ねっ‐たい【熱帯】例文一覧 23件

  1. ・・・僕は熱帯植物の中からしっきりなしに吹きつけて来るジャッズにはかなり興味を感じた。しかし勿論幸福らしい老人などには興味を感じなかった。「あの爺さんは猶太人だがね。上海にかれこれ三十年住んでいる。あんな奴は一体どう云う量見なんだろう?」・・・<芥川竜之介「彼 第二」青空文庫>
  2. ・・・彼は帰りたさをこらえたまま、標本室の中を歩きまわった。熱帯の森林を失った蜥蜴や蛇の標本は妙にはかなさを漂わせている。これはあるいは象徴かも知れない。いつか情熱を失った彼の恋愛の象徴かも知れない。彼は三重子に忠実だった。が、三重子は半年の間に・・・<芥川竜之介「早春」青空文庫>
  3. ・・・ その間も寂しい鬼が島の磯には、美しい熱帯の月明りを浴びた鬼の若者が五六人、鬼が島の独立を計画するため、椰子の実に爆弾を仕こんでいた。優しい鬼の娘たちに恋をすることさえ忘れたのか、黙々と、しかし嬉しそうに茶碗ほどの目の玉を赫かせながら。・・・<芥川竜之介「桃太郎」青空文庫>
  4. ・・・あの変化、あの心の中にうず/\と捲き起る生の喜び、それは恐らく熱帯地方に住む人などの夢にも想い見ることの出来ない境だろう。それから水々しく青葉に埋もれてゆく夏、東京あたりと変らない昼間の暑さ、眼を細めたい程涼しく暮れて行く夜、晴れ日の長い華・・・<有島武郎「北海道に就いての印象」青空文庫>
  5. ・・・卿は熱帯の鬱林に放たれずして、山地の碧潭に謫されたのである。……トこの奇異なる珍客を迎うるか、不可思議の獲ものに競うか、静なる池の面に、眠れる魚のごとく縦横に横わった、樹の枝々の影は、尾鰭を跳ねて、幾千ともなく、一時に皆揺動いた。 これ・・・<泉鏡花「伯爵の釵」青空文庫>
  6. ・・・四六時中に熱帯の暑気と初冬の霜を見ることでありますれば、植生は堪ったものでありません。その時にあたってユトランドの農夫が収穫成功の希望をもって種ゆるを得し植物は馬鈴薯、黒麦、その他少数のものに過ぎませんでした。しかし植林成功後のかの地の農業・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  7. ・・・まず一匹の驢馬が出現する。熱帯の白日に照らされた道路のはるか向こうから兵隊のラッパと太鼓が聞こえて来る。アラビア人の馬方が道のまん中に突っ立った驢馬をひき寄せようとするがなかなかいこじに言うことを聞かない。馬方はとうとう自分ですべって引っく・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  8. ・・・     八 ベンガルの槍騎兵 変わった熱帯の背景とおおぜいの騎兵を使った大がかりな映画である。物語の筋はむしろ簡単であるが、途中に插入されたいろいろのエピソードで「映画的内容」がかなり豊富にされているのに気がつく。たとえば・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  9. ・・・     三 熱帯魚 百貨店の花卉部に熱帯魚を養ったガラス張りの水槽が並んでいる。暑いある日のことである。どう見ても金持ちらしい五十格好のあぶらぎった顔をした一人の顧客が、若い店員を相手にして何か話している。水槽につけた紙札・・・<寺田寅彦「試験管」青空文庫>
  10. ・・・夜九時にバベルマンデブの海峡を過ぎた。熱帯とも思われぬような涼しい風が吹いて船室の中も涼しかった。四月二十五日 十二使徒という名の島を右舷に見た。それを通り越すと香炉のふたのような形の島が見えたが名はわからなかった。 一等客でコ・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  11. ・・・英独仏などの科学国の普通教育の教材にはそんなものはないと云う人があるかもしれないが、それは彼地には大地震大津浪が稀なためである。熱帯の住民が裸体で暮しているからと云って寒い国の人がその真似をする謂われはないのである。それで日本のような、世界・・・<寺田寅彦「津浪と人間」青空文庫>
  12. ・・・ 日本画部から受けた灰色の合成的印象をもって洋画部へはいって行くと、冬枯れの野から温室の熱帯樹林へはいって行くような気持がするのは私ばかりではあるまい。製作のミリウ〔milieu 環境〕がちがうとは云え、培養された風土民俗が違うとは・・・<寺田寅彦「帝展を見ざるの記」青空文庫>
  13. ・・・活力の満ちた、しめっぽい熱帯の空気が鼻のあなから脳を襲う。椰子の木や琉球の芭蕉などが、今少し延びたら、この屋根をどうするつもりだろうといつも思うのであるが、きょうもそう思う。ハワイという国には肺病が皆無だとだれかの言った事を思い出す。妻は濃・・・<寺田寅彦「どんぐり」青空文庫>
  14. ・・・今思いだすだけでも熱帯の暑さの記憶は実に美しい幻影で装飾されている。しかし岡山や高松の暑さの思い出にはそれがない。後楽園や栗林公園はやはり春秋に見るべきであろう。九十五度の風が吹くと温帯の風物は赤土色の憂愁に包まれてしまうのである。 喉・・・<寺田寅彦「夏」青空文庫>
  15. ・・・現在の日本はカラフト国境から台湾まで連なる島環の上にあって亜熱帯から亜寒帯に近いあらゆる気候風土を包含している。しかしそれはごく近代のことであって、日清戦争以前の本来の日本人を生育して来た気候はだいたいにおいて温帯のそれであった。そうしてい・・・<寺田寅彦「日本人の自然観」青空文庫>
  16. ・・・薬びん台に載せて始めてよく見ると、葉鶏頭に似た樹冠の燃えるような朱赤色は実に強い色である、どうしても熱帯を思わせる色である。花よりはむしろ鳥類の飾り毛にでもふさわしい色だと思う。頂上を見ると黄色がかった小さい花が簇生しているが、それはきわめ・・・<寺田寅彦「病室の花」青空文庫>
  17. ・・・花ばかりでなくいろいろ美しい熱帯の観葉植物の燃えるような紅や、けがれのない緑の色や、典雅な形態を見ればたれしも蘇生するここちのしない人はあるまい。そしてこのわれわれの衣食住の必要品やぜいたく品を所狭くわずらわしく置きならべた五層楼の屋上にこ・・・<寺田寅彦「丸善と三越」青空文庫>
  18. ・・・一帯に熱帯風な日本の生活が、最も活々として心持よく、決して他人種の生活に見られぬ特徴を示すのは夏の夕だと自分は信じている。 虫籠、絵団扇、蚊帳、青簾、風鈴、葭簀、燈籠、盆景のような洒々たる器物や装飾品が何処の国に見られよう。平素は余りに・・・<永井荷風「夏の町」青空文庫>
  19. ・・・まして台湾以南の熱帯地方では椰子とかバナナとかパインアップルとかいうような、まるで種類も味も違った菓物がある。江南の橘も江北に植えると枳殻となるという話は古くよりあるが、これは無論の事で、同じ蜜柑の類でも、日本の蜜柑は酸味が多いが、支那の南・・・<正岡子規「くだもの」青空文庫>
  20. ・・・ 想像の豊かな若者なら、きっとその蔭に照る強い日の色、風の光、色彩の濃い熱帯の鳥の翼ばたきをまざまざと想うことが出来るに違いない。 そう思って見れば、これ等の瑞々しい紫丁香花色の花弁の上には敏感に、微に、遠い雲の流れがてりはえている・・・<宮本百合子「小景」青空文庫>
  21. ・・・――ヴィクトリアの秋―― これは、半熱帯の永劫冬にならない晩秋だ。夕暮、サラサラした砂漠の砂は黄色い。鳥や獣の足跡も其上になく、地平線に、黒紫の孤立したテイブル・ランドの陰気な輪廓が見える。低い、影の蹲ったようないら草の彼方此方・・・<宮本百合子「翔び去る印象」青空文庫>
  22. ・・・ 温帯や寒帯の植物は、熱帯になんかありません。僕知ってらあ」と云う風です。 可愛い女の子のドラは、ロザリー自身が熱中して聞いたお話に、つまらなそうな表情を示します。まるで空想のない、まるで感興のない子供達。ロザリーが選んでつけた学問のあ・・・<宮本百合子「「母の膝の上に」(紹介並短評)」青空文庫>
  23. ・・・病人は十二三の男の子である。熱帯地方の子供かと思うように、ひどく日に焼けた膚の色が、白地の浴衣で引っ立って見える。筋肉の緊まった、細く固く出来た体だということが一目で知れる。 暫く見ていた花房は、駒下駄を脱ぎ棄てて、一足敷居の上に上がっ・・・<森鴎外「カズイスチカ」青空文庫>