にん‐そう〔‐サウ〕【人相】例文一覧 30件

  1.       一 支那の上海の或町です。昼でも薄暗い或家の二階に、人相の悪い印度人の婆さんが一人、商人らしい一人の亜米利加人と何か頻に話し合っていました。「実は今度もお婆さんに、占いを頼みに来たのだがね、――」・・・<芥川竜之介「アグニの神」青空文庫>
  2. ・・・第一人相が、――人相じゃない。犬相だが、――犬相が甚だ平凡だよ。」 もう酔のまわった牧野は、初めの不快も忘れたように、刺身なぞを犬に投げてやった。「あら、あの犬によく似ているじゃありませんか? 違うのは鼻の色だけですわ。」「何、・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  3. ・・・これは、こっちも退屈している際だから、話しかけたいのは山々だが、相手の男の人相が、甚だ、無愛想に見えたので、暫く躊躇していたのである。 すると、角顋の先生は、足をうんと踏みのばしながら、生あくびを噛みつぶすような声で、「ああ、退屈だ。」・・・<芥川竜之介「MENSURA ZOILI」青空文庫>
  4. ・・・(や、爺と、姉さんと二人して、潟に放いて、放生会をさっしゃりたそうな人相じゃがいの、ほん、ほん。おはは。」 と笑いながら、ちょろちょろ滝に、畚をぼちゃんとつけると、背を黒く鮒が躍って、水音とともに鰭が鳴った。「憂慮をさっしゃるな。割・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  5. ・・・ 人相と言い、場合と申し、ズドンとやりかねない勢いでごさいますから、画師さんは面喰らったに相違ございますまい。(天罰は立ち処じゃ、足四本、手四つ、顔で、代官婆は、近所の村方四軒というもの、その足でたたき起こして廻って、石松が鉄砲を向けた・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  6. ・・・ が、骨相学や人相術が真理なら、風の似通っている二人は性格の上にもドコかに共通点がありそうなもんだが、事実は性格が全く相反対していた。二葉亭にもし山本伯の性格の一割でもあったら、アンナにヤキモキ悶えたり焦々したりして神経衰弱などに罹らな・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  7. ・・・習慣でしぜん客の人相を見る姿勢に似たが、これが自分を苦しめて来た男の顔かと、心は安らかである筈もなかった。眼の玉が濡れたように薄茶色を帯びて、眉毛の生尻が青々と毛深く、いかにも西洋人めいた生々しい逞しさは、五年前と変っていない。眼尻の皺もな・・・<織田作之助「雪の夜」青空文庫>
  8. ・・・まだまだこんな人相をしてるようでは金なぞ儲けれはせん。生活を立てているという盛りの男の顔つきではない。やっぱしよたよたと酒ばかし喰らっては、悪遊びばかししていたに違いない」腹ではこう思っているのであった。こうした男にいつまでも義理立てしてい・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  9. ・・・日影、そよぐ潮風、げに春ゆきて夏来たりぬ、楽しかるべき夏来たりぬ、ただわれらの春の永久に逝きしをいかにせん――下 時は果たして来たりぬ、ただ貴嬢もわれも二郎もかかる時かかるところにて三人相あうべしとは想いもよらず。 時は・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  10. ・・・山々の麓には村あり、村々の奥には墓あり、墓はこの時覚め、人はこの時眠り、夢の世界にて故人相まみえ泣きつ笑いつす。影のごとき人今しも広辻を横ぎりて小橋の上をゆけり。橋の袂に眠りし犬頭をあげてその後影を見たれど吠えず。あわれこの人墓よりや脱け出・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  11. ・・・ 色の浅黒い、眼に剣のある、一見して一癖あるべき面魂というのが母の人相。背は自分と異ってすらりと高い方。言葉に力がある。 この母の前へ出ると自分の妻などはみじめな者。妻の一言いう中に母は三言五言いう。妻はもじもじしながらいう。母は号・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  12. ・・・ 老人は私の顔を天眼鏡で覗いて見たり、筮竹をがちゃがちゃいわして見たり、まるで人相見と八卦見と一しょにやっていましたが、やがてのことに、『イヤ御心配なさるな、この児さんは末はきっと出世なさるる、よほどよい人相だ。けれど一つの難がある・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  13. ・・・路のほとりにやや大なる寺ありて、如何にやしけむ鐘楼はなく、山門に鐘を懸けたれば二人相見ておぼえず笑う。九時少し過ぐる頃寄居に入る。ここは人家も少からず、町の彼方に秩父の山々近く見えて如何にも田舎びたれど、熊谷より大宮郷に至る道の中にて第一の・・・<幸田露伴「知々夫紀行」青空文庫>
  14. ・・・何だか無性に人相のよくない人間のような気がしてならない。それが怪しげな眼つきをしてじろじろと白眼みでもすると厭である。また船が出た後であっては間抜けている。そして小母さんに自分などは来なくてもいいのにと思われると何だかきまりが悪い。こう思っ・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  15. ・・・大谷さんは、終戦後は一段と酒量もふえて、人相がけわしくなり、これまで口にした事の無かったひどく下品な冗談などを口走り、また、連れて来た記者を矢庭に殴って、つかみ合いの喧嘩をはじめたり、また、私どもの店で使っているまだはたち前の女の子を、いつ・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  16. ・・・あなたが煙草ばかり吸って、母には、ろくに話をして上げなかったのが、何より、いけなかったようでした。人相が悪い、という事も、しきりに言っていました。見込みがないというのです。けれども私は、あなたのところへ行く事に、きめていました。ひとつき、す・・・<太宰治「きりぎりす」青空文庫>
  17. ・・・可愛さあまって憎さが百倍とは、このことであろうか、などと一文の金もなき謂わば賤民、人相よく、ひとりで呟いてひとりで微笑んでいた。私は、この世の愚昧の民を愛する。     九唱 ナタアリヤさん、キスしましょう その翌、翌日、ま・・・<太宰治「二十世紀旗手」青空文庫>
  18. ・・・強がることはやめなさい。人相が悪いじゃないか。 さらにまた、この作家に就いて悪口を言うけれども、このひとの最近の佳作だかなんだかと言われている文章の一行を読んで実に不可解であった。 すなわち、「東京駅の屋根のなくなった歩廊に立ってい・・・<太宰治「如是我聞」青空文庫>
  19. ・・・まだ三十にならないかと思われるあまり人相のよくない男である。てんで相手にしないつもりでいたがどこまでも根気よくついて来て、そして息を切らせながらしつこく同じ事を繰り返している。それをしかりつけるだけの勇気のない私は、結局そのうるささを免れる・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  20. ・・・酒で堕落して行くおやじの顔の人相の変化はほんとうらしい。 いちばんおしまいの場面で、淪落のどん底に落ちた女が昔の友に救われてその下宿に落ち着き、そこで一皿の粥をむさぼり食った後に椅子に凭ってこんこんとして眠る、その顔が長い間の辛酸でこち・・・<寺田寅彦「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」青空文庫>
  21. ・・・頬の恐ろしく膨れた、大きなどてらを着た人相のよくない男が艫の甲板の蓆へ座をしめてボーイの売りに来た菓子を食っている。その向いに坐った目の赤いじいさんと相撲の話をしている。あるいは相撲取かも知れぬが髪は二月前に刈ったと云う風である。その隣には・・・<寺田寅彦「高知がえり」青空文庫>
  22. ・・・と伝通院の坊主を信仰するだけあって、うまく人相を見る。「御前の方がどうかしたんだろう。先ッきは少し歯の根が合わないようだったぜ」「私は何と旦那様から冷かされても構いません。――しかし旦那様雑談事じゃ御座いませんよ」「え?」と思わ・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  23. ・・・すこぶる真面目な顔をしているが、早く当番を済まして、例の酒舗で一杯傾けて、一件にからかって遊びたいという人相である。塔の壁は不規則な石を畳み上げて厚く造ってあるから表面は決して滑ではない。所々に蔦がからんでいる。高い所に窓が見える。建物の大・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  24. ・・・ひとり私塾においては、遠近の人相集り、その交際ただ読書の一事のみにて他に関係なければ、たがいにその貴賤貧富を論ずるにいとまあらず。ゆえに富貴は貧賤の情実を知り、貧賤は富貴の挙動を目撃し、上下混同、情意相通じ、文化を下流の人に及ぼすべし。その・・・<福沢諭吉「学校の説」青空文庫>
  25. ・・・ 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目につくから、どんな奴が熊手なんか買うか試に人相を鑑定してやろうと思うて居ると、向うから馬鹿に大きな熊手をさしあげて威張ってる奴がやって来た。職人であろうか、しかし善く分らぬ。月が・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  26. ・・・この女は初め下向いて眼を塞いで居たが、その眼を少しずつ明けながらその顔を少しずつあげると、段々すさまじい人相になって、遂に髪の逆立った三宝荒神と変ってしもうた。荒神様が消えると耶蘇が出て来た。これは十字架上の耶蘇だと見えて首をうなだれて眼を・・・<正岡子規「ランプの影」青空文庫>
  27. ・・・     或女の人相 そのひとはどこが変っているというのではないが 目玉が丸く黒くなったようで 瞼の間にある艷やかさが ぬけてしまっている。寂しく不安なような表情、紅がついている小さい口がよく動き たっぷりした頬に白粉が・・・<宮本百合子「情景(秋)」青空文庫>
  28. ・・・どんな人がもって行ったか、その人相を想像するよすがもない。私は、父の顔を見た途端、困っちゃったと云った、時計をなくしちゃった、と云った。泣けないけれども、そういう時は、頬っぺたがとけたような心持であった。 これの代りに、程経ってから両蓋・・・<宮本百合子「時計」青空文庫>
  29. ・・・あの記事で、これはありつけるぞととりいそぎ紋付袴を一着に及んだ人相よからぬ職業的一団のあったことも時節柄明らかである。 今月の雑誌は、引つづき世間の興味をうけついで何かの形で東郷侯令嬢の女給ぶりを記事にしているのである。或る読売雑誌には・・・<宮本百合子「花のたより」青空文庫>
  30. ・・・ 個性は、たとえていえば人相のようなものである。一、二の特徴を捕えることは出来るが、微妙な線や表情になると到底詳しく説明することは出来ない。しかも詳しく見れば見るほど他とは異なっている。最も特徴のない平凡な顔でも決して他と同一ではない。・・・<和辻哲郎「自己の肯定と否定と」青空文庫>