なん‐じゅう〔‐ジフ〕【難渋】例文一覧 10件

  1. ・・・たいへん難渋の文章で、私は、おしまいまで読めなかった。神魂かたむけて書き綴った文章なのであろう。細民街のぼろアパアト、黄塵白日、子らの喧噪、バケツの水もたちまちぬるむ炎熱、そのアパアトに、気の毒なヘロインが、堪えがたい焦躁に、身も世もあらず・・・<太宰治「音に就いて」青空文庫>
  2. ・・・見た眼には、けわしそうでもあるが、こうして登ってみると、きちんきちんと足だまりができていて、さほど難渋でない。とうとう滝口にまで這いのぼった。 ここには朝日がまっすぐに当り、なごやかな風さえ頬に感ぜられるのだ。私は樫に似た木の傍へ行って・・・<太宰治「猿ヶ島」青空文庫>
  3. ・・・そう呟いて、窓をぴたと閉め、それから難渋しながら、たわいない甘い物語を書き綴る。これが、私の天職である。物語を書き綴る以外には、能は無い。まるっきり、きれいさっぱり能がない。自分ながら感心している。ある時は仕官懸命の地をうらやみ、まさか仏籬・・・<太宰治「春の盗賊」青空文庫>
  4. ・・・百姓の子が学問して後に立身するは、親の心にあくまでも望む所なれども、いかんせん、その子は今日家内の一人にして、これを手離すときはたちまち世帯の差支となりて、親子もろとも飢寒の難渋まぬかれ難し。これを下等の貧民幾百万戸一様の有様という。 ・・・<福沢諭吉「小学教育の事」青空文庫>
  5. ・・・ぶちまだらの犬は雨で難渋しているというばかりではなく、その難渋のありようのうちに耐えがたい何かがあって、それが啼かせるという風に、なきながら小舎の屋根の上で絶えず蹠をふみかえているのであった。 佇んで傘の下から見ていたが、そんな玄関前の・・・<宮本百合子「犬三態」青空文庫>
  6. ・・・「お君だって、あんな不義理な事をした事は何と云ったって悪いには違いありませんけど、病気で難渋して居るのを助けてやるのは又別ですからね。 親父だって、ああやって働けもしないで居るんだもの、どんなに気が気でないか知れやしませんよ、可・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  7. ・・・ いつとはなし、宮田一族の迫った難渋を知った者達は皆同情して、世界中の悪口をあらいざらい、海老屋の人鬼、生血搾りに浴せかけた。 口では、まるで一ひねりに捻り潰してくれそうな勢で彼女を罵ることだけは我劣らじと罵る。 けれども、若し・・・<宮本百合子「禰宜様宮田」青空文庫>
  8. ・・・更に、その人は、業々しい書き起しに煩わされ、乱彩ぶりに悩まされ、詩人バルザックの難渋さに苦しむのである。そして、最後にその人はこう云うのである。「私が誰かの作品を読むというのは、教養が高くひとと会談する術をわきまえている人を私の家へ入れるの・・・<宮本百合子「バルザックに対する評価」青空文庫>
  9. ・・・長座した後の第一歩はいつもながら格別に難渋なので、今朝よりも一きわ悪しざまに前にかがみ、『わしはここにいるよ、わしはここにいるよ。』と繰り返して言って、立ち去った。 そしてかれは伍長に従って行った。 市長は安楽椅子にもたれて・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>
  10. ・・・今後は難渋な句の誤訳をも、もしどこかにあったら、発見して貰いたい。私は訳本ファウストを読まれる人達に、一層深い望を属している。<森鴎外「不苦心談」青空文庫>