ぬすみ【盗み/×偸み】例文一覧 30件

  1. ・・・のらくらものの隙稼ぎに鑑札だけは受けているのが、いよいよ獲ものに困ずると、極めて内証に、森の白鷺を盗み撃する。人目を憚るのだから、忍びに忍んで潜入するのだが、いや、どうも、我折れた根気のいい事は、朝早くでも、晩方でも、日が暮れたりといえども・・・<泉鏡花「神鷺之巻」青空文庫>
  2. ・・・ 軽くおさえて、しばらくして、「謂うことが分るか、姉さん、分るかい、お前さんはね、紛失したというその五百円を盗みも、見もしないが、欲しいと思ったんだろうね。可し、欲しいと思った。それは深切なこの婆さんが、金子を頂かされたのを見て、あ・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  3. ・・・大きな人間ばかりは騙り取っても盗み取っても罪にならないからなあ」「や、親父もちょっと片意地の弦がはずれちまえばあとはやっぱりいさくさなしさ。なんでもこんごろはおかしいほどおとよと話がもてるちこったハヽヽヽヽ」 佐介がハヽヽヽヽと笑う・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  4. ・・・そうして、やっと豊橋の近くまで来た時は、もう一歩も動けず、目の前は真っ白、たまりかねて線路工夫の弁当を盗みました。みつかって、警察へ突き出される覚悟でした。おかしい話ですが、留置所へはいって食う飯のことが目にちらついてならなかった。人間もこ・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  5. ・・・私はコソコソと往きとは反対の盗み足で石段を帰ってきたが、両側の杉や松の枝が後ろから招いてる気がして、頸筋に死の冷めたい手触りを感じた。……「で、ゆうべあんなことで、ついフラフラとあの松の枝にぶらさがったはいいとして、今朝になってほん・・・<葛西善蔵「父の出郷」青空文庫>
  6. ・・・ われ、人の愛を盗みし報酬なり。 二郎はしばし黙して月を仰ぎつ、前なる杯を挙げ光にかざせば珠のごとき色かれが額に落ちぬ。しからば愛を盗まれし者の報酬は何ぞと言いつつ飲み干せり。われ、哀しき心にその美酒の浸み渡る心地ならめ。二郎は歓然・・・<国木田独歩「おとずれ」青空文庫>
  7. ・・・然し現在の母が子の抽斗から盗み出したので、仮令公金であれ、子の情として訴たえる理由にはどうしてもゆかない。訴たえることは出来ず、母からは取返えすことも出来ないなら、窃かに自分で弁償するより外の手段はない。八千円ばかりの金高から百円を帳面で胡・・・<国木田独歩「酒中日記」青空文庫>
  8. ・・・と真蔵は放擲って置いてもお源が今後容易に盗み得ぬことを知っているけれど、その理由を打明けないと決心てるから、仕様事なしにこう言った。「充満で御座います」とお徳は一言で拒絶した。「そうか」真蔵は黙って了う。「それじゃこうしたらどう・・・<国木田独歩「竹の木戸」青空文庫>
  9. ・・・看守の眼を盗みながら、どの位の用意と時間をかけて、それを作ったのだろう。その一つ一つの動作をしている同志の気持が、そのまゝ俺に来るのだ。 同志は何処にでもいるんだ、何よりそう思った。一度、本を読むのに飽きたので、独房の壁の中を撫でまわし・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  10. ・・・ 私は、「財は盗みである」というあの古い言葉を思い出しながら、庭にむいた自分の部屋の障子に近く行った。四月も半ばを過ぎたころで、狭い庭へも春が来ていた。 私は自分で自分に尋ねてみた。「これは盗みだろうか。」 それには私は、否・・・<島崎藤村「分配」青空文庫>
  11. ・・・私は既に三度、盗みを繰り返し、ことしの夏で四度目である。 ここまでの文章には私はゆるがぬ自負を持つ。困ったのは、ここからの私の姿勢である。 私はこの玩具という題目の小説に於いて、姿勢の完璧を示そうか、情念の模範を示そうか。けれども私・・・<太宰治「玩具」青空文庫>
  12. ・・・近日、短篇集お出しの由、この広告文を盗みなさい。お読み下さい。ね。うまいもんでしょう?私に油断してはいけません。私は貴方の右足の小指の、黒い片端爪さえ知っているのですよ。この五葉の切りぬきを、貴方は、こっそり赤い文箱に仕舞い込みました。どう・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  13. ・・・このときは、哲学どころのさわぎではない。盗み猫のように、音も立てずに生きて行く予感なんて、ろくなことはないと、むしろ、おそろしかった。あんな気持の状態が、永くつづくと、人は、神がかりみたいになっちゃうのではないかしら。キリスト。でも、女のキ・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  14. ・・・涙からまって唐辛子のように真赤に燃え、絨毯のうえをのろのろ這って歩いて、先刻マダムの投げ捨てたどっさり金銀かなめのもの、にやにや薄笑いしながら拾い集めて居る十八歳、寅の年生れの美丈夫、ふとマダムの顔を盗み見て、ものの美事の唐辛子、少年、わあ・・・<太宰治「創生記」青空文庫>
  15. ・・・の誌上に掲載されるという意外の光栄を得まして、それに気をよくして、さらにその次には、「林檎を盗みに行った時」という題で、やはり田舎に於ける私の冒険失敗談をかなり長く、れいの如くさかんに行をかえて書き、やはり「あけぼの」に掲載せられまして、こ・・・<太宰治「男女同権」青空文庫>
  16. ・・・ メッサーの手下が婚礼式場用の椅子や時計を盗みだすところはわりによくできている。くどく、あくどくならないところがうまいのであろう。倉庫の暗やみでのねずみのクローズアップや天井から下がった繩にうっかり首を引っかけて驚いたりするのも、わざと・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  17. ・・・それはとにかくこの人の云う通り、自分なども五十年来書物から人間から自然からこそこそ盗み集めた種に少しばかり尾鰭をつけて全部自分で発明したか、母の胎内から持って生れて来たような顔をして書いているのは全くの事実なのである。 人から咎められな・・・<寺田寅彦「随筆難」青空文庫>
  18. ・・・貧乏は悪徳である、貧者はその自覚の抑圧に苦しみ、富の美徳を獲得せんと焦慮するために働きあるいは盗み奪う……」 呉服の地質の種類や品位については全く無知識な自分も、染織の色彩や図案に対しては多少の興味がある。それで注意して見ると、近ごろ特・・・<寺田寅彦「丸善と三越」青空文庫>
  19. ・・・今日不忍池の周囲は肩摩轂撃の地となったので、散歩の書生が薄暮池に睡る水禽を盗み捕えることなどは殆ど事実でないような思いがする。然し当時に在っては、不忍池の根津から本郷に面するあたりは殊にさびしく、通行の人も途絶えがちであった。ここに雁の叙景・・・<永井荷風「上野」青空文庫>
  20. ・・・実は小さい時おれに盗みを教え込もうとした奴があったのだ。だが、どうも不気味だよ。そうは云うものの、おめえ何か旨い為事があるのなら、おれだって一口乗らねえにも限らねえ。やさしい為事だなあ。ちょいとしゃがめば、ちょいと手に攫めると云う為事で、あ・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  21. ・・・大は各国の交際に権を争い、小は人々の渡世に利を貪り、はなはだしきは物を盗み人を殺すものあり。なおはなはだしきは、かの血気の少年軍人の如きは、ひたすら殺伐戦闘をもって快楽となし、つねに世の平安をいとうて騒乱多事を好むが如し。ゆえに平安の主義は・・・<福沢諭吉「教育の目的」青空文庫>
  22. ・・・この際私が将軍の勲章とエボレットとを盗みこれを食しますれば私共は死ななくても済みます。そして私はその責任を負って軍法会議にかかりまた銃殺されようと思います。」特務曹長「曹長、よく云って呉れた。貴様だけは殺さない。おれもきっと一緒に行くぞ・・・<宮沢賢治「饑餓陣営」青空文庫>
  23. ・・・戦友としての人間らしいやさしさ、同時に行われる盗みっこ、要領、残酷、猥褻、目的のない侮蔑。「軍服」の中でそういう軍隊生活の特色は皆とりあげられている。が、三吉の実感をとおして作者が腹の中でそれをえぐる、そのえぐりが浅くて、げびない代りに感銘・・・<宮本百合子「小説と現実」青空文庫>
  24. ・・・ 菊池寛は英国文学の根柢にある常識性と彼が曾つて貧しい大学生として盗みの嫌疑さえかけられたような生活を経てきたのが年と共に度胸の据ったあのような常識を持つに至ったのであろう。 だから菊池の大衆文学には読者を「なるほどネ」といわせる力・・・<宮本百合子「“慰みの文学”」青空文庫>
  25. ・・・だから、俺はあの娘を盗みます。唯お前は俺たちを助けて下さい。石で打ってもいい。どっちみち俺はゆずらない」 ひっくり返るほどたまげながら、「こうなりゃ、ほかになんとしよう」アクリーナは「マクシムの額とワルワーラの編髪に祝福した」 若い・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  26. ・・・「銭」を稼がなければならなくなった。彼は屑拾いをした。オカ河岸の材木置場から板切や薪をかっぱらった。「盗みということは場末町では決して罪悪とされていなかった。それは習慣であり、又半ば飢えている町人にとっての殆ど唯一の生活方法なのであった。」・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」青空文庫>
  27. ・・・二郎は邸を見廻って、強い奴が弱い奴を虐げたり、諍いをしたり、盗みをしたりするのを取り締まっているのである。 二郎は小屋にはいって二人に言った。「父母は恋しゅうても佐渡は遠い。筑紫はそれよりまた遠い。子供の往かれる所ではない。父母に逢いた・・・<森鴎外「山椒大夫」青空文庫>
  28. ・・・有名な、占有は盗みだという語なんぞも、プルウドンが生れるより二十年も前に、Brissot が云っている。プルウドンという人は先ず弁論家というべきだろう。それからバクニンは、莫斯科と彼得堡との中間にある Prjamuchino で、貴家の家に・・・<森鴎外「食堂」青空文庫>
  29. ・・・ 当時遠島を申し渡された罪人は、もちろん重い科を犯したものと認められた人ではあるが、決して盗みをするために、人を殺し火を放ったというような、獰悪な人物が多数を占めていたわけではない。高瀬舟に乗る罪人の過半は、いわゆる心得違いのために、思・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>
  30. ・・・に重きを置く、公爵家の若君は母堂を自動車に載せて上野に散策し、山奥の炭焼きは父の屍を葬らんがために盗みを働いた。いずれが孝子であるか、今の社会にはわからぬ。親の酒代のために節操を棄て霊を離るる女が孝子であるならば吾人はむしろ「孝」を呪う。・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>