のこり【残り】例文一覧 31件

  1. ・・・おれはこれから引き返して、釣銭の残りを取って来るわ。」と云った。喜三郎はもどかしそうに、「高が四文のはした銭ではございませんか。御戻りになるがものはございますまい。」と云って、一刻も早く鼻の先の祥光院まで行っていようとした。しかし甚太夫は聞・・・<芥川竜之介「或敵打の話」青空文庫>
  2. ・・・ いきなり仁右衛門が猿臂を延ばして残りを奪い取ろうとした。二人は黙ったままで本気に争った。食べるものといっては三枚の煎餅しかないのだから。「白痴」 吐き出すように良人がこういった時勝負はきまっていた。妻は争い負けて大部分を掠奪さ・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  3. ・・・ 乏しい様子が、燐寸ばかりも、等閑になし得ない道理は解めるが、焚残りの軸を何にしよう…… 蓋し、この年配ごろの人数には漏れない、判官贔屓が、その古跡を、取散らすまい、犯すまいとしたのであった――「この松の事だろうか……」 ―・・・<泉鏡花「瓜の涙」青空文庫>
  4. ・・・省作はあわてて、「はま公、芋の残りはないか。芋がたべたい」「ありますよ」「それじゃとってくろ」 それから省作はろくろく繩もなわず、芋を食ったり猫をおい回したり、用もないに家のまわりを回って見たりして、わずかに心のもしゃくしゃ・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  5. ・・・それが予備軍のくり出される時にも居残りになったんで、自分は上官に信用がないもんやさかいこうなんのやて、急にやけになり、常は大して飲まん酒を無茶苦茶に飲んだやろ、赤うなって僕のうちへやって来たことがある。僕などは、『召集されないかて心配もなく・・・<岩野泡鳴「戦話」青空文庫>
  6. ・・・御風聴被成下店繁昌仕ありがたき仕合に奉存製法入念差上来候間年増し御疱瘡流行の折ふし御軽々々御仕上被遊候御言葉祝ひのかるかるやき水の泡の如く御いものあとさへ取候御祝儀御進物にはけしくらゐほどのいもあとも残り不申候やうにぞんじけしをのぞき差上候・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・国は小さく、民は尠く、しかして残りし土地に荒漠多しという状態でありました。国民の精力はかかるときに試めさるるのであります。戦いは敗れ、国は削られ、国民の意気鎖沈しなにごとにも手のつかざるときに、かかるときに国民の真の価値は判明するのでありま・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  8. ・・・おばあさんは、あわてて箱の中へ残りの品物を入れています。あや子は、おばあさんが気の毒になって、自分の急いで帰らなければならぬことも忘れて、おばあさんにてつだってやりました。おばあさんはたいそう喜びました。 やがてそれらの箱を小さな車に積・・・<小川未明「海ほおずき」青空文庫>
  9. ・・・私は十五分の予定だったその放送を十分で終ってしまったが、端折った残りの五分間で、「皆さん、僕はあんな小説を書いておりますが、僕はあんな男ではありません」と絶叫して、そして「あんな」とは一体いかなることであるかと説明して、もはや「あんな」の意・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  10. ・・・争い立てる峰々は残りなく影を涵して、漕ぎ行く舟は遠くその上を押し分けて行く。松が小島、離れ岩、山は浮世を隔てて水は長えに清く、漁唱菱歌、煙波縹緲として空はさらに悠なり。倒れたる木に腰打ち掛けて光代はしばらく休らいぬ。風は粉膩を撲ってなまめか・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  11. ・・・かれこれするうち、自分の向かいにいた二等水兵が、内ポケットから手紙の束を引き出そうとして、その一通を卓の下に落としたが、かれはそれを急に拾ってポケットに押し込んで残りを隣の水兵に渡した。他の者はこれに気がつかなかったらしい、いよいよ読み上げ・・・<国木田独歩「遺言」青空文庫>
  12. ・・・そして種々の聖母像の中で、どの聖母が最も美しいかを定めようとして、ついにファン・エックの聖母と、デューラーの聖母とが残り、この二つのうちついにデューラーの聖母が最後にサーヴァイブしたのであった。 ファン・エックの聖母は高貴な瓔珞をいただ・・・<倉田百三「女性の諸問題」青空文庫>
  13. ・・・その上から、味噌汁の残りをぶちかけてあった。 子供達は、喜び、うめき声を出したりしながら、互いに手をかきむしり合って、携えて来た琺瑯引きの洗面器へ残飯をかきこんだ。 炊事場は、古い腐った漬物の臭いがした。それにバターと、南京袋の臭い・・・<黒島伝治「渦巻ける烏の群」青空文庫>
  14. ・・・指が離れる、途端に先主人は潮下に流れて行ってしまい、竿はこちらに残りました。かりそめながら戦ったわが掌を十分に洗って、ふところ紙三、四枚でそれを拭い、そのまま海へ捨てますと、白い紙玉は魂ででもあるようにふわふわと夕闇の中を流れ去りまして、や・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  15. ・・・それで残りをその男にやった。「髯」は見ている間に、ムシャムシャと食ってしまった。そして今度はトマトを食っている俺の口元をだまって見つめていた。俺はその男に不思議な圧迫を感じた。どたん場へくると、俺はこの男よりも出来ていないのかと、その時思っ・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  16. ・・・藍万とか、玉つむぎとか、そんな昔流行った着物の小切れの残りを見てもなつかしかった。木造であったものが石造に変った震災前の日本橋ですら、彼女には日本橋のような気もしなかったくらいだ。矢張、江戸風な橋の欄干の上に青銅の擬宝珠があり、古い魚河岸が・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  17. ・・・宿屋の勘定も佐吉さんの口利きで特別に安くして貰い、私の貧しい懐中からでも十分に支払うことが出来ましたけれど、友人達に帰りの切符を買ってやったら、あと、五十銭も残りませんでした。「佐吉さん。僕、貧乏になってしまったよ。君の三島の家には僕の・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  18.  襟二つであった。高い立襟で、頸の太さの番号は三十九号であった。七ルウブル出して買った一ダズンの残りであった。それがたったこの二つだけ残っていて、そのお蔭でおれは明日死ななくてはならない。 あの襟の事を悪くは言いたくない・・・<著:ディモフオシップ 訳:森鴎外「襟」青空文庫>
  19. ・・・兵隊の旗も土人の子もみんな熱砂の波のかなたにかくれて、あとにはただ風の音に交じってかすかにかすかに太鼓とラッパの音が残り、やがてそれも聞こえなくなるのである。 この序曲からこの大団円に導く曲折した道程の間に、幾度となくこの同じラッパの単・・・<寺田寅彦「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」青空文庫>
  20. ・・・ 家へ帰ってくると、道太は急いで著物をぬいで水で体をふいたが、お絹も襦袢一枚になって、お弁当の残りの巻卵のような腐りやすいものを、地下室へしまうために、蝋燭を点して、揚げ板の下へおりていった。「こんなもの忘れていた」お絹はしばらくす・・・<徳田秋声「挿話」青空文庫>
  21. ・・・田崎は伝通院前の生薬屋に硫黄と烟硝を買いに行く。残りのものは一升樽を茶碗飲みにして、準備の出来るのを待って居る騒ぎ。兎や角と暇取って、いよいよ穴の口元をえぶし出したのは、もう午近くなった頃である。私は一同に加って狐退治の現状を目撃したいと云・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  22. ・・・戸は残りなく鎖されている。ところどころの軒下に大きな小田原提灯が見える。赤くぜんざいとかいてある。人気のない軒下にぜんざいはそもそも何を待ちつつ赤く染まっているのかしらん。春寒の夜を深み、加茂川の水さえ死ぬ頃を見計らって桓武天皇の亡魂でも食・・・<夏目漱石「京に着ける夕」青空文庫>
  23. ・・・これで、平田も心残りなく古郷へ帰れる。私も心配した甲斐があるというものだ。実にありがたかッた」 吉里は半ば顔を上げたが、返辞をしないで、懐紙で涙を拭いている。「他のことなら何とでもなるんだが、一家の浮沈に関することなんだから、どうも・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  24. ・・・を責るはほとんど無稽なるに似たれども、万古不変は人生の心情にして、氏が維新の朝に青雲の志を遂げて富貴得々たりといえども、時に顧みて箱館の旧を思い、当時随行部下の諸士が戦没し負傷したる惨状より、爾来家に残りし父母兄弟が死者の死を悲しむと共に、・・・<福沢諭吉「瘠我慢の説」青空文庫>
  25. ・・・何となくここを見捨てるのが残り惜いので車を返せといおうと思うたがそれも余り可笑しいからいいかねて居ると車は一足二足と山へ上って行く。何か買物でもしようかと思うて、それで車返せといおうとしたが、ちょっと買うような物がない。車は一足二足とまた進・・・<正岡子規「熊手と提灯」青空文庫>
  26. ・・・僕は国語と修身は農事試験場へ行った工藤さんから譲られてあるから残りは九冊だけだ。四月五日 日南万丁目へ屋根換えの手伝え(にやられた。なかなかひどかった。屋根の上にのぼっていたら南の方に学校が長々と横わっているように見えた・・・<宮沢賢治「或る農学生の日誌」青空文庫>
  27. ・・・ そんな問答をしているうちに、一太は残りの納豆も買って貰った。一太は砂埃りを蹴立てるような元気でまた電車に乗り、家に帰った。一太は空っぽの竹籠を横腹へ押しつけたり、背中に廻してかついだりしつつ、往来を歩いた。どこへ廻しても空の納豆籠はぴ・・・<宮本百合子「一太と母」青空文庫>
  28. ・・・ 某はこれ等の事を見聞候につけ、いかにも羨ましく技癢に堪えず候えども、江戸詰御留守居の御用残りおり、他人には始末相成りがたく、空しく月日の立つに任せ候。然るところ松向寺殿御遺骸は八代なる泰勝院にて荼だびせられしに、御遺言により、去年正月・・・<森鴎外「興津弥五右衛門の遺書」青空文庫>
  29. ・・・持っててお呉れ、使い残りで悪いけど、それだけばち有りゃせんのや。」「まアお前持ってやいな。お霜さんが安次の金とったなんて云われると、こちゃ困るわ。」 お霜は家の中へ這入って大根を切った。安次はまた三尺の中へ紙幣を巻くと、「トトト・・・<横光利一「南北」青空文庫>
  30. ・・・勿論何のことか判然聞取なかったんですが、ある時茜さす夕日の光線が樅の木を大きな篝火にして、それから枝を通して薄暗い松の大木にもたれていらっしゃる奥さまのまわりを眩く輝かさせた残りで、お着衣の辺を、狂い廻り、ついでに落葉を一と燃させて行頃何か・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>