なり【鳴り】例文一覧 30件

  1. ・・・もし彼等に声があったら、この白日の庚申薔薇は、梢にかけたヴィオロンが自ら風に歌うように、鳴りどよんだのに違いなかった。 しかしその円頂閣の窓の前には、影のごとく痩せた母蜘蛛が、寂しそうに独り蹲っていた。のみならずそれはいつまで経っても、・・・<芥川竜之介「女」青空文庫>
  2. ・・・桜の花や日の出をとり合せた、手際の好い幕の後では、何度か鳴りの悪い拍子木が響いた。と思うとその幕は、余興掛の少尉の手に、するすると一方へ引かれて行った。 舞台は日本の室内だった。それが米屋の店だと云う事は、一隅に積まれた米俵が、わずかに・・・<芥川竜之介「将軍」青空文庫>
  3. ・・・ 寝しずまった町並を、張りのある男声の合唱が鳴りひびくと、無頓着な無恥な高笑いがそれに続いた。あの青年たちはもう立止る頃だとクララが思うと、その通りに彼らは突然阪の中途で足をとめた。互に何か探し合っているようだったが、やがて彼ら・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  4. ・・・ 教場に這入る鐘がかんかんと鳴りました。僕は思わずぎょっとして立上りました。生徒達が大きな声で笑ったり呶鳴ったりしながら、洗面所の方に手を洗いに出かけて行くのが窓から見えました。僕は急に頭の中が氷のように冷たくなるのを気味悪く思いながら・・・<有島武郎「一房の葡萄」青空文庫>
  5. ・・・朝毎の町のどさくさはあっても、工場の笛が鳴り、汽車ががたがた云って通り、人の叫声が鋭く聞えてはいても、なんとなく都会は半ば死しているように感じられる。 フレンチの向側の腰掛には、為事着を着た職工が二三人、寐惚けたような、鼠色の目をした、・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  6. ・・・……歯が鳴り、舌が滑に赤くなって、滔々として弁舌鋭く、不思議に魔界の消息を洩す――これを聞いたものは、親たちも、祖父祖母も、その児、孫などには、決して話さなかった。 幼いものが、生意気に直接に打撞る事がある。「杢やい、実家はどこだ。・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  7. ・・・廻りながら輪を巻いて、巻き巻き巻込めると見ると、たちまち凄じい渦になって、ひゅうと鳴りながら、舞上って飛んで行く。……行くと否や、続いて背後から巻いて来ます。それが次第に激しくなって、六ツ四ツ数えて七ツ八ツ、身体の前後に列を作って、巻いては・・・<泉鏡花「雪霊記事」青空文庫>
  8. ・・・なんでもなん千年というむかし、甲斐と駿河の境さ、大山荒れがはじまったが、ごんごんごうごう暗やみの奥で鳴りだしたそうでござります。そうすると、そこら一面石の嵐でござりまして、大石小石の雨がやめどなく降ったそうでござります。五十日のあいだという・・・<伊藤左千夫「河口湖」青空文庫>
  9. ・・・豪雨だ……そのすさまじき豪雨の音、そうしてあらゆる方面に落ち激つ水の音、ひたすら事なかれと祈る人の心を、有る限りの音声をもって脅すかのごとく、豪雨は夜を徹して鳴り通した。 少しも眠れなかったごとく思われたけれど、一睡の夢の間にも、豪雨の・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  10. ・・・何のことはない、野砲、速射砲の破裂と光弾の光とがつづけざまにやって来るんやもの、かみ鳴りと稲妻とが一時に落ちる様や、僕等は、もう、夢中やった。午後九時頃には、わが聨隊の兵は全く乱れてしもて、各々その中隊にはおらなかった。心易いものと心易いも・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  11. ・・・ しばらくすると、こんどは、あちらから、こちらへ、カッポ、カッポと鳴り近づくひづめの音が聞こえました。つづいて入り乱れた幾つもの音を聞いたのでありました。あちらにお姫さまがいないので、彼らはこちらにきて探すもののように思われました。・・・<小川未明「赤い姫と黒い皇子」青空文庫>
  12. ・・・それと同時に、ブーンといって、バイオリンの糸の鳴り音がきこえたのであります。 少年は、はっと心に思いました。なぜならその音色は、きき覚えのあるなつかしい音色でありましたからです。 もうすこしのことに、気づかずに通り過ぎようとしました・・・<小川未明「海のかなた」青空文庫>
  13. ・・・ その手紙を見るなり、おれは、こともあろうに損害賠償とはなんだ、折角これまで尽して来てやったのに……と、直ぐ呶鳴り込んでやろうと思ったが、莫迦莫迦しいから、よした。実際、腹が立つというより、おかしかったのだ。五十円とはどこから割り出した・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  14. ・・・ 彼は蓄音機という綽名を持ち、一年三百六十五日、一日も欠かさず、お前たちの生命は俺のものだという意味の、愚劣な、そしてその埋め合わせといわん許りに長ったらしい、同じ演説を、朝夕二回ずつ呶鳴り散らして、年中声が涸れ、浪花節語りのように咽を・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  15. ・・・ 何一つ道具らしい道具の無い殺風景な室の中をじろ/\気味悪るく視廻しながら、三百は斯う呶鳴り続けた。彼は、「まあ/\、それでは十日の晩には屹度引払うことにしますから」と、相手の呶鳴るのを抑える為め手を振って繰返すほかなかった。「……・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  16. ・・・ 新京極に折れると、たてた戸の間から金盥を持って風呂へ出かけてゆく女の下駄が鳴り、ローラースケートを持ち出す小店員、うどんの出前を運ぶ男、往来の真中で棒押しをしている若者などが、異様な盛り場の夜更けを見せている。昼間は雑閙のなかに埋れて・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  17. ・・・柱鳴り瓦飛び壁落つる危急の場にのぞみて二人一室に安座せんとは。われこれを思いし時、心の冷え渡るごとき恐ろしきある者を感じぬ、貴嬢はただこの二人ただ自殺を謀りしとのみのたもうか、げに二郎と十蔵とは自殺を謀りしなるべきか。あらず、いかで自殺なる・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  18. ・・・――銃声は、一つまた一つ、またまた一つと、つづけてパチパチ鳴りひびいた。 大隊長と、将校は、野球の見物でもするように、面白そうに緊張していた。 ユフカは、外国の軍隊を襲撃したパルチザンが逃げこんで百姓に化けるので有名だった。そればか・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  19. ・・・夜半の頃おい神鳴り雨過ぎて枕に通う風も涼しきに、家居続ける東京ならねばこそと、半は夢心地に旅のおかしさを味う。 七日、朝いと夙く起き出でて、自ら戸を繰り外の方を見るに、天いと美わしく横雲のたなびける間に、なお昨夜の名残の電光す。涼しき中・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  20. ・・・ 墓場のそばを帆走って行く時、すべての鐘は鳴りましたが、それはすこしも悲しげにはひびきませんでした。 船がだんだん遠ざかってフョールドに来てみますと、そこからは太洋の波が見えました。 むすめはかくまで海がおだやかで青いのに大喜び・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  21. ・・・少年の心臓は、とくとくと幽かな音たてて鳴りはじめた。兵隊やそのほか兵隊に似かよったような概念のためではない。くろんぼが少年をあざむかなかったからである。ほんとうに刺繍をしていたのだ。日の丸の刺繍は簡単であるから、闇のなかで手さぐりしながらで・・・<太宰治「逆行」青空文庫>
  22. ・・・サイレンが鳴り、花火が上がり、半鐘が鳴っている最中に踵を接して暖簾を潜って這入って行く浴客の数は一人や二人ではなかったのである。風呂屋の主人は意外な機会に変った英雄主義を発揮して見せた訳である。尤も同時に若干の湯銭を獲得したことも事実ではあ・・・<寺田寅彦「KからQまで」青空文庫>
  23. ・・・熾烈な日光が更に其大玻璃器の破れ目に煌くかと想う白熱の電光が止まず閃いて、雷は鳴りに鳴って雨は降りに降った。そうしてからりと晴れた時、日はまだ西の山の上に休んで閉塞し困憊せる地上の総てを笑って居た。文造が畑に来た時いつも遠くから見えた番小屋・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  24. ・・・夢のうちにこの響を聞いて、はっと眼を醒ましたら、時計はとくに鳴りやんだが、頭のなかはまだ鳴っている。しかもその鳴りかたが、しだいに細く、しだいに遠く、しだいに濃かに、耳から、耳の奥へ、耳の奥から、脳のなかへ、脳のなかから、心の底へ浸み渡って・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  25. ・・・「相鳴りだ。ライナーだな」 二人は、小屋の入口に達していた。 ドドーン、ドドーン、ドーン、バラバラ、ドワーン 小林の頭上に、丁度、彼自身の頭と同じ程の太さの、滅茶苦茶に角の多い尖った、岩片が墜ちて来た。 小林は、秋山を放・・・<葉山嘉樹「坑夫の子」青空文庫>
  26. ・・・ 長鳴するがごとき上野の汽車の汽笛は鳴り始めた。「お、汽車だ。もう汽車が出るんだな」と、善吉はなお吉里の寝顔を見つめながら言ッた。「どうしようねえ。もう汽車が出るんだよ」と、泣き声は吉里の口から漏れて、つと立ち上ッて窓の障子を開・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・ 砂がきしきし鳴りました。私はそれを一つまみとって空の微光にしらべました。すきとおる複六方錐の粒だったのです。(石英安山岩か流紋岩 私はつぶやくようにまた考えるようにしながら水際に立ちました。(こいつは過冷却の水だ。氷相当官・・・<宮沢賢治「インドラの網」青空文庫>
  28. ・・・ 東京の町なかでこの間のうちあちらこちら盆踊の太鼓が鳴りました。ハア、おどりおどるなら、という唄が流れ、夜更けまで若い人々は踊りました。ことしは豊年というので、ああ踊が立ったのでしょうか。 あの太鼓をきいて思い出した方が多いでしょう・・・<宮本百合子「朝の話」青空文庫>
  29. ・・・そして十二時の時計が鳴り始めると同時に、さあ新年だと云うので、その酒を注いだ杯をてんでんに持って、こつこつ打ち附けて、プロジット・ノイヤアルと大声で呼んで飲むのです。それからふざけながら町を歩いて帰ると、元日には寝ていて、午まで起きはしませ・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  30. ・・・何かそこには電磁作用が行われるものらしい石の鳴り方は、その日は、一種異様な響きを梶に伝えた。ひどく格調のある正確なひびきであった。それは二人づれの音響であったが、四つの足音の響き具合はぴたりと合い、乱れた不安や懐疑の重さ、孤独な低迷のさまな・・・<横光利一「微笑」青空文庫>