ね‐まき【寝巻/寝間着】例文一覧 30件

  1. ・・・大降りだな、――慎太郎はそう思いながら、早速寝間着を着換えにかかった。すると帯を解いていたお絹が、やや皮肉に彼へ声をかけた。「慎ちゃん。お早う。」「お早う、お母さんは?」「昨夜はずっと苦しみ通し。――」「寝られないの?」・・・<芥川竜之介「お律と子等と」青空文庫>
  2. ・・・彼女は桑を摘みに来たのか、寝間着に手拭をかぶったなり、大きい笊を抱えていた。そうして何か迂散そうに、じろじろ二人を見比べていた。「相撲だよう。叔母さん。」 金三はわざと元気そうに云った。が、良平は震えながら、相手の言葉を打ち切るよう・・・<芥川竜之介「百合」青空文庫>
  3. ・・・ といってお母さんはちょっと真面目な顔をなさったが、すぐそのあとからにこにこして僕の寝間着を着かえさせて下さった。<有島武郎「碁石を呑んだ八っちゃん」青空文庫>
  4. ・・・と、友人は寝巻に着かえながらしみじみ語った。下の座敷から年上の子の泣き声が聞えた。つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。「あれやさかい厭になってしまう。親子四人の為めに僅かの給料で毎日々々こき使われ、帰って晩酌でも一杯・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  5. ・・・いちじくの葉かげから見えたのは、しごき一つのだらしない寝巻き姿が、楊枝をくわえて、井戸端からこちらを見て笑っている。「正ちゃん、いいものをあげようか?」「ああ」と立ちあがって、両手を出した。「ほうるよ」と、しなやかにだが、勢いよ・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  6. ・・・伊達巻の寝巻姿にハデなお召の羽織を引掛けた寝白粉の処班らな若い女がベチャクチャ喋べくっていた。煤だらけな顔をした耄碌頭巾の好い若い衆が気が抜けたように茫然立っていた。刺子姿の消火夫が忙がしそうに雑沓を縫って往ったり来たりしていた。 泥塗・・・<内田魯庵「灰燼十万巻」青空文庫>
  7. ・・・はだけた寝巻から覗いている胸も手術の跡が醜く窪み、女の胸ではなかった。ふと眼を外らすと、寺田はもう上向けた注射器の底を押して、液を噴き上げていた。すると、嫉妬は空気と共に流れ出し、安心した寺田は一代の腕のカサカサした皮をつまみ上げると、プス・・・<織田作之助「競馬」青空文庫>
  8. ・・・と歌うように言って降りて来たのを見ると、真赤な色のサテン地の寝巻ともピジャマともドイスともつかぬ怪しげな服を暑くるしく着ていた。作業服のように上衣とズボンが一つになっていて、真中には首から股のあたりまでチャックがついている。二つに割れる仕掛・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  9. ・・・パトロンは早々と部屋へ連れて上って、みすぼらしい着物を寝巻に着更えさせるだろう。彼女は化粧を直すため、鏡台の前で、ハンドバッグをあけるだろう。その中には仁丹の袋がはいっている。仁丹を口に入れて、ポリポリ噛みながら、化粧して、それから、ベッド・・・<織田作之助「中毒」青空文庫>
  10. ・・・くたくたになって二階の四畳半で一刻うとうとしたかと思うと、もう目覚ましがジジーと鳴った。寝巻のままで階下に降りると、顔も洗わぬうちに、「朝食出来ます、四品付十八銭」の立看板を出した。朝帰りの客を当て込んで味噌汁、煮豆、漬物、ご飯と都合四品で・・・<織田作之助「夫婦善哉」青空文庫>
  11. ・・・そして着ている寝間着の汚いこと、それは話にならないよと言った。 S―は最初、ふとした偶然からその女に当り、その時、よもやと思っていたような異様な経験をしたのであった。その後S―はひどく酔ったときなどは、気持にはどんな我慢をさせてもという・・・<梶井基次郎「ある心の風景」青空文庫>
  12. ・・・ひとびとの情で一夏、千葉県船橋町、泥の海のすぐ近くに小さい家を借り、自炊の保養をすることができ、毎夜毎夜、寝巻をしぼる程の寝汗とたたかい、それでも仕事はしなければならず、毎朝々々のつめたい一合の牛乳だけが、ただそれだけが、奇妙に生きているよ・・・<太宰治「黄金風景」青空文庫>
  13. ・・・ うちで寝る時は、夫は、八時頃にもう、六畳間にご自分の蒲団とマサ子の蒲団を敷いて蚊帳を吊り、もすこしお父さまと遊んでいたいらしいマサ子の服を無理にぬがせてお寝巻に着換えさせてやって寝かせ、ご自分もおやすみになって電燈を消し、それっきりな・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  14. ・・・二月の事件の日、女の寝巻について語っていたと小説にかかれているけれども、青年将校たちと同じような壮烈なものを、そういう筆者自身へ感じられてならない。それは、うらやましさよりも、いたましさに胸がつまる。僕は、何ごとも、どっちつかずにして来て、・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  15. ・・・ここの二階で毎朝寝巻のままで窓前にそびゆるガスアンシュタルトの円塔をながめながら婢のヘルミーナの持って来る熱いコーヒーを飲み香ばしいシュニッペルをかじった。一般にベルリンのコーヒーとパンは周知のごとくうまいものである。九時十時あるいは十一時・・・<寺田寅彦「コーヒー哲学序説」青空文庫>
  16. ・・・道路にのぞんだヴェランダに更紗の寝巻のようなものを着た色の黒い女の物すごい笑顔が見えた、と思う間に通り過ぎてしまう。 オテルドリューロプで昼食をくう。薬味のさまざまに多いライスカレーをくって氷で冷やしたみかん水をのんで、かすかな電扇のう・・・<寺田寅彦「旅日記から(明治四十二年)」青空文庫>
  17. ・・・ ある日少しゆっくり話したいことがあるから来てくれと言って来たのでさっそく行ってみると、寝巻のまま寝台の上に横になっていた。少しからだのぐあいが悪いからベッドで話すことをゆるしてくれという。それから、きょうはどうもドイツ語や英語で話すの・・・<寺田寅彦「B教授の死」青空文庫>
  18. ・・・ カーライルが麦藁帽を阿弥陀に被って寝巻姿のまま啣え煙管で逍遥したのはこの庭園である。夏の最中には蔭深き敷石の上にささやかなる天幕を張りその下に机をさえ出して余念もなく述作に従事したのはこの庭園である。星明かなる夜最後の一ぷくをのみ終り・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  19. ・・・自分は床の上に起き直った。寝巻の上へ羽織を引掛けて、すぐ縁側へ出た。そうして箱の葢をはずして、文鳥を出した。文鳥は箱から出ながら千代千代と二声鳴いた。 三重吉の説によると、馴れるにしたがって、文鳥が人の顔を見て鳴くようになるんだそうだ。・・・<夏目漱石「文鳥」青空文庫>
  20. ・・・この渋紙包の一つには我輩の寝巻とヘコ帯が這入っているんだ。左の手にはこれも我輩のシートを渋紙包にして抱えている。両人とも両手が塞がっている。とんだ道行だ。角まで出て鉄道馬車に乗る。ケニングトンまで二銭宛だ。レデーは私が払っておきますといって・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  21. ・・・とにかくみんな寝巻をぬいで、下に降りて、口を漱いだり顔を洗ったりしました。 それから私たちは、簡単に朝飯を済まして、式が九時から始まるのでしたから、しばらくバルコンでやすんで待っていました。 不意に教会の近くから、のろしが一発昇りま・・・<宮沢賢治「ビジテリアン大祭」青空文庫>
  22. ・・・ 一日中寝巻姿でゾロリとしている技師ニェムツェウィッチの女房が、騒動をききつけてドアから鼻をつっこみ、それを鎮めるどころか、折から書類入鞄を抱えてとび込んで来たドミトリーを見るや否や、キーキー声で喰ってかかった。「タワーリシチ・グレ・・・<宮本百合子「「インガ」」青空文庫>
  23. ・・・死ぬ二、三日前に撮った写真では、タオル寝間着――黒の縞のところに赤っぽい縞が並んでついたの――を着て、『冬を越す蕾』を手にもっているところがとられていました。 国男連中は、まだラジオです。今頃がベルリンの午後三時四時です。オリムピックの・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  24. ・・・夜具やタオル寝巻がお気に入ってその嬉しさは私一人ではありません。何しろ大した苦心をした人物がもう一人ここに控えているのだから。歯の金のことは調べます。全く、色変りの合金の歯などは歓迎でありませんから。注射について書いていて下すっているところ・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  25. ・・・ 酒井亀之進の邸では、今宵奥のひけが遅くて、りよはようよう部屋に帰って、寝巻に着換えようとしている所であった。そこへ老女の使が呼びに来た。 りよは着換えぬうちで好かったと思いながら、すぐに起って上草履を穿いて、廊下伝に老女の部屋・・・<森鴎外「護持院原の敵討」青空文庫>
  26. ・・・お松は寝巻の前を掻き合せながら一足進んで、お花の方へ向いた。「わたしこわいから我慢しようかと思っていたんだけれど、お松さんと一しょなら、矢っ張行った方が好いわ。」こう云いながら、お花は半身起き上がって、ぐずぐずしている。「早くおしよ・・・<森鴎外「心中」青空文庫>
  27. ・・・平生人には吝嗇と言われるほどの、倹約な生活をしていて、衣類は自分が役目のために着るもののほか、寝巻しかこしらえぬくらいにしている。しかし不幸な事には、妻をいい身代の商人の家から迎えた。そこで女房は夫のもらう扶持米で暮らしを立ててゆこうとする・・・<森鴎外「高瀬舟」青空文庫>
  28. ・・・暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障子を開けた。「坊ちゃんはいい子ですね。あのね、小母さんはまだこれから寝なくちゃならないのよ。あちらへいってらっしゃいな。いい子ね。」 灸は婦人を見上げたまま少し・・・<横光利一「赤い着物」青空文庫>
  29. ・・・指は彼の寝巻を掻きむしった。彼の腹は白痴のような田虫を浮かべて寝衣の襟の中から現れた。彼の爪は再び迅速な速さで腹の頑癬を掻き始めた。頑癬からは白い脱皮がめくれて来た。そうして、暫くは森閑とした宮殿の中で、脱皮を掻きむしるナポレオンの爪音だけ・・・<横光利一「ナポレオンと田虫」青空文庫>
  30. ・・・病舎の燈火が一斉に消えて、彼女たちの就寝の時間が来ると、彼女らはその厳格な白い衣を脱ぎ捨て、化粧をすませ、腰に色づいた帯を巻きつけ、いつの間にかしなやかな寝巻姿の娘になった。だが娘になった彼女らは、皆ことごとく疲れと眠さのため物憂げに黙って・・・<横光利一「花園の思想」青空文庫>