ぬい‐もの〔ぬひ‐〕【縫(い)物】例文一覧 30件

  1. ・・・ といいながら、せっせと縫物をはじめた。 僕はその時、白い石で兎を、黒い石で亀を作ろうとした。亀の方は出来たけれども、兎の方はあんまり大きく作ったので、片方の耳の先きが足りなかった。もう十ほどあればうまく出来上るんだけれども、八っち・・・<有島武郎「碁石を呑んだ八っちゃん」青空文庫>
  2. ・・・手許が暗くなりましたので、袖が触りますばかりに、格子の処へ寄って、縫物をしておりますと、外は見通しの畠、畦道を馬も百姓も、往ったり、来たりします処、どこで見当をつけましたものか、あの爺のそのそ嗅ぎつけて参りましてね、蚊遣の煙がどことなく立ち・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  3. ・・・今日の縫物は肩が凝ったろう、少し休みながら茄子をもいできてくれ。明日麹漬をつけるからって、お母さんがそう云うから、私飛んできました」 民子は非常に嬉しそうに元気一パイで、僕が、「それでは僕が先にきているのを民さんは知らないで来たの」・・・<伊藤左千夫「野菊の墓」青空文庫>
  4. ・・・女房はまるで縫物をするために生れてきたような女で、いつ見ても薄暗い奥の間にぺたりと坐りこんで針を運ばせていた。糖尿病をわずらってお君の十六の時に死んだ。 女手がなくなって、お君は早くから一人前の大人並みに家の切りまわしをした。炊事、縫物・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  5. ・・・お品は縫物屋から帰って来て云った。「うち毛のシャツを買うて貰おう。」次女のきみが云った。 子供達は、他人に負けないだけの服装をしないと、いやがって、よく外へ出て行かないのだ。お品は、三四年前に買った肩掛けが古くなったから、新しい・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  6. ・・・それから後は親類の家などへ往って、児雷也物語とか弓張月とか、白縫物語、田舎源氏、妙々車などいうものを借りて来て、片端から読んで一人で楽んで居た。併し何歳頃から草双紙を読み初めたかどうも確かにはおぼえません、十一位でしたろうか。此頃のことでし・・・<幸田露伴「少年時代」青空文庫>
  7. ・・・藤さんは一人で座敷で縫物をしている。いっしょに浜の方へでも出てみぬかと誘うと、「そうですね」と、にっこりしたが、何だか躊躇の色が見える。二人で行ったとて誰が咎めるものかと思う。「だってあんまりですから」と、ややあって言う。「何が・・・<鈴木三重吉「千鳥」青空文庫>
  8. ・・・その時奥さんは縁側に出て手ミシンで縫物をしていました。顔は百合の花のような血の気のない顔、頭の毛は喪のベールのような黒い髪、しかして罌粟のような赤い毛の帽子をかぶっていました。奥さんは聖ヨハネの祭日にむすめに着せようとして、美しい前掛けを縫・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎「真夏の夢」青空文庫>
  9. ・・・ 嫁はまだ起きていて、炉傍で縫い物をしていました。「ほう、感心だのう。おれのうちの女房などは、晩げのめし食うとすぐに赤ん坊に添寝して、それっきりぐうぐう大鼾だ。夜なべもくそもありやしねえ。お前は、さすがに出征兵士の妻だけあって、感心・・・<太宰治「嘘」青空文庫>
  10. ・・・ 隣部屋で縫物をしていた妻が、あとで出て来て、私の応対の仕方の拙劣を笑い、商人には、うんと金のある振りを見せなければ、すぐ、あんなにばかにするものだ、四円が痛かったなど、下品なことは、これから、おっしゃらないように、と言った。・・・<太宰治「市井喧争」青空文庫>
  11. ・・・私は寝ころんで新聞をひろげて見ていたが、どうにも、いまいましいので、隣室で縫物をしている家の者に聞えるようにわざと大きい声で言ってみた。「ひでえ野郎だ。」「なんですか。」家の者はつられた。「今夜は、お帰りが早いようですね。」「早いさ・・・<太宰治「誰」青空文庫>
  12. ・・・それだけで、静かに縫い物をつづけていた。濁った気配は、どこにも無かった。私は、Hを信じた。 その夜私は悪いものを読んだ。ルソオの懺悔録であった。ルソオが、やはり細君の以前の事で、苦汁を嘗めた箇所に突き当り、たまらなくなって来た。私は、H・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  13. ・・・家にいて、母と二人きりで黙って縫物をしていると、一ばん楽な気持でした。けれども、いよいよ大戦争がはじまって、周囲がひどく緊張してまいりましてからは、私だけが家で毎日ぼんやりしているのが大変わるい事のような気がして来て、何だか不安で、ちっとも・・・<太宰治「待つ」青空文庫>
  14. ・・・と、東京弁で断った。縫物も出来なかった。五月には、「お百姓なんて辛いもんだね、私にゃ半日辛棒もなりませんや」と、肩を動して笑った。――本当にこの永い一生、何をして生きて来たんだろう。村の人は、土地に馴れたという丈でやっと犬が吠な・・・<宮本百合子「秋の反射」青空文庫>
  15. ・・・馬琴の「白縫物語」、森鴎外の「埋木」と「舞姫」「即興詩人」などの合本になった、水泡集と云ったと思うエビ茶色のローズの厚い本。『太陽』の増刊号。これらの雑誌や本は、はじめさし絵から、子供であったわたしの生活に入って来ている。くりかえし、くりか・・・<宮本百合子「新しい文学の誕生」青空文庫>
  16. ・・・母親は、縫物の手を休めず、「ほんとにねえ」と大きく嘆息したが、「お父つぁんさえいてくれれば、こうまでひどい境涯にならずにいられたろうにねえ。お前だって人並みに学校へだってやれるんだのに……こうやって母子二人で食べるものを食べずに・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  17. ・・・ 洗濯、縫物なんて女の子だけの仕事みたいに思われているが、ソヴェト同盟のピオニェールはそれを男の子もします。 そのやりかたがまた面白い。 同じ十三でも男の子の十三は力があるから、この「五月一日の子供の家」では、男の子が洗濯物のア・・・<宮本百合子「従妹への手紙」青空文庫>
  18. ・・・けれども考えてみれば女性が縫物をすることになったのは一体人間の社会の歴史の中でいつ始まったのだろう。糸を紡ぐこと、織ること、そしてそれを体にまとえるように加工することは非常に古い時代から女のやることであった。これはギリシア神話の中のアナキネ・・・<宮本百合子「衣服と婦人の生活」青空文庫>
  19. ・・・ 母は、障子の傍、縁側の方に横顔を向け、うつむいて弟の縫物をしていた。顔をあげず、「もう少し」 丸八の墨を握ったまま、私はぴしゃ、ぴしゃ硯を叩いて見た。自分の顔は写らないかと黒い美しい艷のある水を覗いた、そしてまた磨り始める。・・・<宮本百合子「雲母片」青空文庫>
  20. ・・・そうかと思うと、急に熱心に生垣の隙間から隣を覗き、障子の白い紙に華やかな紅の色を照り栄えながら、奥さんらしい人が縫物をしているのを眺める。ここの隣りに、そんなうちがあるのが不思議に感ぜられる。黙ってひっそりと、静に動いたり、顔をあげたりする・・・<宮本百合子「思い出すかずかず」青空文庫>
  21. ・・・ 小さい根下りの丸髷に結って、帯をいつもひっかけにしめているおゆきは、その家で縫物をしていた。おゆきが針箱やたち板を出しかけている部屋のそとに濡れ縁があって、ちょいとした空地に盆栽棚がつくられていた。西日のさしこむ軒に竹すだれがかかり、・・・<宮本百合子「菊人形」青空文庫>
  22. ・・・ 丁度、朝十一時頃から午後三時頃まで、日当りの心持よい公園の広場を通ると、私共はよく、ときの声を挙げて悦び遊んでいる子供等の一群と、傍のベンチで、本を読み、編物、小さい縫物、又は不便そうに身を屈めて手紙まで書きながら付添っている保姆、母・・・<宮本百合子「男女交際より家庭生活へ」青空文庫>
  23. ・・・ 身持ちの弟嫁が縫物から丸顔をあげてすぐ答えた。「源ちゃん、何で行ったの?」「バスは通ってるんですって」 その縁先の庭で、もう落ちはじめた青桐の葉っぱを大きな音を立てて掃きよせていたシャツ姿の家の者が、「電車も、たまです・・・<宮本百合子「電車の見えない電車通り」青空文庫>
  24. ・・・プロレタリア文学運動を何処かでゆがめていわゆる自己批判したものや、反対的立場から観察したようなものが多くて、熱心に、理性的な発展的文学の方向をさぐっていた人々は、まるで屑糸の中から使える糸をぬき出して縫物をするように、銘々の生長をおしてきて・・・<宮本百合子「討論に即しての感想」青空文庫>
  25. ・・・を作ったり草履を作ったり、女は出来るものは縫物だのはたを織ったりする。折々田や畑に見える人影は、たまあに自分の持地を見まわる人の影で、往還でさわいで居るものは犬と子供と鶏だけと云うほどになる。 猫などは十一月に入ると大方は家に引込みがち・・・<宮本百合子「農村」青空文庫>
  26. ・・・ この前後から、子供らは、私が見ていたように、そして手伝ったように、自分で洗濯をし、縫物をし、台所で夕飯のおかずをこしらえるために立ち働いている母を見ることが全く無いようになった。 母は父との間に九人の子を持った。そのうち六人を死な・・・<宮本百合子「母」青空文庫>
  27. ・・・と云ったが、りよは縫物の手を停めない。「ふん」と云って、叔父は良久しく女姪の顔を見ていた。そしてこう云った。「そいつは駄目だ。お前のような可哀らしい女の子を連れて、どこまで往くか分からん旅が出来るものか。敵にはどこで出逢うか、何年立って・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  28. ・・・下女は壁一重隔てた隣の部屋で縫物をしている。宮沢が欠をする。下女が欠を噬み殺す。そういう風で大分の間過ぎたのだそうだ。そのうちある晩風雪になって、雨戸の外では風の音がひゅうひゅうとして、庭に植えてある竹がおりおり箒で掃くように戸を摩る。十時・・・<森鴎外「独身」青空文庫>
  29. ・・・ツァウォツキイが来た時、ユリアは平屋の窓の傍で縫物をしていた。窓の枠の上には赤い草花が二鉢置いてある。背後には小さい帷が垂れてある。 ツァウォツキイはすぐに女房を見附けた。それから戸口の戸を叩いた。 戸が開いて、閾の上に小さい娘が出・・・<著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外「破落戸の昇天」青空文庫>
  30. ・・・これらの娘たちは、伯母の所へ茶や縫物や生花を習いに来ている町の娘たちで二三十人もいた。二階の大きな部屋に並んだ針箱が、どれも朱色の塗で、鳥のように擡げたそれらの頭に針がぶつぶつ刺さっているのが気味悪かった。 生花の日は花や実をつけた灌木・・・<横光利一「洋灯」青空文庫>