に‐もつ【荷物】例文一覧 31件

  1. ・・・しかし後にはいないにしても、前には赤帽が二人ばかり、自動車に荷物を移している。――その一人がどう思ったか、途端にこちらを見返りながら、にやりと妙に笑って見せた。千枝子はそれを見た時には、あたりの人目にも止まったほど、顔色が変ってしまったそう・・・<芥川竜之介「妙な話」青空文庫>
  2. ・・・彼は座敷に荷物を運び入れる手伝いをした後、父の前に座を取って、そのしぐさに対して不安を感じた。今夜は就寝がきわめて晩くなるなと思った。 二人が風呂から上がると内儀さんが食膳を運んで、監督は相伴なしで話し相手をするために部屋の入口にかしこ・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  3. ・・・あんな荷物をどっさり持って、毎日毎日引越して歩かなくちゃならないとなったら、それこそ苦痛じゃないか。A 飯のたんびに外に出なくちゃならないというのと同じだ。B 飯を食いに行くには荷物はない。身体だけで済むよ。食いたいなあと思った時、・・・<石川啄木「一利己主義者と友人との対話」青空文庫>
  4. ・・・ そこここ、疎に透いていた席が、ぎっしりになって――二等室の事で、云うまでもなく荷物が小児よりは厄介に、中には大人ほど幅をしてあちこちに挟って。勿論、知合になったあとでは失礼ながら、件の大革鞄もその中の数の一つではあるが――一人、袴羽織・・・<泉鏡花「革鞄の怪」青空文庫>
  5.       一 隣の家から嫁の荷物が運び返されて三日目だ。省作は養子にいった家を出てのっそり戻ってきた。婚礼をしてまだ三月と十日ばかりにしかならない。省作も何となし気が咎めてか、浮かない顔をして、わが家の門をくぐった・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・ 僕は、帰京したら、ひょッとすると再び来ないで済ませるかも知れないと思ったから、持って来た書籍のうち、最も入用があるのだけを取り出して、風呂敷包みの手荷物を拵えた。 遅くなるから、遅くなるからと、たびたび催促はされたが、何だか気が進・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・さっそく、教室へはいって、荷物を持って帰り支度をしました。「君、家へ帰るの?」と、小田が、そばにきてたずねました。「ああ、僕、家へ帰って、やまがらにお湯をやったのを、水に換えてくるよ。しかし、もう飲んでしまったら、たいへんだね。」と・・・<小川未明「ある日の先生と子供」青空文庫>
  8. ・・・ 断り無しに持って来た荷物を売りはらった金で、人力車を一台購い、長袖の法被に長股引、黒い饅頭笠といういでたちで、南地溝の側の俥夫の溜り場へのこのこ現われると、そこは朦朧俥夫の巣で、たちまち丹造の眼はひかり、彼等の気風に染まるのに何の造作・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・そのうち弟は兄のかなり廃物めいた床の間の信玄袋に眼をつけて、「兄さんの荷物はそれだけなんですか?」と、何気ない気で訊ねた。「そうだ」と、耕吉は答えるほかなかった。そして、それで想いだしたがといった風で上機嫌になって、「じつはね、・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  10. ・・・ 彼は、朝も早いのに荷物を出すなんて面倒だから、今夜のうちに切符を買って、先へ手荷物で送ってしまったらいいと思って、「僕、今から持って行って来ましょうか」と言ってみた。一つには、彼自身体裁屋なので、年頃の信子の気持を先廻りしたつもり・・・<梶井基次郎「城のある町にて」青空文庫>
  11. ・・・さき者の一つなり、水車場を離れて孫屋立ち、一抱えばかりの樫七株八株一列に並びて冬は北の風を防ぎ夏は涼しき陰もてこの屋をおおい、水車場とこの屋との間を家鶏の一群れゆききし、もし五月雨降りつづくころなど、荷物曳ける駄馬、水車場の軒先に立てば黒き・・・<国木田独歩「わかれ」青空文庫>
  12. ・・・貴様ら、呉と郭と二人で、それじゃ夜明に出かけろ、今度はうまくやらないと荷物を没収されちゃ、怺えせんぞ!」「ああで」 荷物を積んだ橇は、門から厩の脇にひっぱりこまれた。橇の毛布には、田川の血が落ちて、凍りついていた。支那人はボール箱の・・・<黒島伝治「国境」青空文庫>
  13. ・・・そこいらには、まだかわき切らない壁へよせて、私たちの荷物が取り散らしてある。末子は姪の子供を連れながら部屋部屋をあちこちとめずらしそうに歩き回っている。嫂も三十年ぶりでの帰省とあって、旧なじみの人たちが出たりはいったりするだけでも、かなりご・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  14. ・・・ てんでんにつつみをしょってかけ出した人も、やがて往来が人一ぱいで動きがとれなくなり、仕方なしに荷をほうり出す、むりにせおってつきぬけようとした人も、その背中の荷物へ火の子がとんでもえついたりするので、つまりは同じく空手のまま、やっとく・・・<鈴木三重吉「大震火災記」青空文庫>
  15. ・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・<著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子「唖娘スバー」青空文庫>
  16. ・・・黒い風呂敷包を胸にしっかり抱きかかえて、そのお荷物の中には薬品も包まれて在るのだが、頭をあちこち動かして舞台の芸人の有様を見ようとあせっているかず枝も、ときたまふっと振りかえって嘉七の姿を捜し求めた。ちらと互いの視線が合っても、べつだん、ふ・・・<太宰治「姥捨」青空文庫>
  17. ・・・一人の下士が貨車の荷物の上に高く立って、しきりにその指揮をしていた。 日が暮れても戦争は止まぬ。鞍山站の馬鞍のような山が暗くなって、その向こうから砲声が断続する。 渠はここに来て軍医をもとめた。けれど軍医どころの騒ぎではなかった。一・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  18.  始めてこの浜へ来たのは春も山吹の花が垣根に散る夕であった。浜へ汽船が着いても宿引きの人は来ぬ。独り荷物をかついで魚臭い漁師町を通り抜け、教わった通り防波堤に沿うて二町ばかりの宿の裏門を、やっとくぐった時、朧の門脇に捨てた貝・・・<寺田寅彦「嵐」青空文庫>
  19. ・・・そうすれば荷物を取りにやりますから」「そうしてもいいが、温泉へ行くとしたらどこだろう」「ごく近いところで、深谷もこのごろはなかなかいいですよ」「石屋ならいい座敷がありますけれど、あすこも割に安くつかんぞな」「さしあたってちょ・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  20. ・・・トラックの中に、荷物の間に五六人のスキャップを積み込んで、会社間近まで来たとき、トラックの運転手と変装していた利平が、ひどくやられたのもこのときであったのだ。 それでも、職長仲間の血縁関係や、例えば利平のように、親子で勤めている者は、そ・・・<徳永直「眼」青空文庫>
  21. ・・・初め女房や娘と共に大通りへ逃げたが家の焼けるまでにはまだ間があろうと、取残した荷物を一ツなりとも多く持出そうと立戻ったなり返って来なかったという。 浅草公園はいつになったら昔の繁華にかえることができるのであろう。観音堂が一立斎広重の名所・・・<永井荷風「草紅葉」青空文庫>
  22. ・・・足袋は有繋に白い。荷物が図抜けて大きい時は一口に瞽女の荷物のようだといわれて居る其紺の大風呂敷を胸に結んで居る。大きな荷物は彼等が必ず携帯する自分の敷蒲団と枕とである。此も紺の袋へ入れた三味線が胴は荷物へ載せられて棹が右の肩から斜に突っ張っ・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  23. ・・・郵船会社の汽船は半分荷物船だから船足がおそいのに、なぜそれをえらんだのかと私が聞いたら、先生はいくら長く海の中に浮いていても苦にはならない、それよりも日本からベルリンまで十五日で行けるとか十四日で着けるとかいって、旅行が一日でも早くできるの・・・<夏目漱石「ケーベル先生の告別」青空文庫>
  24. ・・・増し、下駄傘を作る者あり、提灯を張る者あり、或は白木の指物細工に漆を塗てその品位を増す者あり、或は戸障子等を作て本職の大工と巧拙を争う者あり、しかのみならず、近年に至ては手業の外に商売を兼ね、船を造り荷物を仕入れて大阪に渡海せしむる者あり、・・・<福沢諭吉「旧藩情」青空文庫>
  25. ・・・其人等は皆脚袢草鞋の出立ちでもとより荷物なんどはすこしも持っていない。一面の田は稲の穂が少し黄ばんで畦の榛の木立には百舌鳥が世話しく啼いておる。早桶は休みもしないでとうとう夜通しに歩いて翌日の昼頃にはとある村へ着いた。其村の外れに三つ四つ小・・・<正岡子規「死後」青空文庫>
  26. ・・・ 四人はそこでよろこんで、せなかの荷物をどしんとおろして、それから来た方へ向いて、高く叫びました。「おおい、おおい。ここだぞ。早く来お。早く来お。」 すると向うのすすきの中から、荷物をたくさんしょって、顔をまっかにしておかみさん・・・<宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」青空文庫>
  27. ・・・        二 陽子が、すっかり荷物を持って鎌倉へ立ったのは、雪が降った次の日であった。春らしい柔かい雪が細い別荘の裏通りを埋め、母衣に触った竹の枝からトトトト雪が俥の通った後へ落ちる。陽子はさし当り入用な机、籐椅子、電・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  28. ・・・ 山本の内では九郎右衛門が指図をして、荷物は残らず出させたが、申の下刻には中邸一面が火になって、山本も焼けた。 りよは火事が始まるとすぐ、旧主人の細川家の邸をさして駆けて行ったが、もう豊島町は火になっていた。「あぶないあぶない」「姉・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  29. ・・・ すると、廂を脱れた日の光は、彼の腰から、円い荷物のような猫背の上へ乗りかかって来た。       三 宿場の空虚な場庭へ一人の農婦が馳けつけた。彼女はこの朝早く、街に務めている息子から危篤の電報を受けとった。それから露・・・<横光利一「蠅」青空文庫>
  30. ・・・それは旅人が荷物を一ぱい載せて置いた卓である。最後にフィンクの目に映じて来たのは壁に沿うて据えてある長椅子である。そこでその手近な長椅子に探り寄った。そこへ腰を落ち着けて、途中で止めた眠を続けようと思うのである。やっと探り寄ってそこへ掛けよ・・・<著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外「白」青空文庫>