のこ・る【残る/遺る】例文一覧 37件

  1. ・・・寺の壁に残る夕明りにもいます。どこにでも、またいつでもいます。御気をつけなさい。御気をつけなさい。………」 その声がとうとう絶えたと思うと、老人の姿も夕闇の中へ、影が消えるように消えてしまった。と同時に寺の塔からは、眉をひそめたオルガン・・・<芥川竜之介「神神の微笑」青空文庫>
  2. ・・・その代わり死んだ奴の画は九頭竜の手で後世まで残るんだ。沢本  なんという智慧のない計略を貴様は考え出したもんだ。そんなことを考え出した奴は、自分が先に死ぬがいいんだ。花田  俺が死んでいいかい。……そうだもう一ついうことを忘れていた・・・<有島武郎「ドモ又の死」青空文庫>
  3. ・・・いっさいの空想を峻拒して、そこに残るただ一つの真実――「必要」! これじつに我々が未来に向って求むべきいっさいである。我々は今最も厳密に、大胆に、自由に「今日」を研究して、そこに我々自身にとっての「明日」の必要を発見しなければならぬ。必要は・・・<石川啄木「時代閉塞の現状」青空文庫>
  4. ・・・ 脊の伸びたのが枯交り、疎になって、蘆が続く……傍の木納屋、苫屋の袖には、しおらしく嫁菜の花が咲残る。……あの戸口には、羽衣を奪われた素裸の天女が、手鍋を提げて、その男のために苦労しそうにさえ思われた。「これなる松にうつくしき衣・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  5. ・・・彼ら無心の毛族も何らか感ずるところあると見え、残る牛も出る牛もいっせいに声を限りと叫び出した。その騒々しさは又自から牽手の心を興奮させる。自分は二頭の牝牛を引いて門を出た。腹部まで水に浸されて引出された乳牛は、どうされると思うのか、右往左往・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  6. ・・・椿岳から何代目かの淡島堂のお堂守は椿岳の相場が高くなったと聞いて、一枚ぐらいはドコかに貼ってありそうなもんだと、お堂の壁張を残る隈なく引剥がして見たが、とうとう一枚も発見されなかったそうだ。 だが、椿岳の市価は西洋人が買出してから俄に高・・・<内田魯庵「淡島椿岳」青空文庫>
  7. ・・・今や敵国に対して復讐戦を計画するにあらず、鋤と鍬とをもって残る領土の曠漠と闘い、これを田園と化して敵に奪われしものを補わんとしました。まことにクリスチャンらしき計画ではありませんか。真正の平和主義者はかかる計画に出でなければなりません。・・・<内村鑑三「デンマルク国の話」青空文庫>
  8. ・・・現在に於て、その力が大なるばかりでなく、たとえ母が死んでしまった後でも愛だけは残るのであります。そして、いつまでも、子供を見守っているのです。どれ程、その力が強くして、貴いものであるか分らない。これこそ、真に日本の母性の輝かしい姿なのであり・・・<小川未明「お母さんは僕達の太陽」青空文庫>
  9. ・・・家を持っちゃ自然と子や孫もできるし、いつまでも君というものは――死んだ後までも残るじゃないですか。」 銭占屋も今はもう独身でない、女房めいた者もできた、したがって家庭が欲しくなったのだろうと思って、私はそう言ってやった。すると、重々しく・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  10. ・・・将棋盤を人生と考え、将棋の駒を心にして来た坂田らしい言葉であり、無学文盲の坂田が吐いた名文句として、後世に残るものである。この一句には坂田でなければ言えないという個性的な影像があり、そして坂田という人の一生を宿命的に象徴しているともいえよう・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  11. ・・・頓て浮世の隙が明いて、筐に遺る新聞の数行に、我軍死傷少なく、負傷者何名、志願兵イワーノフ戦死。いや、名前も出まいて。ただ一名戦死とばかりか。兵一名! 嗟矣彼の犬のようなものだな。 在りし昔が顕然と目前に浮ぶ。これはズッと昔の事、尤もな、・・・<著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷「四日間」青空文庫>
  12.      一 行一が大学へ残るべきか、それとも就職すべきか迷っていたとき、彼に研究を続けてゆく願いと、生活の保証と、その二つが不充分ながら叶えられる位置を与えてくれたのは、彼の師事していた教授であった。その教授は自分・・・<梶井基次郎「雪後」青空文庫>
  13. ・・・空は底を返したるごとく澄み渡りて、峰の白雲も行くにところなく、尾上に残る高嶺の雪はわけて鮮やかに、堆藍前にあり、凝黛後にあり、打ち靡きたる尾花野菊女郎花の間を行けば、石はようやく繁く松はいよいよ風情よく、えんようたる湖の影はたちまち目を迎え・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  14. ・・・て武の顔を見ると、武も少し顔を赤らめて言いにくそうにしていましたが、『まアここへ坐って下さりませ、私はちょっと出て来ますから』と言い捨てて行こうとしますから、『なんだ、なんだ、私はいやだ、一人残るのは』と思わず言いますと、『それ・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  15. ・・・しかし利他の動機は確かに利己から独立に存在しても、利己と利他とが矛盾するときいずれをさきに、いかなる条件にしたがって満足せしむべきかの問題は依然として残る。これが「ギリシャ主義とキリスト教主義との調和の道」を求めねばならぬ所以であり、他人の・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  16. ・・・ そのあとに、もろい白骨以外何が残るか!「まだ、俺等は、いゝくじを引きあてたんか!」彼等はまた考えた。 いのちが有るだけでも感謝しなければならない。 そして、又、「アルファベット数えてしまえば、親爺や、お袋がいるところへ帰っ・・・<黒島伝治「氷河」青空文庫>
  17. ・・・唐の時は釣が非常に行われて、薜氏の池という今日まで名の残る位の釣堀さえあった位ですから、竿屋だとて沢山ありましたろうに、当時持囃された詩人の身で、自分で藪くぐりなんぞをしてまでも気に入った竿を得たがったのも、好の道なら身をやつす道理でござい・・・<幸田露伴「幻談」青空文庫>
  18. ・・・それは聞いてしまってからも、身体の中に音そのまゝの形で残るような音だった。この戸はこれから二年の間、俺のために今のまゝ閉じられているんだ、と思った。 薄暗い面会所の前を通ると、そこの溜りから沢山の顔がこっちを向いた。俺は吸い残りのバット・・・<小林多喜二「独房」青空文庫>
  19. ・・・が脱ければ残るところの「やけ」となるは自然の理なり俊雄は秋子に砂浴びせられたる一旦の拍子ぬけその砂肚に入ってたちまちやけの虫と化し前年より父が預かる株式会社に通い給金なり余禄なりなかなかの収入ありしもことごとくこのあたりの溝へ放棄り経綸と申・・・<斎藤緑雨「かくれんぼ」青空文庫>
  20. ・・・どうせ今の住居はあの愛宕下の宿屋からの延長である。残る二人の子供に不自由さえなくば、そう想ってみた。五十円や六十円の家賃で、そう思わしい借家のないこともわかった。次郎の出発を機会に、ようやく私も今の住居に居座りと観念するようになった。 ・・・<島崎藤村「嵐」青空文庫>
  21. ・・・幾ら知識を駆使して見てもこの矛盾は残る。つまり私は一方にはある意味での宗教を観ているとともに、一方はきわめて散文的な、方便的な人生を観ている。この両端にさまよって、不定不安の生を営みながら、自分でも不満足だらけで過ごして行く。 この点か・・・<島村抱月「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」青空文庫>
  22. ・・・破れた靴が大き過ぎるので、足を持ち上げようとするたびに、踵が雪にくっついて残る。やはり外の男等のように両手を隠しに入れて頭を垂れている。しかし何者かがその体のうちに盛んに活動している。右の手で絶えず貨幣をいじって勘定している。そして白い、短・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  23. ・・・こんな風にせられていた日には、いつかはわたしというものが無くなって、黒い糞と林檎の皮とだけが跡に残るに違いないわ。今そう思って見れば、最初からわたしはお前さんの傍を遠ざかりたいと思っていたのだわ。そしてどうしても遠ざかることが出来なかったの・・・<著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外「一人舞台」青空文庫>
  24. ・・・町中を水量たっぷりの澄んだ小川が、それこそ蜘蛛の巣のように縦横無尽に残る隈なく駈けめぐり、清冽の流れの底には水藻が青々と生えて居て、家々の庭先を流れ、縁の下をくぐり、台所の岸をちゃぷちゃぷ洗い流れて、三島の人は台所に座ったままで清潔なお洗濯・・・<太宰治「老ハイデルベルヒ」青空文庫>
  25. ・・・それは不意に我身の上に授けられた、夢物語めいた幸福が、遠からず消え失せてしまって、跡には銀行のいてもいなくても好い小役人が残ると云うことである。少くも半年間は、いてもいなくても好いと云うことを、立派に上役から証明せられているのである。この恐・・・<著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外「世界漫遊」青空文庫>
  26. ・・・ このかすかな伴奏の音が、別れた後の、未来に残る二人の想いの反響である。これが限りなく果敢なく、淋しい。「あかあかとつれない秋の日」が、野の果に沈んで行く。二人は、森のはずれに立って、云い合わせたように、遠い寺の塔に輝く最後の閃光を・・・<寺田寅彦「秋の歌」青空文庫>
  27. ・・・平坦な道路は山谷堀の流に沿うて吉原の土手をも同じような道路にしたのみならずその辺に残っていた寺々をも大抵残るものなく取払ってしまった。むかしからの伝説は全く消滅して残る処は一ツもない。 今戸橋をわたると広い道路は二筋に分れ、一ツは吉野橋・・・<永井荷風「水のながれ」青空文庫>
  28. ・・・ 残る二人は夢の詩か、詩の夢か、ちょと解しがたき話しの緒をたぐる。「女の夢は男の夢よりも美くしかろ」と男が云えば「せめて夢にでも美くしき国へ行かねば」とこの世は汚れたりと云える顔つきである。「世の中が古くなって、よごれたか」と聞けば・・・<夏目漱石「一夜」青空文庫>
  29. ・・・ かくて、地上には無限に肥った一人の成人と、蒼空まで聳える轢殺車一台とが残るのか。 そうだろうか! そうだとするとお前は困る。もう啖うべき赤ん坊がなくなったじゃないか。 だが、その前に、お前は年をとる。太り過ぎた轢殺車がお前・・・<葉山嘉樹「牢獄の半日」青空文庫>
  30. ・・・都にいたり、名所旧跡はもとよりこれを訪うに暇あらず、博覧会の見物ももと余輩上京の趣意にあらず、まず府下の学校を一覧せんとて、知る人に案内を乞い、諸処の学校に行きしに、その待遇きわめて厚く、塾舎・講堂、残るところなく見るを得たり。よって今、そ・・・<福沢諭吉「京都学校の記」青空文庫>