしょう。あの焼あとというものは、どういうわけだか、恐しく蚊が酷い。まだその騒ぎの無い内、当地で、本郷のね、春木町の裏長屋を借りて、夥間と自炊をしたことがありましたっけが、その時も前の年火事があったといって、何年に・・・<泉鏡花「女客」青空文庫>
  6. ・・・「己は、魚の腸から抜出した怨霊ではねえかと思う。」 と掴みかけた大魚腮から、わが声に驚いたように手を退けて言った。「何しろ、水ものには違えねえだ。野山の狐鼬なら、面が白いか、黄色ずら。青蛙のような色で、疣々が立って、はあ、嘴が尖・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  7. ・・・母はもう半気違いだ。何しろここでは母の心を静めるのが第一とは思ったけれど、慰めようがない。僕だっていっそ気違いになってしまったらと思った位だから、母を慰めるほどの気力はない。そうこうしている内にようやく母も少し落着いてきて、また話し出した。・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  8. ・・・きの茶畑を拓き、西洋型の船に擬えた大きな小屋を建て、舷側の明り窓から西洋の景色や戦争の油画を覗かせるという趣向の見世物を拵え、那破烈翁や羅馬法王の油画肖像を看板として西洋覗眼鏡という名で人気を煽った。何しろ明治二、三年頃、江漢系統の洋画家で・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  9. ・・・ 何しろ社交上の礼儀も何も弁えない駈出しの書生ッぽで、ドンナ名士でも突然訪問して面会出来るものと思い、また訪問者には面会するのが当然で、謝絶するナゾとは以ての外の無礼と考えていたから、何の用かと訊かれてムッとした。「何の用事もありま・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  10. ・・・「品物といって――何しろ着のみ着のままで……」「さっきお前さんが持って上った日和下駄、あれは桐だね。鼻緒は皮か何だね。」「皮でしょう。」「お見せ。」 寝床の裾の方の壁ぎわに置いてあったのを出して見せると、上さんはその鼻緒・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  11. ・・・「おっと、零れる零れる。何しろこうしてお光さんのお酌で飲むのも三年振りだからな。あれはいつだったっけ、何でも俺が船へ乗り込む二三日前だった、お前のところへ暇乞いに行ったら、お前の父が恐ろしく景気つけてくれて、そら、白痘痕のある何とかいう・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  12. ・・・早如何することも出来ない、車屋と思ったが、あたりには、人の影もない、橋の上も一尺ばかり水が出て、濁水がゴーゴーという音を立てて、隅田川の方へ流込んでいる、致方がないので、衣服の裾を、思うさま絡上げて、何しろこの急流故、流されては一大事と、犬・・・<小山内薫「今戸狐」青空文庫>
  13. ・・・ところが或日若夫婦二人揃で、さる料理店へ飯を食いに行くと、またそこの婢女が座蒲団を三人分持って来たので、おかしいとは思ったが、何しろ女房の手前もあることだから、そこはその儘冗談にまぎらして帰って来たが、その晩は少し遅くなったので、淋しい横町・・・<小山内薫「因果」青空文庫>
  14. ・・・私はさっそくやってみましたが、何しろはじめは夢中になるくせにすぐへたばってしまう性質ですから、力を平均に使うということを知りません。だから最初の二三時間はひどく能率を上げても、あとがからきしだめで、ほかの人夫が一日七十銭にも八十銭にもなるの・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  15. ・・・逃げるに逃げられんよ。何しろエレヴェーターがきゃつらの前だからね。――ああ眠い」 欠伸をして、つるりと顔を撫ぜた。昨夜から徹夜をしているらしいことは、皮膚の色で判った。 橙色の罫のはいった半ぺらの原稿用紙には「時代の小説家」という題・・・<織田作之助「四月馬鹿」青空文庫>
  16. ・・・「何しろ身分が身分なんだから、それは大したものに違いなかろうからな、一々開けて検べて見るなんて出来た訳のものではなかろう。つまり偶然に、斯うした傷物が俺に当ったという訳だ……」 それが当然の考え方に違いなかった。併し彼は何となく自分・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  17. ・・・突然明い所へ出ると、少女の両眼には涙が一ぱい含んでいて、その顔色は物凄いほど蒼白かったが、一は月の光を浴びたからでも有りましょう、何しろ僕はこれを見ると同時に一種の寒気を覚えて恐いとも哀しいとも言いようのない思が胸に塞えてちょうど、鉛の塊が・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  18. ・・・ よく聞くと、日本人が居さえすれば安全だ。そこで、支那人は、一日十円も出して、わざわざそいつを傭っているんだという。 ところで、俺れの加わった防備隊だ。 何しろ、事件が突発したのが、十八日の午後十時すぎだろう。それから二時間たっ・・・<黒島伝治「防備隊」青空文庫>
  19. ・・・「まあ君、そこへ腰掛けたまえ。」 と、自分は馴々敷い調子で言った。男は自分の思惑を憚るかして、妙な顔して、ただもう悄然と震え乍ら立って居る。「何しろ其は御困りでしょう。」と自分は言葉をつづけた。「僕の家では、君、斯ういう規則にし・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  20. ・・・「武士だからな。」大隅君は軽く受流した。「それだから、僕だって、わざわざ北京から出かけて来たんだ。そうでもなくっちゃあ、――」言うことが大きい。「何しろ名誉の家だからな。」「名誉の家?」「長女の婿は三、四年前に北支で戦死、家族はいま・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  21. ・・・手近な歌集の中から口調のいいと思うのと、悪いと思うのとを選り分けて、おのおのに相当する曲線を画いてみて両者の間に何か著しい特徴が線の上から見えるかと思って調べてみた。何しろ僅少な材料であるから何事も確かな事は云われないが、ただ一つ二つ気の付・・・<寺田寅彦「歌の口調」青空文庫>
  22. ・・・けど何しろ時間が経っている。それに河巾も広い、深さもなかなか如何して深い河だ。いくら捜しても、迚も見つかりっこはありゃしねえと云んで、皆なまあ一時引揚げることにして錨を流して見ることになったんだ。 処が人数を調べてみると、上等兵の大瀬だ・・・<徳田秋声「躯」青空文庫>
  23. ・・・学問は好きだったから出来る方の組で、副級長などもやったことがあるが、何しろ欠席が多かったから、十分には勤まらない。先生はどの先生も私を可愛がってくれたし、欠席がつづくと私の家へ訪ねてきてくれたりした。しかし私には同級生の意地悪共が怖い。意地・・・<徳永直「こんにゃく売り」青空文庫>
  24. ・・・ 何しろあれだけ大きな建物がなくなってしまった事とて境内は荒野のように広々として重苦しい夕風は真実無常を誘う風の如く処を得顔に勢づいて吹き廻っているように思われた。今までは本堂に遮られて見えなかった裏手の墳墓が黒焦げになったまま立ってい・・・<永井荷風「伝通院」青空文庫>
  25. ・・・あれでも万事整頓していたら旦那の心持と云う特別な心持になれるかも知れんが、何しろ真鍮の薬缶で湯を沸かしたり、ブリッキの金盥で顔を洗ってる内は主人らしくないからな」と実際のところを白状する。「それでも主人さ。これが俺のうちだと思えば何とな・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  26. ・・・ そのムンムンする蒸し暑い、プラタナスの散歩道を、私は歩いていた。何しろ横浜のメリケン波戸場の事だから、些か恰好の異った人間たちが、沢山、気取ってブラついていた。私はその時、私がどんな階級に属しているか、民平――これは私の仇名なんだが―・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  27. ・・・「なにもう寝なくッても――こんなに明るくなッちゃア寝てもいられまい。何しろ寒くッて、これじゃアたまらないや。お熊どん、私の着物を出してもらおうじゃないか」「まアいいじゃアありませんか。今朝はゆっくりなすッて、一口召し上ッてからお帰り・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  28. ・・・いえ、そのお庭の戸は疾くに閉めてあるのでございますから、気味が悪うございます。何しろ。主人。どうしたと。家来。ははあ、また出て来て、庭で方々へ坐りました。あのアポルロの石像のある処の腰掛に腰を掛ける奴もあり、井戸の脇の小蔭に蹲む奴も・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  29. ・・・しかし猫には夕飯まで喰わして出て来たのだからそれを気に掛けるでもないが、何しろ夫婦ぐらしで手の抜けぬ処を、例年の事だから今年もちょっとお参りをするというて出かけたのであるから、早く帰らねば内の商売が案じられるのである。ほんとうに辛抱の強い、・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  30. ・・・そして、当惑して原稿をさし出し、何しろ赤鉛筆のスジのところはいけないって云うんですが、ということだった。原稿をあけてみて、わたしはおこるより先に呆れ、やがて笑い出した。原稿には、実によく赤鉛筆がはいっていて、それは各頁、各行だった。赤鉛筆の・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」青空文庫>