ねっ‐ちゅう【熱中】例文一覧 30件

  1. ・・・しかし藤井は相不変話を続けるのに熱中していた。「和田のやつも女の前へ来ると、きっと嬉しそうに御時宜をしている。それがまたこう及び腰に、白い木馬に跨ったまま、ネクタイだけ前へぶらさげてね。――」「嘘をつけ。」 和田もとうとう沈黙を・・・<芥川竜之介「一夕話」青空文庫>
  2. ・・・同時にまたマルクスやエンゲルスの本に熱中しはじめたのもそれからである。僕は勿論社会科学に何の知識も持っていなかった。が、資本だの搾取だのと云う言葉にある尊敬――と云うよりもある恐怖を感じていた。彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェ・・・<芥川竜之介「彼」青空文庫>
  3. ・・・国事にでもあるいは自分の仕事にでも熱中すると、人と話をしていながら、相手の言うことが聞き取れないほど他を顧みないので、狂人のような状態に陥ったことは、私の知っているだけでも、少なくとも三度はあった。 父の教育からいえば、父の若い時代とし・・・<有島武郎「私の父と母」青空文庫>
  4. ・・・戦争をしている国民が、より多く自国の国力に適合する平和の為という目的を没却して、戦争その物に熱中する態度も、その一つである。そういう心持は、自分自身のその現在に全く没頭しているのであるから、世の中にこれ位性急な(同時に、石鹸玉心持はない。…・・・<石川啄木「性急な思想」青空文庫>
  5. ・・・が、一つには私は人一倍物事に熱中する代りに、すぐそれに飽いてしまうという厄介な性質を持っていました。いわば、竜頭蛇尾、たとえば千メートルの競争だったら、最初の二百メートルはむちゃくちゃに力を出しきって、あとはへこたれてしまうといった調子。そ・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  6. ・・・私は競馬は好きだが、人が思うほど熱中しているわけではないから、それで身を亡ぼすことはあるまい。女――身を亡ぼしそうになったこともあり、げんに女のことで苦しめられているから、今後も保証できないが、しかしもう女のことではこりている。酒は大丈夫だ・・・<織田作之助「中毒」青空文庫>
  7. ・・・ しかし、夫の庄之助が今日この頃のように明けても暮れても寿子にかまけていて、礼子自身腹を痛めた弟や妹たちとはくらべものにならぬ位、寿子に熱中しているのを見ると、さすがに礼子はいい気はしなかった。おまけに、庄之助が寿子相手の稽古に没頭して・・・<織田作之助「道なき道」青空文庫>
  8. ・・・ことには恋愛に熱中し得る力は、また君につくし、仕事にささげ得る力であることを思えば、生ぬるい恋の仕方をむしろしりぞけたくなる。だからこれは恋する力が強いのが悪いのではなく、知性や意力が弱いのがいけないのだ。奔馬のように狂う恋情を鋭い知性や高・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  9. ・・・ 彼が、大佐の娘に熱中しているのを探り出して、云いふらしたのも吉原だった。「不軍紀な、何て不軍紀な! 徹底的に犠牲にあげなきゃいかん!」 そして彼は、イワンに橇を止めさせると、すぐとびおりて、中隊長と云い合っている吉原の方へ雪に・・・<黒島伝治「橇」青空文庫>
  10. ・・・普段、モオツァルトだの、バッハだのに熱中しているはずの自分が、無意識に、「唐人お吉」を唄ったのが、面白い。蒲団を持ち上げるとき、よいしょ、と言ったり、お掃除しながら、唐人お吉を唄うようでは、自分も、もう、だめかと思う。こんなことでは、寝言な・・・<太宰治「女生徒」青空文庫>
  11. ・・・芹川さんは、おいでになる度毎に何か新刊の雑誌やら、小説集やらを持って来られて、いろいろと私に小説の筋書や、また作家たちの噂話を聞かせて下さるのですが、どうも余り熱中しているので、可笑しいと思って居りましたところが、或る日とうとう芹川さんは、・・・<太宰治「誰も知らぬ」青空文庫>
  12. ・・・と題して先生が山椒魚に熱中して大損をした時の事を報告し、世の賢者たちに、なんだ、ばかばかしいと顰蹙せられて、私自身も何だか大損をしたような気さえしたのであるが、このたびの先生の花吹雪格闘事件もまた、世の賢者たちに或いは憫笑せられるかも知れな・・・<太宰治「花吹雪」青空文庫>
  13. ・・・ 日本映画人がかつてソビエト露国から俳諧的モンタージュの逆輸入を企て一時それに熱中したのはすでに周知の事実なのである。二 ロバータ 前に見た「コンチネンタル」と同じく芸人フレッド・アステーアとジンジャー・ロジャースとの舞・・・<寺田寅彦「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」青空文庫>
  14. ・・・宗教に熱中した人がこれと似よった恍惚状態を経験することもあるのではないか。これが何々術と称する心理的療法などに利用されるのではないかと思われる。 酒やコーヒーのようなものはいわゆる禁欲主義者などの目から見れば真に有害無益の長物かもしれな・・・<寺田寅彦「コーヒー哲学序説」青空文庫>
  15. ・・・ あまり自分が熱中しているものだから、家内のものは戯れに「この絵は魂がはいっているから夜中に抜け出すかもしれない」などと言って笑っていた。ところがある晩床の中にはいって鴨居にかけた自画像をながめていると、絵の顔が思いがけもなくまたたきを・・・<寺田寅彦「自画像」青空文庫>
  16. ・・・区々たる政府の政に熱中奔走して、自家の領分はこれを放却して忘れたるが如し。内を外にするというべきか、外を内にするというべきか、いずれにも本気の沙汰とは認め難し。政の字の広き意味にしたがえば、人民の政事には際限あるべからず。これを放却して誰に・・・<福沢諭吉「学者安心論」青空文庫>
  17. ・・・冷水浴をして sport に熱中する。昔は Monsieur de Voltaire, Monsieur de Buffon だなんと云って、ロオマンチック派の文士が冷かしたものだが、ピエエルなんぞはたしかにあのたちの貴族的文士の再来である・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  18. ・・・私は、部分部分の描写の熱中が、全巻をひっくるめての総合的な調子の響を区切ってしまっていると感じた。信州の宿屋の一こま、産婆のいかがわしい生活の一こま、各部は相当のところまで深くつかまれているけれども、場面から場面への移りを、内部からずーと押・・・<宮本百合子「「愛怨峡」における映画的表現の問題」青空文庫>
  19. ・・・この間の踊を熱中したのはどんな人々でしたろう。若い婦人若い男の人たちでした。太鼓は鳴ります。うたがきこえます。そして私たちは、何年か前に、これらの若い人々の運命がきびしくなろうとするとき却って若い人々をおどらす太鼓が鳴ったのを思いおこしまし・・・<宮本百合子「朝の話」青空文庫>
  20. ・・・こういうテーマに熱中していたのは中産階級の作家であり、文学であり、またその読者であったのだが、今日、日本の中産階級というものの実態はどうだろう。経済的に破滅した。経済上、精神上の闇が洪水のように、最もよわいこの社会層をつきくずしている。戦争・・・<宮本百合子「新しい文学の誕生」青空文庫>
  21. ・・・それに、熱中して物を云うとき、体じゅうに押し出されて来る一種類の少いダイナミックな空気を画家だったら、どんな工合に捉えて再現するのだろう。 徳田さんのもっている色調はきついチョコレートがかった茶色であり、それに漆がかっているような艷があ・・・<宮本百合子「熱き茶色」青空文庫>
  22. ・・・ そう考えると、宗達は人間好きな、美しさに人間らしく熱中する男であったのだと思う。そういう気質らしい清潔さ、寛厚さ、こころの視角の高さも感じられるのである。 光琳が大成したという宗達の装飾的な一面は、その方向の極致なのだろうが、或る・・・<宮本百合子「あられ笹」青空文庫>
  23. ・・・しかも、作者は一種の熱中をもって主人公葉子の感情のあらゆる波を追究しようとしていて、時には表現の氾濫が感じられさえする。 葉子というこの作の主人公が、信子とよばれたある実在の婦人の生涯のある時期の印象から生れているということはしばしば話・・・<宮本百合子「「或る女」についてのノート」青空文庫>
  24. ・・・ムッソリーニは権力の確保のためにも資源リビヤへの大なる熱中を示している。そして、アフリカへ! 新しいラテン文化の地へ! というスローガンを文化科学の全面に押し出しているのである。 イタリーでは今「脱出の文学」ということが云われているそう・・・<宮本百合子「イタリー芸術に在る一つの問題」青空文庫>
  25. ・・・をかきながら、自分の文学のリアリズムに息がつまって、午前中小説をかけば午後は小説をかくよりももっと熱中して南画をかき、空想の山河に休んだということは、何故漱石のリアリズムが彼を窒息させたかという文学上の問題をおいても、大正初期の日本文化の一・・・<宮本百合子「偽りのない文化を」青空文庫>
  26. ・・・こういうものは、すっかり、ステパン、イワンになり切って、自分達が傍から見て可笑しい何を云っているのも気づかず段々熱中して行くところに、自然な人間的な微笑が現れる筈なのだ。日本の所謂喜劇という概念に励まされて、賑やかに騒いだのでは仕方がない。・・・<宮本百合子「印象」青空文庫>
  27. ・・・出来ない言葉を対手に分らせようとする熱中から私は不思議にその時聴衆の顔がはっきり見えた。私が「分りますか」というと「分る、心配するな」といってくれる髯の爺さんの笑っている顔もはっきり、よろこびをもって認めることが出来た。 これは小さい経・・・<宮本百合子「打あけ話」青空文庫>
  28. ・・・しかし腹の空いている方が先ですから、面白さを求めても満たされず、熱中する目当もはっきりしない。兎に角お腹が空くわという気持で、露店でも見ながら街を歩くでしょう。 今日あたりの新聞をみると、少年少女の犯罪が非常に多い。特に少女の脱線ぶりが・・・<宮本百合子「美しく豊な生活へ」青空文庫>
  29. ・・・そうしてその体験の表現が、たとえば茸狩りにおける熱中や喜びの表情が、彼に茸の価値を教えたのである。だからここに茸の価値と言われるものは、この自己没入的な探求の体験の相続と繰り返しにほかならぬのであって、価値感という作用に対応する本質というご・・・<和辻哲郎「茸狩り」青空文庫>
  30. ・・・諸君はその神々を祭るために眠りをも忘れて熱中する。けれども諸君はこの神々に真に満足しているか。予は散歩の途上、諸君の礼拝する所を見て歩いた時に、「知らざる神に」と刻りつけた一つの祭壇を見いだして非常に驚いたことがあった。諸君の中には確かにあ・・・<和辻哲郎「『偶像再興』序言」青空文庫>