にくみ【憎み/悪み】例文一覧 30件

  1. ・・・垂死の母を見て来た癖に、もう内心ははしゃいでいる彼自身の軽薄を憎みながら、………        六  それでも店の二階の蒲団に、慎太郎が体を横たえたのは、その夜の十二時近くだった。彼は叔母の言葉通り、実際旅疲れを感じていた。・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・あるいは、もしそれまでの己があの女を愛していなかったとしたら、あの日から己の心には新しい憎みが生じたと云ってもまた差支えない。そうして、ああ、今夜己はその己が愛していない女のために、己が憎んでいない男を殺そうと云うのではないか! それも・・・<芥川竜之介「袈裟と盛遠」青空文庫>
  3. ・・・ 保吉は次第に遠ざかる彼等の声を憎み憎み、いつかまた彼の足もとへ下りた無数の鳩にも目をやらずに、永い間啜り泣きをやめなかった。 保吉は爾来この「お母さん」を全然川島の発明したうそとばかり信じていた。ところがちょうど三年以前、上海へ上・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  4. ・・・彼は、愛も憎みも、乃至また性欲も忘れて、この象牙の山のような、巨大な乳房を見守った。そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い匂も忘れたのか、いつまでも凝固まったように動かなかった。――楊は、虱になって始めて、細君の肉体の美しさを、如実に観ずる事が・・・<芥川竜之介「女体」青空文庫>
  5. ・・・やはり愛し合う為に憎み合いながら。……が、僕はもう一度戦闘的精神を呼び起し、ウイスキイの酔いを感じたまま、前のホテルへ帰ることにした。 僕は又机に向い、「メリメエの書簡集」を読みつづけた。それは又いつの間にか僕に生活力を与えていた。しか・・・<芥川竜之介「歯車」青空文庫>
  6. ・・・とよく出来る大きな子が馬鹿にするような憎みきったような声で言って、動くまいとする僕をみんなで寄ってたかって二階に引張って行こうとしました。僕は出来るだけ行くまいとしたけれどもとうとう力まかせに引きずられて階子段を登らせられてしまいました。そ・・・<有島武郎「一房の葡萄」青空文庫>
  7. ・・・富の市を憎みて殺さむと思うことなかれというなり。ともすれば自殺せむと思うことなかれというなり。詮ずれば秀を忘れよというなり。その事をば、母上の御名にかけて誓えよと、常にミリヤアドのいえるなりき。 予は黙してうつむきぬ。「何もね、いま・・・<泉鏡花「誓之巻」青空文庫>
  8. ・・・ 妻は跡に残った新芸者――色は白いが、お多福――からその可哀そうな身の上ばなしを聴き、吉弥に対する憎みの反動として、その哀れな境遇に同情を寄せた。東京からわざわざやって来て、主人には気に入りそうな様子が見えないのであった。 この女か・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  9. ・・・ 私一個の考から云えば、人を愛するという事も、憎むという事も同じである。憎み切ってしまう事が出来れば、そこに何等かこの人生に対して強い執着のある事を意味する。残忍という事もどれ程人間というものが残忍であり得るか、残忍の限りを盟した時、眼・・・<小川未明「愛に就ての問題」青空文庫>
  10.  それは不思議な話であります。 あるところに、よく生徒をしかる教師がありました。また、ひじょうに物覚えの悪い生徒がありました。教師はその子供をたいへん憎みました。「こんなによく教えてやるのに、どうしてそれが覚えられないのか。」と・・・<小川未明「教師と子供」青空文庫>
  11. ・・・私達は、体験を経ないような事柄に対してはそう愛も感じなければ、またそう憎みをも感ずることが出来ない。もとより同感することも出来ないのであります。 親子の関係、夫妻の関係、友人の関係、また男女恋愛の関係、及び正義に対して抱く感情、美に対し・・・<小川未明「芸術は生動す」青空文庫>
  12. ・・・そして女というものの、そんなことにかけての、無神経さや残酷さを、今更のように憎み出した。しかしそれが外国で流行っているということについては、自分もなにかそんなことを、婦人雑誌か新聞かで読んでいたような気がした。―― 猫の手の化粧道具! ・・・<梶井基次郎「愛撫」青空文庫>
  13. ・・・私は憎みました。致命的にやっつけてやりたい気がしました。そして効果的に恥を与え得る言葉を捜しました。ややあって私はそれに成功することが出来ました。然しそれは効果的に過ぎた言葉でした。やっつけるばかりでなく、恐らくそのシャアシャアした婦人を暗・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  14. ・・・町の者母の無情を憎み残されし子をいや増してあわれがりぬ。かくて母の計あたりしとみえし。あらず、村々には寺あれど人々の慈悲には限あり。不憫なりとは語りあえど、まじめに引取りて末永く育てんというものなく、時には庭先の掃除など命じ人らしく扱うもの・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  15. ・・・彼は時代の悪を憎み、政治の曲を責め、教学の邪を討って、権力と抗争した。 人はあるいは彼はたましいの静謐なき荒々しき狂僧となすかも知れない。しかし彼のやさしき、美しき、礼ある心情はわれわれのすでに見てきた通りである。それにもかかわらず、何・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  16. ・・・役づいておりますれば、つまり出世の道も開けて、宜しい訳でしたが、どうも世の中というものはむずかしいもので、その人が良いから出世するという風には決っていないもので、かえって外の者の嫉みや憎みをも受けまして、そうして役を取上げられまする、そうす・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  17. ・・・市民たちは彼のいろいろな乱暴から、ディオニシアスを蛇のように憎み出しました。しかし、市民もほかの議政官も、彼の暴威に怖れて、だれ一人面と向って反抗することが出来ませんでした。 ディオニシアスには、市民たちが、すべて自分に対してどんな考え・・・<鈴木三重吉「デイモンとピシアス」青空文庫>
  18. ・・・して、或るそそっかしい学者が、これこそは人間の骨だ、人間は昔、こんな醜い姿をして這って歩いていたのだ、恥を知れ、などと言って学界の紳士たちをおどかしたので、その石は大変有名になりまして、貴婦人はこれを憎み、醜男は喝采し、宗教家は狼狽し、牛太・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  19. ・・・愛しています、というこの言葉は、言葉にすれば、なんとまあ白々しく、きざっぽい、もどかしい言葉なのか、私は、言葉を憎みます。 愛は、愛は、捕縛できない宇宙的な、いいえ先験的なヌウメンです。どんな素晴らしいフェノメンも愛のほんの一部分の註釈・・・<太宰治「古典風」青空文庫>
  20. ・・・つまらんものを書いて、佳作だの何だのと、軽薄におだてられたいばかりに、身内の者の寿命をちぢめるとは、憎みても余りある極悪人ではないか。死ね! 親が無くても子は育つ、という。私の場合、親が有るから子は育たぬのだ。親が、子供の貯金をさえ使い・・・<太宰治「父」青空文庫>
  21. ・・・世人がこぞって私を憎み嘲笑していても、その先輩作家だけは、始終かわらず私の人間をひそかに支持して下さった。私は、その貴い信頼にも報いなければならぬ。やがて、「姥捨」という作品が出来た。Hと水上温泉へ死にに行った時の事を、正直に書いた。之は、・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  22. ・・・さき子さんも、以後は行いをつつしみ、犯した罪の万分の一にても償い、深く社会に陳謝するよう、社会の人、その罪を憎みてその人を憎まず。水野三郎。 これが、手紙の全文でございます。私は、水野さんが、もともと、お金持の育ちだったことを忘れていま・・・<太宰治「燈籠」青空文庫>
  23. ・・・一昨年始めてイタリアのお寺でこの懺悔をしているところを見ていやな感じがしてから、この仕掛けを見るごとに僧侶を憎み信徒をかわいく思います。奥の廊下の扉のわきに「宝蔵見物のかたはここで番人をお待ちくだされたし」という張り札がしてある。その前で坊・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  24. ・・・モオリスはその主義として芸術の専門的偏狭を憎みあくまでその一般的鑑賞と実用とを欲したために、時にはかえって極端過激なる議論をしているが、しかしその言う処は敢て英国のみならず、殊にわが日本の社会なぞに対してはこの上もない教訓として聴かれべきも・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  25. ・・・それまでは、何処やら君の虚偽を感じてはいてもはっきり君を憎むという心もなかったが、その時から僕は君を憎み始めて、君から遠ざかるようにした。その後僕は君と交っている間、君の毒気に中てられて死んでいた心を振い起して高い望を抱いたのだが、そのお蔭・・・<著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外「痴人と死と」青空文庫>
  26. ・・・人間らしくないすべての事情、人間らしくないすべての理窟とすべての欺瞞を憎みます。愛という感情が真実わたしたちの心に働いているとき、どうして漫画のように肥った両手をあわせて膝をつき、存在しもしない何かに向って上眼をつかっていられましょう。この・・・<宮本百合子「愛」青空文庫>
  27. ・・・ 頭を下げても下げても、下げ切れない程、あらたかな人の裡には、憎んでも憎み切れない或物が倶に生きて居ります。 苦笑するような心持は、十や十一の子供には分らない心持ではございますまいか。 丁度、雨にそぼぬれた獣物が、一つところにじ・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  28. ・・・すべての人民が自分たちが主人となっての新生活を建設してゆくにふさわしい、自分たちの努力、よろこび、悲しみ、憎み、慰安を語る民主の文学が、生れ出るべき時期になった。古い純文学は、現実生活から特殊な文学的世界へ遊離してしまっていた薄弱さから旧特・・・<宮本百合子「商売は道によってかしこし」青空文庫>
  29. ・・・相手のひとにとっては、私がそうやって書く字の形までまるきり変ってしまったほど、もがき苦しむわけがどうしても本質で理解されないのだし、私としては自分の心のうちにあるその人への愛と憎みとの間で揉みぬかれる始末であった。 そんな苦しい或る日、・・・<宮本百合子「青春」青空文庫>
  30. ・・・真実は根もない憎みや恐怖や、最大の名薬「夢中」を撒くと、同類の胸も平気で刺すから愉快なものだ。ヴィンダー さてもう一息だ。俺の力の偉大さは、小さなものには著わされぬ。あの壮麗らしく人工の結晶を積みあげた街をつぶして呉れよう。斯う三叉でく・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>