のっそり例文一覧 30件

  1. ・・・簡単な啼声で動物と動物とが互を理解し合うように、妻は仁右衛門のしようとする事が呑み込めたらしく、のっそりと立上ってその跡に随った。そしてめそめそと泣き続けていた。 夫婦が行き着いたのは国道を十町も倶知安の方に来た左手の岡の上にある村の共・・・<有島武郎「カインの末裔」青空文庫>
  2. ・・・ 店には、ちょうど適齢前の次男坊といった若いのが、もこもこの羽織を着て、のっそりと立っていた。「貰って穿きますよ。」 と断って……早速ながら穿替えた、――誰も、背負って行く奴もないものだが、手一つ出すでもなし、口を利くでもなし、・・・<泉鏡花「小春の狐」青空文庫>
  3. ・・・ 私がのっそりと突立った裾へ、女の脊筋が絡ったようになって、右に左に、肩を曲ると、居勝手が悪く、白い指がちらちら乱れる。「恐縮です、何ともどうも。」「こう三人と言うもの附着いたのでは、第一私がこの肥体じゃ。お暑さが堪らんわい。衣・・・<泉鏡花「二、三羽――十二、三羽」青空文庫>
  4. ・・・ そこへ、丸太棒が、のっそり来た。「おじい、もういいか、大丈夫かよ。」「うむ、見せえ、大智識さ五十年の香染の袈裟より利益があっての、その、嫁菜の縮緬の裡で、幽霊はもう消滅だ。」「幽霊も大袈裟だがよ、悪く、蜻蛉に祟られると、瘧・・・<泉鏡花「縷紅新草」青空文庫>
  5. ・・・ これが姉のほめことばで見ても知られる。のっそり子の省作も、おとよさんの親切には動かされて真底からえい人だと思った。おとよさんが人の妻でなかったらその親切を恋の意味に受けたかもしれないけれど、生娘にも恋したことのない省作は、まだおとよさ・・・<伊藤左千夫「隣の嫁」青空文庫>
  6.       一 隣の家から嫁の荷物が運び返されて三日目だ。省作は養子にいった家を出てのっそり戻ってきた。婚礼をしてまだ三月と十日ばかりにしかならない。省作も何となし気が咎めてか、浮かない顔をして、わが家の門をくぐった・・・<伊藤左千夫「春の潮」青空文庫>
  7. ・・・』と今度はなお強く言いましたので私も仕方がないから、のっそり内庭に入りました。私の入ったのを見て、武は上にあがり茶の間の次ぎに入りました。しばらく出て参りません、その様子が内の誰かとこそこそ話をしているようでした。間もなく出て参りまして、今・・・<国木田独歩「女難」青空文庫>
  8. ・・・ 其所へのっそり帰って来たのが亭主の磯吉である。お源は単直前借の金のことを訊いた。磯は黙って腹掛から財布を出してお源に渡した。お源は中を査めて「たった二円」「ああ」「二円ばかし仕方が無いじゃアないか。どうせ前借するんだもの五・・・<国木田独歩「竹の木戸」青空文庫>
  9. ・・・ 突然に障子をあけて一人の男がのっそり入ッて来た。長火鉢に寄っかかッて胸算用に余念もなかった主人が驚いてこちらを向く暇もなく、広い土間を三歩ばかりに大股に歩いて、主人の鼻先に突ったッた男は年ごろ三十にはまだ二ツ三ツ足らざるべく、洋服、脚・・・<国木田独歩「忘れえぬ人々」青空文庫>
  10. ・・・小村は、のっそり起上って窓のところに来た。「見えやしないじゃないか。」「よく見ろ、はねてるんだ。……そら、あの石を積み重ねてある方へ走ってるんだ。長い耳が見えるだろう。」 二人とも、寝ることにはあきていた。とは云え、勤務は阿呆らしく・・・<黒島伝治「雪のシベリア」青空文庫>
  11. ・・・台所で、何もせずに、ただのっそりつっ立っている姿を、私はよく見かけたものであるが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳にさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋の寒くなるような非道の言葉を投げつけて、それで足り・・・<太宰治「黄金風景」青空文庫>
  12. ・・・っそう、むっつり押し黙って、そうして出版の欠損の穴埋めが、どうやら出来て、それからはもう何の仕事をする気力も失ってしまったようで、けれども、一日中うちにいらっしゃるというわけでもなく、何か考え、縁側にのっそり立って、煙草を吸いながら、遠い地・・・<太宰治「おさん」青空文庫>
  13. ・・・ 数日後、大隅忠太郎君は折鞄一つかかえて、三鷹の私の陋屋の玄関に、のっそりと現われた。お嫁さんを迎えに、はるばる北京からやって来たのだ。日焼けした精悍な顔になっていた。生活の苦労にもまれて来た顔である。それは仕方の無い事だ。誰だって・・・<太宰治「佳日」青空文庫>
  14. ・・・と学生みたいな若い口調で言って、のっそり私の部屋へはいって来られた。思っていたよりも小柄で、きれいなじいさんでした。白い歯をちらと見せて笑って、「鶯が六羽いるというのは、この襖か。なるほど、六羽いる。部屋を換えたまえ。」とせかせか言いました・・・<太宰治「風の便り」青空文庫>
  15. ・・・いってもいっても、からだがきまらず、そのうちに、私のすぐ鼻のさき、一丈ほどの赤土の崖がのっそり立った。見あげると、その崖のうえには、やしろでもあるのか、私の背丈くらいの小さい鳥居が立っていて、常磐木が、こんもりと繁り、その奥ゆかしさが私をま・・・<太宰治「狂言の神」青空文庫>
  16. ・・・おととしの秋、社員全部のピクニックの日、ふだん好きな酒も呑まず、青い顔をして居りましたが、すすきの穂を口にくわえて、同僚の面前にのっそり立ちふさがり薄目つかって相手の顔から、胸、胸から脚、脚から靴、なめまわすように見あげ、見おろす。帰途、夕・・・<太宰治「虚構の春」青空文庫>
  17. ・・・総ての分割の、とっくにすんだ後で、詩人がのっそりやって来た。彼は遥か遠方からやって来た。ああ、その時は何処にも何も無く、すべての土地に持主の名札が貼られてしまっていた。「ええ情ない! なんで私一人だけが皆から、かまって貰えないのだ。この私が・・・<太宰治「心の王者」青空文庫>
  18. ・・・ 九月のはじめ、私は昼食をすませて、母屋の常居という部屋で、ひとりぼんやり煙草を吸っていたら、野良着姿の大きな親爺が玄関のたたきにのっそり立って、「やあ」と言った。 それがすなわち、問題の「親友」であったのである。(私はこの・・・<太宰治「親友交歓」青空文庫>
  19. ・・・ すぐつづいて太宰が障子をあけてのっそりあらわれた。ひとめ見て、私はあわてふためいて眼をそらした。これはいけないと思った。彼の風貌は、馬場の形容を基にして私が描いて置いた好悪ふたつの影像のうち、わるいほうの影像と一分一厘の間隙もなくぴっ・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  20. ・・・二匹の競馬の馬の間に、駱駝がのっそり立っているみたいですね。私は、どうしてこんなに、田舎くさいのだろう。これでも、たいへんいいつもりで腕組みしたのですがね。自惚れの強い男です。自分の鈍重な田舎っぺいを、明確に、思い知ったのは、つい最近の事な・・・<太宰治「小さいアルバム」青空文庫>
  21. ・・・この東京名所の増上寺山門の前に、ばかな叔父が、のっそり立っているさまを、叔父とも知らず無心に眺めて通ったのかも知れない等と思った。二十台ほど、絶えては続き山門の前を通り、バスの女車掌がその度毎に、ちょうど私を指さして何か説明をはじめるのであ・・・<太宰治「東京八景」青空文庫>
  22. ・・・蜀黍の垣根の側に手拭を頬かぶりにした容子の悪い男がのっそりと立って居る。それは犬殺しで帯へ挿した棍棒を今抜こうとする瞬間であった。人なつこい犬は投げられた煎餅に尾を振りながら犬殺しの足もとに近づいて居たのである。犬殺しは太十の姿を見て一足す・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  23. ・・・ 圭さんは、のっそりと踵をめぐらした。碌さんは黙然として尾いて行く。空にあるものは、煙りと、雨と、風と雲である。地にあるものは青い薄と、女郎花と、所々にわびしく交る桔梗のみである。二人は煢々として無人の境を行く。 薄の高さは、腰を没・・・<夏目漱石「二百十日」青空文庫>
  24. ・・・すると店にはうすぐろいとのさまがえるが、のっそりとすわって退くつそうにひとりでべろべろ舌を出して遊んでいましたが、みんなの来たのを見て途方もないいい声で云いました。「へい、いらっしゃい。みなさん。一寸おやすみなさい。」「なんですか。・・・<宮沢賢治「カイロ団長」青空文庫>
  25. ・・・ そして馬がすぐ目の前にのっそりと立っていたのです。その目は嘉助を恐れて横のほうを向いていました。 嘉助ははね上がって馬の名札を押えました。そのうしろから三郎がまるで色のなくなったくちびるをきっと結んでこっちへ出てきました。 嘉・・・<宮沢賢治「風の又三郎」青空文庫>
  26. ・・・と云って向うに立ちあがりましたので平二はぶつぶつ云いながら又のっそりと向うへ行ってしまいました。 その芝原へ杉を植えることを嘲笑ったものは決して平二だけではありませんでした。あんな処に杉など育つものでもない、底は硬い粘土なんだ、やっぱり・・・<宮沢賢治「虔十公園林」青空文庫>
  27. ・・・彼は、しばらく私どもの方を、意味のない眼つきで眺め、また、のっそり、弁当の売れゆきを見物し始めた。広々とした七月の空、数間彼方の草原に岬のように突出ている断崖、すべて明快で、呑気な赤帽の存在とともに、異国的風趣さえあった。 鎌倉は、・・・<宮本百合子「この夏」青空文庫>
  28. ・・・そして、月給日など「裏町の小路をのっそりと歩いたり、なんかガスのように下方をはい流れているうつらうつらとして陰惨な楽しみに酔う自身の姿に気がついて、なるほど世に繁茂する思想の生え上った根もとはここなのかと、はっと瞬間目醒めるように眼前の空間・・・<宮本百合子「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」青空文庫>
  29. ・・・さも悪者らしく、巻煙草の横くわえで、のっそりのっそり両手をパンツの衣嚢に肩をそびやかして横行するところから、あの両肱をぐいと持ち上げる憎さげなシュラッギングまで。堪らず私を笑わせたのは、そんな悪漢まがいの風体をしながら、肩つきにしろ、体つき・・・<宮本百合子「茶色っぽい町」青空文庫>
  30. ・・・みのえは、のっそり立ち上り、小僧を睨みつけると、物も云わず片手にキラキラ閃くものを振り翳し小僧に躍りかかった。 気がついた時、みのえは元よりずっと草原の上の方に跳ねとばされていた。四五間下の方に、小僧も倒れた。彼等は互に睨み合いながら、・・・<宮本百合子「未開な風景」青空文庫>