なん‐で【何で】例文一覧 30件

  1. ・・・「如何でございましょう。拝領仰せつけられましょうか。」 宗俊の語の中にあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主と云う階級があらゆる大名に対して持っている、威嚇の意も籠っている。煩雑な典故を尚んだ、殿中では、天下の侯伯も、お坊主の指導・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  2. ・・・ 吉助「されば稀有な事でござる。折から荒れ狂うた浪を踏んで、いず方へか姿を隠し申した。」 奉行「この期に及んで、空事を申したら、その分にはさし置くまいぞ。」 吉助「何で偽などを申上ぎょうず。皆紛れない真実でござる。」 奉行は・・・<芥川竜之介「じゅりあの・吉助」青空文庫>
  3. ・・・ついでに鯔と改名しろなんて、何か高慢な口をきく度に、番ごと籠められておいでじゃないか。何でも、恐いか、辛いかしてきっと沖で泣いたんだよ。この人は、」とおかしそうに正向に見られて、奴は、口をむぐむぐと、顱巻をふらりと下げて、「へ、へ、へ。・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  4. ・・・欲い物理書は八十銭。何でも直ぐに買って帰って、孫が喜ぶ顔を見たさに、思案に余って、店端に腰を掛けて、時雨に白髪を濡らしていると、其処の亭主が、それでは婆さんこうしなよ。此処にそれ、はじめの一冊だけ、ちょっと表紙に竹箆の折返しの跡をつけた、古・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  5. ・・・「政夫さん、なに……」「何でもないけど民さんは近頃へんだからさ。僕なんかすっかり嫌いになったようだもの」 民子はさすがに女性で、そういうことには僕などより遙に神経が鋭敏になっている。さも口惜しそうな顔して、つと僕の側へ寄ってきた・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  6. ・・・ 独逸といえば、或る時鴎外を尋ねると、近頃非常に忙がしいという。何で忙がしいかと訊くと、或る科学上の問題で北尾次郎と論争しているんで、その下調べに骨が折れるといった。その頃の日本の雑誌は専門のものも目次ぐらいは一と通り目を通していたが、・・・<内田魯庵「鴎外博士の追憶」青空文庫>
  7. ・・・あれはいつだったっけ、何でも俺が船へ乗り込む二三日前だった、お前のところへ暇乞いに行ったら、お前の父が恐ろしく景気つけてくれて、そら、白痘痕のある何とかいう清元の師匠が来るやら、夜一夜大騒ぎをやらかしたあげく、父がしまいにステテコを踊り出し・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  8. ・・・ 電熱器を百台……? えっ? 何ですって? 梅田新道の事務所へ届けてくれ? もしもし、放送局へ掛けてるんですよ、こちらは……。えっ? 莫迦野郎? 何っ? 何が莫迦野郎だ?」 混線していた。「ああ、俺はいつも何々しようとした途端、必ず・・・<織田作之助「昨日・今日・明日」青空文庫>
  9. ・・・「何でもええ。あっというようなことを……」 考えているうちに、「――そうだ、あの男を川へ突き落してやろう」 豹吉の頭にだしぬけに、そんな乱暴な思いつきが泛んだ。「煙草の火かしてくれ」 豹吉は背中へぶっ切ら棒な声を・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  10. ・・・頓て其蒼いのも朦朧となって了った…… どうも変さな、何でも伏臥になって居るらしいのだがな、眼に遮ぎるものと云っては、唯掌大の地面ばかり。小草が数本に、その一本を伝わって倒に這降りる蟻に、去年の枯草のこれが筐とも見える芥一摘みほど――・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  11. ・・・……それで何ですかな、家が定まりましたでしょうな? もう定まったでしょうな?」「……さあ、実は何です、それについて少しお話したいこともあるもんですから、一寸まあおあがり下さい」 彼は起って行って、頼むように云った。「別にお話を聴・・・<葛西善蔵「子をつれて」青空文庫>
  12. ・・・「それではひとつ予習をしてみるかな。……どうかね、滑稽じゃないかね?……お前も羽織を着て並んでみろ」と、私は少し酒を飲んでいた勢いで、父の羽織や袴をつけて、こう弟に言ったりした。「何で滑稽だなんて。こんなあほらしいことばかし言ってる・・・<葛西善蔵「父の葬式」青空文庫>
  13. ・・・勇は何で皆が騒ぐのか少しも知らない。 そこでその夜、豊吉は片山の道場へ明日の準備のしのこりをかたづけにいって、帰路、突然方向を変えて大川の辺へ出たのであった。「髯」の墓に豊吉は腰をかけて月を仰いだ。「髯」は今の豊吉を知らない、豊吉は昔の・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  14. ・・・と大きく出れば、いかな母でも半分落城するところだけれど、あの時の自分に何でこんな芝居が打てよう。 悪々しい皮肉を聞かされて、グッと行きづまって了い、手を拱んだまま暫時は頭も得あげず、涙をほろほろこぼしていたが、「母上さん、それは余り・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  15. ・・・そして、「何でがすか? タワリシチ!」 馴れ馴れしい言葉をかけた。倶楽部で顔見知りの男が二人いた。中国人労働組合の男だ。「や!」 ワーシカは、ひょくんとして立止った。「今晩は、タワーリシチ! 倶楽部で催しがあるんでしょう・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  16. ・・・ 主人は、顔色を動かさずに、重々しく「何で暇を取らすか、それゃ、お前の身に覚えがある筈じゃ。」と云った。 与助は、ぴり/\両足を顫わした。「じゃが、」と主人は言葉を切って、「俺は、それを詮議立てせずに、暇を取らせようとするん・・・<黒島伝治「砂糖泥棒」青空文庫>
  17. ・・・今になって毎日毎日の何でも無かったその一眼が貴いものであったことが悟られた。と、いうように何も明白に順序立てて自然に感じられるわけでは無いが、何かしら物苦しい淋しい不安なものが自分に逼って来るのを妻は感じた。それは、いつもの通りに、古代の人・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  18. ・・・れたうらみを言って言って言いまくろうと俊雄の跡をつけねらい、それでもあなたは済みまするか、済まぬ済まぬ真実済まぬ、きっと済みませぬか、きっと済みませぬ、その済まぬは誰へでござります、先祖の助六さまへ、何でござんすと振り上げてぶつ真似のお霜の・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  19. ・・・自分の事は何でもすっかり知っているような口ぶりである。「どうもやっぱり頭がはきはきしません。じつは一年休学することにしたんです」「そうでございますってね。小母さんは毎日あなたの事ばかり案じていらっしゃるんですよ。今度またこちらへお出・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  20. ・・・も、この老骨が少しでもお役に立つのは有りがたく、かたじけなしと存じて、まことにどうも、インチキだとは思いながら、軽はずみに引受けて、ただいまよろめきながらこの壇に上って、そうして、ああ、やっぱり、何が何でもひたすらお断りするのが本当であった・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  21. ・・・角の数が何で定まるか、これも未知の問題である。すすけた障子紙へ一滴の水をたらすとしみができるが、その輪郭は円にならなくて菊の花形になる。筒井俊正君の実験で液滴が板上に落ちて分裂する場合もこれに似ている事が知られた。葡萄酒がコップをはい上がる・・・<寺田寅彦「物理学圏外の物理的現象」青空文庫>
  22. ・・・ 何でこんなにはずかしいのだろう? そしてやっぱり、若い女が前の道を通ると、三吉はいち早く気がついて、家のなかにとびこんだ。「でもまァ、これでお前がひしゃくをつくれば、日に二円にはなる。たきぎはでけるし、つきあいはいらんし、工場の二円よ・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  23. ・・・「へえ、やはり食物上にかね」「うん、毎朝梅干に白砂糖を懸けて来て是非一つ食えッて云うんだがね。これを食わないと婆さんすこぶる御機嫌が悪いのさ」「食えばどうかするのかい」「何でも厄病除のまじないだそうだ。そうして婆さんの理由が・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  24. ・・・ 西宮は平田の腕を取ッて、「まア何でもいい。用があるから……。まア、少し落ちついて行くさ」と、再び室の中に押し込んで、自分はお梅とともに廊下の欄干にもたれて、中庭を見下している。 研ぎ出したような月は中庭の赤松の梢を屋根から廊下へ投・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  25. ・・・ 一体、欧文は唯だ読むと何でもないが、よく味うて見ると、自ら一種の音調があって、声を出して読むとよく抑揚が整うている。即ち音楽的である。だから、人が読むのを聞いていても中々に面白い。実際文章の意味は、黙読した方がよく分るけれど、自分の覚・・・<二葉亭四迷「余が翻訳の標準」青空文庫>
  26. ・・・如何でしょうか。主人。そんなら庭から往来へ出る処の戸を閉めてしまって、お前はもう寝るが好い。己には構わないでも好いから。家来。いえ、そのお庭の戸は疾くに閉めてあるのでございますから、気味が悪うございます。何しろ。主人。どうしたと・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  27. ・・・去年の秋小さな盛りにしていた土を崩すだけだったから何でもなかった。教科書がたいてい来たそうだ。ただ測量と園芸が来ないとか云っていた。あしたは日曜だけれども無くならないうちに買いに行こう。僕は国語と修身は農事試験場へ行った工藤さんから譲られて・・・<宮沢賢治「或る農学生の日誌」青空文庫>
  28. ・・・「いやあね、まだ決りゃしないことよ何ぼ何でも――」 笑い話で、その時は帰ったが、陽子は思い切れず、到頭ふき子に手紙を出した。出入りの俥夫が知り合いで、その家を選定してくれたのであった。 陽子、弟の忠一、ふき子、三日ばかりして、ど・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  29. ・・・「女々しいこと。何でおじゃる。思い出しても二方(新田義宗と義興の御手並み、さぞな高氏づらも身戦いをしたろうぞ。あの石浜で追い詰められた時いとう見苦しくあッてじゃ」「ほほ御主、その時の軍に出なされたか。耳よりな……語りなされよ」「・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  30. ・・・その結果が何であるとしても、とにかく氏の描くところには感情がこもっている。画面の上に芸当として並べられた線や色彩ではなくして、氏の心に渦巻くものを画面にさらけ出そうとするための線や色彩である。そうしてそこには、確かに、我々の心の一角に触れる・・・<和辻哲郎「院展日本画所感」青空文庫>