にが‐わらい〔‐わらひ〕【苦笑い】例文一覧 22件

  1. ・・・また何かと尋ねて見ても、数馬は苦笑いを致すよりほかに返事を致さぬのでございまする。わたくしはやむを得ませぬゆえ、無礼をされた覚えもなければ詫びられる覚えもなおさらないと、こう数馬に答えました。すると数馬も得心したように、では思違いだったかも・・・<芥川竜之介「三右衛門の罪」青空文庫>
  2. ・・・フランシスはやがて自分の纏ったマントや手に持つ笏に気がつくと、甫めて今まで耽っていた歓楽の想出の糸口が見つかったように苦笑いをした。「よく飲んで騒いだもんだ。そうだ、私は新妻の事を考えている。しかし私が貰おうとする妻は君らには想像も出来・・・<有島武郎「クララの出家」青空文庫>
  3. ・・・と俯向いて苦笑い。「見たが可い、ベソちゃんや。」 と思わず軽く手をたたく。「だって、だって、何だ、」 と奴は口惜しそうな顔色で、「己ぐらいな年紀で、鮪船の漕げる奴は沢山ねえぜ。 ここいらの鼻垂しは、よう磯だって泳げよ・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  4. ・・・ やがて、つくづくと見て苦笑い、「ほほう生れかわって娑婆へ出たから、争われねえ、島田の姉さんがむつぎにくるまった形になった、はははは、縫上げをするように腕をこうぐいと遣らかすだ、そう、そうだ、そこで坐った、と、何ともないか。」「・・・<泉鏡花「葛飾砂子」青空文庫>
  5. ・・・ その蜘蛛の巣を見て、通掛りのものが、苦笑いしながら、声を懸けると、……「違います。」 と鼻ぐるみ頭を掉って、「さとからじゃ、ははん。」と、ぽんと鼻を鳴らすような咳払をする。此奴が取澄ましていかにも高慢で、且つ翁寂びる。争わ・・・<泉鏡花「茸の舞姫」青空文庫>
  6. ・・・お町の後から、外套氏は苦笑いをしながら、その蓮根問屋の土間へ追い続いて、「決して威す気で言ったんじゃあない。――はじめは蛇かと思って、ぞっとしたっけ。」 椎の樹婆叉の話を聞くうちに、ふと見ると、天井の車麩に搦んで、ちょろちょろと首と・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  7. ・・・ とむッつりした料理番は、苦笑いもせず、またコッツンと煙管を払く。「それだもんですから、伊那の贔屓をしますの――木曾で唄うのは違いますが。――(伊那や高遠へ積み出す米は、みんな木曾路――と言いますの。」「さあ……それはどっちにし・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  8. ・・・と挨拶すると、沼南は苦笑いして、「この家も建築中から抵当に入ってるんです」といった。何の必要もないのにそういう世帯の繰廻しを誰にでも吹聴するのが沼南の一癖であった。その後沼南昵近のものに訊くと、なるほど、抵当に入ってるのはホントウだが、これ・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  9. ・・・といつもにもないことを言う。「どうかしたんですか。」と私も怪しむと、「なあにね、いろんな事を考えこんでしまって、変な気持になったのさ。」と苦笑いをして、「君は幾歳だったっけね。」「十九です。」「じゃ来年は二十だ。私なんか・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  10. ・・・と男は思わず目を見張って顔を見つめたが、苦笑いをして、「笑談だろう?」「あら、本当だよ。去年の秋嫁いて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱり佃にいた魚屋の吉新、吉田新造って……」「吉田新造! 知ってるとも。じゃお光さん、本当か・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  11. ・・・ 二郎が苦笑いしてこの将軍の大笑に応え奉りしさまぞおかしかりける。将軍の御齢は三十を一つも越えたもうか、二郎に比ぶれば四つばかりの兄上と見奉りぬ。神戸なる某商館の立者とはかねてひそかに聞き込みいたれど、かくまでにドル臭き方とは思わざりし・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  12. ・・・青年は童の言うがまにまにこの驢馬にまたがれど常に苦笑いせり。青年には童がこの兎馬を愛ずるにも増して愛で慈しむたくましき犬あればにや。 庭を貫く流れは門の前を通ずる路を横ぎりて直ちに林に入り、林を出ずれば土地にわかにくぼみて一軒の茅屋その・・・<国木田独歩「わかれ」青空文庫>
  13. ・・・と男は苦笑いをした。「いいかね。僕の言ったことを君は守らんければ不可よ。尺八を買わないうちに食って了っては不可よ。」「はい食べません、食べません――決して、食べません。」 と、男は言葉に力を入れて、堅く堅く誓うように答えた。・・・<島崎藤村「朝飯」青空文庫>
  14. ・・・ ディオニシアスもこのときばかりはくすくす苦笑いをしました。そして、相手の正直なことを褒める印に、そのまま解放してやりました。       二 しかし、ディオニシアスについて伝えられているお話の中で、一ばん人を感動させる・・・<鈴木三重吉「デイモンとピシアス」青空文庫>
  15. ・・・それから、ご亭主も、仕方無さそうに苦笑いして、「いや、まったく、笑い事では無いんだが、あまり呆れて、笑いたくもなります。じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばか・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  16. ・・・けれども重吉が苦笑いさえせずに控えていてくれたので、こっちもまじめに進行することができた。「元来男らしくないぜ。人をごまかして自分の得ばかり考えるなんて。まるで詐欺だ」「だって叔父さん、僕は病気なんかに、まだかかりゃしませんよ」と重・・・<夏目漱石「手紙」青空文庫>
  17. ・・・やむをえず苦笑いをすると向うでも苦笑いをする。これは理の当然だ。それから公園へでも行くと角兵衛獅子に網を被せたような女がぞろぞろ歩行いている。その中には男もいる。職人もいる。感心に大概は日本の奏任官以上の服装をしている。この国では衣服では人・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  18. ・・・と、お熊が笑いながら出した紙入れを、善吉は苦笑いをしながら胸もあらわな寝衣の懐裡へ押し込んだ。「ちッとお臥るがよござんすよ」「もう夜が……明るくなッてるんだね」「なにあなた、まだ六時ですよ。八時ごろまでお臥ッて、一口召し上ッて、・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  19. ・・・ 私は、ははあ扇風機のことだなと思いながら、苦笑いをしてそこを通り過ぎようとしますと、給仕がちょっとこっちを向いて、いかにも申し訳ないというように眼をつぶって見せました。私はそれですっかり気分がよくなったのです。そして、どしどし階段を踏・・・<宮沢賢治「ポラーノの広場」青空文庫>
  20. ・・・母は苦笑いした。今思えば、その声も歌詞もキャバレーで唄われたようなものであったろう。更に思えば、当時父の持って来たレコードもどちらかと云えばごく通俗のものであったと考えられる。オペラのものやシムフォニーのまとまったものはなかったように思われ・・・<宮本百合子「きのうときょう」青空文庫>
  21. ・・・ せきは、薄い苦笑いを洩らした。いつか志津が遊びに来た時、「まあ、どうしたのあの上り口の下駄ったら、何人家内です、こちらさん」と云ったことがあった。するとうめが、とても声をひそめて伯母に説明してきかせた。「あの下駄はね、本当・・・<宮本百合子「街」青空文庫>
  22. ・・・顔には一種の苦笑いのような表情が現われている。この男は山椒大夫一家のものの言いつけを、神の託宣を聴くように聴く。そこで随分情けない、苛酷なことをもためらわずにする。しかし生得、人の悶え苦しんだり、泣き叫んだりするのを見たがりはしない。物事が・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>