なやみ【悩み】例文一覧 30件

  1. ・・・元来それがしは、よせふと申して、えるされむに住む靴匠でござったが、当日は御主がぴらと殿の裁判を受けられるとすぐに、一家のものどもを戸口へ呼び集めて、勿体なくも、御主の御悩みを、笑い興じながら、見物したものでござる。」 記録の語る所による・・・<芥川竜之介「さまよえる猶太人」青空文庫>
  2. ・・・而して悩みました。その頃の聖書は如何に強烈な権威を以て私を感動させましたろう。聖書を隅から隅にまですがりついて凡ての誘惑に対する唯一の武器とも鞭撻とも頼んだその頃を思いやると立脚の危さに肉が戦きます。 私の聖書に対する感動はその後薄らい・・・<有島武郎「『聖書』の権威」青空文庫>
  3. ・・・――山の草、朽樹などにこそ、あるべき茸が、人の住う屋敷に、所嫌わず生出づるを忌み悩み、ここに、法力の験なる山伏に、祈祷を頼もうと、橋がかりに向って呼掛けた。これに応じて、山伏が、まず揚幕の裡にて謡ったのである。が、鷺玄庵と聞いただけでも、思・・・<泉鏡花「木の子説法」青空文庫>
  4. ・・・ 越前の府、武生の、侘しい旅宿の、雪に埋れた軒を離れて、二町ばかりも進んだ時、吹雪に行悩みながら、私は――そう思いました。 思いつつ推切って行くのであります。 私はここから四十里余り隔たった、おなじ雪深い国に生れたので、こうした・・・<泉鏡花「雪霊記事」青空文庫>
  5. ・・・これを心に悩みあるものと解らないようでは恋の話はできない。 それのみならず、おとよは愛想のよい人でだれと話してもよく笑う。よく笑うけれどそれは真からの笑いではない。ただおはまが来た時にばかり、真に嬉しそうな笑いを見せる。それはどういうわ・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・古今詩人文人の藁本の今に残存するものは数多くあるが、これほど文人の悲痛なる芸術的の悩みを味わわせるものはない。 が、悲惨は作者が自ら筆を持つ事が出来なくなったというだけで、意気も気根も文章も少しも衰えていない。右眼が明を失ったのは九輯に・・・<内田魯庵「八犬伝談余」青空文庫>
  7. ・・・しかしその悩みは、行く末の幸福を得ることのために愉快でありました。早く、その未知の島にゆきたいものだとみんなは心で思いました。どんな困難や辛苦がこの後あってもそれを切り抜けてゆこうという勇気がみんなの心にわいたのであります。 太陽は、赤・・・<小川未明「明るき世界へ」青空文庫>
  8. ・・・人間はみないろ/\の形に於て、悩み苦しみ求めている。それは、曾て、抽象的に考えられたような、真実や、美は、そのまゝ何処にも存在するものでないと知ったがためである。 流浪者程、自然をいつくしむものがないと、クロポトキンは言っている。なぜな・・・<小川未明「彼等流浪す」青空文庫>
  9. ・・・けど、お習字してますと、なんやこう、悩みや苦しみがみな忘れてしまえるみたい気イしますのんで、私好きです。貴方なんか、きっとお習字上手やと思いますわ。お上手なんでしょう? いっぺん見せていただきたいわ」「僕は字なんかいっぺんも習ったことは・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  10. ・・・あの娘は姙娠しよるやろか、せんやろかと終日思い悩み、金助が訪ねてこないだろうかと怖れた。「教育上の大問題」そんな見出しの新聞記事を想像するに及んで、苦悩は極まった。 いろいろ思い案じたあげく、今のうちにお君と結婚すれば、たとえ姙娠してい・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  11. ・・・こちらが見てよくわかっているのにと思い、財布の銀貨を袂の中で出し悩みながら、彼はその無躾に腹が立った。 義兄は落ちついてしまって、まるで無感覚である。「へ、お火鉢」婦はこんなことをそわそわ言ってのけて、忙しそうに揉手をしながらまた眼・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  12. ・・・人びとの寝静まった夜を超えて、彼と彼の母が互いに互いを悩み苦しんでいる。そんなとき、彼の心臓に打った不吉な摶動が、どうして母を眼覚まさないと言い切れよう。 堯の弟は脊椎カリエスで死んだ。そして妹の延子も腰椎カリエスで、意志を喪った風景の・・・<梶井基次郎「冬の日」青空文庫>
  13. ・・・     三 文芸と倫理学 人生の悩みを持つ青年は多くその解決を求めて文芸に行く。解決は望まれぬまでも何か活きた悩みに触れてもらいたいために小説や、戯曲に行く。それはもとより当然である。文芸はこの生の具象的な事実をその肉づけ・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  14. ・・・だがその姿勢が悩みのために、支えんとしても崩されそうになるところにこそ学窓の恋の美しさがあるのであって、ノートをほうり出して異性の後を追いまわすような学生は、恋の青年として美しくもなく、また恐らく勝利者にもなれないであろう。 しかし私が・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  15. ・・・そこに脊骨が絞られるような悩みが……」「ト云うと天覧を仰ぐということが無理なことになるが、今更野暮を云っても何の役にも立たぬ。悩むがよいサ。苦むがよいサ。」と断崖から取って投げたように言って、中村は豪然として威張った。 若崎は勃・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  16. ・・・そして是は自分の智慧の箭の的たるべき魔物が其中に在ることは在るに違無いが何処に在るか分らないので、吾が頼むところの利器の向け処を知らぬ悩みに苦しめられ、そして又今しがた放った箭が明らかに何も無いところに取りっぱなしにされた無効さの屈辱に憤り・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  17. ・・・それこそ「心には悩みわずらう」事の多いゆえに、「おもてには快楽」をよそわざるを得ない、とでも言おうか。いや、家庭に在る時ばかりでなく、私は人に接する時でも、心がどんなにつらくても、からだがどんなに苦しくても、ほとんど必死で、楽しい雰囲気を創・・・<太宰治「桜桃」青空文庫>
  18. ・・・酔いがぐるぐる駈けめぐっている動乱の頭脳で、それでも、あれこれ考え悩み、きょうは、どうも、ごちそうさまでした、と新聞社の人にお礼を言って、それだけで引きさがろうと態度をきめた。その時の私の心で一ばん素直に、偽りなく言える言葉は、ただそのお礼・・・<太宰治「善蔵を思う」青空文庫>
  19. ・・・昔からいい古した通り海棠の雨に悩み柳の糸の風にもまれる風情は、単に日本の女性美を説明するのみではあるまい。日本という庭園的の国土に生ずる秩序なき、淡泊なる、可憐なる、疲労せる生活及び思想の、弱く果敢き凡ての詩趣を説明するものであろう。・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  20. ・・・今宵の悩みはそれらにはあらず。我という個霊の消え失せて、求むれども遂に得がたきを、驚きて迷いて、果ては情なくてかくは乱るるなり。我を司どるものの我にはあらで、先に見し人の姿なるを奇しく、怪しく、悲しく念じ煩うなり。いつの間に我はランスロット・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  21. ・・・という端物の書き出しには、パリーのある雑誌に寄稿の安受け合いをしたため、ドイツのさる避暑地へ下りて、そこの宿屋の机かなにかの上で、しきりに構想に悩みながら、なにか種はないかというふうに、机のひきだしをいちいちあけてみると、最終の底から思いが・・・<夏目漱石「手紙」青空文庫>
  22.  ニイチェの世界の中には、近代インテリのあらゆる苦悩が包括されてゐる。だれでも、自分の悩みをニイチェの中に見出さない者はなく、ニイチェの中に、自己の一部を見出さないものはない。ニイチェこそは、実に近代の苦悩を一人で背負つた受・・・<萩原朔太郎「ニイチェに就いての雑感」青空文庫>
  23. ・・・一歩一歩の足の痛みと、「今日からの生活の悩み」が、毒蛇をつッついたのだ。「おい、今んになって、口先で胡魔化そう、ったって駄目だよ。剥製の獣じゃあるめえし、傷口に、ただの綿だけ押し込んどいて、それで傷が癒りゃ、医者なんぞ食い上げだ! いい・・・<葉山嘉樹「浚渫船」青空文庫>
  24. ・・・穂吉どの、さぞ痛かろう苦しかろう、お経の文とて仲々耳には入るまいなれど、そのいたみ悩みの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲を刻みつけるじゃぞ、いいかや、まことにそれこそ菩提のたねじゃ。」 梟の坊さんの声が又少し変りました。一座は・・・<宮沢賢治「二十六夜」青空文庫>
  25. ・・・ 今日の心情は、その今日の性格において愛と死の問題をわが生の意義の上に悩み、感じ、知りたいと思っているのだと思う。この小説が後半まで書き進められたとき、作者の心魂に今日のその顔が迫ることはなかったのだろうか。愛と死の現実には、歴史が響き・・・<宮本百合子「「愛と死」」青空文庫>
  26. ・・・この二つの悩みのどっちをとってみても、きょうの若い女性がどんなにゆたかな進歩した人生を欲しているかという事実と、反対に、日本の社会の現実はまだなかなか若々しくどこまでも伸びようとする女性のねがいの枝を撓める状態におかれているという現実を語っ・・・<宮本百合子「新しい卒業生の皆さんへ」青空文庫>
  27. ・・・ここへ来るまでに、暑を侵して旅行をした宇平は留飲疝通に悩み、文吉も下痢して、食事が進まぬので、湯町で五十日の間保養した。大分体が好くなったと云って、中大洲を二日捜して、八幡浜に出ると、病後を押して歩いた宇平が、力抜けがして煩った。そこで五日・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  28. ・・・そして、軈て来る冬の仕事の手始めとして、先ず柴山の選定に村人達が悩み始める頃迄続いていった。三 まだ夕暮には時があった。秋三は山から下ろして来た椚の柴を、出逢う人々に自慢した。 そして、家に着くと、戸口の処に身体の衰えた・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  29. ・・・当時の悩みの種が意外なところへ落ちていて、いつの間にかそこで葉を伸ばしていたのである。彼は一日も早く栖方に会ってみたくなった。おそるべき青年たちの一塊をさし覗いて、彼らの悩み、――それもみな数学者のさなぎが羽根を伸ばすに必要な、何か食い散ら・・・<横光利一「微笑」青空文庫>
  30. ・・・後者は自己を鼓舞し激励するとともに、多くの悩み疲れた同胞を鼓舞し激励します。 あなたに愚痴をこぼしたあとでこんな事をいうのは少しおかしいかも知れません。しかし私はあなたに愚痴をこぼしている内に自然こういう事を言いたい気持ちになって来たの・・・<和辻哲郎「ある思想家の手紙」青空文庫>