ね‐どこ【寝床】例文一覧 30件

  1.  楊某と云う支那人が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽っていると、ふと一匹の虱が寝床の縁を這っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の光で、虱は小・・・<芥川竜之介「女体」青空文庫>
  2. ・・・僕は新年号の仕事中、書斎に寝床をとらせていた。三軒の雑誌社に約束した仕事は三篇とも僕には不満足だった。しかし兎に角最後の仕事はきょうの夜明け前に片づいていた。 寝床の裾の障子には竹の影もちらちら映っていた。僕は思い切って起き上り、一まず・・・<芥川竜之介「年末の一日」青空文庫>
  3. ・・・ 二時を過ぎて三時に近いと思われるころ、父の寝床のほうからかすかな鼾が漏れ始めた。彼はそれを聞きすましてそっと厠に立った。縁板が蹠に吸いつくかと思われるように寒い晩になっていた。高い腰の上は透明なガラス張りになっている雨戸から空をすかし・・・<有島武郎「親子」青空文庫>
  4. ・・・からだをすっかりふいてやったおとうさんが、けががひどいから犬の医者をよんで来るといって出かけて行ったるすに、ぼくは妹たちに手伝ってもらって、藁で寝床を作ってやった。そしてタオルでポチのからだをすっかりふいてやった。ポチを寝床の上に臥かしかえ・・・<有島武郎「火事とポチ」青空文庫>
  5. ・・・ああ眠くなったと思った時、てくてく寝床を探しに出かけるんだ。昨夜は隣の室で女の泣くのを聞きながら眠ったっけが、今夜は何を聞いて眠るんだろうと思いながら行くんだ。初めての宿屋じゃ此方の誰だかをちっとも知らない。知った者の一人もいない家の、行燈・・・<石川啄木「一利己主義者と友人との対話」青空文庫>
  6. ・・・お幾は段を踏辷らすようにしてずるりと下りて店さきへ駆け出すと、欄干の下を駆け抜けて壁について今、婆さんの前へ衝と来たお米、素足のままで、細帯ばかり、空色の袷に襟のかかった寝衣の形で、寝床を脱出した窶れた姿、追かけられて逃げる風で、あわただし・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  7. ・・・ と、枕だけ刎ねた寝床の前で、盆の上ながらその女中――お澄――に酌をしてもらって、怪しからず恐悦している。 客は、手を曳いてくれないでは、腰が抜けて二階へは上れないと、串戯を真顔で強いると、ちょっと微笑みながら、それでも心から気の毒・・・<泉鏡花「鷭狩」青空文庫>
  8.  その日の朝であった、自分は少し常より寝過ごして目を覚ますと、子供たちの寝床は皆からになっていた。自分が嗽に立って台所へ出た時、奈々子は姉なるものの大人下駄をはいて、外へ出ようとするところであった。焜炉の火に煙草をすっていて・・・<伊藤左千夫「奈々子」青空文庫>
  9. ・・・と、細君は先ず僕等の寝床を敷きにあがった。僕等は暫くしてあがった。 家は古いが、細君の方の親譲りで、二階の飾りなども可なり揃っていた。友人の今の身分から見ると、家賃がいらないだけに、どこか楽に見えるところもあった。夫婦に子供二人の活しだ・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  10. ・・・ 枕もとに手紙が来ていたので、寝床の中から取って見ると、妻からのである。言ってやった金が来たかと、急いで開いて見たが、為替も何もはいっていないので、文句は読む気にもならなかった。それをうッちゃるように投げ出して、床を出た。 楊枝をく・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  11. ・・・ 良吉は、毎晩、寝床の中に入ると、窓からもれる星の光を見ていろいろのことを考えていました。――すると、ある晩のこと、不思議にも窓から、彼を手招ぐものがあります。良吉は起きていってみますと、それは文雄でありました。良吉はあまりのなつかしさ・・・<小川未明「星の世界から」青空文庫>
  12. ・・・ 駱駝の背中と言ったのは壁ぎわの寝床で、夫婦者と見えて、一枚の布団の中から薄禿の頭と櫛巻の頭とが出ている。私はその横へ行って、そこでもまたぼんやり立っていると、櫛巻の頭がムクムク動いて、「お前さん、布団ならあそこの上り口に一二枚あっ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  13. ・・・鰻の寝床みたいな狭い路地だったけれど、しかしその辺は宗右衛門町の色町に近かったから、上町や長町あたりに多いいわゆる貧乏長屋ではなくて、路地の両側の家は、たとえば三味線の師匠の看板がかかっていたり、芝居の小道具づくりの家であったり、芸者の置屋・・・<織田作之助「アド・バルーン」青空文庫>
  14. ・・・熱が七度五分ぐらいまでに下ると、いきなり寝床を飛びだし、お君の止めるのもきかず、外へ出た。谷町九丁目の坂道を降りて千日前へ出た。珍しく霧の深い夜で、盛り場の灯が空に赤く染まっていた。千日前から法善寺境内にはいると、そこはまるで地面がずり落ち・・・<織田作之助「雨」青空文庫>
  15. ・・・毎日午後の三四時ごろに起きては十二時近くまで寝床の中で酒を飲む。その酒を飲んでいる間だけが痛苦が忘れられたが、暁方目がさめると、ひとりでに呻き声が出ていた。装飾品といって何一つない部屋の、昼もつけ放しの電灯のみが、侘しく眺められた。・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  16. ・・・を呼んで寝床を共にする。そのあとで彼女はすぐ自分の寝床へ帰ってゆくのである。生島はその当初自分らのそんな関係に淡々とした安易を感じていた。ところが間もなく彼はだんだん堪らない嫌悪を感じ出した。それは彼が安易を見出していると同じ原因が彼に反逆・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  17. ・・・ 見ればなるほど三畳敷の一間に名ばかりの板の間と、上がり口にようやく下駄を脱ぐだけの土間とがあるばかり、その三畳敷に寝床が二つ敷いてあって、豆ランプが板の間の箱の上に載せてある。その薄い光で一ツの寝床に寝ている弁公の親父の頭がおぼろに見・・・<国木田独歩「窮死」青空文庫>
  18. ・・・二、寝床のなかで物を考えぬこと。この二つだけ守ればどんなに勉強してもそれほど弱くはならない。これだけは守らねばならぬ。一、でき得る限り刻苦勉強すること。これはどんな天才にも必要なことである。努力せぬ者は終にはきっと負ける・・・<倉田百三「芸術上の心得」青空文庫>
  19. ・・・ 彼等は、内地にいる、兵隊に取られることを免れた人間が、暖い寝床でのびのびとねていることを思った。その傍には美しい妻が、――内地に残っている同年の男は、美しくって気に入った女を、さきに選び取る特権を持っているのだ。そこには、酒があり、滋・・・<黒島伝治「橇」青空文庫>
  20. ・・・ ちょうど三年ばかり前に、五十日あまりも私の寝床が敷きづめに敷いてあったのも、この四畳半の窓の下だ。思いがけない病が五十の坂を越したころの身に起こって来た。私はどっと床についた。その時の私は再び起つこともできまいかと人に心配されたほどで・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・ と苦しそうに小声で言い、すぐにそのまま式台に寝ころび、私が寝床に引返した時には、もう高い鼾が聞えていました。 そうして、その翌る日のあけがた、私は、あっけなくその男の手にいれられました。 その日も私は、うわべは、やはり同じ様に・・・<太宰治「ヴィヨンの妻」青空文庫>
  22. ・・・むつかしやの苦虫の公爵が寝床の中でこの歌を始める。これがヴァレンティーヌ夫人、ド・ヴァレーズ伯爵、ド・サヴィニャク伯爵へと伝播する。最後の伯爵のガス排出の音からふざけ半分のホルンの一声が呼び出され、このラッパが鹿狩りのラッパに転換して爽快な・・・<寺田寅彦「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」青空文庫>
  23. ・・・お絹も寝床にいて、寝たふりで聞いていた。 道太は裏の家に大散財があったので、昨夜は夜中に寝床を下へもってきてもらって、姉妹たちの隣りの部屋に蚊帳を釣っていた。冷え冷えした風が流れていた。お絹はお芳に手伝わせて、しまってあった障子を持ちだ・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  24.    一 善ニョムさんは、息子達夫婦が、肥料を馬の背につけて野良へ出ていってしまう間、尻骨の痛い寝床の中で、眼を瞑って我慢していた。「じゃとっさん、夕方になったら馬ハミだけこさいといてくんなさろ、無理しておきたら・・・<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  25. ・・・長火鉢の傍にしょんぼりと坐って汚れた壁の上にその影を映させつつ、物静に男の着物を縫っている時、あるいはまた夜の寝床に先ず男を寝かした後、その身は静に男の羽織着物を畳んで角帯をその上に載せ、枕頭の煙草盆の火をしらべ、行燈の燈心を少しく引込め、・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  26. ・・・ 自分の室はもと特等として二間つづきに作られたのを病院の都合で一つずつに分けたものだから、火鉢などの置いてある副室の方は、普通の壁が隣の境になっているが、寝床の敷いてある六畳の方になると、東側に六尺の袋戸棚があって、その傍が芭蕉布の襖で・・・<夏目漱石「変な音」青空文庫>
  27. ・・・私は並べて敷かれている自分の寝床の方から稲子さんのお乳をしぼっているところまで出かけてゆき、プロレタリア作家としての女の生活を様々の強い、新鮮な感情をもって考えながら、やっぱり一種心配気な顔つきで稲子さんのお乳をしぼる様子を謹んでわきから眺・・・<宮本百合子「窪川稲子のこと」青空文庫>
  28. ・・・兎に角拳銃が寝床に置いてあったのを、持って来れば好かったと思ったが、好奇心がそれを取りに帰る程の余裕を与えないし、それを取りに帰ったら、一しょにいる人が目を醒ますだろうと思って諦念めたそうだ。磚は造做もなく除けてしまった。窓へ手を掛けて押す・・・<森鴎外「鼠坂」青空文庫>
  29. ・・・そして、彼は自分の寝床へ帰って来ると憂鬱に蝋燭の火を吹き消した。       四 彼は自分の疲れを慰めるために、彼の眼に触れる空間の存在物を尽く美しく見ようと努力し始めた。それは彼の感情のなくなった虚無の空間へ打ち建てらるべ・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>
  30. ・・・アガアテはいつでもわたくしの所へ参ると、にっこり笑って、尼の被物に極まっている、白い帽子を着ていまして、わたくしの寝床に腰を掛けるのでございます。わたくしが妹の手を取って遣りますと、その手に障る心持は、丁度薔薇の花の弁に障るようでございます・・・<著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外「白」青空文庫>