のぞ・む【臨む】例文一覧 16件

  1. ・・・一身係累を顧みるの念が少ないならば、早く禍の免れ難きを覚悟したとき、自ら振作するの勇気は、もって笑いつつ天災地変に臨むことができると思うものの、絶つに絶たれない係累が多くて見ると、どう考えても事に対する処決は単純を許さない。思慮分別の意識か・・・<伊藤左千夫「水害雑録」青空文庫>
  2. ・・・一つの窓は樹木とそして崖とに近く、一つの窓は奥狸穴などの低地をへだてて飯倉の電車道に臨む展望です。その展望のなかには旧徳川邸の椎の老樹があります。その何年を経たとも知れない樹は見わたしたところ一番大きな見事なながめです。一体椎という樹は梅雨・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  3. ・・・両岸の人家低く高く、山に拠り水に臨むその数数百戸。 入り江の奥より望めば舷燈高くかかりて星かとばかり、燈影低く映りて金蛇のごとく。寂漠たる山色月影のうちに浮かんで、あだかも絵のように見えるのである。 舟の進むにつれてこの小さな港の声・・・<国木田独歩「少年の悲哀」青空文庫>
  4. ・・・ 恋愛を一種の熱病と見て、解熱剤を用意して臨むことを教え、もしくは造化の神のいたずらと見てユーモラスに取り扱うという態度も、私の素質には不釣り合いのことであろう。 かようにして浪曼的理想主義者としての私の、恋愛運命論を腹の底に持って・・・<倉田百三「学生と生活」青空文庫>
  5. ・・・の演奏を写したものであったが、これを見ながら聴きながら考えたことは、自分がベルリンへ行って実地に臨むよりもこうした映画で鑑賞する方が十倍も百倍も面白いのではないかということであった。第一、実地ではこんなに演奏者を八方から色々の距離と角度で眺・・・<寺田寅彦「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」青空文庫>
  6. ・・・にはやはり父に連れられて高知浦戸湾の入口に臨む種崎の浜に間借りをして出かけた。以前に宅に奉公していた女中の家だったか、あるいはその親類の家だったような気がする。夕方この地方には名物の夕凪の時刻に門内の広い空地の真中へ縁台のようなものを据えて・・・<寺田寅彦「海水浴」青空文庫>
  7. ・・・もしこれと同じ要領でデパート火事の階段に臨むものとすれば階段は瞬時に生きた人間の「栓」で閉塞されるであろう。そうしてその結果は世にも目ざましき大量殺人事件となって世界の耳口を聳動するであろうことは真に火を見るよりも明らかである。このような実・・・<寺田寅彦「火事教育」青空文庫>
  8. ・・・ こういうふうに考えて来ると世事の交渉を回避する学者や、義理の拘束から逃走する芸術家を営巣繁殖期に入った鳥の類だと思って、いくぶんの寛恕をもってこれに臨むということもできるかもしれない。       九 東京市電気局の争・・・<寺田寅彦「破片」青空文庫>
  9. ・・・かつて八幡宮の裏手から和倉町に臨む油堀のながれには渡場の残っていた事を、わたくしは唯夢のように思返すばかりである。 冬木町の弁天社は新道路の傍に辛くもその祉を留めている。しかし知十翁が、「名月や銭金いはぬ世が恋ひし。」の句碑あることを知・・・<永井荷風「深川の散歩」青空文庫>
  10. ・・・この型を以て未来に臨むのは、天の展開する未来の内容を、人の頭で拵えた器に盛終せようと、あらかじめ待ち設けると一般である。器械的な自然界の現象のうち、尤も単調な重複を厭わざるものには、すぐこの型を応用して実生活の便宜を計る事が出来るかも知れな・・・<夏目漱石「イズムの功過」青空文庫>
  11. ・・・湛然として音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗たる面を過ぐる森羅の影の、繽紛として去るあとは、太古の色なき境をまのあたりに現わす。無限上に徹する大空を鋳固めて、打てば音ある五尺の裏に圧し集めたるを――シャロットの女は夜ごと日ごとに見る。 夜ご・・・<夏目漱石「薤露行」青空文庫>
  12. ・・・さて自分がその局に当ってやって見ると、かえって自分の見縊った先任者よりも烈しい過失を犯しかねないのだから、その時その場合に臨むと本来の弱点だらけの自己が遠慮なく露出されて、自然主義でどこまでも押して行かなければやりきれないのであります。だか・・・<夏目漱石「文芸と道徳」青空文庫>
  13. ・・・この盾を持って戦に臨むとき、過去、現在、未来に渉って吾願を叶える事のある盾だと云う。名あるかと聞けば只幻影の盾と答える。ウィリアムはその他を言わぬ。 盾の形は望の夜の月の如く丸い。鋼で饅頭形の表を一面に張りつめてあるから、輝やける色さえ・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  14. ・・・然らざれば、飛行機なくして、戦に臨むと択ぶ所がない。私は東洋文化の根柢に論理があると考えるものである。而してそれは今日の科学の基礎とも結合するものと思う。「論理と数理」の論文において触れた如く、私は推論式というものが、固、真の矛盾的自己同一・・・<西田幾多郎「デカルト哲学について」青空文庫>
  15. ・・・文を売りて米の乏しきを歎き、意外の報酬を得て思わず打ち笑みたる彼は、ここに至って名利を見ること門前のくろの糞のごとくなりき。臨むに諸侯の威をもってし招くに春岳の才をもってし、しこうして一曙覧をして破屋竹笋の間より起たしむるあたわざりしもの何・・・<正岡子規「曙覧の歌」青空文庫>
  16. ・・・体得した真理は直ちに肉体の上に強い力と権威とをもって臨むごときものでなくてはならぬ。すべてが融然として一つである。 千数百年以前にわが国へ襲来した仏教の文化はまさにかくのごときものであった。それはただ一つの新しい宗教であるというだけでは・・・<和辻哲郎「偶像崇拝の心理」青空文庫>