にない〔になひ〕【担い/荷い】例文一覧 30件

  1. ・・・母上は死に対して最上の態度を取る為めに、お前たちに最大の愛を遺すために、私を加減なしに理解する為めに、私は母上を病魔から救う為めに、自分に迫る運命を男らしく肩に担い上げるために、お前たちは不思議な運命から自分を解放するために、身にふさわない・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  2. ・・・と云って、肱を曲げた、雪なす二の腕、担いだように寝て見せる。「貴女にあまえているんでしょう。どうして、元気な人ですからね、今時行火をしたり、宵の内から転寝をするような人じゃないの。鉄は居ませんか。」「女中さんは買物に、お汁の実を仕入・・・<泉鏡花「女客」青空文庫>
  3. ・・・大温にして小毒あり、というにつけても、普通、私どもの目に触れる事がないけれども、ここに担いだのは五尺に余った、重量、二十貫に満ちた、逞しい人間ほどはあろう。荒海の巌礁に棲み、鱗鋭く、面顰んで、鰭が硬い。と見ると鯱に似て、彼が城の天守に金銀を・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  4. ・・・ と喚く鎌倉殿の、何やら太い声に、最初、白丁に豆烏帽子で傘を担いだ宮奴は、島のなる幕の下を這って、ヌイと面を出した。 すぐに此奴が法壇へ飛上った、その疾さ。 紫玉がもはや、と思い切って池に飛ぼうとする処を、圧えて、そして剥いだ。・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  5. ・・・竹操りのこの人形も、美しい御婦人でござりますで、爺が、この酒を喰います節も、さぞはや可厭であろうと思いますで、遠くへお離し申しておきます。担いで帰ります節も、酒臭い息が掛ろうかと、口に手拭を噛みます仕誼で。……美しいお女中様は、爺の目に、神・・・<泉鏡花「山吹」青空文庫>
  6. ・・・ やがて、子供と爺さんは箱と綱を担いで、いそいそと人込の中へ隠れて行ってしまいました。<小山内薫「梨の実」青空文庫>
  7. ・・・蹴ったくそわるいさかい、オギアオギアせえだい泣いてるとこイ、ええ、へっつい直しというて、天びん担いで、へっつい直しが廻ってきよって、事情きくと、そら気の毒やいうて、世話してくれたンが、大和の西大寺のそのへっつい直しの親戚の家やった。そンでま・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  8. ・・・氏神の夏祭には、水着を着てお宮の大提燈を担いで練ると、日当九十銭になった。鎧を着ると三十銭あがりだった。種吉の留守にはお辰が天婦羅を揚げた。お辰は存分に材料を節約したから、祭の日通り掛りに見て、種吉は肩身の狭い想いをし、鎧の下を汗が走った。・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  9. ・・・ あはは……。担いでものらんぞ、あはは……」 豹吉はわざと大きく笑ったが、しかし、その笑いはふと虚ろに響き、さすがに狼狽していた。 ガマンの針助……。 この奇妙な名前の男について述べる前に、しかし、作者は、その時、「やア、兄・・・<織田作之助「夜光虫」青空文庫>
  10. ・・・ すっかり暗くなったところで弟は行李を担いで、Fとの二人が茶店の娘に送られて出て行ったが、高い石段を下り建長寺の境内を通ってちょうど門前の往来へ出たかと思われた時分、私はガランとした室に一人残って悲みと寂しさに胸を噛まれる気持で冷めたく・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  11. ・・・かく語る我身すらおりおり源叔父がかの丸き眼をなかば閉じ櫓担いて帰りくるを見る時、源叔父はまだ生きてあるよなど思うことあり。彼はいかなる人ぞと問いたまいしは君が初めなり。「さなり、呼びて酒呑ませなばついには歌いもすべし。されどその歌の意解・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  12. ・・・子の、しかもお坊さんご成人と云いたいように裾短で裄短で汚れ腐ったのを素肌に着て、何だか正体の知れぬ丸木の、杖には長く天秤棒には短いのへ、五合樽の空虚と見えるのを、樹の皮を縄代りにして縛しつけて、それを担いで、夏の炎天ではないからよいようなも・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  13. ・・・と挨拶して、裏へ廻って自ら竿を取出してたまと共に引担いで来ると、茶店の婆さんは、 おたのしみなさいまし。好いのが出ましたら些御福分けをなすって下さいまし。と笑って世辞をいってくれた。その言葉を背中に聴かせながら、 ああ、宜い・・・<幸田露伴「蘆声」青空文庫>
  14. ・・・仮令性質は冷たくとも、とにもかくにも自分等の手で、各自に鍬を担いで来て、この鉱泉の脈に掘当てたという自慢話などを高瀬にして聞かせた。「正木さんなどは、まるで百姓のような服装をして、シャベルを担いでは遣って来たものでサ……」 何ぞとい・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  15. ・・・案のじょう買い物らしく、青扇は箒をいっぽん肩に担いで、マダムは、くさぐさの買いものをつめたバケツを重たそうに右手にさげていた。彼等は枝折戸をあけてはいって来たので、すぐに僕のすがたを認めたのであるが、たいして驚きもしなかった。「これは、・・・<太宰治「彼は昔の彼ならず」青空文庫>
  16. ・・・中畑さんが銃を担いで歩いているのである。帽子をあみだにかぶっていた。予備兵の演習召集か何かで訓練を受けていたのであろう。中畑さんが兵隊だったとは、実に意外で、私は、しどろもどろになった。中畑さんは、平気でにこにこ笑い、ちょっと列から離れかけ・・・<太宰治「帰去来」青空文庫>
  17. ・・・ 故郷の人たちは、魚容が帰って来ても、格別うれしそうな顔もせず、冷酷の女房は、さっそく伯父の家の庭石の運搬を魚容に命じ、魚容は汗だくになって河原から大いなる岩石をいくつも伯父の庭先まで押したり曳いたり担いだりして運び、「貧して怨無きは難し」・・・<太宰治「竹青」青空文庫>
  18. ・・・昼間は壻の文造に番をさせて自分は天秤を担いで出た。後には馬を曳いて出た。文造はもう四十になった。太十は決して悪人ではないけれどいつも文造を頭ごなしにして居る。昼間のような月が照ってやがて旧暦の盆が来た。太十はいつも番小屋に寝た。赤も屹度番小・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  19. ・・・釣魚をするとか玉を突くとか、碁を打つとか、または鉄砲を担いで猟に行くとか、いろいろのものがありましょう。これらは説明するがものはないことごとく自から進んで強いられざるに自分の活力を消耗して嬉しがる方であります。なお進んではこの精神が文学にも・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  20. ・・・半分と立たぬ間に余の右側を掠めるごとく過ぎ去ったのを見ると――蜜柑箱のようなものに白い巾をかけて、黒い着物をきた男が二人、棒を通して前後から担いで行くのである。おおかた葬式か焼場であろう。箱の中のは乳飲子に違いない。黒い男は互に言葉も交えず・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  21. ・・・と云って、旗を担いで往来を歩いて来たのもありました。子供の時分ですからその声を聞くと、ホラ来たと云って逃げたものである。よくよく聞いて見ると鼠取りの薬を売りに来たのだそうです。鼠のいたずらもので人間のいたずらものではないというのでやっと安心・・・<夏目漱石「道楽と職業」青空文庫>
  22. ・・・ 秋山は見張りへ、小林は鑿を担いで鍛冶小屋へ、それぞれ捲上の線に添うて昇って行った。何しろ、兎に角火に当らないとやり切れないのであった。 ライナーの爆音が熄むと、ハムマーの連中も運転を止めた。 秋山は陸面から八十尺の深さに掘り下・・・<葉山嘉樹「坑夫の子」青空文庫>
  23.  私は行李を一つ担いでいた。 その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。 ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まった、表紙と本文の半分以上取れた英訳・・・<葉山嘉樹「浚渫船」青空文庫>
  24. ・・・ 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろうけれども、骨格逞しく精神たかく、半野生的東洋に光を注ぐ未来の担いてを養うにはそれだけで十分とは云い切れまいと思える。 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアル・・・<宮本百合子「明日の実力の為に」青空文庫>
  25. ・・・そして、この担い棒をかついだ女村民の部落には村ソヴェトの赤い旗が雪の下からひるがえっている。 景色が退屈だから、家に坐ってるような心持でいちんち集団農場『集団農場・暁』を読んだ。 一九二八―二九年、ソヴェト生産拡張五ヵ年計画が着手さ・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  26. ・・・けれども、本当にいつか、そんな母親の云うような縮緬の揃の浴衣で自分が神輿を担いだことがあったのかしら。番頭や小僧が大勢いる店と云えば、善どんと小僧とっきりいない米源よりもっと大い店だろうが、そんな店が自分の家だったのだろうか? ぼんやり・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  27. ・・・ 向うから空桶を担いで来る女がある。塩浜から帰る潮汲み女である。 それに女中が声をかけた。「もしもし。この辺に旅の宿をする家はありませんか」 潮汲み女は足を駐めて、主従四人の群れを見渡した。そしてこう言った。「まあ、お気の毒な。・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>
  28. ・・・おりおり蓑を着て手籠を担いで畔道をあるいている農夫が見える。 段々小倉が近くなって来る。最初に見える人家は旭町の遊廓である。どの家にも二階の欄干に赤い布団が掛けてある。こんな日に干すのでもあるまい。毎日降るのだから、こうして曝すのであろ・・・<森鴎外「鶏」青空文庫>
  29. ・・・ 彼が柴を担いだまま中へ這入ろうとすると、「秋か?」と乞食は云った。 秋三は乞食から呼び捨てにされる覚えがなかった。「手前、俺を知っているのか?」「知るも知らんもあるものか。汝大きゅうなったやないか。」 秋三は暫く乞・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  30. ・・・それは人類の悩みを一身に担いおおせた悲痛な顔である。そして額の上には永遠にしぼむことのない月桂樹の冠が誇らしくこびりついている。 この顔こそは我らの生の理想である。四 苦患を堪え忍べ。 苦患に堪える態度は一つしかない・・・<和辻哲郎「ベエトォフェンの面」青空文庫>