に‐あい〔‐あひ〕【似合(い)】例文一覧 23件

  1. ・・・ 声をかけたのは三十前後の、眼の鋭い、口髭の不似合な、長顔の男だった。農民の間で長顔の男を見るのは、豚の中で馬の顔を見るようなものだった。彼れの心は緊張しながらもその男の顔を珍らしげに見入らない訳には行かなかった。彼れは辞儀一つしなかっ・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・――気の籠もった優しい眉の両方を、懐紙でひたと隠して、大きな瞳でじっと視て、「……似合いますか。」 と、莞爾した歯が黒い。と、莞爾しながら、褄を合わせざまにすっくりと立った。顔が鴨居に、すらすらと丈が伸びた。 境は胸が飛んで、腰・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  3. ・・・ 女は袂の端を掴み、新派の女優めいた恰好で、ハンカチを振った。似合いの夫婦に見えた。<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  4. ・・・鉄ちゃんは須田町の近くの魚屋の伜で十九歳、浅黒い顔に角刈りが似合い、痩せぎすの体つきもどこかいなせであった。 やがて安子と鉄ちゃんの仲が怪しいという噂が両親の耳にはいった。縁日の夜、不動様の暗がりで抱き合っていたという者もあり、鉄ちゃん・・・<織田作之助「妖婦」青空文庫>
  5. ・・・それにしてはなんという不似合いな客であったろう。私はただ村の郵便局まで来て疲れたというばかりの人間に過ぎないのだった。 日はもう傾いていた。私には何の感想もなかった。ただ私の疲労をまぎらしてゆく快い自動車の動揺ばかりがあった。村の人が背・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  6. ・・・この先生に不似合いなことを時々言ってそうして自分でこんなふうな笑いかたをするのがこの人の癖の一つである。『そううまくは行かないサ、ハハハハ、イヤそんなら行って来ようか、ご苦労な話だ、』と江藤が立ち上がろうとする時、生垣の外で、『昨夜・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  7. ・・・しかし親戚や友人が止めたように、八年前の彼は二十に成るおせんを妻にして、そう不似合な夫婦がそこへ出来上るとも思っていなかった。活気と、精力と、無限の欲望とは、今だに彼を壮年のように思わせている。まして八年前。その証拠には、おせんと並んで歩い・・・<島崎藤村「刺繍」青空文庫>
  8. ・・・何せ、あれの嫁は、あれには不似合いなほどの美人なんだから、必ず家へ帰る。そこで、あなたに一つお願いがある。あなたは、あの夫婦の媒妁人だった筈だし、また、かねてからあの夫婦は、あなたを非常に尊敬している。いや、ひやかしているのでは、ありません・・・<太宰治「嘘」青空文庫>
  9. ・・・羽織も着物も同じ矢絣模様の銘仙で、うすあかい外国製の布切のショオルが、不似合いに大きくその上半身を覆っていた。質屋の少し手前で夫婦はわかれた。 真昼の荻窪の駅には、ひそひそ人が出はいりしていた。嘉七は、駅のまえにだまって立って煙草をふか・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  10. ・・・魔法使いに、白線ついた制帽は不似合いと思ったのかも知れません。「オペラの怪人」という綽名を友人達から貰って、顔をしかめ、けれども内心まんざらでもないのでした。もう一枚のマントはプリンス・オヴ・ウエルスの、海軍将校としてのあの御姿を美しいと思・・・<太宰治「おしゃれ童子」青空文庫>
  11. ・・・これはことしのお正月にK君と二人で、共に紋服を着て、井伏さんのお留守宅へ御年始にあがって、ちょうどI君も国民服を着て御年始に来ていましたが、その時、I君が私たち二人を庭先に立たせて撮影した物です。似合いませんね。へんですね。K君はともかく、・・・<太宰治「小さいアルバム」青空文庫>
  12. ・・・もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、・・・<太宰治「走れメロス」青空文庫>
  13. ・・・それに、ごらんのとおりの、おたふくで、いい加減おばあさんですし、こちらこそ、なんのいいところも無い。似合いの夫婦かも知れない。どうせ、私は不仕合せなのだ。断って、亡父の恩人と気まずくなるよりはと、だんだん気持が傾いて、それにお恥ずかしいこと・・・<太宰治「皮膚と心」青空文庫>
  14. ・・・とかいた、あたりには不似合な、大きな看板のあるところへでた。「おう、青井」 むこうから、三吉をよぶ声がして、つづけてわらい声がいった。「どうだったい、きょうは?」 路地にひらいた三尺縁で、長野と深水が焼酎をのんでいた。長野は・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  15. ・・・心理学者にも似合しからぬ事だ。「しかしそれだけじゃないのだからな。精細なる会計報告が済むと、今度は翌日の御菜について綿密な指揮を仰ぐのだから弱る」「見計らって調理えろと云えば好いじゃないか」「ところが当人見計らうだけに、御菜に関・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  16. ・・・智者の所業にははなはだもって不似合なり。いわゆる智者にして愚を働くものというべし。 ひっきょう、この水掛論は、元素の異同より生じたるものに非ず。その原因は、近く地位の異同より心情の偏重を生ずるによりて来りしものなれども、今日の有様にては・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  17. ・・・ たとえば日本士族の帯刀はおのずからその士人の心を殺伐に導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりと・・・<福沢諭吉「政事と教育と分離すべし」青空文庫>
  18. ・・・花柳の美、愛すべし、糟糠の老大、厭うに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉の身に不似合なり。長兄愚にして、我れ富貴なりといえども、弟にして兄を凌辱するは、我が金玉の身によくすべからず。ここに節を屈して権勢に走れば名利を得べし・・・<福沢諭吉「徳育如何」青空文庫>
  19. ・・・ 古来の習慣に従えば、凡そこの種の人は遁世出家して死者の菩提を弔うの例もあれども、今の世間の風潮にて出家落飾も不似合とならば、ただその身を社会の暗処に隠してその生活を質素にし、一切万事控目にして世間の耳目に触れざるの覚悟こそ本意なれ。・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  20. ・・・なんだか、そんな、こじつけみたいな、あてこすりみたいな、芝居のせりふのようなものは、一向あなたに似合いませんよ。」ところがラクシャン第一子は案外に怒り出しもしなかった。きらきら光って大声で笑って笑って笑ってしまった。その・・・<宮沢賢治「楢ノ木大学士の野宿」青空文庫>
  21. ・・・夫婦は相談して、おしまの遠縁の娘とその娘に似合の若者とを養子にした。夫婦養子をしたわけだ。元気者ではあるが年とった者ばかりの家へ、極若い男は兵役前という夫婦が加ったから、生活は華やかになった。勇吉もおしまも、老年の平和な幸福が数年先に両手を・・・<宮本百合子「田舎風なヒューモレスク」青空文庫>
  22. ・・・色がない写真だけれど、いかにも田舎の町の大通り、パリへ続く郊外の大通りの落葉した時節の明るさ、冬のやわらかい陽の明るさ、が雰囲気によく出ていて、傍に插した山茶花の花とよく似合います。この次もう一枚出来たらお送りします。山茶花といえば大抵ほん・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  23. ・・・この日は白い海軍中尉の服装で短剣をつけている彼の姿は、前より幾らか大人に見えたが、それでも中尉の肩章はまだ栖方に似合ってはいなかった。「君はいままで、危いことが度度あったでしょう。例えば、今思ってもぞっとするというようなことで、運よく生・・・<横光利一「微笑」青空文庫>