にっこり例文一覧 29件

  1. ・・・また女がにっこりする。と思うと見えなくなる。跡はただ前後左右に、木馬が跳ねたり、馬車が躍ったり、然らずんば喇叭がぶかぶかいったり、太鼓がどんどん鳴っているだけなんだ。――僕はつらつらそう思ったね。これは人生の象徴だ。我々は皆同じように実生活・・・<芥川竜之介「一夕話」青空文庫>
  2. ・・・ 老人は眉をひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、「いかにもおれは峨眉山に棲んでいる、鉄冠子という仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にして・・・<芥川竜之介「杜子春」青空文庫>
  3. ・・・ 例の晴ればれした、りんの音のような声がすると、まもなくおとよさんは庭場へ顔を出した。にっこり笑って、「まあにぎやかなこと。……うっとしいお天気でございます。お祖母さんなんですか。あそうですか、どうもごちそうさま」 今まで唯一の・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  4. ・・・ 出口の腰障子につかまって、敷居を足越そうとした奈々子も、ふり返りさまに両親を見てにっこり笑った。自分はそのまま外へ出る。物置の前では十五になる梅子が、今鶏箱から雛を出して追い込みに入れている。雪子もお児もいかにもおもしろそうに笑いなが・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  5. ・・・おとよはひとりでにっこり笑って、きっぱり自分だけの料簡を定めて省作に手紙を送ったのである。 省作はもとより異存のありようがない、返事は簡単であった。 深田にいられないのもおとよさんゆえだ。家に帰って活き返ったのもおとよさんゆえだ。も・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・お松は襷をはずして母に改った挨拶をしてから、なつかしい目でにっこり笑いながら「坊さんきまりがわるいの」と云って自分を抱いてくれた。自分はお松はなつかしいけれど、まだ知らなかったお松の母が居るから直ぐにお松にあまえられなかった。母はお松の母と・・・<伊藤左千夫「守の家」青空文庫>
  7. ・・・と、お母さまは、よくお姉さんを思い出したといわぬばかりに、我が子の顔を見て、にっこりと笑われました。<小川未明「青い花の香り」青空文庫>
  8. ・・・と、若い上野先生は、にっこりなさいました。「叔母さんのお使いで、どうもすみません。」と、年子はいいました。窓から、あちらに遠くの森の頂が見えるお教室で、英語を先生から習ったのでした。 きけば、先生は、小さい時分にお父さんをおなくしに・・・<小川未明「青い星の国へ」青空文庫>
  9. ・・・ 空色の着物を着た子供はにっこり笑って、「僕も独りで、つまらないから、君といっしょに遊ぼうと思って呼んだのさ。」「じゃ、二人で仲よく遊ぼうよ。」と、正雄さんは、その岩の下に立って見上げました。「君、この岩の上へあがりたまえな・・・<小川未明「海の少年」青空文庫>
  10. ・・・ すっかり仕度をして、これから出てゆこうとしたおじいさんは、にっこり笑って、太郎の方を振り向きながら、「じきに帰ってくるぞ。晩までには帰ってくる……。」といいました。「なにか、帰りにおみやげを買ってきてね。」と、少年は頼んだので・・・<小川未明「大きなかに」青空文庫>
  11. ・・・彼は、それを見て、にっこりと笑いました。 それから、また自転車に乗って、道を急いだのでありました。 彼は、小学校を卒業すると、すぐ都会の呉服屋へ奉公に出されました。それから、もう何年たったでしょう。彼は、勉強して、末にはいい商人にな・・・<小川未明「隣村の子」青空文庫>
  12. ・・・これを見た、お姉さんは、思わずにっこりなさいました。正ちゃんは、やっと、お姉さんに近づくと、「お姉ちゃん、おしるこがあるよ。だけど、たった、一杯!」と、大きな声で、いいました。歩いている人が、これをきいて、笑ってゆきました。お姉ねえさん・・・<小川未明「ねことおしるこ」青空文庫>
  13. ・・・ こういって、顔を見合わせて、にっこりしました。このとき、あちらからきみ子さんが、さっきの子ねこを抱いてやってきました。「どうしたの?」「お父さんが帰って、いけないとしかったの。」「だめだというのかい。」「お父さんが、返・・・<小川未明「僕たちは愛するけれど」青空文庫>
  14. ・・・と、文雄はやつれた姿になりながら、にっこりと笑っていいました。「ああ、遊ぼうよ、君、気分はちっとはいいかい。」と、良吉は笑顔になって、そのやせた哀れな友だちの手を握りました。しかし、これが別れでありました。とうとう文雄はその晩死・・・<小川未明「星の世界から」青空文庫>
  15. ・・・ そうする中に、志村は突然起ち上がって、その拍子に自分の方を向いた、そして何にも言いがたき柔和な顔をして、にっこりと笑った。自分も思わず笑った。「君は何を書いているのだ、」と聞くから、「君を写生していたのだ。」「僕は最早水車・・・<国木田独歩「画の悲み」青空文庫>
  16. ・・・『星が見えるよ、』と言って娘は肩をすぼめて、男の顔を見てにっこり笑う。『早くお入りよ、』と言って男は踏切の方へすたこら行ってしまったが、たちまち姿が見えなくなった。娘は軒の外へ首を出して、今度はほんとに空を仰いで見たが、晴れそうにも・・・<国木田独歩「郊外」青空文庫>
  17. ・・・と女は優しく言って、にっこり笑った。「なんにもいらない」と僕は言って横を向いた。「それじゃ、舟へ乗りましょう、わたしと舟へ乗りましょう、え、そうしましょう。」と言って先に立って出て行くから、僕も言うままに、女のあとについて梯子段をお・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  18. ・・・僕の足音を聞いて娘はふとこの方へ向いたが、僕を見てにっこり笑った。続いて先生も僕を見たがいつもの通りこわい顔をして見せて持っていた書を懐へ入れてしまった。 そのころ僕は学校の餓鬼大将だけにすこぶる生意気で、少年のくせに大沢先生のいばるの・・・<国木田独歩「初恋」青空文庫>
  19. ・・・るをこらえるもおかしく同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒口俊雄はこのごろ喫み覚えた煙草の煙に紛らかしにっこりと受けたまま返辞なければ往復端書・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  20. ・・・と、「そうですね」と、にっこりしたが、何だか躊躇の色が見える。二人で行ったとて誰が咎めるものかと思う。「だってあんまりですから」と、ややあって言う。「何が」「でもたった今これを始めたばかりですから」「ついでに仕上げてしま・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  21. ・・・ 王女は王子がぐっすりねいったのをかんづくと、にっこり笑って、おき上りました。じつはさっきから、上手に寝たふりをして、王子が寝入るのをねらっていたのでした。 そしておき上るといきなり、ひょいと小さな鳩になって窓からとび出しました。王・・・<鈴木三重吉「ぶくぶく長々火の目小僧」青空文庫>
  22. ・・・けれども、私がいま、このうちの誰かひとりに、にっこり笑って見せると、たったそれだけで私は、ずるずる引きずられて、その人と結婚しなければならぬ破目におちるかも知れないのだ。女は、自分の運命を決するのに、微笑一つでたくさんなのだ。おそろしい。不・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  23. ・・・ 振り向いて見ると、月光を浴びて明眸皓歯、二十ばかりの麗人がにっこり笑っている。「どなたです、すみません。」とにかく、あやまった。「いやよ、」と軽く魚容の肩を打ち、「竹青をお忘れになったの?」「竹青!」 魚容は仰天して立・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  24. ・・・ 宿のどてらに着換え、卓をへだてて、ゆきさんと向い合ってきちんと坐って、笠井さんは、はじめて心からにっこり笑った。「やっと、――」言いかけて、思わず大きい溜息をついた。「やっと?」とゆきさんも、おだやかに笑って、反問した。「・・・<太宰治「八十八夜」青空文庫>
  25. ・・・ラプンツェルは、やっと、にっこり笑いました。「せいせいしたわ。お城の中は暗いので、私は夜かと思っていました。」「夜なものか。君は、きのうの昼から、けさまで、ぐっすり眠っていたんだ。寝息も無いくらいに深く眠っていたので、私は、死んだの・・・<太宰治「ろまん燈籠」青空文庫>
  26. ・・・ 小万はにっこり笑ッて、「あんまりひどい目に会わせておくれでないよ、虫が発ると困るからね」「はははは。でかばちもない虫だ」と、西宮。「ほほほほ。可愛い虫さ」「油虫じゃアないか」「苦労の虫さ」と、小万は西宮をちょいと睨んで・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・ 喜助はにっこり笑った。「御親切におっしゃってくだすって、ありがとうございます。なるほど島へゆくということは、ほかの人には悲しい事でございましょう。その心持ちはわたくしにも思いやってみることができます。しかしそれは世間でらくをしていた人・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>
  28. ・・・秋の夜長に……こや忍藻」にっこりわらッて口のうち、「昨夜は太う軍のことに胸なやませていた体じゃに、さてもここぞまだ児女じゃ。今はかほどまでに熟睡して、さばれ、いざ呼び起そう」 忍藻の部屋の襖を明けて母ははッとおどろいた。承塵にあッた薙刀・・・<山田美妙「武蔵野」青空文庫>
  29. ・・・毎日朝早く妹のアガアテが部屋に這入って参って、にっこり笑うのでございます。アガアテはいつでもわたくしの所へ参ると、にっこり笑って、尼の被物に極まっている、白い帽子を着ていまして、わたくしの寝床に腰を掛けるのでございます。わたくしが妹の手を取・・・<著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外「白」青空文庫>