• で始まる
  • で一致する
  • で終わる
  • を説明文に含む
  • を見出しに含む

なん‐てん【南天】例文一覧 19件

  1. ・・・それは九日に手向けたらしい寒菊や南天の束の外に何か親しみの持てないものだった。K君はわざわざ外套を脱ぎ、丁寧にお墓へお時宜をした。しかし僕はどう考えても、今更恬然とK君と一しょにお時宜をする勇気は出悪かった。「もう何年になりますかね?」・・・<芥川竜之介「年末の一日」青空文庫>
  2. ・・・……勢はさりながら、もの凄いくらい庭の雨戸を圧して、ばさばさ鉢前の南天まで押寄せた敵に対して、驚破や、蒐れと、木戸を開いて切って出づべき矢種はないので、逸雄の面々歯噛をしながら、ひたすら籠城の軍議一決。 そのつもりで、――千破矢の雨滴と・・・<泉鏡花「第二菎蒻本」青空文庫>
  3. ・・・ 火を避けて野宿しつつ、炎の中に飛ぶ炎の、小鳥の形を、真夜半かけて案じたが、家に帰ると、転げ落ちたまま底に水を残して、南天の根に、ひびも入らずに残った手水鉢のふちに、一羽、ちょんと伝っていて、顔を見て、チイと鳴いた。 後に、密と、谷・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  4. ・・・ それは、粗末だけれど、大きな鉢に植えてある南天であります。もう、幾日も水をやらなかったとみえて、根もとの土は白く乾いていました。紅みがかった、光沢のある葉がついていたのであろうけれど、ほとんど落ちてしまい、また、美しい、ぬれたさんご珠・・・<小川未明「おじいさんが捨てたら」青空文庫>
  5. ・・・焼惣本家鳥屋市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、どちらが元祖かちょっとわからぬが、とにかくどちらもいもりをはじめとして、虎足、縞蛇、ばい、蠑螺、山蟹、猪肝、蝉脱皮、泥亀頭、手、牛歯、蓮根、茄子、桃、南天賓などの黒焼を売っているのだ。御寮人・・・<織田作之助「大阪発見」青空文庫>
  6. ・・・そんな吉田にはいつも南天の赤い実が眼の覚めるような刺戟で眼についた。また鏡で反射させた風景へ望遠鏡を持って行って、望遠鏡の効果があるものかどうかということを、吉田はだいぶんながい間寝床のなかで考えたりした。大丈夫だと吉田は思ったので、望遠鏡・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  7. ・・・昨年の夏には、玄関の傍に南天燭を植えてやった。それで屋賃が十八円である。高すぎるとは思わぬ。二十四五円くらい貰いたいのであるが、駅から少し遠いゆえ、そうもなるまい。高すぎるとは思わぬ。それでも一年、ためている。あの家の屋賃は、もともと、そっ・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  8. ・・・あとでひとりで楽しまむものと、机の引き出し、そっと覗いてみたときには、溶けてしまって、南天の赤い目玉が二つのこっていたという正吉の失敗とかいう漫画をうちの子供たち読んでいたが、美しい追憶も、そんなものだよ、パッション失わぬうちに書け、鉄は赤・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  9. ・・・帰りたい、今からでも帰りたいと便所の口の縁へ立ったまま南天の枝にかかっている紙のてるてる坊さんに祈るように思う。雨の日の黄昏は知らぬまに忍び足で軒に迫ってはや灯ともしごろのわびしい時刻になる。家の内はだんだんにぎやかになる。はしゃいだ笑声な・・・<寺田寅彦「竜舌蘭」青空文庫>
  10. ・・・片側は人の歩むだけの小径を残して、農家の生垣が柾木や槙、また木槿や南天燭の茂りをつらねている。夏冬ともに人の声よりも小鳥の囀る声が耳立つかと思われる。 生垣の間に荷車の通れる道がある。 道の片側は土地が高くなっていて、石段をひかえた・・・<永井荷風「葛飾土産」青空文庫>
  11. ・・・父が書斎の丸窓外に、八手の葉は墨より黒く、玉の様な其の花は蒼白く輝き、南天の実のまだ青い手水鉢のほとりに藪鶯の笹啼が絶間なく聞えて屋根、軒、窓、庇、庭一面に雀の囀りはかしましい程である。 私は初冬の庭をば、悲しいとも、淋しいとも思わなか・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  12. ・・・母家から別れたその小さな低い鱗葺の屋根といい、竹格子の窓といい、入口の杉戸といい、殊に手を洗う縁先の水鉢、柄杓、その傍には極って葉蘭や石蕗などを下草にして、南天や紅梅の如き庭木が目隠しの柴垣を後にして立っている有様、春の朝には鶯がこの手水鉢・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  13. ・・・「あの方は、私、級中で一番嫌いだわ、此の間もね、お裁縫室の傍にね、ホラ南天の木があるでしょう、彼処で種々お話をしていた時、私が何心なく、芳子さんにね、貴女は何故此の学校へお入りに成ったのって伺ったのよ。そうしたらね、あの方ったら」 ・・・<宮本百合子「いとこ同志」青空文庫>
  14.  午後から日がさし、積った白雪と、常磐木、鮮やかな南天の紅い実が美くしく見える。 机に向っていると、隣の部屋から、チクチク、チチと小鳥の囀りが聞えて来る。二三日雪空が続き、真南をねじれて建った家には、余り充分日光が射さな・・・<宮本百合子「小鳥」青空文庫>
  15. ・・・ ○南画的な勁い樹木多し、古、榧、杉◎南天、要、葉の幅の広い方の槇、サンゴ樹それから年が経て樹の幹にある趣の出来てた やぶこうじの背高いの南天特に美し。 ○川ふちの東屋、落ちて居た椎の実、「椎の実 かやの実たべたので」 かや・・・<宮本百合子「一九二五年より一九二七年一月まで」青空文庫>
  16. ・・・ 八畳の座敷で、障子の硝子越しに、南天のある小庭と、先にずっと雪に覆われた下谷辺の屋根屋根の眺望があった。 藍子は、女が若しか廃業でもしたい気かも知れないと思って来たのであったが、その推察ははずれていたのを知った。「あんたの気持・・・<宮本百合子「帆」青空文庫>
  17. ・・・ 古草履や鑵、瀬戸物の破片が一杯散らばった庭には、それでも思い設けず、松や古梅、八つ手、南天などが、相当の注意を以て植えられて居る。庭石が、コンベンショナルな日本の庭らしい趣で据えられ、手洗台の石の下には、白と黒とぶちの大きな猫が、斜な・・・<宮本百合子「又、家」青空文庫>
  18. ・・・寝る前に手水に行った時には綿をちぎったような、大きい雪が盛んに降って、手水鉢の向うの南天と竹柏の木とにだいぶ積って、竹柏の木の方は飲み過ぎたお客のように、よろけて倒れそうになっていた。お金はまだ降っているかしらと思って、耳を澄まして聞いてい・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  19. ・・・ 勘次は裏庭から店の間へ来ると、南天の蔭に背中を見せて帰って行く秋三の姿が眼についた。「今来たのは秋公か?」「お前、秋が安次を連れて来てくれたんやがな。」 安次は急に庭から立ち上ると、「秋公、こら、秋公。」と大声で呼び出・・・<横光利一「南北」青空文庫>