なん‐ど【納戸】例文一覧 29件

  1. ・・・しかし御用部屋の山崎勘左衛門、御納戸掛の岩田内蔵之助、御勝手方の上木九郎右衛門――この三人の役人だけは思わず、眉をひそめたのである。 加州一藩の経済にとっては、勿論、金無垢の煙管一本の費用くらいは、何でもない。が、賀節朔望二十八日の登城・・・<芥川竜之介「煙管」青空文庫>
  2. ・・・しかしいまだに僕の家には薄暗い納戸の隅の棚にお狸様の宮を設け、夜は必ずその宮の前に小さい蝋燭をともしている。     八 蘭 僕は時々狭い庭を歩き、父の真似をして雑草を抜いた。実際庭は水場だけにいろいろの草を生じやすかった。・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  3. ・・・いつなりけん、途すがら立寄りて尋ねし時は、東家の媼、機織りつつ納戸の障子より、西家の子、犬張子を弄びながら、日向の縁より、人懐しげに瞻りぬ。     甲冑堂 橘南谿が東遊記に、陸前国苅田郡高福寺なる甲冑堂の婦人像を記せるあり・・・<泉鏡花「一景話題」青空文庫>
  4. ・・・ さりとも、人は、と更めて、清水の茶屋を、松の葉越に差窺うと、赤ちゃけた、ばさらな銀杏返をぐたりと横に、框から縁台へ落掛るように浴衣の肩を見せて、障子の陰に女が転がる。 納戸へ通口らしい、浅間な柱に、肌襦袢ばかりを着た、胡麻塩頭の亭・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  5. ・・・ と、納戸で被布を着て、朱の長煙管を片手に、「新坊、――あんな処に、一人で何をしていた?……小母さんが易を立てて見てあげよう。二階へおいで。」 月、星を左右の幕に、祭壇を背にして、詩経、史記、二十一史、十三経注疏なんど本箱がずら・・・<泉鏡花「絵本の春」青空文庫>
  6. ・・・日あたりの納戸に据えた枕蚊帳の蒼き中に、昼の蛍の光なく、すやすやと寐入っているが、可愛らしさは四辺にこぼれた、畳も、縁も、手遊、玩弄物。 犬張子が横に寝て、起上り小法師のころりと坐った、縁台に、はりもの板を斜めにして、添乳の衣紋も繕わず・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  7. ・・・婆さんの方でない、安達ヶ原の納戸でないから、はらごもりを割くのでない。松魚だ、鯛だ。烏賊でも構わぬ。生麦の鰺、佳品である。 魚友は意気な兄哥で、お来さんが少し思召しがあるほどの男だが、鳶のように魚の腹を握まねばならない。その腸を二升瓶に・・・<泉鏡花「開扉一妖帖」青空文庫>
  8. ・・・雫       十 待乳屋の娘菊枝は、不動の縁日にといって内を出た時、沢山ある髪を結綿に結っていた、角絞りの鹿の子の切、浅葱と赤と二筋を花がけにしてこれが昼過ぎに出来たので、衣服は薄お納戸の棒縞糸織の袷、薄紫の裾廻し、唐繻子・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  9. ・・・ と納戸へ入って、戸棚から持出した風呂敷包が、その錦絵で、国貞の画が二百余枚、虫干の時、雛祭、秋の長夜のおりおりごとに、馴染の姉様三千で、下谷の伊達者、深川の婀娜者が沢山いる。 祖母さんは下に置いて、「一度見さっしゃるか。」と親・・・<泉鏡花「国貞えがく」青空文庫>
  10. ・・・ 天井裏の蕃椒は真赤だが、薄暗い納戸から、いぼ尻まきの顔を出して、「その柿かね。へい、食べられましない。」「はあ?」「まだ渋が抜けねえだでね。」「はあ、ではいつ頃食べられます。」 きく奴も、聞く奴だが、「早うて、・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  11. ・・・博士神巫が、亭主が人殺しをして、唇の色まで変って震えているものを、そんな事ぐらいで留めはしない……冬の日の暗い納戸で、糸車をじい……じい……村も浮世も寒さに喘息を病んだように響かせながら、猟夫に真裸になれ、と歯茎を緊めて厳に言った。経帷子に・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  12. ・・・ といいながら日暮際のぱっと明い、艶のないぼやけた下なる納戸に、自分が座の、人なき薄汚れた座蒲団のあたりを見て、婆さんは後見らるる風情であったが、声を低うし、「全体あの爺は甲州街道で、小商人、煮売屋ともつかず、茶屋ともつかず、駄菓子・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  13. ・・・黒塚の婆の納戸で、止むを得ない。「――時に、和尚さんは、まだなかなか帰りそうに見えないね。とすると、位牌も過去帳も分らない。……」「何しろ、この荒寺だ、和尚は出がちだよって、大切な物だけは、はい、町の在家の確かな蔵に預けてあるで。」・・・<泉鏡花「燈明之巻」青空文庫>
  14. ・・・耳にかけた輪数珠を外すと、木綿小紋のちゃんちゃん子、経肩衣とかいって、紋の着いた袖なしを――外は暑いがもう秋だ――もっくりと着込んで、裏納戸の濡縁に胡坐かいて、横背戸に倒れたまま真紅の花の小さくなった、鳳仙花の叢を視めながら、煙管を横銜えに・・・<泉鏡花「栃の実」青空文庫>
  15. ・・・ と、仕切一つ、薄暗い納戸から、優しい女の声がした。「端本になりましたけれど、五六冊ございましたよ。」「おお、そうか。」「いや、いまお捜しには及びません。」 様子を察して樹島が框から声を掛けた。「は、つい。」「お・・・<泉鏡花「夫人利生記」青空文庫>
  16. ・・・街道を突っ切って韮、辣薤、葱畑を、さっさっと、化けものを見届けるのじゃ、静かにということで、婆が出て来ました納戸口から入って、中土間へ忍んで、指さされるなりに、板戸の節穴から覗きますとな、――何と、六枚折の屏風の裡に、枕を並べて、と申すのが・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  17. ・・・と、すぐに重ね返事が、どうやら勢がなく、弱々しく聞えたと思うと、挙動は早く褄を軽く急いだが、裾をはらりと、長襦袢の艶なのが、すらすらと横歩きして、半襟も、色白な横顔も、少し俯向けるように、納戸から出て来たのが、ぱっと明るみへ立つと、肩から袖・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  18. ・・・今日は洗い髪の櫛巻で、節米の鼠縞の着物に、唐繻子と更紗縮緬の昼夜帯、羽織が藍納戸の薩摩筋のお召という飾し込みで、宿の女中が菎蒻島あたりと見たのも無理ではない。「馬鹿に今日は美しいんだね」と金之助はジロジロ女の身装を見やりながら、「それに・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  19. ・・・襖一つ隔てて直ぐその次にある納戸へも行って見た。そこはおせんが鏡に向って髪をとかした小部屋だ。彼女の長い着物や肌につけた襦袢なぞがよく掛っていたところだ。 何か残っている物でも出て来るか、こう思って、大塚さんは戸棚の中までも開けて見た。・・・<島崎藤村「刺繍」青空文庫>
  20. ・・・そしてなんとなく不安で落ち着き得ないといったようなふうで、私のそばへ来るかと思うと縁側に出たり、また納戸の中に何物かを捜すようにさまよっては哀れな鳴き声を立てていた。 かつて経験のない私にも、このいつにない三毛の挙動の意味は明らかに直感・・・<寺田寅彦「子猫」青空文庫>
  21. ・・・しかしはるばる持って行くのがおっくうなので長い間納戸のすみに押し込んだままになっていた。子供もおしまいにはあきらめて蓄音機の事は忘れてしまったようであった。 ある日K君のうちへ遊びに行ったらヴィクトロラの上等のが求めてあって、それで種々・・・<寺田寅彦「蓄音機」青空文庫>
  22. ・・・地は納戸色、模様は薄き黄で、裸体の女神の像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草である。石壁の横には、大きな寝台が横わる。厚樫の心も透れと深く刻みつけたる葡萄と、葡萄の蔓と葡萄の葉が手足の触るる場所だけ光りを射返す。この寝台の端に二人の小児が見・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  23. ・・・彼プロレタリア作家は暗い納戸で寓話化されたソヴェト同盟を幻想に描くよりさきに、三次の事件を想起すべきであった。しかし彼は村の神社の集りへ出て、鉈をふった平次郎は念頭においたが、三次が集りに来ているかいないかさえ問題にしていない。 同時に・・・<宮本百合子「一連の非プロレタリア的作品」青空文庫>
  24. ・・・髪の下に、生え際のすんなりした低い額と、心持受け口の唇とがある。納戸の着物を着た肩があって、そこには肩あげがある。 目で見る現在の景色と断れ断れな過去の印象のジグザグが、すーっとレンズが過去に向って縮むにつれ、由子の心の中で統一した。・・・<宮本百合子「毛の指環」青空文庫>
  25. ・・・広告にはなくて、深い戸棚つきの納戸があったことは、すっかり我々を御機嫌にさせた。小林さん、金田さんに一日二日手伝って貰い、紀元節の日、半月前には、予想もしなかった引越しを行った。その日は土曜で、翌日が休である為、非常に好都合に行った。 ・・・<宮本百合子「又、家」青空文庫>
  26. ・・・伊藤は奥納戸役を勤めた切米取りである。四月二十六日に切腹した。介錯は河喜多八助がした。右田は大伴家の浪人で、忠利に知行百石で召し抱えられた。四月二十七日に自宅で切腹した。六十四歳である。松野右京の家隷田原勘兵衛が介錯した。野田は天草の家老野・・・<森鴎外「阿部一族」青空文庫>
  27. ・・・文吉も取って置いた花色の単物に御納戸小倉の帯を締めて、十手早縄を懐中した。 木賃宿の主人には礼金を遣り、摂津国屋へは挨拶に立ち寄って、九郎右衛門主従は六月二十八日の夜船で、伏見から津へ渡った。三十日に大暴風で阪の下に半日留められた外は、・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  28. ・・・ お霜の叫びに納戸からお留が出て来た。秋三は藁小屋から飛び出て来た。そして二人が安次の小屋へ馳けて行くと、お霜はそのまま自分の家へ馳けて帰って勘次に云った。「お前えらいこっちゃ。安次が死によった。折角お粥持っててやったのに、冷とうな・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  29. ・・・ その夜、納戸で父親と母親とは寝ながら相談した。「吉を下駄屋にさそう。」 最初にそう父親が言い出した。母親はただ黙ってきいていた。「道路に向いた小屋の壁をとって、そこで店を出さそう、それに村には下駄屋が一軒もないし。」 ・・・<横光利一「笑われた子」青空文庫>