ニッケル【nickel】例文一覧 30件

  1. ・・・保吉はニッケルの時計を出し、そのニッケルの蓋の上に映った彼自身の顔へ目を注いだ。いつも平常心を失ったなと思うと、厭でも鏡中の彼自身を見るのは十年来の彼の習慣である。もっともニッケルの時計の蓋は正確に顔を映すはずはない。小さい円の中の彼の顔は・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  2. ・・・冷かし数の子の数には漏れず、格子から降るという長い煙草に縁のある、煙草の脂留、新発明螺旋仕懸ニッケル製の、巻莨の吸口を売る、気軽な人物。 自から称して技師と云う。 で、衆を立たせて、使用法を弁ずる時は、こんな軽々しい態度のものではな・・・<泉鏡花「露肆」青空文庫>
  3. ・・・太きニッケル製の時計の紐がだらりとあり。村越 さあ、どうぞ。七左 御免、真平御免。腰を屈め、摺足にて、撫子の前を通り、すすむる蒲団の座に、がっきと着く。撫子 ようおいで遊ばしました。七左 ははっ、奥さん。(と・・・<泉鏡花「錦染滝白糸」青空文庫>
  4. ・・・ お姉さんは、ニッケル製の子供持ちのを買ってきてくださいました。良ちゃんは、喜んで、「どうも、ありがとう。」と、いって、お姉さんにお礼をいいました。そして、それをさっそく洋服のポケットに差して、お友だちに見せようと遊びに出ました。・・・<小川未明「小さな弟、良ちゃん」青空文庫>
  5. ・・・といって、乙は雪の上に落ちていたニッケル製のハモニカを拾い上げました。それはいつか太郎が吹いているのを見て覚えがあるのでした。「どうして、こんなところに落ちていたろうね。」と、丙がいいました。「きっと太郎は海のあっちへいって・・・<小川未明「雪の国と太郎」青空文庫>
  6. ・・・彼は卓のしたのニッケルの煙草入から煙草を一本つまみだし、おちついて吸いはじめた。「ほんとうは私の田舎からの仕送りがあるのです。いいえ。私は女房をときどきかえるのがほんとうだと思うね。あなた。箪笥から鏡台まで、みんな私のものです。女房は着のみ・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  7. ・・・いま、壱唱、としたためて、まさしく、奇蹟あらわれました。ニッケル小型五銭だまくらいの豆スポット。朝日が、いまだあけ放たぬ雨戸の、釘穴をくぐって、ちょうど、この、「壱唱」の壱の字へ、さっと光を投入したのだ。奇蹟だ、奇蹟だ、握手、ばんざい。ばか・・・<太宰治「二十世紀旗手」青空文庫>
  8. ・・・薄ぎたないかび臭い場面などはどこにも見られないで、言わば白いエナメルとニッケルの光沢とが全編の基調をなしているようである。どうもこういうのが近ごろのアメリカ映画の一つの定型であるらしい。たとえば「白衣の騎士」などもやはり同じ定型に属するもの・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  9. ・・・例えば、当時流行した紫色鉛筆の端に多分装飾のつもりで嵌められてあったニッケルの帽子のようなものを取外してそれをシャーレの水面に浮かべ、そうしてそれをスフェロメーターの螺旋の尖端で押し下げて行って沈没させ、その結果から曲りなりに表面張力を算出・・・<寺田寅彦「科学に志す人へ」青空文庫>
  10. ・・・これに反して日本出来のは見掛けのニッケル鍍金などに無用な骨を折って、使用の方からは根本的な、油の漏れないという事の注意さえ忘れている。 ただアメリカ製のこの文化的ランプには、少なくも自分にとっては、一つ欠けたものがある。それを何と名づけ・・・<寺田寅彦「石油ランプ」青空文庫>
  11. ・・・ほんとうなら白金か何か酸化しない金属を付けておくべき接触点がニッケルぐらいでできているので、少し火花が出るとすぐに電気を通さなくなるらしい。時々そこをゴリゴリすり合わせるとうまく鳴るが、毎日忘れずにそれをやるのはやっかいである。これはいった・・・<寺田寅彦「断水の日」青空文庫>
  12. ・・・ 教場へはいると、まずチョッキのかくしから、鎖も何もつかないニッケル側の時計を出してそっと机の片すみへのせてから講義をはじめた。何か少し込み入った事について会心の説明をするときには、人さし指を伸ばして鼻柱の上へ少しはすかいに押しつける癖・・・<寺田寅彦「夏目漱石先生の追憶」青空文庫>
  13. ・・・例えば普通金属中で最も磁石に感じやすいものは鉄とニッケルだが、不思議な事には鉄を七十七、ニッケルを二十三の割合に交ぜて作った合金は常温ではほとんど磁石に感じない。ハイカラ同志が結婚して急に世帯染みたという訳でもあるまいが、とにかくこの不思議・・・<寺田寅彦「話の種」青空文庫>
  14. ・・・西日が窓越しに看護婦の白衣と車の上のニッケルに直射する。見る目が痛い。手術される人はそれがなお痛いことであろう。 病院で手術した患者の血や、解剖学教室で屍体解剖をした学生の手洗水が、下水を通して不忍池に流れ込み、そこの蓮根を肥やすのだと・・・<寺田寅彦「病院風景」青空文庫>
  15. ・・・円滑な竹の肌と、ニッケルめっきの鋏の柄とを縛り合わせるのはあまり容易ではなかった。 ぶらぶらする竿の先を、ねらいを定めて虫のほうへ持って行った。そして開いた鋏の刃の間に虫の袋の口に近い所を食い込ませておいてそっと下から突き上げると案外に・・・<寺田寅彦「簔虫と蜘蛛」青空文庫>
  16. ・・・私は今ここにニッケルの時計しか持っておらぬ。高尚な意味で云ったら芸妓よりも私の方が人のためにする事が多くはないだろうかという疑もあるが、どうも芸妓ほど人の気に入らない事もまたたしからしい。つまり芸妓は有徳な人だからああ云う贅沢ができる、いく・・・<夏目漱石「道楽と職業」青空文庫>
  17. ・・・これは寝過したかと思って枕の下から例のニッケルの時計を引きずり出して見るとまだ七時二十分だ。まだ第一の銅鑼の鳴る時刻でない。起きたって仕方がないが別にねむくもない。そこでぐるりと壁の方から寝返りをして窓の方を見てやった。窓の両側から申訳のた・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  18. ・・・ 一とうしょうは 白金メタル 二とうしょうは きんいろメタル 三とうしょうは すいぎんメタル 四とうしょうは ニッケルメタル 五とうしょうは とたんのメタル 六とうしょうは にせがねメタル 七とうしょうは なまり・・・<宮沢賢治「かしわばやしの夜」青空文庫>
  19. ・・・「これはアメリカ製でホックスキャッチャーと云います。ニッケル鍍金でこんなにぴかぴか光っています。ここの環の所へ足を入れるとピチンと環がしまって、もうとれなくなるのです。もちろんこの器械は鎖か何かで太い木にしばり付けてありますから、実際一・・・<宮沢賢治「茨海小学校」青空文庫>
  20. ・・・汽車が止るとニッケル・やかんやブリキ・やかんや時には湯呑一つ持ってプラットフォームを何処へか駈けてゆく多勢の男を。茶・急須・砂糖・コップ・匙。それをもっているのはСССР市民だけではない。我々だってもっている。 今日はコルホーズの大きい・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  21. ・・・鉄、ニッケル、ジュラルミン等の原鉱を多量に生産することが分ったそのためにイタリーは附近の土民との間に砲火を交えることを敢て辞さない。そして、外国の新聞はこの戦闘行為の性質を解剖して、その背後の勢力を考えるとこの白沙漠に於ける戦闘はスペインの・・・<宮本百合子「イタリー芸術に在る一つの問題」青空文庫>
  22. ・・・ 細いニッケル鎖の首輪が光った。そして、睫毛が長い、というような眼付で凝っとこちらを見ている。 すこし行ってもう一度ふりかえったら、コリーはまだそこにいて、同じような姿勢のままこちらを凝っと見ているのであった。〔一九三九年十―十・・・<宮本百合子「犬三態」青空文庫>
  23. ・・・テーブルの上にはニッケルの浮模様のある丸いランプが明るく灯っていて、雨戸はすっかり開いていた。母は外国にいる父へやるために、細筆で、雁皮の綴じたのに手紙を書いている。私は眠いような、ランプが大変明るくていい気持のような工合でぼんやりテーブル・・・<宮本百合子「からたち」青空文庫>
  24. ・・・ハンドレッド・ベスト・ホームソングスというような厚い四角い譜ももって来た。ニッケルの大きい朝顔のラッパがついた蓄音器も木箱から出て来た。柿の白い花が雨の中に浮いていたことを覚えているから、多分その翌年の初夏ごろのことであったろう。父は裏庭に・・・<宮本百合子「きのうときょう」青空文庫>
  25. ・・・そのために、吸いもせずにくたくた古くなったバットを二本、いつもニッケル・ケースに入れてもっているのであった。「チッ! いけすかない!」 空巣の加担をし※品を質屋へ持って行って入れられている五十婆さんが舌うちした。「あたし、世の中・・・<宮本百合子「刻々」青空文庫>
  26. ・・・正面に白樺薪で沸かすニッケルの大湯沸しが立っている。テーブルがある。まだ洗われない皿がそこに山と積んである。あたりは小ざっぱりしているがそれ等の皿の上をのぼったり下りたりして蠅がうんと這っていた。蠅は、電燈の下で皿がうごめくように黒くしずか・・・<宮本百合子「子供・子供・子供のモスクワ」青空文庫>
  27. ・・・舞台の赤布をかけた長テーブルの中央に、ニッケル・ベルを前にして、もう相当年配の静かな横顔の女議長がうつむいて何か書きつけている。左右、うしろ側の椅子に並んでるのも八割は党員らしい女だ。テーブルの端っこで速記してるコムソモールカがある。レーニ・・・<宮本百合子「三月八日は女の日だ」青空文庫>
  28. ・・・逓信省で車掌に買って渡す時計だとかで、頗る大きいニッケル時計なのである。針はいつもの通り、きちんと六時を指している。「おい。戸を開けんか。」 女中が手を拭き拭き出て来て、雨戸を繰り開ける。外は相変らず、灰色の空から細かい雨が降ってい・・・<森鴎外「あそび」青空文庫>
  29. ・・・ そこへ雪が橢円形のニッケル盆に香茶の道具を載せて持って来た。そして小さい卓を煖炉の前へ運んで、その上に盆を置いて、綾小路の方を見ぬようにしてちょいと見て、そっと部屋を出て行った。何か言われはしないだろうか。言えば又恥かしいような事を言・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  30. ・・・そこは伯母の家で、竹筒を立てた先端に、ニッケル製の油壺を置いたランプが数台部屋の隅に並べてあった。その下で、紫や紅の縮緬の袱紗を帯から三角形に垂らした娘たちが、敷居や畳の条目を見詰めながら、濃茶の泡の耀いている大きな鉢を私の前に運んで来てく・・・<横光利一「洋灯」青空文庫>