なに‐やら【何やら】例文一覧 30件

  1. ・・・「そのせいでございましょうか、昨夜も御実検下さらぬと聞き、女ながらも無念に存じますと、いつか正気を失いましたと見え、何やら口走ったように承わっております。もとよりわたくしの一存には覚えのないことばかりでございますが。……」 古千屋は・・・<芥川竜之介「古千屋」青空文庫>
  2. ・・・泰さんは何が何やら、まるで煙に捲かれた体で、しばらくはただ呆気にとられていましたが、とにかく、言伝てを頼まれた体なので、「よろしい。確かに頼まれました。」と云ったきり、よくよく狼狽したのでしょう。麦藁帽子もぶら下げたまま、いきなり外へ飛び出・・・<芥川竜之介「妖婆」青空文庫>
  3. ・・・黒い上衣を着た医者が死人に近づいてその体の上にかぶさるようになって何やらする。「おしまいだな」とフレンチは思った。そして熱病病みのように光る目をして、あたりを見廻した。「やれやれ。恐ろしい事だった。」「早く電流を。」丸で調子の変った・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・       五 桜にはちと早い、木瓜か、何やら、枝ながら障子に映る花の影に、ほんのりと日南の薫が添って、お千がもとの座に着いた。 向うには、旦那の熊沢が、上下大島の金鎖、あの大々したので、ドカリと胡坐を組むのであろう。・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  5. ・・・ と喚く鎌倉殿の、何やら太い声に、最初、白丁に豆烏帽子で傘を担いだ宮奴は、島のなる幕の下を這って、ヌイと面を出した。 すぐに此奴が法壇へ飛上った、その疾さ。 紫玉がもはや、と思い切って池に飛ぼうとする処を、圧えて、そして剥いだ。・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  6. ・・・民子の死ということだけは判ったけれど、何が何やら更に判らぬ。僕とて民子の死と聞いて、失神するほどの思いであれど、今目の前で母の嘆きの一通りならぬを見ては、泣くにも泣かれず、僕がおろおろしている所へ兄夫婦が出てきた。「お母さん、まアそう泣・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  7. ・・・と云うて命令しとる様な様子が何やらおかしい思われた。演習に行てもあないに落ち付いておられん。人並みとは違た様子や。して、倒れとるものが皆自分の命令に従ごて来るつもりらしかった。それが大石軍曹や。」 友人は不思議ではないかと云わぬばかりに・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  8. ・・・ すると、何やらそれに答えながら、猿階子を元気よく上ってきた男がある。私は寝床の中から見ると薄暗くて顔は分らぬが、若い背の高い男で、裾の短い着物を着て、白い兵児帯を幅広に緊めているのが目に立つ。手に塗柄のついた馬乗提灯を下げて、その提灯・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  9. ・・・と女はむきになって言ったが、そのまま何やらジッと考え込んでしまった。 男はわざと元気よく、「そんなら俺も安心だ、お前とこの新さんとはまんざら知らねえ中でもねえし、これを縁に一層また近しくもしてもらおう。知っての通り、俺も親内と言っちゃ一・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  10. ・・・浜子は不動明王の前へ灯明をあげて、何やら訳のわからぬ言葉を妙な節まわしで唱えていたかと思うと、私たちには物も言わずにこんどは水掛地蔵の前へ来て、目鼻のすりへった地蔵の顔や、水垢のために色のかわった胸のあたりに水を掛けたり、タワシでこすったり・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  11. ・・・ 庄之助はまるで自分の耳を疑うかのように、キョトンとして、暫く娘の蒼白い顔を見つめながら何やらボソボソ口の中で呟いていたが、やがて何思ったか、「寿子、生国魂さんへお詣りしよう」 と言った。「パパ、ほんまか」 寿子はあわて・・・<織田作之助「道なき道」青空文庫>
  12.  忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。第一中隊のシード・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  13. ・・・「わたしが帰って行ったらお祖母さんと三人で門で待ってはるの」姉がそんなことを言った。「何やら家にいてられなんだわさ。着物を着かえてお母ちゃんを待っとろと言うたりしてなあ」「お祖母さんがぼけはったのはあれからでしたな」姉は声を少し・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  14. ・・・先生何が何やら解らなくなって了った。其所で疳は益々起る、自暴にはなる、酒量は急に増す、気は益々狂う、真に言うも気の毒な浅ましい有様となられたのである、と拙者は信ずる。 現に拙者が貴所の希望に就き先生を訪うた日などは、先生の梅子嬢を罵る大・・・<国木田独歩「富岡先生」青空文庫>
  15. ・・・ 少尉が兵士達の注意を右の方へ向けようとして、何やら真剣に叫んで、抜き身の軍刀を振り上げながら、永井の傍を馳せぬけた。しかし、それが何故であるか、永井には分らなかった。彼の頭の中には娘の豊満な肉体を享楽するただそのことがあるばかりだった・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  16. ・・・源吉は身体をふるわしていたが、ハッとして立ちすくんでしまった。瞬間シーンとなった。誰の息づかいも聞えない。 土佐犬はウオッと叫ぶと飛びあがった。源吉は何やら叫ぶと手を振った。盲目が前に手を出してまさぐるような恰好をした。犬は一と飛びに源・・・<小林多喜二「人を殺す犬」青空文庫>
  17. ・・・ 食後に、お玉は退院の手続きやら何やらでいそがしかった。にわかにおげんの部屋も活気づいた。若い気軽な看護婦達はおげんが退院の手伝いするために、長い廊下を往ったり来たりした。「小山さん、いよいよ御退院でお目出とうございます」 と年・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  18. ・・・ 藤さんが行ってしまったあとは何やら物足りないようである。たんぽぽを机の上に置く。手紙はもう書きたくない。藤さんがもう一度やってこないかと思う。ちぎった書き崩しを拾って、くちゃくちゃに揉んだのを披げて、皺を延ばして畳んで、また披げて、今・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  19. ・・・ちから余って自分でも何やら、こっそり書いている。それは本箱の右の引き出しに隠して在る。逝去二年後に発表のこと、と書き認められた紙片が、その蓄積された作品の上に、きちんと載せられているのである。二年後が、十年後と書き改められたり、二カ月後と書・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  20. ・・・という小説が、二三の人にほめられて、私は自信の無いままに今まで何やら下手な小説を書き続けなければならない運命に立ち至りました。三島は、私にとって忘れてならない土地でした。私のそれから八年間の創作は全部、三島の思想から教えられたものであると言・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  21. ・・・用意の車五輌口々に何やら云えどよくは耳に入らず。から/\と引き出せば後にまた御機嫌ようの声々あまり悪からぬものなり。見返る門柳監獄の壁にかくれて流れる水に漣れんい動く。韋駄天を叱する勢いよく松が端に馳け付くれば旅立つ人見送る人人足船頭ののゝ・・・<寺田寅彦「東上記」青空文庫>
  22. ・・・お絹はそんな話をしながら、「軸ものも何やら知らんけれど、いいものだそうだ。たぶん山水だったと思う。それも辰之助が表装をしてやると言うて、持っていったきり、しらん顔をしているんですもの」「蕪村じゃないかな」「何だか忘れたけれど。今・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  23. ・・・わたくしは古木と古碑との様子の何やらいわれがあるらしく、尋常の一里塚ではないような気がしたので、立寄って見ると、正面に「葛羅之井。」側面に「文化九年壬申三月建、本郷村中世話人惣四郎」と勒されていた。そしてその文字は楷書であるが何となく大田南・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  24. ・・・白木の宮に禰宜の鳴らす柏手が、森閑と立つ杉の梢に響いた時、見上げる空から、ぽつりと何やら額に落ちた。饂飩を煮る湯気が障子の破れから、吹いて、白く右へ靡いた頃から、午過ぎは雨かなとも思われた。 雑木林を小半里ほど来たら、怪しい空がとうとう・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  25. ・・・綿には何やらくるんである。それを左の手に持って、爺いさんは靴を穿いた。そして身を起した。「見ろよ」と云いながら、爺いさんは棒立ちに立って、右の手を外套の隠しに入れて、左の手を高くさし伸べた。 一本腕はあっけに取られて見ている。 ・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  26. ・・・オオビュルナンはマドレエヌの昔使っていた香水の匂い、それから手箱の蓋を取って何やら出したこと、それからその時の室内の午後の空気を思い出した。この記念があんまりはっきりしているので、三十三歳の世慣れ切った小説家の胸が、たしかに高等学校時代の青・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  27. ・・・そうすると一日一日と何やら分って行くような気がして、十ヶ月ほどの後には少したしかになったかと思うた。その時虚心平気に考えて見ると、始めて日本画の短所と西洋画の長所とを知る事が出来た。とうとう為山君や不折君に降参した。その後は西洋画を排斥する・・・<正岡子規「画」青空文庫>
  28. ・・・ 隣の間の夫婦は、こっちに声のもれないほどの低い声で、何やら話し会って居るらしい。折々、「フフフフフとか、「いやだねえ」などと云うお金の声が押しつぶされた様に響いて来た。十二時過まで、何かと喋って居た三人は、足らぬ勝・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  29. ・・・ 朝日の吸殻を、灰皿に代用している石決明貝に棄てると同時に、木村は何やら思い附いたという風で、独笑をして、側の机に十冊ばかり積み上げてある manuscrits らしいものを一抱きに抱いて、それを用箪笥の上に運んだ。 それは日出新聞・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  30. ・・・ 二人とも何やら浮かぬ顔色で今までの談話が途切れたような体であッたが、しばらくして老女はきッと思いついた体で傍の匕首を手に取り上げ、「忍藻、和女の物思いも道理じゃが……この母とていとう心にはかかるが……さりとて、こやそのように、忍藻・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>