ねばり【粘り】例文一覧 26件

  1. ・・・「口が御粘りになるんでしょう。――これで水をさし上げて下さい。」 慎太郎は看護婦の手から、水に浸した筆を受け取って、二三度母の口をしめした。母は筆に舌を搦んで、乏しい水を吸うようにした。「じゃまた上りますからね、御心配な事はちっ・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・幸助五六歳のころ妻の百合が里帰りして貰いきしその時粘りつけしまま十年余の月日経ち今は薄墨塗りしようなり、今宵は風なく波音聞こえず。家を繞りてさらさらと私語くごとき物音を翁は耳そばだてて聴きぬ。こは霙の音なり。源叔父はしばしこのさびしき音を聞・・・<国木田独歩「源おじ」青空文庫>
  3. ・・・それで古来木理の無いような、粘りの多い材、白檀、赤檀の類を用いて彫刻するが、また特に杉檜の類、刀の進みの早いものを用いることもする。御前彫刻などには大抵刀の進み易いものを用いて短時間に功を挙げることとする。なるほど、火、火とのみ云って、火の・・・<幸田露伴「鵞鳥」青空文庫>
  4. ・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように広がっている。つぼんでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように巻き縮んでいてなかなか思う・・・<寺田寅彦「からすうりの花と蛾」青空文庫>
  5. ・・・手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように拡がっている。莟んでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように捲き縮んでいてなかなか思うよ・・・<寺田寅彦「烏瓜の花と蛾」青空文庫>
  6. ・・・生温く帽を吹く風に、額際から煮染み出す膏と、粘り着く砂埃りとをいっしょに拭い去った一昨日の事を思うと、まるで去年のような心持ちがする。それほどきのうから寒くなった。今夜は一層である。冴返るなどと云う時節でもないに馬鹿馬鹿しいと外套の襟を立て・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  7. ・・・無産階級の芸術運動と旧文壇とは互にゆずることのない粘りづよさで対立した。 真実の発展を自分たちに向って拒みつつあるブルジョア文学のひこばえとしてこの時期に発生したのが、横光利一その他の人々の新感覚派のグループであった。それぞれの権威で文・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」青空文庫>
  8. ・・・権力を失うまいとするものが、どんなに卑しく膝をかがめて港々に出ばろうとも、着実真摯な男女市民の人生は、個人と民族の基本的人権のありどころを見失わないで、粘りづよく現実に、自主的で民主的な運命の展開のためにたたかわれてゆかなければならないと思・・・<宮本百合子「偽りのない文化を」青空文庫>
  9. ・・・マリヤは、しんから科学の学問がすきで、そこに尽きることのない研究心と愛着とを誘われ、そういう人間の知慧のよろこびにひかれて、その勉強のためには、雄々しく辛苦を凌ぐ粘りと勇気がもてたのでした。このことは、彼女が同じソルボンヌ大学で既に数々の重・・・<宮本百合子「キュリー夫人の命の焔」青空文庫>
  10. ・・・私は、互の仕事と生活とが困難になってから、稲子さんというひとの非常な粘りづよさ、堅忍、正義感、周密さなどを益々高く評価し、生涯の友と信ずるようになっていたのだが、この何でもなく話されたことは寧ろ私を愕かせ、又新たな稲子さんの一面に打たれた。・・・<宮本百合子「窪川稲子のこと」青空文庫>
  11. ・・・この不思議に熱烈なロシアの田舎教師は、そういう夜々の飾りないみんなの批評を書きつけはじめた。この粘りづよいソヴェトの田舎教師がトポーロフである。国内戦のときにトポーロフはパルチザンを組織し、コルチャック軍と闘った。「五月の朝」が出来るときに・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  12. ・・・ 私は私式の粘りでこの小さいが愉快な空想を実現するつもりです。どんなにおよろこびになって下さるでしょうか。大変嬉しい計画[自注17]です。木星社の本のこと、このこと、二つの楽しいことです。秋になれば、あなたのお体も少しはよくなるでしょうし。・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  13. ・・・ここには、作家藤村の独特な生活力の粘りつよさが現れているばかりでなく、今日の私たちの胸をも引き緊める作家としての気魄が感じられる。だが、当時、何かの賞が、藤村のその精神と作品とに対して与えられたということは、どの文学史にも記されていないので・・・<宮本百合子「今日の文学と文学賞」青空文庫>
  14. ・・・これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い粘りづよい執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なる・・・<宮本百合子「今日の文学の展望」青空文庫>
  15. ・・・ 日本が世界歴史のこの多岐な頁をしのいでゆく永年に亙っての実力のために、日本人はこれまでの誇りとして自認している勇気を更に多様な沈着な粘りつよく周密なものとしての面に発揮してゆかなければならないでしょうし、社会事情の複雑さについて却って・・・<宮本百合子「歳々是好年」青空文庫>
  16. ・・・現実を凝視する粘りづよさを作家に求めているのである。作家が自身の作品に深々と腰をおろしている姿には殆ど接し得ないという、「作品と作家の間の不幸な関係は、そのままで放置すれば、作品と作家がすっかり離縁して、てんでに何処へ漂流するかも知れないの・・・<宮本百合子「作家に語りかける言葉」青空文庫>
  17. ・・・我々は、鋭く強靭に、粘りづよく自身の日常闘争を押しすすめよう。そのことによって、政治的に高まり、新しいタイプのプロレタリア作家として自身を鍛え上げよう。よいプロレタリア文芸の働き手はいつも必ず闘争においてひるむことを知らぬ卓抜周密な同志であ・・・<宮本百合子「小説の読みどころ」青空文庫>
  18. ・・・ 永年あまりおさえつけられて来たために日本の人の感情にはまだまだ沈着で粘りづよいはずみというものが不足している。はっきりと自分たちの求めているものを見きわめて、その目的を実現させるためには決してへこむことない忍耐づよさで、よいバネのよう・・・<宮本百合子「正義の花の環」青空文庫>
  19. ・・・ 六十何歳かに達した年で、このように精気のある絵をかく女性の粘りというものに、感服し、よろこびを感じたのであった。実物を見られなくて惜しいという気が切にした。 護国寺の紅葉や銀杏の黄色い葉が飽和した秋の末の色を湛えるようになった・・・<宮本百合子「「青眉抄」について」青空文庫>
  20. ・・・ 嘉村氏は、転落する地方地主の生活に突入っていわばその骨を刻むように書いているつもりなのであるが、結局その努力も主題を発展的な歴史の光によって把握していないから、現象形態だけを追うに止り自身の粘り、社会観の基調がいかに富農的なものである・・・<宮本百合子「同志小林の業績の評価によせて」青空文庫>
  21. ・・・プロレタリア婦人作家の実にこまごまと粘りづよい現実の重荷の内容は、良人も作家であるためにやりにくいという割合を遙か越えて、今日の社会の広汎で具体的な階級的重圧に作用されているのである。例えば窪川いね子の「一婦人作家の随想」を開いて見よう。私・・・<宮本百合子「夫婦が作家である場合」青空文庫>
  22. ・・・しかし母である女は、小さい希望を大きくもり立ててゆく愛と粘りづよさをもって、一人の子をも育てて来ているのである。私たち女が、目前の出来上っている力にだらしなく屈しては、ろくなことはない。事大主義にまけない、それが民主の第一歩であることを、私・・・<宮本百合子「婦人の一票」青空文庫>
  23. ・・・ここには、一人のなかなか人生にくい下る粘りをもった、負けじ魂のつよい、浮世の波浪に対して足を踏張って行く男の姿がある。自分の努力で、社会に正当であると認められた努力によってかち得たものは、決して理由なくそれを外部から侵害されることを許さない・・・<宮本百合子「山本有三氏の境地」青空文庫>
  24. ・・・即ち時代的変化の血、人間のよってもって立つところをおいている点、何か都会の小市民的インテリゲンツィアというには云い切れぬ粘り、あくどさ、くい下りがある。藤村の右のものが彼として今日あらしめ、「夜明け前」をあらしめており、それは都会的なものと・・・<宮本百合子「「夜明け前」についての私信」青空文庫>
  25. ・・・耳の横や食い足りない思いをして居る大きな口のまわりに特に濃く、そして体全体に異様にねっとり粘りついている蒼黒さは東端の貧の厚みからにじみ出すものだ。子供等自身はそれについて知らぬ。富裕なるロンドン市が世界に誇る、英国の暮し向よき中流層を拡大・・・<宮本百合子「ロンドン一九二九年」青空文庫>
  26. ・・・ 菅氏の性格は相当粘りづよくあったようだし、意志が普通よりもよわかったとも思われない。彼を生き難くさせたのは、彼が理性と真実とについて抱いていた観念の内容と構成とが、権力の動員した、権謀の詭弁との格闘に堪えなかったからでありました。・・・<宮本百合子「若き僚友に」青空文庫>