ねん‐いり【念入り】例文一覧 30件

  1. ・・・が、四時頃やっと床を出ると、いつもより念入りに化粧をした。それから芝居でも見に行くように、上着も下着もことごとく一番好い着物を着始めた。「おい、おい、何だってまたそんなにめかすんだい?」 その日は一日店へも行かず、妾宅にごろごろして・・・<芥川竜之介「奇怪な再会」青空文庫>
  2. ・・・ と一際念入りに答えたのでありまする。言葉尻も終らぬ中、縄も釘もはらはらと振りかかった、小宮山はあッとばかり。 ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有った時の、手附、顔色に体の工合をお考えなすって下さいまし。・・・<泉鏡花「湯女の魂」青空文庫>
  3. ・・・肩がわりの念入りで、丸太棒で担ぎ出しますに。――丸太棒めら、丸太棒を押立てて、ごろうじませい、あすこにとぐろを巻いていますだ。あのさきへ矢羽根をつけると、掘立普請の斎が出るだね。へい、墓場の入口だ、地獄の門番……はて、飛んでもねえ、肉親のご・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  4. ・・・あの時は又念入りの御手紙ありがとう」「人間の変化は早いものなア。人の生涯も或階段へ踏みかけると、躊躇なく進行するから驚くよ。しかし其時々の現状を楽しんで進んで行くんだな。順当な進行を遂げる人は幸福だ」「進行を遂げるならよいけれど、児・・・<伊藤左千夫「浜菊」青空文庫>
  5. ・・・紫檀の盆に九谷の茶器根来の菓子器、念入りの客なことは聞かなくとも解る。母も座におって茶を入れ直している。おとよは少し俯向きになって膝の上の手を見詰めている。平生顔の色など変える人ではないけれど、今日はさすがに包みかねて、顔に血の気が失せほと・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  6. ・・・お袋は念入りに肩を動かして、さも性根なしとののしるかの様子で女の方を見た。「何でも私に寄りかかっていさえすればいいと思って、だだッ子のように来てくれい、来てくれいと言ってよこすんです」「だッて、来てくれなきゃア仕方がないじゃアないか?」・・・<岩野泡鳴「耽溺」青空文庫>
  7. ・・・やこしく入り組んだ男女関係のいきさつを判らせようとして、こまごまだらだらと喋っているという効果を出しているし、大阪弁も女専の国文科を卒業した生粋の大阪の娘を二人まで助手に雇って、書いたものだけに、実に念入りに大阪弁の特徴を生かそうとしている・・・<織田作之助「大阪の可能性」青空文庫>
  8.        一 ざまあ見ろ。 可哀相に到頭落ちぶれてしまったね。報いが来たんだよ。良い気味だ。 この寒空に縮の単衣をそれも念入りに二枚も着込んで、……二円貸してくれ。見れば、お前じゃないか。……声まで顫えて・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  9. ・・・ もっとも、その当日、まるでお芝居に出るみたいに、生れてはじめて肌ぬぎになって背中にまでお白粉をつけるなど、念入りにお化粧したので、もう少しで約束の時間に遅れそうになり、大急ぎでかけつけたものだから、それを見合いはともかくそんな大袈裟な・・・<織田作之助「天衣無縫」青空文庫>
  10. ・・・と言って念入りに溜息まで吐いてみせた。「かまわない。大丈夫だ。」私は頑張った。「こんな学生を、僕は、前に本郷で見た事があるよ。秀才は、たいてい、こんな恰好をしているようだ。」「帽子が、てんで頭にはいらんじゃないか。」佐伯は、またして・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  11. ・・・殊に神崎氏の馬子など、念入りに詫び証文まで取ってみたが、いっこうに浮かぬ気持で、それから四、五日いよいよ荒んでやけ酒をくらったであろうと思われる。そのように私は元来、あの美談の偉人の心懐には少しも感服せず、かえって無頼漢どもに対して大いなる・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  12. ・・・やがて、ゆっくり教壇の方に歩いて、教壇に上り、黒板拭きをとって、黒板の文字を一つ一つ念入りに消す。消しながら、やがて小声で、はる、こうろうの花のえん、めぐるさかずき、影さして、と歌う。舞台すこし暗くなる。斜陽が薄れて来たのである。・・・<太宰治「春の枯葉」青空文庫>
  13. ・・・あの人は、首をかしげて、それから私を縁側の、かっと西日の当る箇所に立たせ、裸身の私をくるくる廻して、なおも念入りに調べていました。あの人は、私のからだのことに就いては、いつでも、細かすぎるほど気をつけてくれます。ずいぶん無口で、けれども、し・・・<太宰治「皮膚と心」青空文庫>
  14. ・・・きょうはまた、念入りに、赤い着物などを召している。私は永遠に敗者なのかも知れない。「いくつになっても、同じだね。自分では、ずいぶん努力しているつもりなのだけれど。」歩きながら、思わず愚痴が出た。「文学って、こんなものかしら。どうも僕は、・・・<太宰治「服装に就いて」青空文庫>
  15. ・・・西洋人の書いた、浮世絵に関する若干の書物のさし絵、それも大部分は安っぽい網目版の複製について、多少の観察をしたのと、展覧会や収集家のうちで少数の本物を少し念入りにながめたくらいのものである。それだけの地盤の上に、それだけの材料でなんらかの考・・・<寺田寅彦「浮世絵の曲線」青空文庫>
  16. ・・・ 道ばたの白樺の樹皮を少しはがしてよく見ると、実に幾層にも幾層にも念入りにいろいろの層が重畳している。これにも何か深い「意味」があるであろうが、この薄層の一枚一枚にしるされた自然の暗号記録はわれわれには容易に読めない。まただれも読もうと・・・<寺田寅彦「軽井沢」青空文庫>
  17. ・・・年数と干支が全部合理的につじつまを合わせて、念入りに誤植されるという偶然の確率はまず事実上零に近いからである。 それだから年号と年数と干支とを併記して或る特定の年を確実不動に指定するという手堅い方法にはやはりそれだけの長所があるのである・・・<寺田寅彦「自由画稿」青空文庫>
  18. ・・・は到底引き延ばせるはずがないので、それで、この嫌疑をなるべく濃厚に念入りにするために色々と面倒な複雑なメカニズムが考案されなければならないのである。こういう考案をするのは丁度われわれが何かちょっとした器械でも考案する場合といくらか似たところ・・・<寺田寅彦「初冬の日記から」青空文庫>
  19. ・・・それを念入りに調節して器械としての鋭敏さを維持する事はそういうあたまのない女中などには到底望み難い仕事である。私はこのような間に合わせの器械を造る人にも、それを平気で使っている人にも不平を言いたくなるのである。 金網で造った長方形の箱形・・・<寺田寅彦「ねずみと猫」青空文庫>
  20. ・・・すると、改札口で切符切りの駅員がきっと特別念入りにその切符を検査するようである。しかし片道切符のときはろくに注意しないでさっさと鋏を入れるように見える。どういうわけか自分にはわからない。それはとにかく、改札係は人間であるがその役目はほとんど・・・<寺田寅彦「破片」青空文庫>
  21. ・・・然るに此男子をば余処にして独り女子を警しむ、念入りたる教訓にして有難しとは申しながら、比較的に方角違いと言う可きのみ。一 婦人は夫の家を我家とする故に唐土には嫁を帰るといふなり。仮令夫の家貧賤成共夫を怨むべからず。天より我に与へ・・・<福沢諭吉「女大学評論」青空文庫>
  22. ・・・作家の或るもの、例えばイワーノフなどは革命当時の活力と火花のようなテンポを失い、無気力でいやに念入りな、個人的な心理主義的作風に陥って行ったのである。 これは危い時代であった。質のよい、若いプロレタリアートは自分等の階級の本当の芸術的表・・・<宮本百合子「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」青空文庫>
  23. ・・・出来にくい相談と分っているものを唯さえ、無策無策で信頼を失っている今日の政府が、念入りに何故、農民に向って新しく出しかけるのであろうか。 わたしたちが、一人民として、大いに洞察しなければならない社会的なモメントはここの点にかかっている。・・・<宮本百合子「人民戦線への一歩」青空文庫>
  24. ・・・ 咲は毎日毎日の事をほんとうに念入りに清に教えて居た。「西洋洗濯から取って来たシーツはここに入れてね、 肌襦袢に糊をつけたのはおきらいなんですよ。」 寝部屋からそんな事を云って居るのが聞える事もあった。 食事の時なんかに・・・<宮本百合子「蛋白石」青空文庫>
  25. ・・・例えば、組合の闘争において、権力との闘いにおいて、プロレタリアートの全線にプラスするどんな小さな成果も、わたしたちはそれを念入りに計算します。民主主義出版物は、その一つ一つの成果を或る場合には誇張してわたしたちに知らせる場合さえあります。そ・・・<宮本百合子「討論に即しての感想」青空文庫>
  26. ・・・ 殿の左かわには後室北の方、二人の姫、女房達花をきそって並んで居る、いずれも今日をはれときかざって念入りの化粧に額の出たのをかくしたのもあれば頬の赤さをきわ立たせた女も少くなくない。 なまめいたそらだきの末坐になみ居る若人の直衣の袖・・・<宮本百合子「錦木」青空文庫>
  27. ・・・ △静かに、かなり念入りな態度で本を読んで居た彼女は、不意に、自分はわきの竹籠に入って居る赤い鉛筆を削らなければならないのだと云う気がした。で、早速、勢よく、その思いつきで、退屈だった自分が助われたと云うような顔をして、それを実行し・・・<宮本百合子「「禰宜様宮田」創作メモ」青空文庫>
  28. ・・・ 重吉は、口元に一種の表情をうかべて、少し念入りにその原稿を見直した。「婦人雑誌に、何だか中途半端な小説をいくつか書いていたときがあった、あの一つだね」「そうなの」 原稿を床のそとの畳へ放り出すように置いた。「ほかの人達・・・<宮本百合子「風知草」青空文庫>
  29. ・・・いろんな外国語がはいったり、云いまわしが念入りだったりして、ソヴェト同盟の大衆にはむずかしすぎた。レイスネルは、然し、自信をもっていた。自分はレーニンの文章はきらいだ。あんな味もそっけもない、ボキボキした文章じゃないと云っていたが、彼女が段・・・<宮本百合子「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」青空文庫>
  30. ・・・この作はおそらく先生の全生涯中最も道徳的癇癪の猛烈であった時代に書かれたものであろう。念入りに重ねられた諧謔の衣の下からは、世間の利己主義の不正に対する火のような憤怒と、徳義的脊骨を持った人間に対するあふれるような同情とがのぞいている。しか・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>