なん‐でも【何でも】例文一覧 30件

  1.  大町先生に最後にお目にかゝったのは、大正十三年の正月に、小杉未醒、神代種亮、石川寅吉の諸君と品川沖へ鴨猟に往った時である。何でも朝早く本所の一ノ橋の側の船宿に落合い、そこから発動機船を仕立てさせて大川をくだったと覚えている・・・<芥川竜之介「鴨猟」青空文庫>
  2. ・・・凍死しても何でも歩いて見ろ。……」 彼は突然口調を変え Brother と僕に声をかけた。「僕はきのう本国の政府へ従軍したいと云う電報を打ったんだよ。」「それで?」「まだ何とも返事は来ない。」 僕等はいつか教文館の飾り窓・・・<芥川竜之介「彼 第二」青空文庫>
  3. ・・・「眼がさめましたね。」呂翁は、髭を噛みながら、笑を噛み殺すような顔をして云った。「ええ」「夢をみましたろう。」「見ました。」「どんな夢を見ました。」「何でも大へん長い夢です。始めは清河の崔氏の女と一しょになりました。・・・<芥川竜之介「黄粱夢」青空文庫>
  4. ・・・この男は目にかかる物を何でも可哀がって、憐れで、ああ人間というものは善いものだ、善い人間が己れのために悪いことをするはずがない、などと口の中で囁く癖があった。この男がたまたま酒でちらつく目にこの醜い犬を見付けて、この犬をさえ、良い犬可哀い犬・・・<著:アンドレーエフレオニード・ニコラーエヴィチ 訳:森鴎外「犬」青空文庫>
  5. ・・・ついでに鯔と改名しろなんて、何か高慢な口をきく度に、番ごと籠められておいでじゃないか。何でも、恐いか、辛いかしてきっと沖で泣いたんだよ。この人は、」とおかしそうに正向に見られて、奴は、口をむぐむぐと、顱巻をふらりと下げて、「へ、へ、へ。・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  6. ・・・「食べやしないんだよ。爺や、ただ玩弄にするんだから。」「それならば可うごすが。」 爺は手桶を提げいたり。「何でもこうその水ン中へうつして見るとの、はっきりと影の映るやつは食べられますで、茸の影がぼんやりするのは毒がありますじ・・・<泉鏡花「清心庵」青空文庫>
  7. ・・・が、何処の巣にいて覚えたろう、鵯、駒鳥、あの辺にはよくいる頬白、何でも囀る……ほうほけきょ、ほけきょ、ほけきょ、明かに鶯の声を鳴いた。目白鳥としては駄鳥かどうかは知らないが、私には大の、ご秘蔵――長屋の破軒に、水を飲ませて、芋で飼ったのだか・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  8. ・・・「おまえにおれが負けたら、お前のすきなもの何でもやる」「きっとですよ」「大丈夫だよ、負ける気づかいがないから」 こんな調子に、戯言やら本気やらで省作はへとへとになってしまった。おはまがよそ見をしてる間に、おとよさんが手早く省・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  9. ・・・「政夫さん、なに……」「何でもないけど民さんは近頃へんだからさ。僕なんかすっかり嫌いになったようだもの」 民子はさすがに女性で、そういうことには僕などより遙に神経が鋭敏になっている。さも口惜しそうな顔して、つと僕の側へ寄ってきた・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  10. ・・・「おッ母さんはそりゃアそりゃア可愛がるのよ」「独りでうぬぼれてやアがる。誰がお前のような者を可愛がるもんか? 一体お前は何が出来るのだ?」「何でも出来る、わ」「第一、三味線は下手だし、歌もまずいし、ここから聴いていても、ただ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  11. ・・・あれはいつだったっけ、何でも俺が船へ乗り込む二三日前だった、お前のところへ暇乞いに行ったら、お前の父が恐ろしく景気つけてくれて、そら、白痘痕のある何とかいう清元の師匠が来るやら、夜一夜大騒ぎをやらかしたあげく、父がしまいにステテコを踊り出し・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  12. ・・・い、その間も前夜より長く圧え付けられて苦しんだがそれもやがて何事もなく終ったのだ、がこの二晩の出来事で私も頗る怯気がついたので、その翌晩からは、遂に座敷を変えて寝たが、その後は別に何のこともなかった、何でもその後近所の噂に聞くと、前に住んで・・・<小山内薫「女の膝」青空文庫>
  13. ・・・「何でもええ。あっというようなことを……」 考えているうちに、「――そうだ、あの男を川へ突き落してやろう」 豹吉の頭にだしぬけに、そんな乱暴な思いつきが泛んだ。「煙草の火かしてくれ」 豹吉は背中へぶっ切ら棒な声を・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  14. ・・・「だから馬鈴薯には懲々しましたというんです。何でも今は実際主義で、金が取れて美味いものが喰えて、こうやって諸君と煖炉にあたって酒を飲んで、勝手な熱を吹き合う、腹が減たら牛肉を食う……」「ヒヤヒヤ僕も同説だ、忠君愛国だってなんだって牛・・・<国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」青空文庫>
  15. ・・・「先生何に?」と寄って来て問うた。「何でも宜しい!」「だって何に? 拝見な。よう拝見な」と自分にあまえてぶら下った。「可けないと言うに!」と自分は少女を突飛ばすと、少女は仰向けに倒れかかったので、自分は思わずアッと叫けんでこ・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  16. ・・・吾家の母様もおまえのことには大層心配をしていらしって、も少しするとおまえのところの叔父さんにちゃんと談をなすって、何でもおまえのために悪くないようにしてあげようって云っていらっしゃるのだから、辛いだろうがそんな心持を出さないで、少しの間辛抱・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  17. ・・・ そんな事はどうでもいいが、とにかくに骨董ということは、貴いものは周鼎漢彝玉器の類から、下っては竹木雑器に至るまでの間、書画法帖、琴剣鏡硯、陶磁の類、何でも彼でも古い物一切をいうことになっている。そして世におのずから骨董の好きな人がある・・・<幸田露伴「骨董」青空文庫>
  18. ・・・「ああ、いい酒だ、サルチルサンで甘え瓶づめとは訳が違う。「ほめてでももらわなくちゃあ埋らないヨ、五十五銭というんだもの。「何でも高くなりやあがる、ありがてえ世界だ、月に百両じゃあ食えねえようになるんでなくッちゃあ面白くねえ。・・・<幸田露伴「貧乏」青空文庫>
  19. ・・・ 左れど今の私自身に取っては、死刑は何でもないのである。 私が如何にして斯る重罪を犯したのである乎、其公判すら傍聴を禁止せられた今日に在っては、固より十分に之を言うの自由は有たぬ。百年の後ち、誰か或は私に代って言うかも知れぬ、孰れに・・・<幸徳秋水「死生」青空文庫>
  20. ・・・「お前達は、何でも俺が無暗とお金を使いからかすようなことを言う――」 こうおげんは荒々しく言った。 お新と共に最後の「隠れ家」を求めようとするおげんの心は、ますます深いものと成って行った。彼女は自分でも金銭の勘定に拙いことや、そ・・・<島崎藤村「ある女の生涯」青空文庫>
  21. ・・・「しかし、女でも何でも働くところですネ」と子安は別れ際に高瀬に言った。 高瀬も佇立って、「畢竟、よく働くから、それでこう女の気象が勇健いんでしょう」「そうです。働くことはよく働きますナ……それに非常な質素なところだ……ですけれど・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  22. ・・・彼処から奥州の方へ旅をして、帰って来て、『松島に於て芭蕉翁を読む』という文章を発表したが、その旅から帰る頃から、自分でも身体に異状の起って来た事を知ったと見えて、「何でも一つ身体を丈夫にしなくちゃならない」というので、国府津の前川村の方へ引・・・<島崎藤村「北村透谷の短き一生」青空文庫>
  23. ・・・もう記憶も薄れている程なのですが、おひとりは、何でも、帝大の法科を出たばかりの、お坊ちゃんで外交官志望とやら聞きました。お写真も拝見しました。楽天家らしい晴やかな顔をしていました。これは、池袋の大姉さんの御推薦でした。もうひとりのお方は、父・・・<太宰治「きりぎりす」青空文庫>
  24. ・・・あたしは何でも知っている。みんな知っている。そんな事をおっしゃっても、あなたたちは、本当はお金がほしいんです。気取らなくたっていいわよ。あなたも、それからあなたの奥さんも、それからお母さんも、みんなお金がほしいのよ。ほしくてほしくて仕様が無・・・<太宰治「春の枯葉」青空文庫>
  25. ・・・ 食堂や写真部はもちろん、理髪店、ツーリスト・ビュロー、何でもある。近頃郵便局の出来たところもある。職業紹介所と結婚媒介所はいまだないようであるが、そのうちに出来てもよさそうなものである。今でも見合いのランデヴーには毎日のように利用され・・・<寺田寅彦「夏」青空文庫>
  26. ・・・第二義から第一義に行って霊も肉も無い……文学が高尚でも何でも無くなる境涯に入れば偖てどうなるかと云うに、それは私だけにゃ大概の見当は付いているようにも思われるが、ま、ま、殆ど想像が出来んと云って可いな。――ただ何だか遠方の地平線に薄ぼんやり・・・<二葉亭四迷「私は懐疑派だ」青空文庫>
  27. ・・・「オーケストラでもお酒でも何でもあるって。ぼくお酒なんか呑みたくはないけれど、みんなを連れて行きたいんだよ。」「そうだって云ったねえ、わたしも小さいとき、そんなこと聞いたよ。」「それに第一にね、そこへ行くと誰でも上手に歌えるよう・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  28. ・・・ 政子さんは、何でも芳子さんと同じにして大きくなりました。同い年で小学校を卒業し、同い年で同じ学校に入り、両人は真個の仲よしで行く筈なのでした。 芳子さんは、政子さんが、自分よりは可哀そうな身の上であるのをよく知っていましたから、い・・・<宮本百合子「いとこ同志」青空文庫>
  29. ・・・「何でもありぁあしないじゃないの。三人で暮す。それっきりのことさ。」「――でも、あなた自分の歯楊子をひとに貸す?」 メーラはインガの質問をはぐらかした。「ああ、私丁度歯楊子をなくしたところだった。どうもありがとう。思い出さし・・・<宮本百合子「「インガ」」青空文庫>
  30. ・・・ 何でも秋であった。 私は少しほか人の居ない静かな放課後の校庭の隅に有る丸太落しの上に腰をかけて膝の上に両手を立ててその上に頬をのせて、黄色になって落ちた藤の葉や桜の葉を見つめて居た。 その時私は菊の大模様のついた渋い好いメリン・・・<宮本百合子「M子」青空文庫>