な‐まえ〔‐まへ〕【名前】例文一覧 30件

  1. ・・・遠藤は殆ど気違いのように、妙子の名前を呼びかけながら、全身の力を肩に集めて、何度も入口の戸へぶつかりました。 板の裂ける音、錠のはね飛ぶ音、――戸はとうとう破れました。しかし肝腎の部屋の中は、まだ香炉に蒼白い火がめらめら燃えているばかり・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・……しかし妙子は――これは女主人公の名前ですよ。――音楽家の達雄と懇意になった以後、次第にある不安を感じ出すのです。達雄は妙子を愛している、――そう女主人公は直覚するのですね。のみならずこの不安は一日ましにだんだん高まるばかりなのです。・・・<芥川竜之介「或恋愛小説」青空文庫>
  3. ・・・ その時遠くの方で僕の名前を呼ぶ声が聞こえはじめました。泣くような声もしました。いよいよ狸の親方が来たのかなと思うと、僕は恐ろしさに脊骨がぎゅっと縮み上がりました。 ふと僕の眼の前に僕のおとうさんとおかあさんとが寝衣のままで、眼を泣・・・<有島武郎「僕の帽子のお話」青空文庫>
  4. ・・・白糸 あの、新聞で、お名前を見て参ったのでございますが、この御近処に、村越さんとおっしゃる方のお住居を、貴方、御存じではございませんか。七左 おお、弥兵衛どの御子息欣弥どの。はあ、新聞に出ておりますか。田鼠化為鶉、馬丁すなわち奉行と・・・<泉鏡花「錦染滝白糸」青空文庫>
  5. ・・・その割合には名前が余り知られていないが、一生の事業と活動とは維新の商業史の重要な頁を作っておる。今では堀田伯の住邸となってる本所の故宅の庭園は伊藤の全盛時代に椿岳が設計して金に飽かして作ったもので、一木一石が八兵衛兄弟の豪奢と才気の名残を留・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  6. ・・・ この文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 この手紙を書いた女は、手紙を出してしまうと、直ぐに町へ行って、銃を売る店を尋ねた。そして笑談のように、軽い・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  7. ・・・そこである日のこと、宣伝隊長の谷口さんにそのことを打ち明けると、谷口さんもひどく乗気になってくれて、その翌日弁当ごしらえをして、二人掛りで一日じゅう大阪じゅうを探し歩きましたが、何しろ秋山という名前と、もと拾い屋をしていたという知識だけが頼・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  8. ・・・はいつになったら母親を迎えに行けるだろうかと、情けない想いをしながら相変らず通っていたが、妓は相手もあろうに「疳つりの半」という博奕打ちに落籍されてしまった。「疳つりの半」は名前のごとく始終体を痙攣させている男だが、なぜか廓の妓たちに好かれ・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  9. ・・・いや、名前も出まいて。ただ一名戦死とばかりか。兵一名! 嗟矣彼の犬のようなものだな。 在りし昔が顕然と目前に浮ぶ。これはズッと昔の事、尤もな、昔の事と思われるのは是ばかりでない、おれが一生の事、足を撃れて此処に倒れる迄の事は何も彼もズッ・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  10. ・・・彼は道々、町の名前が変わってはいないかと心配しながら、ひとに道を尋ねた。町はあった。近づくにつれて心が重くなった。一軒二軒、昔と変わらない家が、新しい家に挾まれて残っていた。はっと胸を衝かれる瞬間があった。しかしその家は違っていた。確かに町・・・<梶井基次郎「過古」青空文庫>
  11. ・・・ます数は実におびただしいものでワッペウ氏の表には平均百人の中十五人三分と記してござります』と講義録の口調そっくりで申され候間、小生も思わずふきだし候、天保生まれの女の口からワッペウなどいう外国人の名前を一種変てこりんな発音にて聞かされ候・・・<国木田独歩「初孫」青空文庫>
  12. ・・・そして一つの墓石に名前をつらねる。「夫婦は二世」という古い言葉はその味わいをいったものであろう。 アメリカの映画俳優たちのように、夫婦の離合の常ないのはなるほど自由ではあろうが、夫婦生活の真味が味わえない以上は人生において、得をしている・・・<倉田百三「愛の問題(夫婦愛)」青空文庫>
  13. ・・・見ると、手箱にも、棚にも、寝台札にも、私の名前がはっきり書きこまれてあった。 二年兵は、軍服と、襦袢、袴下を出してくにから着てきた服をそれと着換えるように云った。 うるおいのない窓、黒くすゝけた天井、太い柱、窮屈な軍服、それ等のもの・・・<黒島伝治「入営前後」青空文庫>
  14. ・・・まだまだ此外に今上皇帝と歴代の天子様の御名前が書いてある軸があって、それにも御初穂を供える、大祭日だというて数を増す。二十四日には清正公様へも供えるのです。御祖母様は一つでもこれを御忘れなさるということはなかったので、其他にも大黒様だの何だ・・・<幸田露伴「少年時代」青空文庫>
  15. ・・・――印を押そうと思って、広げられた帳面を見ると、俺の名から二つ三つ前に、知っている名前のあるのに目がとまった。それは名の知れている左翼の人で、最近どうして書かなくなったのだろうと思っていた人だった。ところが、此処にいたのだ。この人も! そう・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  16. ・・・彼女は学士が植えて楽む種々な朝顔の変り種の名前などまでもよく暗記んじていた。「高瀬さんに一つ、私の大事な朝顔を見て頂きましょうか」 と学士が言って、数ある素焼の鉢の中から短く仕立てた「手長」を取出した。学士はそれを庭に向いた縁側のと・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  17. ・・・ 坊さんは、じいさんに子どもの名前を聞きました。じいさんは名前の相談をしておくのをすっかり忘れていました。「そうそう。名前がまだきめてありません。ウイリイとつけましょう。」と、じいさんはでたらめにこう言いました。坊さんは帳面へ、その・・・<鈴木三重吉「黄金鳥」青空文庫>
  18. ・・・ と思っていたら、果して、その講話のおわりにアナウンサアが、その、あいつの名前を、閣下という尊称を附して報告いたしました。老博士は、耳を洗いすすぎたい気持になりました。その、あいつというのは、博士と高等学校、大学、ともにともに、机を並べて勉・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  19. ・・・ドストエフスキー、セルバンテス、ホーマー、ストリンドベルヒ、ゴットフリード・ケラー*、こんな名前が好きな方の側に、ゾラやイブセンなどが好かない方の側に挙げられている。この名簿も色々の意味で吾々には面白く感じられる。* ゴットフリード・ケ・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  20. ・・・そして、この名前をつけたアナーキストの小野は、この春に上京してしまっていた。「どうだ、あがらんか」 深水はだいぶ調子づいていた。「おい、そっちに餉台をだしな」 嫁さんはなんでもうれしそうに、部屋のなかへ支度しはじめた。「・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  21. ・・・ その頃には銀座界隈には、己にカフェエや喫茶店やビイヤホオルや新聞縦覧所などいう名前をつけた飲食店は幾軒もあった。けれども、それらはいずれも自分の目的には適しない。一時間ばかりも足を休めて友達とゆっくり話をしようとするには、これまでの習・・・<永井荷風「銀座」青空文庫>
  22. ・・・婆さんはやがて名簿のようなものを出して御名前をと云う。余は倫敦滞留中四たびこの家に入り四たびこの名簿に余が名を記録した覚えがある。この時は実に余の名の記入初であった。なるべく丁寧に書くつもりであったが例に因ってはなはだ見苦しい字が出来上った・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  23. ・・・そのくせニイチェの名前だけは、日本の文壇に早くから紹介されて居た。生田長江氏がその全訳を出す以前にも、既に高山樗牛、登張竹風等の諸氏によつて、早く既に明治時代からニイチェが紹介されて居た。その上にもニイチェの名は、一時日本文壇の流行児でさへ・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  24. ・・・此セメントを使った月日と、それから委しい所書と、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、御迷惑でなかったら、是非々々お知らせ下さいね。あなたも御用心なさいませ。さようなら。 松戸与三は、湧きかえるような、子供たちの騒ぎを身の・・・<葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」青空文庫>
  25. ・・・ただ傍人より見れば新聞取次店または地方歓迎者の名前を一々列記したるだけはややうるさい感があるが、それはこの紀行の目的の一部であるから固より記者を責むべきものではない。むしろかかる紀行の中へかかる世俗的な目的をも加えしかも充分に成功したる楽天・・・<正岡子規「徒歩旅行を読む」青空文庫>
  26.  小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がついたのか、それをいちばんはじめから、すっ・・・<宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」青空文庫>
  27. ・・・一人一人から名前を取って番号形にしてしまうと同じで、兵隊でも監獄でも個性を示す銘々の着物は決して着せない。女学校でさえ制服のスカートの長さを、長いとか短いとか、喧しくいった。男はすべていがぐり、女のパーマネントは打倒。そして私たちは戦争に追・・・<宮本百合子「衣服と婦人の生活」青空文庫>
  28. ・・・国所と名前を言って、覚悟をせい」「そりゃあ人違だ。おいらあ泉州産で、虎蔵と云うものだ。そんな事をした覚はねえ」 文吉が顔を覗き込んだ。「おい。亀。目の下の黒痣まで知っている己がいる。そんなしらを切るな」 男は文吉の顔を見て、草葉・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  29. ・・・ 役人は罫を引いた大きい紙を前に拡げて、その欄の中になんだか書き入れていたが、そのまま顔を挙げずに、「名前は」と云った。「アンドレアス・ツァウォツキイです。」「何歳になる。」「三十二になります。」「生れは。」 ツァウ・・・<著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外「破落戸の昇天」青空文庫>
  30. ・・・デュウゼとかって名前でしたよ。ご存じでいらっしゃいますか。」そういってその娘の指さす方を見ると、うなだれた暗い婦人が、毛皮にくるまって、自分の荷物のそばに立っている。初めてこの時ヘルマン・バアルはエレオノラ・デュウゼの蒼白い、弱々しげな、力・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>