のう‐こう【濃厚】例文一覧 30件

  1. ・・・その気勢とても多少の程度における私生児らがより濃厚な支配階級の血を交えた私生児に対する反抗の気勢にすぎないのだと。それはおそらくはそうだろう。それにしてもより稀薄に支配階級の血を伝えた私生児中にかかる気勢が見えはじめたことは、大勢の赴くとこ・・・<有島武郎「片信」青空文庫>
  2. ・・・そして、一方には、やるせなき思いを遣るために、デカダンの色彩濃厚なる芸術が現われるような気さえする。 けれど、決して、それのみでない。勇敢に清新な人間的の理想に燃える芸術が、百難を排して尚お興起するのを否むことができない。また、そうなく・・・<小川未明「正に芸術の試煉期」青空文庫>
  3. ・・・「そりゃ奥さんもいいでしょうが、たまには小股の切れ上った年増の濃厚なところも味ってみるもんですよ。オールサービスべたモーション。すすり泣くオールトーキ」と歌うように言って、「――ショートタイムで帰った客はないんだから」 色の蒼白・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  4. ・・・ 士官は焦躁にかられだして兵士を呶鳴りつけた。「ハイ、うちます。」 また、弾丸が空へ向って呻り出た。「うてッ! うてッ!」「ハイ。」 濃厚な煙が流れてきた。士官も兵士も眼を刺された。煙ッたくて涙が出た。   ・・・<黒島伝治「パルチザン・ウォルコフ」青空文庫>
  5. ・・・しかしだんだん種々の世故に遭遇するとともに、翻って考えると、その同情も、あらゆる意味で自分に近いものだけ濃厚になるのがたしかな事実である。して見るとこれもあまり大きなことは言えなくなる。同情する自分と同情される他者との矛盾が、死ぬか生きるか・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  6. ・・・ここの酒はいくぶん舌ったるく、色あいが濃厚であった。丈六もまた酒によく似て、四人の妾を持っているのにそれでも不足で五人目の妾を持とうとして様様の工夫をしていた。鷹の白羽の矢が次郎兵衛の家の屋根を素通りしてそのおむかいの習字のお師匠の詫住いし・・・<太宰治「ロマネスク」青空文庫>
  7. ・・・畜生の人間的恩愛を描いたこの悲劇の不思議な世界の不思議な雰囲気も、やはり役者が人形であるがためにかえっていっそう濃厚になり現実的になるからおもしろいのである。 最後に「爆弾三勇士」があったが、これも前に一見した新派俳優のよりもはるかにお・・・<寺田寅彦「生ける人形」青空文庫>
  8. ・・・ 東京へ近よるに従って東京の匂いがだんだんに濃厚になるのがはっきり分かる。到る処の店先にはラジオの野球放送に群がる人だかりがある。市内に這入るとこれがいっそう多くなる。こうして一度にそれからそれと見て通ると、ラジオ放送のために途上で立往・・・<寺田寅彦「異質触媒作用」青空文庫>
  9. ・・・音の具象性が希薄であればあるほど、この陰影は濃厚になる。それだから、名状し難いいろいろな心持ちのニュアンスの象徴としては音のほうが画像よりもいっそう有力でありうるということになる。 たとえば「人生案内」の最後の景において機関車のほえるよ・・・<寺田寅彦「映画芸術」青空文庫>
  10. ・・・ヒロインが病院の病室を一つ一つ見回って愛人を捜す場面で、階下から聞こえて来る土人女の廃頽的な民謡も、この場の陰惨でしかもどこかつやけのある雰囲気を濃厚にする。それから次の酒場で始終響いているピアノの東洋的なノクターンふうの曲が、巧妙にヒロイ・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  11. ・・・ エミール・ヤニングス主演のこの映画は、はじめからおしまいまで、この主役者の濃厚な個性でおおい尽くされた地色の上に適当な色合いを見計らった脇役の模様を置いた壁掛けのようなものである。もっとも同じくヤニングスのものであっても相手役にデ・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  12. ・・・こんなことは右の句の鑑賞にはたいした関係はないことであろうが、自分はこういう瑣末な物理学的の考察をすることによってこの句の表現する自然現象の現実性が強められ、その印象が濃厚になり、従ってその詩の美しさが高まるような気がするのである。・・・<寺田寅彦「思い出草」青空文庫>
  13. ・・・ こういう疑いは、問題の学問が、複雑極まる社会人間に関する場合に最も濃厚であるが、しかし、外見上人間ばなれのした単なる自然科学の研究についても、やはり起こし得られる疑問である。 科学者自身が、もしもかなりな資産家であって、そうして自・・・<寺田寅彦「学問の自由」青空文庫>
  14. ・・・このはなはだ杜撰な空想的色彩の濃厚な漫筆が読者の中の元気で自由で有為な若い自然研究者になんらかの新題目を示唆することができれば大幸である。ただ記述があまりに簡略に過ぎてわかりにくい点が多いことと思われるが、そういう点についてはどうか聡明なる・・・<寺田寅彦「自然界の縞模様」青空文庫>
  15. ・・・この点では論語や聖書も同じことであるのみならず、こういう郷土的色彩の濃厚な怪談やおどけ話の奧の方にはわれらとは切っても切れない祖先の生活や思想で彩られた背景がはっきりと眺められるのであるから、こういう話を繰返し聞かされている間にわれわれの五・・・<寺田寅彦「重兵衛さんの一家」青空文庫>
  16. ・・・そればかりでなく、彼はまた曲線的なるゴチック式の建築が能くかの民族の性質を伝るように、この方形的なる霊廟の構造と濃厚なる彩色とは甚だよく東洋固有の寂しく、驕慢に、隔離した貴族思想を説明してくれる事を喜んだ。なおそれのみに止まらず、紅雨は門と・・・<永井荷風「霊廟」青空文庫>
  17. ・・・とこんな風に、私にもそれがどっちだか分らずに、この妙な思い出は益々濃厚に精細に、私の一部に彫りつけられる。然しだ、私は言い訳をするんじゃないが、世の中には迚も筆では書けないような不思議なことが、筆で書けることよりも、余っ程多いもんだ。たとえ・・・<葉山嘉樹「淫賣婦」青空文庫>
  18. ・・・例えば女子の天性を男子よりも劣るものと認め、女は陰性なり、陰は暗しなど、漠然たる精神論を根本にして説を立つるが如きは、妄漫無稽と称すべきなれども、その他は大抵皆女子を戒めたる言の濃厚なるものに過ぎず。我輩がかつて戯れに古人の教えを評し、町家・・・<福沢諭吉「日本男子論」青空文庫>
  19. ・・・そのひとこまには濃厚に、日本の天皇制権力の野蛮さとそれとの抗争のかげがさしている。『人民の文学』は、ひろく読まれているのに、詳細な書評が少ないのは、この複雑性によるとも考えられる。 宮本顕治の文芸評論をながめわたすと、いくつかの点に心を・・・<宮本百合子「巖の花」青空文庫>
  20. ・・・解決のない人間の間の利害や心理の矛盾、無目的な情熱の絡み合いの世界を、坂口安吾より太宰治より濃厚に戦慄的に描き出しているドストイェフスキーの文学は、目的のはっきりしない社会混乱のなかに生きているきょうの若い人の心をひきつける。その相剋の強烈・・・<宮本百合子「新しい文学の誕生」青空文庫>
  21. ・・・この一生懸命で濃厚な作品に、本質的な未熟さとしてあるのは、庶民の生活感情と勤労者の生活感情とのちがいについて、作者がちっともわかっていないという点であるということを。「一つの芽生」は、弟の死という事実に面して、その悲しみをどこまでも客観・・・<宮本百合子「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」青空文庫>
  22. ・・・地下室の酒場らしい濃厚な陰翳がなさすぎる。周囲の高い壁がさっぱりしすぎている。声と姿ばかり。真実に心から溶けた雰囲気がない。 あれ程大勢の男や女を舞台に出したのは、勿論、彼等によって、混雑し、もっとした廃頽的雰囲気を感じさせようが為であ・・・<宮本百合子「印象」青空文庫>
  23. ・・・ ケーテのスケッチに充ちている偽りなさと生活の香の色の濃厚さは、私たちにゴーリキイの「幼年時代」「私の大学」「どん底」などの作品にある光と陰との興味つきない錯綜を思いおこさせる。また魯迅が中国の民衆生活に対して抱いた深い愛と洞察と期待と・・・<宮本百合子「ケーテ・コルヴィッツの画業」青空文庫>
  24. ・・・今の時候で見ると大変暑苦しいようであるがなかなか濃厚で面白い、但この作品で画家は極めて自然発生的に自身のもちものを出しているだけですが。今私はゴーリキイと知識人とのこと、又女のこと等面白い研究をかいています。 七月十六日 〔市ヶ谷刑・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  25. ・・・ そのすりへらされた神経に与える変化は、どうしても濃厚なものでなければなりません。生活に疲れた頭は決して、低声の雑談ではいやされません。 目のさめるような事がなければ息がつけません。 従って彼女等は、濃い色と、強い音調と香気と、・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  26. ・・・然し、寅公が六年も辛棒した揚句に、折角辛苦した土地をすてて故郷へかえらねばならなかった程の濃厚な窮乏の気分が十分出ていない。一応とりあげられている、穀物の安価、馬を熊にとられた事件等だけでは読者に北海道へ移住した農民の深刻などたん場の有様が・・・<宮本百合子「小説の選を終えて」青空文庫>
  27. ・・・師弟の間は情誼が極めて濃厚であると思う。物集氏とかの二女史に対して薄いとかなんとか云うものがあるようだが、その二女史はどんな人か知らない。随って何とも云われない。   四、貨殖に汲汲たりとは真乎 漱石君の家を訪問したこともな・・・<森鴎外「夏目漱石論」青空文庫>
  28. ・・・より深き認識への感覚 より深き認識へわれわれの主観を追跡さす作物は、その追跡の深さに従ってまた濃厚な感覚を触発さす。それはわれわれの主観をして既知なる経験的認識から未知なる認識活動を誘導さすことによって触発された感覚である。・・・<横光利一「新感覚論」青空文庫>
  29. ・・・それから時々往来するようになり、さそわれていっしょにテニスをやりに行ったりなどしたが、似ているのは面ざしだけでなく、性格や気質の上にもかなり濃厚に父親似が感ぜられた。当時ベルリンで逢う日本人のうちでは、一番傑出した人物であったかもしれない。・・・<和辻哲郎「漱石の人物」青空文庫>
  30. ・・・それだけにまた濃厚な諧謔をもって全体を包まなければならなかった。この作はおそらく先生の全生涯中最も道徳的癇癪の猛烈であった時代に書かれたものであろう。念入りに重ねられた諧謔の衣の下からは、世間の利己主義の不正に対する火のような憤怒と、徳義的・・・<和辻哲郎「夏目先生の追憶」青空文庫>