にこり例文一覧 25件

  1. ・・・すると彼はにこりともせず、きわめてむぞうさにこう言うのだった。「なに、あの信号は始終でしたよ。それは号外にも出ていたのは日本海海戦の時だけですが」     三八 柔術 僕は中学で柔術を習った。それからまた浜町河岸の大竹と・・・<芥川竜之介「追憶」青空文庫>
  2. ・・・省作は玉から連想して、おとよさんの事を思い出し、穏やかな顔に、にこりと笑みを動かした。「あるある、一人ある。おとよさんが一人ある」 省作はこうひとり言にいって、竜の髭の玉を三つ四つ手に採った。手のひらに載せてみて、しみじみとその美し・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  3. ・・・ 女はにこりともせずにそう言うと、ぎろりと眇眼をあげて穴のあくほど私を見凝めた。 私は女より一足先に宿に帰り、湯殿へ行った。すると、いつの間に帰っていたのか、隣室の男がさきに湯殿にはいっていた。 ごろりとタイルの上に仰向けに寝そ・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  4. ・・・「維康いう人は沢山いたはります」にこりともせず言った。「維康柳吉や」もう蝶子の折檻を観念しているようだった。「維康柳吉という人はここには用のない人だす。今ごろどこぞで散財していやはりまっしゃろ」となおも苛めにかかったが、近所の体裁もあったか・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  5. ・・・ 男はひとりごとのように、にこりともせず言った。 その洒落がわからず、器用に煙草の輪を吹き出すことで、虚勢を張っていると、「――君はいくつや」 と、きかれた。「十八や。十八で煙草吸うたらいかんのか」 先廻りして食って・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  6. ・・・そこへ行ったら佐吉さんと、もう一人江島という青年が、にこりともせず大不機嫌で酒を飲んで居ました。江島さんとはその前にも二三度遊んだことがありましたが、佐吉さんと同じで、お金持の家に育ち、それが不平で、何もせずに、ただ世を怒ってばかりいる青年・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  7. ・・・が新潮社から出版せられて、私はその頃もう高等学校にはいっていたろうか、何でも夏休みで、私は故郷の生家でそれを読み、また、その短篇集の巻頭の著者近影に依って、井伏さんの渋くてこわくて、にこりともしない風貌にはじめて接し、やはり私のかねて思いは・・・<太宰治「『井伏鱒二選集』後記」青空文庫>
  8. ・・・私は、にこりともせずに応じた。「私も、いまは落ちぶれました」「とんでもない」お巡りは、なおも楽しげに笑いながら、「小説をお書きなさるんだったら、それはなかなか出世です」 私は苦笑した。「ところで」とお巡りは少し声をひくめ、「お慶・・・<太宰治「黄金風景」青空文庫>
  9. ・・・宿の番頭は、妙な顔をしてにこりともせず、下駄をつっかけて出て行った。 私は部屋で先生と黙って酒をくみかわしていた。あまりの緊張にお互い不機嫌になり、そっぽを向きたいような気持で、黙ってただお酒ばかり飲んでいたのである。襖があいて実直そう・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  10. ・・・ 小坂氏は部屋へあがって、汚い畳にぴたりと両手をつき、にこりともせず、厳粛な挨拶をした。「大隅君から、こんな電報がまいりましてね、」私は、いまは、もう、なんでもぶちまけて相談するより他は無いと思った。「○オクッタとありますが、この○・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  11. ・・・狐の女中は、にこりともせず、あれは近所のお百姓の娘さんで毎日あそこで宿の浴衣や蒲団を繕っているのです、いいひとが出征したので此頃さびしそうですね、と感動の無い口調で言って、私の顔をまっすぐに見つめて、こんどは、あの人に眼をつけたのですか、と・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  12. ・・・墓の掃除などして、大学の卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、ひとを憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑・・・<太宰治「家庭の幸福」青空文庫>
  13. ・・・女中さんは、にこりともせず、やはり、まじめな顔をしている。もとからちゃんとしたまじめな女中さんだったし、まさか、私をからかっているのでもなかろう。「さあ、」私も、まじめに考えないわけにいかなくなった。「無いこともないだろうけど、僕なんか・・・<太宰治「鴎」青空文庫>
  14. ・・・木の根に躓いて顛倒しそうになっても、にこりともせず、そのまま、つんのめるような姿勢のままで、走りつづけた。いつもは、こんな草原は、蛇がいそうな故を以て、絶対に避けて通ることにしているのであるが、いまは蛇に食い附かれたって構わぬ、どうせ直ぐに・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  15. ・・・ しかし、固パンはにこりともせず、「そりゃ、そう言ってもかまわないと思います。もっとも、いまの自由主義者というのは、タイプが少し違っているようですが、フランスの十七世紀のリベルタンってやつは、まあたいていそんなものだったのです。花川・・・<太宰治「十五年間」青空文庫>
  16. ・・・何か、私あての郵便が来たのだろうと思って、にこりともせず、だまって郵便屋へ手を差し出した。「いいえ、きょうは、郵便来ていません。」そう言って微笑む郵便屋の鼻の先には、雨のしずくが光っていた。二十二、三の頬の赤い青年である。可愛い顔をして・・・<太宰治「新樹の言葉」青空文庫>
  17. ・・・ にこりともせず、まじめに講義したい気持ちは、ある。けれども、多少、てれる、この感触は、いつわることができない。ゲシュタルト心理学や、全体主義哲学に就いて、知っているところだけでも講義しなければならなかった。これだけでは、読者、なんのこ・・・<太宰治「多頭蛇哲学」青空文庫>
  18. ・・・着で一つも信頼の出来ぬ事、詩なんかではとても生活して行かれぬから、亭主をこれから鉄道に勤めさせようと思っている事、悪い詩の友だちがついているから亭主はこのままでは、ならず者になるばかりだろうという事、にこりともせず乱れた髪を掻きあげ掻きあげ・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  19. ・・・帳場の叔父さんの真面目くさった文字で、歌舞の部、誰、誰、と五人の芸者の名前が書き並べられて、謝礼いくら、いくらと、にこりともせず計算されていた。私は五人の名前を見て、一ばんおしまいから数えて二人めの、浪、というのが、それだと思った。それにち・・・<太宰治「デカダン抗議」青空文庫>
  20. ・・・女将は、笠井さんを見覚えていない様子であった。「お願いします。」笠井さんは、気弱くあいそ笑いして、軽くお辞儀をした。「二十八番へ。」女将は、にこりともせず、そう小声で、女中に命じた。「はい。」小さい、十五、六の女中が立ち上った。・・・<太宰治「八十八夜」青空文庫>
  21. ・・・少からず、てれくさい思いであったが、暴虎馮河というような、すさんだ勢いで、菊屋へ押しかけ、にこりともせず酒をたのんだ。 その夜、僕たちはおかみさんから意外の厚遇を賜った。困るわねえ、などと言いながらも、そっとお銚子をかえてくれる。われら・・・<太宰治「未帰還の友に」青空文庫>
  22. ・・・やはり、自転車に乗って三鷹郵便局にやって来て、窓口を間違ったり等して顔から汗をだらだら流し、にこりともせず、ただ狼狽しているのである。 私はそんな男女川の姿を眺め、ああ偉いやつだといつも思う。よっぽど出来た人である。必ずや誠実な男だ。・・・<太宰治「男女川と羽左衛門」青空文庫>
  23. ・・・ とにこりともせず、そう言った。 はてな? とも思ったが、私は笑って、「なんですか? どうしたのです。あぐらになさいませんか、あぐらに。」 と言ったら、彼は立ち上り、「ちょっと、手を洗わせて下さい。それから、あなたも、手・・・<太宰治「女神」青空文庫>
  24. ・・・という工合いの何一つ面白くも、可笑しくもない冗談がいつまでも、ペラペラと続き、私は日本の酔客のユウモア感覚の欠如に、いまさらながらうんざりして、どんなにその紳士と主人が笑い合っても、こちらは、にこりともせず酒を飲み、屋台の傍をとおる師走ちか・・・<太宰治「メリイクリスマス」青空文庫>
  25. ・・・ じゃ、私の顔が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいって、そら、そこに、写ってるじゃありませんかと、にこりと笑って見せた。自分は黙って、顔を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思った。 しばらくして、女がまたこう云っ・・・<夏目漱石「夢十夜」青空文庫>