ねつ‐びょう〔‐ビヤウ〕【熱病】例文一覧 26件

  1. ・・・もし岩殿の神の代りに、天魔があの祠にいるとすれば、少将は都へ帰る途中、船から落ちるか、熱病になるか、とにかくに死んだのに相違ない。これが少将もあの女も、同時に破滅させる唯一の途じゃ。が、岩殿は人間のように、諸善ばかりも行わねば、諸悪ばかりも・・・<芥川竜之介「俊寛」青空文庫>
  2. ・・・川島は小学校も終らないうちに、熱病のために死んでしまった。が、万一死なずにいた上、幸いにも教育を受けなかったとすれば、少くとも今は年少気鋭の市会議員か何かになっていたはずである。……「開戦!」 この時こう云う声を挙げたのは表門の前に・・・<芥川竜之介「少年」青空文庫>
  3. ・・・ 自動車のいる所に来ると、お前たちの中熱病の予後にある一人は、足の立たない為めに下女に背負われて、――一人はよちよちと歩いて、――一番末の子は母上を苦しめ過ぎるだろうという祖父母たちの心遣いから連れて来られなかった――母上を見送りに出て・・・<有島武郎「小さき者へ」青空文庫>
  4. ・・・そして熱病病みのように光る目をして、あたりを見廻した。「やれやれ。恐ろしい事だった。」「早く電流を。」丸で調子の変った声で医者はこう云って、慌ただしく横の方へ飛び退いた。「そんなはずはないじゃないか。」「電流。電流。早く電流を。・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  5. ・・・ 恋愛を一種の熱病と見て、解熱剤を用意して臨むことを教え、もしくは造化の神のいたずらと見てユーモラスに取り扱うという態度も、私の素質には不釣り合いのことであろう。 かようにして浪曼的理想主義者としての私の、恋愛運命論を腹の底に持って・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  6. ・・・二人は、熱病のように頭がふらふらした。何もかも取りはずして、雪の上に倒れて休みたかった。 山は頂上で、次の山に連っていた。そしてそれから、また次の山が、丁度、珠数のように遠くへ続いていた。 遠く彼方の地平線まで白い雪ばかりだ。スメタ・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  7. ・・・ と、こんなことを、まるで熱病患者のように発作的に声に出して呟いていた。 彼はロシアの娘が自分をアメリカの兵卒と同じ階級としか考えず、同じようにしか持てなさないのが不満で仕様がなかった。同様にしか持てなさないのは、彼にとっては、階級・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  8. ・・・一時に氷が増してよく冷えると見えて、少し心が落付いたが、次第に昇る熱のために、纏まった意識の力は弱くなり、それにつれて恐ろしい熱病の幻像はもう眼の前に押寄せて来る。いつの間にか自分と云うものが二人に別れる。二人ではあるがどちらも自分である。・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  9.  何事でも「世界第一」という名前の好きなアメリカに、レコード熱の盛んなのは当然のことであるが、一九二九年はこのレコード熱がもっとも猖獗をきわめた年であって、その熱病が欧州にまでも蔓延した。この結果としてこの一年間にいろいろの・・・<寺田寅彦「記録狂時代」青空文庫>
  10. ・・・子供の時分によく熱病をわずらって、その度に函館産の氷で頭を冷やしたことであったが、あの時のあの氷が、ここのこの泥水の壕の中から切り出されて、そうして何百里の海を越えて遠く南海の浜まで送られたものであったのかと思うと、この方が中学校の歴史で教・・・<寺田寅彦「札幌まで」青空文庫>
  11. ・・・人殺しをしたものが長い年月の後に熱病でもわずらった時に殺した時の犠牲者の顔をありあり見るというが、それはおそらく自分の見た幻覚と類した程度のものが見えるのではあるまいかと思った。 もう一つ不思議な錯覚のようなものがあった。ある日例のよう・・・<寺田寅彦「自画像」青空文庫>
  12. ・・・そうしてその熱病患者に特有なような目つきが何かしら押え難い心の興奮を物語っているように見えた。男の背中には五六歳ぐらいの男の子が、さもくたびれ果てたような格好でぐったりとして眠っていた。雨も降らぬのに足駄をはいている、その足音が人通りのまれ・・・<寺田寅彦「蒸発皿」青空文庫>
  13. ・・・そこでもって家賃が滞る――倫敦の家賃は高い――借金ができる、寄宿生の中に熱病が流行る。一人退校する、二人退校する、しまいに閉校する。……運命が逆まに回転するとこう行くものだ。可憐なる彼ら――可憐は取消そう二人とも可憐という柄ではない――エー・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  14. ・・・そしてぼくが桃いろをした熱病にかかっていてそこへいま水が来たのでぼくは足から水を吸いあげているのだった。どきっとして眼をさました。水がこぼこぼ裂目のところで泡を吹きながらインクのようにゆっくりゆっくりひろがっていったのだ。 水が来なくな・・・<宮沢賢治「或る農学生の日誌」青空文庫>
  15. ・・・ひどい熱病にかかったのです。       * ホモイが、おとうさんやおっかさんや、兎のお医者さんのおかげで、すっかりよくなったのは、鈴蘭にみんな青い実ができたころでした。 ホモイは、ある雲のない静かな晩、はじめてうちからちょっと・・・<宮沢賢治「貝の火」青空文庫>
  16. ・・・ なめくじはあんまりくやしくて、しばらく熱病になって、「うう、くもめ、よくもぶじょくしたな。うう。くもめ。」といっていました。 網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこわされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて・・・<宮沢賢治「蜘蛛となめくじと狸」青空文庫>
  17. ・・・それからもうひどい熱病になって、二か月の間というもの、「とっこべとら子に、だまされだ。ああ欺されだ」と叫んでいました。 みなさん。こんな話は一体ほんとうでしょうか。どうせ昔のことですから誰もよくわかりませんが多分偽ではないでしょうか・・・<宮沢賢治「とっこべとら子」青空文庫>
  18. ・・・ 風が一そうはげしくなってひのきもまるで青黒馬のしっぽのよう、ひなげしどもはみな熱病にかかったよう、てんでに何かうわごとを、南の風に云ったのですが風はてんから相手にせずどしどし向うへかけぬけます。 ひなげしどもはそこですこうししずま・・・<宮沢賢治「ひのきとひなげし」青空文庫>
  19. ・・・民間の経済雑誌に、国際間の経済統計、生産指数などの発表されることを禁じた日本の軍部は、そうして世界の現実を人々の目からかくしたと同時に、非合理な戦争によって熱病のように混乱、高騰、崩壊する日本国内生産と経済事情を――人民生活の全面的な破壊の・・・<宮本百合子「現代史の蝶つがい」青空文庫>
  20. ・・・に書かれているまでのアグネス・スメドレーは、不屈な闘志と生来の潔白な人間的欲求と共に熱病的な矛盾と自然発生的な手さぐりな、しかし熱烈な生きかたとを展開しているのである。「女一人大地を行く」が書かれてから既に十年近い月日が経った。スメドレ・・・<宮本百合子「中国に於ける二人のアメリカ婦人」青空文庫>
  21. ・・・更に出版権にからまる絶え間ない訴訟事件があり、代議士立候補のための、進んでは大臣になるための政見を発表し、しかも時々バルザックは一八二五年の破局にもこりず熱病にかかったように大仕掛の企業欲にとりつかれ、サルジニアの銀鉱採掘事業や、或る地勢を・・・<宮本百合子「バルザックに対する評価」青空文庫>
  22. ・・・長椅子の上であえぎながら、彼女は報告を読み、手紙を口述し、心悸亢進の合間には熱病的な冗談をとばした。ナイチンゲールは、イギリスの陸軍病院の全組織の改善という大計画につかれているのであった。自分の体のままにならないフロレンスは間もなく自分の周・・・<宮本百合子「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」青空文庫>
  23. ・・・ 私はさながら熱病につかれたようにペンをとりあげ紙に向った。」そして、ヴォドピヤーノフは、極地飛行を空想の中で百千回体験したとき、白熱した想像が描き出してくれた通りに、飛行準備の有様を細大洩さず描写した。更に彼は、そういう自然力と科学の力と・・・<宮本百合子「文学のひろがり」青空文庫>
  24. ・・・このことでゴーリキイは熱病にかかり、永い間寝床から起きられなかった。ほかの従兄弟らは、依然として土曜日になると樺の鞭をくって泣き声を立てつづけたが、ゴーリキイの抵抗は遂に祖父さんを屈服させることが出来たのであった。 アレキサンドル二世が・・・<宮本百合子「マクシム・ゴーリキイの伝記」青空文庫>
  25. ・・・けれども、この頃を境として生活費の膨脹は熱病患者の体温計のように止めようとしても止まらない力で上昇した。しかし、労働賃銀というものはあらゆる場合に、物価高に追付くことは不可能であるから、二つの間の開きは破局的に大きくなって来た。このようにし・・・<宮本百合子「私たちの建設」青空文庫>
  26. ・・・この晩の印象はどうしても忘れる事ができないほど強烈である、三人とも夢中になって、熱病やみのように打ち震えた。カインツは馳け回って大声に歓呼しながら帽子を振り、ロッテはもう役者を廃めるといって苦しげに泣いた。劇場を出た時には三人とも歓びのあま・・・<和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」青空文庫>