なに‐もの【何者】例文一覧 30件

  1. ・・・するとかれこれ半時ばかり経って、深山の夜気が肌寒く薄い着物に透り出した頃、突然空中に声があって、「そこにいるのは何者だ」と、叱りつけるではありませんか。 しかし杜子春は仙人の教通り、何とも返事をしずにいました。 ところが又暫くす・・・<芥川竜之介「杜子春」青空文庫>
  2. ・・・私はやはり何者にか申しわけをしながら、自分の仕事に従事しているのだ。……私は元来芸術に対しては深い愛着を持っている。芸術上の仕事をしたら自分としてはさぞ愉快だろうと思うことさえある。しかしながら自分の内部的要求は私をして違った道を採らしてい・・・<有島武郎「宣言一つ」青空文庫>
  3. ・・・私がなんらかの意味で第三階級の崩壊を助けているとすれば、それは取りもなおさず、第四階級に何者をか与えているのではないかと。 ここに来て私はホイットマンの言葉を思い出す。彼が詩人としての自覚を得たのは、エマソンの著書を読んだのが与って力が・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  4. ・・・此時谷の底より何者か高き声にて面白いぞ――と呼わる者あり。一同悉く色を失い遁げ走りたりと云えり。 この声のみの変化は、大入道よりなお凄く、即ち形なくしてかえって形あるがごとき心地せらる。文章も三誦すべく、高き声にて、面白いぞ――は、・・・<泉鏡花「遠野の奇聞」青空文庫>
  5. ・・・この老いて盲なる活大権現は何者ぞ。渠はその壮時において加賀の銭屋内閣が海軍の雄将として、北海の全権を掌握したりし磁石の又五郎なりけり。<泉鏡花「取舵」青空文庫>
  6. ・・・ が、その女は何者である乎、現在何処にいる乎と、切込んで質問すると、「唯の通り一遍の知り合いだからマダ発表する時期にならない、」とばかりで明言しなかった。が、「一見して気象に惚れ込んだ、共に人生を語るに足ると信じたのだ、」と深く思込んだ・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  7. ・・・僕はこの真面目と云うことは即ち自分が形式に囚われないと云うことであろうと思う。何者にも囚われないで自然人生を見ると云う気持、沁み/″\と感ずる気持が、真のシンセリティの気持である。 かくて始めて風の音を聴いても、音楽を聴いても、他のあら・・・<小川未明「動く絵と新しき夢幻」青空文庫>
  8. ・・・本能も、理性も、この世界にあっては、最も自由に、完美に発達をなし遂げることが出来るのであります。何者の権力を以てしても、この自由を束縛することができない。 私は、童話の世界を考えた時に、汚濁の世界を忘れます。童話の創作熱に魂の燃えた時に・・・<小川未明「『小さな草と太陽』序」青空文庫>
  9. ・・・一体何者だろう? 俺のように年寄った母親が有うも知ぬが、さぞ夕暮ごとにいぶせき埴生の小舎の戸口に彳み、遥の空を眺ては、命の綱のかせぎにんは戻らぬか、愛し我子の姿は見えぬかと、永く永く待わたる事であろう。 さておれの身は如何なる事ぞ? お・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  10. ・・・ 厭に邸内をジロ/\覗き歩いて居るが、一体貴様は何者か? 職業は? 住所は?」 で彼は何気ない風を装うつもりで、扇をパチ/\云わせ、息の詰まる思いしながら、細い通りの真中を大手を振ってやって来る見あげるような大男の側を、急ぎ脚に行過ぎよ・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  11. ・・・「あれは何者だ?」「あれですかい、あれは関次郎というばかでごいす」「フーム、……そうか」 彼は何気ない風して言ったが、呼吸も詰るような気がされた。「なるほど俺もああかな、……なるほど俺と似ているわい」 彼はそこそこに屋根・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  12. ・・・そう周囲が真暗なため、店頭に点けられた幾つもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛は、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。裸の電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる往来に立って、また近・・・<梶井基次郎「檸檬」青空文庫>
  13. ・・・さては大方美しき人なるべし。何者と重ねて問えば、私は存じませぬとばかり、はや岡焼きの色を見せて、溜室の方へと走り行きぬ。定めて朋輩の誰彼に、それと噂の種なるべし。客は微笑みて後を見送りしが、水に臨める縁先に立ち出でて、傍の椅子に身を寄せ掛け・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  14. ・・・火や煙や灰や闇黒や、二郎はその次に何者をか見たる。 わが車五味坂を下れば茂み合う樫の葉陰より光影きらめきぬ。これ倶楽部の窓より漏るるなり。雲の絶え間には遠き星一つ微かにもれたり。受付の十蔵、卓に臂を置き煙草吹かしつつ外面をながめてありし・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  15. ・・・余にはこの翁ただ何者をか秘めいて誰一人開くこと叶わぬ箱のごとき思いす。こは余がいつもの怪しき意の作用なるべきか。さもあらばあれ、われこの翁を懐う時は遠き笛の音ききて故郷恋うる旅人の情、動きつ、または想高き詩の一節読み了わりて限りなき大空を仰・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  16. ・・・そして、こういうことは、自分の意志に反して、何者かに促されてやっているのだ。――ひそかに、そう感じたものだ。 嗄れた、そこらあたりにひびき渡るような声で喋っていた吉原が、木村の方に向いて、「君はいい口実があるよ。――病気だと云って診・・・<黒島伝治「橇」青空文庫>
  17. ・・・ 森の中を行っている者が、何者かにびっくりしたもののようにパチパチうちだした。 小屋の中に誰もかくれていないことがたしかめられた。一列に散らばっていた兵士達は遠くから小屋をめがけて集って来た。 小屋には、つい、二三時間前まで人間・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  18. ・・・ 夜盗の類か、何者か、と眼稜強く主人が観た男は、額広く鼻高く、上り目の、朶少き耳、鎗おとがいに硬そうな鬚疎らに生い、甚だ多き髪を茶筅とも無く粗末に異様に短く束ねて、町人風の身づくりはしたれど更に似合わしからず、脇差一本指したる体、何とも・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  19. ・・・学の理論を俟つまでもなく、実に平凡なる事実、時々刻々の眼前の事実、何人も争う可らざる事実ではない歟、死の来るのは一個の例外を許さない、死に面しては貴賎・貧富も善悪・邪正も知愚・賢不肖も平等一如である、何者の知恵も遁がれ得ぬ、何者の威力も抗す・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  20. ・・・しかし何者かがその体のうちに盛んに活動している。右の手で絶えず貨幣をいじって勘定している。そして白い、短い眉毛の下の大きな、どんよりした、青い目で連の方を見ている。老人は直ぐ前を行く二人の肘の間から、その前を行く一人一人の男等を丁寧に眺めて・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  21. ・・・ 愛し合っているということは知り得たものの、青扇の何者であるかは、どうも僕にはよくつかめなかったのである。いま流行のニヒリストだとでもいうのか、それともれいの赤か、いや、なんでもない金持ちの気取りやなのであろうか、いずれにもせよ、僕はこ・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  22. ・・・耳に響くはただ身を焼く熱に湧く血の音と、せわしい自分の呼吸のみである。何者とも知れぬ権威の命令で、自分は未来永劫この闇の中に封じ込められてしまったのだと思う。世界の尽きる時が来ても、一寸もこの闇の外に踏み出すことは出来ぬ。そしていつまで経っ・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  23. ・・・子供が将来何者になるかは未知の事に属する。これを憂慮すれば子供はつくらぬに若くはない。 わたくしは既に中年のころから子供のない事を一生涯の幸福と信じていたが、老後に及んでますますこの感を深くしつつある。これは戯語でもなく諷刺でもない。窃・・・<永井荷風「西瓜」青空文庫>
  24. ・・・ 折から烈しき戸鈴の響がして何者か門口をあける。話し手ははたと話をやめる。残るはちょと居ずまいを直す。誰も這入って来た気色はない。「隣だ」と髯なしが云う。やがて渋蛇の目を開く音がして「また明晩」と若い女の声がする。「必ず」と答えたのは男・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  25. ・・・此主君とは抑も何者なるや。記者は封建時代の人にして、何事に就ても都て其時代の有様を見て立論することなれば、君臣主従は即ち藩主と士族との関係にして、其士族たる男子には藩の公務あれども、妻女は唯家の内に居るが故に婦人に主君なしと放言したることな・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  26. ・・・新虚栗の時何者をか攫まんとして得るところあらず。芭蕉死後百年に垂んとしてはじめて蕪村は現われたり。彼は天命を負うて俳諧壇上に立てり。されども世は彼が第二の芭蕉たることを知らず。彼また名利に走らず、聞達を求めず、積極的美において自得したりとい・・・<正岡子規「俳人蕪村」青空文庫>
  27. ・・・の中で、「基督は、何者にもまして個人主義者の最高の位置を占むべき人である」と云うて居る。 真の箇人主義は斯くあるべきではないか。 私の云う霊を失った哀れなる亡霊の多くは、箇人主義を称えて、自らを害うて顧見ない。 自己の上に輝・・・<宮本百合子「大いなるもの」青空文庫>
  28. ・・・権右衛門は何者かに水落をしたたかつかれたが懐中していた鏡にあたって穂先がそれた。創はわずかに血を鼻紙ににじませただけである。 権右衛門は討入りのときのめいめいの働きをくわしく言上して、第一の功を単身で弥五兵衛に深手を負わせた隣家の柄本又・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  29. ・・・此の潜める生来の彼の高貴な稟性は、終に彼の文学から我が文学史上に於て曾て何者も現し得なかった智的感覚を初めて高く光耀させ得た事実をわれわれは発見する。かくしてそれは、清少納言の官能的表徴よりも遥に優れた象徴的感覚表徴となって現れた。それは彼・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  30. ・・・憐れなる悩める者も誠実な勇気と努力とをもってすればついには何者かになり得るのです。偉大な人々の悲劇的生活は私たちの慰藉でありまた鞭であります。彼らが小さい一冊の本を書くためにも、その心血を絞り永年の刻苦と奮闘とを通り抜けなければならなかった・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>