のう‐り〔ナウ‐〕【脳裏/脳×裡】例文一覧 25件

  1. ・・・国家ちょう問題が我々の脳裡に入ってくるのは、ただそれが我々の個人的利害に関係する時だけである。そうしてそれが過ぎてしまえば、ふたたび他人同志になるのである。     二 むろん思想上の事は、かならずしも特殊の接触、特殊の機会・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  2. ・・・いままで知らなかったさびしさを深く脳裏に彫りつけた。夫婦ふたりの手で七、八人の子どもをかかえ、僕が棹を取り妻が舵を取るという小さな舟で世渡りをするのだ。これで妻子が生命の大部分といった言葉の意味だけはわかるであろうが、かくのごとき境遇から起・・・<伊藤左千夫「去年」青空文庫>
  3. ・・・此に於てか痛切に吾々の脳裡に『何処より何処へ行くか』という考えも起るのである。又『此の地上に生れ出でゝ果して何を為すがために生活するか』という様な問題も考えられるのである。そして終に、肉体と精神とを挙げて犠牲にするだけの偶像を何物にも見出し・・・<小川未明「絶望より生ずる文芸」青空文庫>
  4. ・・・黙って行方をくらませた女を恨みもせず、その当座女の面影を脳裡に描いて合掌したいくらいだった。……「――うちの禿げ婆のようなものも女だし、あの女のようなのもいるし、女もいろいろですよ」「で、その女がお定だったわけ……?」「三年後に・・・<織田作之助「世相」青空文庫>
  5. ・・・悲しい顔付をした母の顔が自分の脳裡にはっきり映った。 ――三年ほど前自分はある夜酒に酔って家へ帰ったことがあった。自分はまるで前後のわきまえをなくしていた。友達が連れて帰ってくれたのだったが、その友達の話によると随分非道かったということ・・・<梶井基次郎「泥濘」青空文庫>
  6. ・・・けれども、今の想像はなんだか彼の脳裏にこびりついてきた。 やがて、門の方で、ぱきぱきした下駄の音がした。「帰ったな。」と清吉は考えた。 彼は一刻も早く妻の顔を見たかった。彼女の顔色によって、丸文字屋でどんなことが起ったか分るから・・・<黒島伝治「窃む女」青空文庫>
  7. ・・・ハクランカイをごらんなさればよろしいに、と南国訛りのナポレオン君が、ゆうべにかわらぬ閑雅の口調でそうすすめて、にぎやかの万国旗が、さっと脳裡に浮んだが、ばか、大阪へ行く、京都へも行く、奈良へも行く、新緑の吉野へも行く、神戸へ行く、ナイヤガラ・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  8. ・・・その人の脳裡に在るのは、夏目漱石、森鴎外、尾崎紅葉、徳富蘆花、それから、先日文化勲章をもらった幸田露伴。それら文豪以外のひとは問題でないのである。それは、しかし、当然なことなのである。文豪以外は、問題にせぬというその人の態度は、全く正しいの・・・<太宰治「困惑の弁」青空文庫>
  9. ・・・このたびの戦争で家を失った人たちの大半は、いつか一たびは一家心中という手段を脳裡に浮べたに違いない。「毛布は、よせよ」「ケチだなあ、お前は」 とさらにしつこく、ねばろうとしていた時に、女房はお膳を運んで来た。「やあ、奥さん」・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  10. ・・・しかし彼がその夢見るような眼をして、そういう処をさまよい歩いている間に、どんな活動が彼の脳裡に起っているかという事は誰にも分らない。 勝負事には一切見向かない。蒐集癖も皆無である。学者の中で彼ほど書物の所有に冷淡な人も少ないと云われてい・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  11. ・・・生涯の出来事や光景が、稲妻のように一時に脳裏に閃いたと思うとそれは消えて、身を囲る闇は深さも奥行も知れぬ。どうかして此処を逃れ出たい。今一度小春の日光を見ればそれでよい。霜解け道を踏んで白雲を見ればそれでよい。恐ろしい闇、恐ろしい命と身を悶・・・<寺田寅彦「枯菊の影」青空文庫>
  12. ・・・との疑問が暗々裡に学生の脳裡に起りて何人もこれが解決を与えざるが故に、力と云い、質量と云い、仕事と云うがごとき言葉は、あたかも別世界の言葉のごとく聞え、しかもこれらの考えが先験的必然のものなるにかかわらず自分はこれを理解し得ずとの悲観を懐・・・<寺田寅彦「自然現象の予報」青空文庫>
  13. ・・・ 今鋏のさきから飛び出す昆虫の群れをながめていた瞬間に、突然ある一つの考えが脳裏にひらめいた。それは別段に珍しい考えでもなかったが、その時にはそれが唯一の真理であるように思われた。――もう昆虫の生命などは方則の前の「物質」に過ぎなくなっ・・・<寺田寅彦「芝刈り」青空文庫>
  14. ・・・それがそうだと聞かされると同時に三年前の赤ん坊の顔と東京の原町の生活が実に電光のように脳裏にひらめいたのであった。 この絵に対する今の自分の心持ちがやはりいくらかこれに似ている。はじめ見た瞬間にはアイデンチファイすることのできなかった昔・・・<寺田寅彦「庭の追憶」青空文庫>
  15. ・・・連句の場合にはもちろん事がらが比較にならぬほどあまりに複雑であって、到底音の場合などとの直接の比較は許されないが、ただ甲句を読み通した後に脳裏に残る余響や残像のようなものと、次に来る乙句の内容たる表象や情緒との重なりぐあいによって、そこに甲・・・<寺田寅彦「連句雑俎」青空文庫>
  16. ・・・余が博士を辞する時に、これら前人の先例は、毫も余が脳裏に閃めかなかったからである。――余が決断を促がす動機の一部分をも形づくらなかったからである。尤も先生がこれら知名の人の名を挙げたのは、辞任の必ずしも非礼でないという実証を余に紹介されたま・・・<夏目漱石「博士問題とマードック先生と余」青空文庫>
  17. ・・・いつでも見える状態であるからして、そのいずれの一瞬間を截ち切ってもその断面は長い全部を代表する事ができる、語を換えて云えば、十年二十年の状態を一瞬の間につづめたもの、煮つめたもの、煎じつめたものを脳裏に呼び起すことができると。そこでこの煮つ・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  18. ・・・眼は戸の真中を見ているが瞳孔に写って脳裏に印する影は戸ではあるまい。外の方では気が急くか、厚い樫の扉を拳にて会釈なく夜陰に響けと叩く。三度目に敲いた音が、物静かな夜を四方に破ったとき、偶像の如きウィリアムは氷盤を空裏に撃砕する如く一時に吾に・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  19. ・・・二十世紀の倫敦がわが心の裏から次第に消え去ると同時に眼前の塔影が幻のごとき過去の歴史を吾が脳裏に描き出して来る。朝起きて啜る渋茶に立つ煙りの寝足らぬ夢の尾を曳くように感ぜらるる。しばらくすると向う岸から長い手を出して余を引張るかと怪しまれて・・・<夏目漱石「倫敦塔」青空文庫>
  20. ・・・今日の空気のうちで物をいう人々の脳裡のどこかに、やはり結婚はまじめだがと、その前提の感情は別個のものとして、低くおとしめて見る癖がのこされていて、いきなり結婚、子供と素朴に出されているのだと思う。 実際の場合として、産め、殖やせという標・・・<宮本百合子「結婚論の性格」青空文庫>
  21. ・・・その処女時代を、その新妻として記憶すべき時代は、彼女の脳裡にどんな美くしく喜ぶべき思い出となって居りますでしょうか。 私は、自分の母のために、総ての左様である女性の為に、真個に彼女等の受けて来た待遇をお気の毒に思わずには居られません。・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  22. ・・・ 先頃朝日に出された記事は、現代の読書するかぎりの日本人の脳裏に深く刻みつけられるものであった。ああいう奇妙な常識をはずれた区わけをしたのは、憤りより寧ろ憂いに近い感懐を抱かせたと思う。あれはどうなったのだろう。あれときょうとの間に、ど・・・<宮本百合子「日本文化のために」青空文庫>
  23. ・・・この一文をよむわれらの脳裏に愛郷塾が髣髴し、社会ファシストの産業奉還論が想起されずにいるとすれば、むしろそれはおどろくべきである。 林は獄中での精力的な読書にもかかわらず、「京都の一族が封建地主的存在としてどのような窮迫した経済状態にあ・・・<宮本百合子「文学に関する感想」青空文庫>
  24. ・・・は、作者としてはダンテの神曲、地獄篇をひそかに脳裡に浮べて書かれたのかもしれないが、そこに地獄をも見据えて描き得る人間精神の踏んまえ、批判はなくて、作者そのものが、一箇の幽鬼であることを告白している。しかもそれは紙ばりの思想的凧に縛りつけら・・・<宮本百合子「文芸時評」青空文庫>
  25. ・・・府の扶助料とりあげの記事が何となし、その実例を読者の脳裡に思い出させるのは何故であろうか。        五 女を殴る 先日、あるひとが百貨店へ行って買物をしていたら、ついそのわきのところに一組の夫婦がいた。 何かのこと・・・<宮本百合子「私の感想」青空文庫>