のそ‐のそ例文一覧 30件

  1. ・・・すると電燈の薄暗い壁側のベンチに坐っていた、背の高い背広の男が一人、太い籐の杖を引きずりながら、のそのそ陳の側へ歩み寄った。そうして闊達に鳥打帽を脱ぐと、声だけは低く挨拶をした。「陳さんですか? 私は吉井です。」 陳はほとんど無表情・・・<芥川竜之介「影」青空文庫>
  2. ・・・これは、鴎の卵をさがしに行った男が、ある夜岸伝いに帰って来ると、未だ残っている雪の明りで、磯山の陰に貉が一匹唄を歌いながら、のそのそうろついているのを目のあたりに見たと云うのである。 既に、姿さえ見えた。それに次いで、ほとんど一村の老若・・・<芥川竜之介「貉」青空文庫>
  3. ・・・そこで恵印は大事をとって、一生懸命笑を噛み殺しながら、自分も建札の前に立って一応読むようなふりをすると、あの大鼻の赤鼻をさも不思議そうに鳴らして見せて、それからのそのそ興福寺の方へ引返して参りました。「すると興福寺の南大門の前で、思いが・・・<芥川竜之介「竜」青空文庫>
  4. ・・・ やがて仁右衛門は何を思い出したのかのそのそと小屋の中に這入って行った。妻は眼に角を立てて首だけ後ろに廻わして洞穴のような小屋の入口を見返った。暫らくすると仁右衛門は赤坊を背負って、一丁の鍬を右手に提げて小屋から出て来た。「ついて来・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  5. ・・・手許が暗くなりましたので、袖が触りますばかりに、格子の処へ寄って、縫物をしておりますと、外は見通しの畠、畦道を馬も百姓も、往ったり、来たりします処、どこで見当をつけましたものか、あの爺のそのそ嗅ぎつけて参りましてね、蚊遣の煙がどことなく立ち・・・<泉鏡花「政談十二社」青空文庫>
  6. ・・・猟はこういう時だと、夜更けに、のそのそと起きて、鉄砲しらべをして、炉端で茶漬を掻っ食らって、手製の猿の皮の毛頭巾を被った。筵の戸口へ、白髪を振り乱して、蕎麦切色の褌……いやな奴で、とき色の禿げたのを不断まきます、尻端折りで、六十九歳の代官婆・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  7. ・・・しかしそれがやっとのことで成功したと思うと、方向を変えた猫は今度はのそのそと吉田の寝床の上へあがってそこで丸くなって毛を舐めはじめた。そこへ行けばもう吉田にはどうすることもできない場所である。薄氷を踏むような吉田の呼吸がにわかにずしりと重く・・・<梶井基次郎「のんきな患者」青空文庫>
  8. ・・・ いやでござりますともさすがに言いかねて猶予う光代、進まぬ色を辰弥は見て取りて、なお口軽に、私も一人でのそのそ歩いてはすぐに飽きてしまってつまらんので、相手欲しやと思っていたところへここにおいでなさったのはあなたの因果というもの、御迷惑・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  9. ・・・桑園の方から家鶏が六、七羽、一羽の雄に導かれてのそのそと門の方へやって来るところであった。 たちまち車井の音が高く響いたと思うと、『お安、金盥を持って来てくれろ』という声はこの家の主人らしい。豊吉は物に襲われたように四辺をきょろきょろと・・・<国木田独歩「河霧」青空文庫>
  10. ・・・ 父は、臼の漏斗に小麦を入れ、おとなしい牛が、のそのそ人の顔を見ながら廻っているのを見届けてから出かけた。 藤二は、緒を買って貰ってから、子供達の仲間に入って独楽を廻しているうちに、自分の緒が他人のより、大分短いのに気づいた。彼は、・・・<黒島伝治「二銭銅貨」青空文庫>
  11. ・・・獣は所謂駭き心になって急に奔ったり、懼れの目を張って疑いの足取り遅くのそのそと歩いたりしながら、何ぞの場合には咬みつこうか、はたきつけようかと、恐ろしい緊張を顎骨や爪の根に漲らせることを忘れぬであろう。 応仁、文明、長享、延徳を歴て、今・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  12. ・・・とおりに何かへんな物音がすると、すぐにとんでいって、じいっと見きわめをつけ何でもないとわかればのそのそかえって、店先にすわっているという調子です。 日がはいると、肉屋はくちぶえをならしてよび入れました。そして、やさしく背中をたたいたあと・・・<鈴木三重吉「やどなし犬」青空文庫>
  13. ・・・何千年も前に、既に地球上から影を消したものとばかり思われていた古代の怪物が、生きてのそのそ歩いている、ああ、ニッポンに大サンショウウオ生存す、と世界中の学界に打電いたしました。世界中の学者もこれには、めんくらった。うそだろう、シーボルトとい・・・<太宰治「黄村先生言行録」青空文庫>
  14. ・・・、つつましい一家族の、おそらくは五、六人のひとを悲惨の境遇に蹴落すのだということに思いいたり、私は鎌倉駅まえの花やかな街道の入口まで来て、くるりと廻れ右して、たったいま、とおって来たばかりの小暗き路をのそのそ歩いた。駅の附近のバアのラジオは・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  15. ・・・私は、のそのそ歩いている自分を、いよいよ恥ずかしく思った。 出来れば、きょうすぐ東京へ帰りたかった。けれども、汽船の都合が悪い。明朝、八時に夷港から、おけさ丸が出る。それまで待たなければ、いけない。佐渡には、もう一つ、小木という町もある・・・<太宰治「佐渡」青空文庫>
  16. ・・・朝日を受けて金色にかがやく断崖を一匹の猿がのそのそと降りて来るのだ。私のからだの中でそれまで眠らされていたものが、いちどにきらっと光り出した。「降りて来い。枝を折ったのはおれだ。」「それは、おれの木だ。」 崖を降りつくした彼は、・・・<太宰治「猿ヶ島」青空文庫>
  17. ・・・どこまでも忠実に付従して来るはいいとしても、まさかに手洗い所までものそのそついて来られては迷惑を感じるに相違ない。 ニュートンの光学が波動説の普及を妨げたとか、ラプラスの権威が熱の機械論の発達に邪魔になったとかという事はよく耳にする事で・・・<寺田寅彦「案内者」青空文庫>
  18. ・・・すると、おやじはのそのそ立ち上がり、「氷を持って来い」といいすてて二階へ上がる。 その前の場面にもこの主人がマダムに氷を持って来いといって二階へ引っ込む場面がある。そのときマダムは「フン」といったような顔をして、まるで歯牙にかけないで、・・・<寺田寅彦「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」青空文庫>
  19.  上野の動物園の象が花屋敷へ引っ越して行って、そこで既往何十年とかの間縛られていた足の鎖を解いてもらって、久しぶりでのそのそと檻の内を散歩している、という事である。話を聞くだけでもなんだかいい気持ちである。肩の凝りが解けたよ・・・<寺田寅彦「解かれた象」青空文庫>
  20. ・・・そしてちょっと鋏に触れるとそれで満足したようにのそのそ向こうへ行って植え込みの八つ手の下で蝶をねらったり、蝦蟇をからかったりしていた。 蝦蟇ではいちばん始めに失敗したようである。たぶん食いつこうとしてどうかされたものと見えて口から白いよ・・・<寺田寅彦「ねずみと猫」青空文庫>
  21. ・・・先生はのそのそ置炬燵から次の間へ這出して有合う長煙管で二、三服煙草を吸いつつ、余念もなくお妾の化粧する様子を眺めた。先生は女が髪を直す時の千姿万態をば、そのあらゆる場合を通じて尽くこれを秩序的に諳じながら、なお飽きないほどの熱心なる観察者で・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  22. ・・・作蔵君は婆化されよう、婆化されようとして源兵衛村をのそのそしているのでげす。その婆化されようと云う作蔵君の御注文に応じて拙がちょっと婆化して上げたまでの事でげす。すべて狸一派のやり口は今日開業医の用いておりやす催眠術でげして、昔からこの手で・・・<夏目漱石「琴のそら音」青空文庫>
  23. ・・・汽車電車は無論人力さえ工夫する手段を知らないで、どこまでも親譲りの二本足でのそのそ歩いて行く文章であります。したがって散文的の感があるのです。散文的な文章とは馬へも乗れず、車へも乗れず、何らの才覚がなくって、ただ地道に御拾いでおいでになる文・・・<夏目漱石「文芸の哲学的基礎」青空文庫>
  24. ・・・ 象はのそのそ鍛冶場へ行って、べたんと肢を折って座り、ふいごの代りに半日炭を吹いたのだ。 その晩、象は象小屋で、七把の藁をたべながら、空の五日の月を見て「ああ、つかれたな、うれしいな、サンタマリア」と斯う言った。 どうだ、そ・・・<宮沢賢治「オツベルと象」青空文庫>
  25. ・・・ 猫大将はのそのそ歩きだしました。 クねずみはこわごわあとについて行きました。猫のおうちはどうもそれは立派なもんでした。紫色の竹で編んであって中はわらや布きれでホクホクしていました。おまけにちゃあんとご飯を入れる道具さえあったのです・・・<宮沢賢治「クねずみ」青空文庫>
  26. ・・・廻りの五疋も一ぺんにぱっと四方へちらけようとしましたが、はじめの鹿が、ぴたりととまりましたのでやっと安心して、のそのそ戻ってその鹿の前に集まりました。「なじょだた。なにだた、あの白い長いやづあ。」「縦に皺の寄ったもんだけあな。」・・・<宮沢賢治「鹿踊りのはじまり」青空文庫>
  27. ・・・楽長はポケットへ手をつっ込んで拍手なんかどうでもいいというようにのそのそみんなの間を歩きまわっていましたが、じつはどうして嬉しさでいっぱいなのでした。みんなはたばこをくわえてマッチをすったり楽器をケースへ入れたりしました。 ホールはまだ・・・<宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」青空文庫>
  28. ・・・こういう風にのそのそしている内に、視神経が萎縮を起したら大変だと思います。もしかしたら年内にもう一遍眼底をみてもらうかも知れません。本は本屋から着きましたろうか。 毛布のことわかりました。毛布とどてらと一緒にお送りしたいものだと思ってい・・・<宮本百合子「獄中への手紙」青空文庫>
  29. ・・・私はいつまで立っても来ない、あきてさぞあくびをする事だろう、いよいよ私の来ないと知った時はきっとのそのそと足をはこんで外の男のところへ遊に行くにきまって居るんだ。こんなかわいそうなむほんぎは心の片すみに起った、そして私はその時の女のこまった・・・<宮本百合子「砂丘」青空文庫>
  30.  市が立つ日であった。近在近郷の百姓は四方からゴーデルヴィルの町へと集まって来た。一歩ごとに体躯を前に傾けて男はのそのそと歩む、その長い脚はかねての遅鈍な、骨の折れる百姓仕事のためにねじれて形をなしていない。それは鋤に寄りかかる癖がある・・・<著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩「糸くず」青空文庫>